[2010年度研究報告の要旨] Ⅴ 今後の日本の社会保障制度のあるべき方向 公的年金制度改革案の再検討 ・・・2007年度研究報告を見直す 林田 雅博 1 プロローグ 映画「春との旅」・・・ある老人(仲代達矢)と、そ の孫娘(徳永えり)の物語 ・ 19歳の孫娘が一人で祖父を扶養するような 事態は回避しなければならない。公的年金制 度の役割は、私的扶養依存を脱却し、日本全 体で世代間扶養を行おうとするものである。 ・ このような問題意識からスタート、公的年金 制度がその役割を果たしつつ永続するには どうすれば良いか再検討してみたい。 2 図1 公的年金制度の体系 3 日本の公的年金の特徴 (1)国民皆年金・・・自営業者も無業者も国民すべて が国民年金制度に加入、基礎年金給付を受ける。 厚生年金等の被用者年金は、基礎年金に上乗せの 2階部分として、報酬比例年金が給付される。 (2)強制加入・社会保険方式・・・ 年金加入者は 拠出した保険料に応じて年金が給付される。基本的 には保険料を納めないと年金はもらえない。納めた 期間が長ければ支給年金も多くなる。国民が全員 参加で公的年金を支えることを義務づける強制加 入の仕組みになっている。ただし、無業者など保険 料負担が困難な被保険者(加入者)に対しては保険 料免除の制度があり、受給権を保障している。 4 日本の公的年金の特徴-2 (3)世代間扶養・・・公的年金は、基本的には現役 世代の保険料負担で高齢者世代を支える、という世 代間扶養の考え方で運営されている。各々が私的 に行っていた老親の扶養・仕送りを、社会全体の仕 組みに広げたものである。 現役世代が生み出す財の一定割合を、その時点 の高齢者世代に再分配するという仕組みをとる⇒物 価スライドによって実質的価値を維持した年金が給 付される。 5 「2007年度研究報告」の結び ① 2004年の年金制度改正は、「賦課方式」の基本的 枠組みを温存した。 想定を上回る少子高齢化が進 行すれば、年金財政の見通しが狂い、積立金が早 期に枯渇する懸念もある。2階部分を「賦課方式」か ら「積立方式」へ移行しなければならない。 ② 公的年金について、その財政状況、および世代別 の受益(年金をいくらもらえるか)と負担(保険料をいくら払 うか) の割合をみると、世代間に大きな格差が存在 する。世代間格差を是正する財政的にも妥当な方 法は、年金給付額の削減と税金(消費税)の投入で ある。 6 「2007年度研究報告」の結びー2 ③現行基礎年金は全額税方式化し財源は全て消費 税でまかなうこと、2階部分の報酬比例年金は、積 立方式とすることが妥当である。 2010年度研究報告においては、以上の2007結論を 再度見直し、より妥当な結論を得ることとする。 7 公的年金給付の性格 • 公的年金制度は、ヨーロッパにおいて産業革命以 降に発生した、都市部労働者の老後の貧困問題を 解決する社会保険のひとつとして発展。 • 互助組織や救貧法のような制度では問題解決が不 十分⇒試行錯誤の結果、社会全体でこれらリスクに 備えるものとして社会保険のシステムが編み出され た・・・このシステムは19世紀後半のドイツに登場、 その後多くの国で採用された⇒日本の厚生年金も その流れを汲む。 • 社会保険給付の受給は、保険料納付に対する権利 ⇒保険事故が発生すれば必ず受給できなければな らない。 8 公的年金給付の性格-2 • 公的年金はこのような歴史的過程を経て誕生したも のである ⇒年金給付は、それまでの基本的生活を 維持できる給付であることが必要。 ⇓ • 現行制度において・・・①モデル年金の所得代替率( S45参照)を50%以上としていること、②現役時の平 均収入と加入年数に応じて報酬比例年金の給付額 が決定されることなどは・・・その現れ。 9 公的年金の財政方式1.「賦課方式」 ・ 公的年金給付は、その時々に生産された財のうち から、困窮化せずに基本的生活を継続できるだけ の財を獲得する権利を、受給者に付与するものでな ければならない。 ・ 給付の財源はその時々に調達するーすなわち、現 役被保険者の財獲得権利を保険料の形で徴収し、 受給者への給付財源とすることが基本になる。 以上考察⇒最も単純明快な財政方式は「賦課方式」で ある。 「賦課方式」=その年度の年金給付財政を、その年度 の保険料により賄う。 10 「賦課方式」の特徴 ① 年金給付に必要な費用を、その時々の現役加入 者からの保険料で賄う方式。 ② 発足後、制度が成熟するまでは、年月の経過とと もに受給者数が増加し、それに伴い年金給付費は 増加⇒保険料(率)もそれにあわせて引き上げていく ことになる(S13図2参照)。 ③ 制度成熟段階では、賃金・物価上昇に対応して年 金額を改定しても、人口構成に変化がなければ、保 険料収入も賃金の上昇に伴って増加⇒保険料(率) はインフレの影響を受けずに済む((S13図2参照) 。 11 賦課方式の特徴-2 ③ 保険料(率)は年金受給者と被保険者の人数比に 依存する⇒少子高齢化が進行すれば、被保険者数 に対する受給者数の比率が上昇⇒保険料(率)が上 昇するという性質をもつ。 ④ このような人口構成の変化に伴って保険料(率)が 上昇すると、生涯を通じた年金給付額と保険料負担 額の比率に世代間の格差を生じさせ、現役被保険 者に不安感を与える恐れがある。 ⑤ 先進諸国では、スウェーデンが制度の一部に積立 方式を入れている以外、賦課方式を採用。 12 図2 公的年金の財政方式の概念図 13 図3 「賦課方式」の世代間扶養イメージ 14 財政方式2.「平準保険料方式(積立方式)」 ・ この方式は、将来の年金給付費と将来の被保険者 の標準報酬月額(S38参照)を推計、これらに基づき 将来の年金給付を賄うための一定の保険料率を算 定し、この率を実行保険料率とする(S13図2参照)。 ・ 当初は実行保険料率>賦課保険料率、保険料収入 >給付費となり、積立金が形成されるので、「積立方 式」と呼ぶ場合もある。 ・ 給付費が将来推計どおり推移すれば、時間経過とと もに、平準保険料率<賦課保険料率となり、年間給 付費>年間保険料収入になる。この時点以降は、財 源は保険料と積立金の運用収入で賄っていくことに なる。 15 「平準保険料方式(積立方式)」の特徴 ① 受給者・被保険者(加入者)の年齢構成や積立金 の運用利回り等が、見通しどおりに推移する限り、 人口の高齢化が進んでも保険料(率)を変更しなく てよい。 ② 想定を超える賃金や物価の上昇があり、運用利 回りがそれに及ばない場合には積立不足を生じ、 現役被保険者が保険料の追加負担をしない限り、 賃金・物価上昇に見合う年金給付ができない。 ③ 生涯を通じた平均的な給付額と保険料負担額の 比率が、世代により大きく異なることはない。 16 「賦課方式」⇒「積立方式」への切替 • 賦課方式を積立方式に切替える場合には ⇒切替時の現役世代は、自らの将来の年金の積 立に加えて、そのときの受給世代等の年金給付財 源を重ねて負担しなければならなくなる。 ⇓ • いわゆる「二重の負担」が生じ、これにどう対応して いくかが大きな問題となる。 17 財政方式3.「段階保険料方式」 ・ 1942年発足した日本の厚生年金制度(当時は労働 者年金保険)は、当初「平準保険料方式」を採用。 ・ 1948年、戦後の急激なインフレの渦中、負担能力 などを考慮し、「平準保険料率」よりも低い暫定的な 保険料率を設定。 ・ 1954年、厚生年金法の抜本改正に際し「平準保険 料率」を保険料率とすることに対し強い反対があり、 段階的に保険料率を引き上げ収支を合せる財政方 式=「段階保険料方式」をとらざるを得なくなった。 ・ 日本の公的年金は、完全な「賦課方式」ではなく、 「 段階保険料方式」であり、将来の給付に備えて積立 金を持っている(S19表1参照)。 18 表1 公的年金各制度の期末積立金残高 (金額単位:10億円) 19 年金制度 厚生年金 国・地方・私 学共済組合 国民年金 勘定 合計 支出総額 積立金残高 積立割合 (2007年度末)① (2007年度)② (倍)①/② 127,056 35,145 3.62 52,435 8,165 6.42 8,269 5,932 1.39 187,761 49,242 3.81 (出所)厚労省「公的年金各制度の財政収支状況 」 http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/04/04-01-02-19.html (注)厚生年金基金の代行部分を含まない。 「段階保険料方式」の考え方 • 保険料(率)を段階的に引き上げていく点では、「賦 課方式」の要素を持つ。一方、制度成熟に伴い積立 金が形成され、この活用により一定の保険料水準 で運営を行う点では「積立方式」の要素を持つ。 • 日本の厚生年金、共済年金、国民年金いずれも、 現在の積立金の水準(S19表1)からみれば賦課方 式を基本とした方式である。 • さらに、2004年年金制度改正で、100年後の積立金 を厚生年金、国民年金ともに支出の1年分と想定し た(S21図4)⇒100年後には、公的年金財政は現在 以上に賦課方式の要素の濃い財政方式に。 20 図4 厚生年金・国民年金積立金の年間支出に対する積立度合見通し 21 (出所)厚労省「平成21年財政検証結果レポート」P30 (注)厚生年金基金の代行部分含む財政見通しである。 7.0 厚生年金 6.0 国民年金 積 立 度 合 ( 倍 ) 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 2010 2020 2030 2040 2050 2060 年度 2070 2080 2090 2100 2105 財政方式の選択について ・ 厚労省の考え方⇒ “積立方式、賦課方式のどちらが適切か、という議論 ではなく、どのように組合せ、両者の長所を生かす かという視点が重要。現行制度は、一定の積立金 保有により、将来の保険料水準や給付水準を平準 化するとともに、賦課方式における少子高齢化に伴 う負担上昇や給付低下を回避する財政方式をとっ ている” ( 「平成21年財政検証結果レポート」より抜粋) 22 財政方式の選択について-2 • 鈴木学習院大教授の主張⇒ “2004年・年金改革によって、賦課方式が継続され、 厚生年金の保険料率は2017年に労使折半18.3% に固定される。この制度では、想定を上回る少子高 齢化の進行により、2060年に積立金が枯渇する。 早急に積立方式に移行すべきである” (鈴木亘『だまされないための年金・医療・介護入門』 東洋経済新報社 2009年 P145~152) 23 公的年金の財源に関する議論 • 日本の現行制度・・・1階部分の基礎年金の財源が 税と保険料が半分ずつであり、2階部分(被用者年 金の報酬比例部分)の財源は全額保険料(労使折 半)である(S25図5参照)。1階部分に税財源が入っ ているが、保険料拠出(25年以上)が給付要件にな っており、社会保険方式である。 • 2008年に、新聞3社が年金改革案を公表、議論が 活発化⇒日経新聞が基礎年金財源の税方式化を 提案、朝日新聞は社会保険方式維持を主張、読売 新聞は税方式による最低保障年金創設を提案。 • 民主党・改革案の「最低保障年金」も全額税財源の 税方式である(S26図6参照)。 24 図5 現行公的年金制度のイメージ図 25 図6 民主党の年金改革案 26 公的年金の財源方式1.「社会保険方式」 • 一定以上(25年以上)の期間、年金保険料を拠出す ることが受給の条件、「拠出なければ給付なし」の制 度。給付は拠出と連動、その分権利性が強い。 • “保険料拠出が条件”⇒最大の問題点は、無年金、 低額年金者が多数発生すること。2007年4月・65歳 以上の無年金者は42万人。厚労省推計・65歳以上 の無年金者は今後さらに増加、118万人に膨れ上が る見込み。 • 被保険者から年金保険料を徴収、徴収記録を正確 に残す必要あるが、漏れなく保険料を徴収すること には困難を伴う⇒現に「年金記録問題」が発生!記 録漏れ、給付漏れ多発! 27 公的年金の財源方式2.「税方式」 • 年金保険料の拠出を年金の受給要件とせず、一定 期間の日本国内居住などを要件とする方式。 • 税方式化論者の主張する長所⇒①制度未加入、保 険料未納問題が解決、無年金者・低額年金者の発 生をなくせる、②保険料徴収事務・年金管理記録が 不要になる、③年金受給世代も消費税を負担し続 けるので、現役組の負担を軽減できる。 • 課題・問題点(1)⇒多額の税財源調達が必要。基 礎年金財源を全額消費税で調達すれば、消費税率 5%前後の引上げが必要(日経新聞試算)。民主党 案「最低保障年金」の必要財源21.5兆円、消費税換 算6.8%の引上げ必要(堀一橋大教授試算)。 28 公的年金の財源方式2.「税方式」-2 今後、高齢化が進行するなかで年金だけに5~7% も投入できるかが課題。朝日新聞提案は、“年金財 源の税方式化は非現実的”と判断、年金に消費税 の多くを回せば医療や介護、少子化対策が十分で きない恐れがある、と主張。 • 課題・問題点(2)⇒支給対象者をどうするかも大問 題 ⇒ 所得が多い高齢者にも全額税財源の基礎 年金を支給するのか? 年金保険料の意図的未納 者も支給対象とするのか? 他の所得や資産があ る人にも「全額税財源・最低保障年金」を支給してよ いのか? 29 公的年金の受益と負担の世代間格差について • 公的年金制度は 「世代間扶養」の仕組みの下で実 施されている社会保障制度であり、個人や世代の 損得を論じる性格のものではない。 • 一方で「保険料を払った分が戻ってこないので払い 損」という、いわゆる「損得」の意見がある。年金研 究者間でも、世代間の受益と負担に大きな格差が 存在すると主張する「世代間不公平論」が根強い。 • 代表的な世代間不公平論の是非を検討する。 30 公的年金の世代別・生涯受給率と生涯保険料負担率 (学習院大鈴木教授の試算) • 構築モデルにより世代別の受益負担格差を試算。 • 受益=報酬比例部分、基礎年金、配偶者分の基礎 年金を含めた厚生年金。負担=厚生年金保険料。 年金保険料には事業主負担分(1/2)を含む。 • 生涯保険料率=生涯保険料÷生涯賃金額(%)、 生涯受給率=年金生涯受給額÷生涯賃金額(%) 各数値は運用利回り(3.2%)による現在割引価値 (出所) 貝塚編『年金を考える-持続可能な社会保障制度改革』中央経済社2006年 鈴木亘『だまされないための年金・医療・介護入門』東洋経済新報社2009年 鈴木亘『年金は本当にもらえるのか?』ちくま新書2010年7月 31 図7 厚生年金の生涯保険料率と生涯受給率(鈴木教授計算)32 30.0 生 涯 賃 金 額 に 対 す る 比 率 ( % ) 25.0 20.0 15.0 10.0 生涯保険料率 生涯受給率 5.0 0.0 1940 1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 生年 図8 生涯純受給率(生涯受給率-生涯保険料率)(鈴木教授計算)33 15.0 10.0 生涯純受給率 5.0 純 受 給 0.0 率 ( % ) -5.0 -10.0 -15.0 1940 1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 生年 厚労省の計算(平成21年財政検証)との対比 • 厚労省が「平成21年財政検証」において示した、保 険料負担に対する年金給付の倍率と、鈴木教授の データに基づく倍率を対比させると次ページ図9の 通りで、大きな差異がある。 • このような大きな差異が生じた原因は以下2点か。 (1)鈴木教授は、保険料の事業主負担分を労働者に 帰着させている(生涯保険料に含めている)のに対 し、厚労省は事業主負担分は含めていない⇒個人別 負担を把握するミクロの計算では、手取り賃金から天引きさ れる従業員分に負担を限定すべきで、厚労省計算が妥当と 思われる。事業主負担は保険料総額の半分なので、これを 含めれば負担率が2倍に過大表示されることになる。 34 図9 厚生年金給付負担倍率(厚労省と鈴木教授の比較) 35 7 6 3.3 3 1 鈴木教授の倍率 3.9 4 2 厚労省の倍率 4.7 5 ( 負 担 対 比 年 金 給 付 倍 率 倍 ) 6.5 1.9 1.5 2.9 2.7 2.5 2.4 2.3 2.3 2.3 2.3 2.3 2.3 2.3 1.1 1.0 0.8 0.8 0.7 0.7 0.7 0.7 0.7 0.7 0.7 0.6 0 1940 1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 生年 厚労省計算(平成21年財政検証)との比較-2 (2)鈴木教授は、賃金、保険料、年金受給額すべて、 運用利回り(平成16年「社会保障の給付と負担の見通し」 の想定利回り3.2%)で割引いた現在価値を使用。 厚労省計算は、保険料額や年金給付額を賃金上 昇率(平成21年財政検証・経済前提「中位ケース」では1.5 %)を用いて65 歳時点価格に換算。 ⇒積立方式で、将来の給付に備え現在保有すべき積立金を求 めるには、運用利回りによる割引計算が必要。一方賦課方 式では、その年度の賃金の一部を保険料として拠出し、それ を財源として生活維持に必要な年金額を給付する⇒ 賃金 上昇率による計算が妥当。運用利回りと賃金上昇率には約 2倍の差異がある⇒ 将来受給する年金額を運用利回りで 割引くと、受給額の現在価値が過小になる。 36 厚労省計算(平成21年財政検証)との比較-3 • 以上を総合、鈴木教授計算は、保険料負担を過大 に、年金受給を過少に見積もっていることになり、給 付負担倍率の数値は、厚労省計算の方が、より妥 当であろうと考えられる。鈴木教授のいう「純受給率 マイナス世代」は存在しない。 • “1955年以降生まれの世代がもらう年金は払った保 険料より少ない”と言う議論が、複数の書籍で堂々 と世に喧伝されているのは憂慮すべき事態である。 • なお、現在価値への割引率を運用利回り(3.2%)に よった場合と、賃金上昇率(1.5%)によった場合の 差異を試算してみたので、図10に示す。 37 年金給付負担倍率の計算方法による差異試算 図10の試算に使った数値 ① 筆者の1966年4月~2005年6月の各年度ごとの支払い保険料 (=標準報酬月額×各年度保険料率)*標準報酬月額・・・保険料、年金額決定 の計算のもとになる報酬で、その人の月給与額を一定の幅でランク分けしたもの。現在、最 高額62万円から最低額9万8千円までの30ランクに分かれている。 ② 現在までの受給年金+今後平均余命より2年長く生存すると仮定したと きの予想受給額(賃金上昇率とマクロ経済スライドを加減) [試算-1] 賃金上昇率(1.5%)で現在価値へ割引(割増)、事業主負担保険料除き [試算-2] 賃金上昇率(1.5%)で現在価値へ割引(割増)、事業主負担保険料含む [試算-3] 運用利回り(3.2%)で現在価値へ割引(割増)、事業主負担保険料除き [試算-4] 運用利回り(3.2%)で現在価値へ割引(割増)、事業主負担保険料含む 38 図10 厚生年金給付負担倍率の計算方法による差異 39 7.00 6.00 事業主負担除き 5.80 事業主負担含み 給 付 負 担 倍 率 ( 倍 ) 5.00 4.07 4.00 3.00 2.90 2.71 2.03 2.00 1.36 1.00 0.00 実額 1.5%割引現在価値 3.2%割引現在価値 給付負担倍率の差は不公平な格差なのか • 厚労省計算がより妥当であり、純受給率マイナス世 代はない、としても、給付負担倍率には世代間の格 差が厳然と存在する。これは不公平なのか・・・ • 公的年金の役割・性格・歴史まで立戻って検討する ことが必要。 ・ 公的年金制度は、「世代間扶養」の仕組みの下で 実施されている社会保障制度である。歴史的には、 ①負担については、戦後の経済混乱の中で負担能 力にギリギリ見合った低い保険料としていたが、そ の後、保険料を段階的に引き上げてきたこと、 ②給 付については、経済発展の中で物価や賃金の上昇 に応じた改正を後代の負担で行ってきたこと、 40 給付負担倍率の差は不公平な格差なのか-2 また、③長寿化に伴い支給開始年齢の引き上げ 等の改正を行ってきたことなどが、倍率格差が生ず る背景。高齢者世代が過少な負担でバラマキ年金 を謳歌してきたのではない。 ・ 公的年金制度が定着する前の日本では家単位の 私的な高齢者扶養が当然であったが、「家」制度の 廃止・核家族化進行に伴い、社会全体での「世代間 扶養主体」に転換せざるを得なくなっている。現行年 金制度は、このような「世代間扶養」の考え方を基 本にしているのであり、一面的な保険料負担と給付 の対比だけに基づく「世代間不公平論」は当を得て いない。 41 給付負担倍率の差は不公平な格差なのか-3 • ただ、少子高齢化進行に伴い、高齢者世代に比べ 現役・将来世代の負担が相対的にかなり大きくなっ ていること、年金財政の見通しも楽観を許さないこと は事実である。 ⇒現役・将来世代の負担軽減および年金財政の強化 のために、年金給付課税強化によって実質的に給 付を抑制したり、相続税・贈与税の課税強化による 税財源や消費増税の一部を投入することは不可避 であろう。 42 2004年の公的年金改革のポイント ・ 2004年に公的年金の大改正が行われた。目的は、 年金財政を安定化させ、少なくとも100年間は持続 可能な制度(有限均衡方式)とするもの。そのポイン トは下記のとおり。 (1)「マクロ経済スライド」による年金給付水準の自動 引下げ。 ただし“所得代替率50%以上”を維持 ・・・ 年金額の計算では、「平均標準報酬月額(S38参照)」を現在の賃金 水準に読替える「再評価制度」および「物価スライド制」によって、インフレ などによる実質減価を回避することになっているが、2004年改正では「再 評価率」「物価スライド率」から、年金被保険者数減少率(0.6%予定)分と 平均余命伸び率(0.3%予定)を控除する「マクロ経済スライド」が導入さ れた。要は⇒給与や物価が上がっても、年金給付は、そのままスライドし ては増やしませんよ! ということ。 (所得代替率はS45参照) 43 2004年の公的年金改革のポイントー2 (2)引上げ上限額(率)を設定した年金保険料の段階 的引き上げ ・・・厚生年金保険料は毎年+0.354%引上げ 、2017年以降は18.3%とし、国民年金保険料は毎年+280円 引上げ、2017年以降は月額16,900円とすることに。 (3)積立金を使う・・・⇒ 財政均衡期間終了時の積立 金は年金給付費1年分程度へ減る。 ⇒この改革で有限均衡期間(100年間)の財政は維 持できると見込んでよいか、検証が必要⇒厚労省は 5年毎に公的年金の「財政検証」を行い、公表するこ とに。 44 「平成21年財政検証」について 厚労省は2009年2月、 「平成21年財政検証」の結果 を公表。そのポイントは次の通り 経済前提(表2、3参照)が基本ケース(経済中位・出 生中位)ならば ⇒①平成50年(2038年)以降の所得代替率(注)は、 50.1%を維持できる。 ⇒②100年後(2105年度)の積立金積立度合(前年度 末積立金/当年度支出合計)は1.0倍になる。 (注)所得代替率:標準的な年金受給世帯(平均的賃金で40年 厚生年金に加入していた夫婦世帯)が受給する年金の、現 役被保険者の平均的手取り賃金に対する比率 45 表2 平成21年財政検証の経済前提 46 経済 前提 物価 賃金上昇率 運用利回り 上昇率 経済 1.0% 高位 経済 1.0% 中位 経済 1.0% 低位 名目2.9% 実質1.9% 名目2.5% 実質1.5% 名目2.1% 実質1.1% 名目4.2% 実質3.2% 名目4.1% 実質3.1% 名目3.9% 実質2.9% 実質経済成長 率(2015~39) +1.2% +0.8% +0.4% 表3 平成21年財政検証の出生率前提 47 • 合計特殊出生率 2005年実績 1.26 ⇒⇒⇒ 2055年 出生高位: 1.55 出生中位: 1.26 出生低位: 1.06 公的年金の各改革案の評価 ・ 新聞3社の改革案・・・日経・朝日・読売 ・ 民主党改革案 ⇒税財源の最低保障年金導入、年金一元化 ・ 学習院大・鈴木教授 “積立方式へ移行せよ” ・ 一橋大・高山教授 “年金目的消費税で、現役世代の負担増回避を” ・ 上智大・堀教授 “2004年改正に基づく現行制度を持続すべき” 48 エピローグ • 次の①について、2007年研究の結論を再検 討・修正し、さらに②についても考え方を示し たい。 ① 公的年金制度が持つ重要な役割は、子ど も世代が親世代を社会全体で扶養する「世代 間扶養」である。この役割を果たしつつ、公的 年金制度が永続するにはどうすべきか。 ② 年金制度への不安・不信感を払しょくする には何を行うべきか。 49
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