第4回 推 論(2) 1 知識表現の種類と特徴-7(再) 述語論理(predicate calculus, logic) 種々の知識を表現するための形式的言語 ~ 第1階述語論理 知識を記号の式として数学的に表現 cf)述語: 真偽判定可能な叙述 例) (∀X)(elephant(X) → color(X, gray)) 理論的基盤が保証されている 導出原理(resolution principle)による推論 人間の持つ曖昧性を組み込むことが困難 2 述語論理表現に用いる記号 定数 変数 関数記号: plus(X, Y) 述語記号: red(X)、study(x, school, English) 論理結合子: -連言(conjunction): ∧ 選言(disjunction): ∨ -否定(negation): ¬ 含意(implication): → 束縛(量)記号: -全称記号: ∀ 存在記号: ∃ 3 融合法(背理法) 一階述語論理の論理式が充足不能(恒偽)かどう かを判定する部分的決定手続き 1. 冠頭標準形への変換 2. Skolem標準形への変換 3. 融合の実行 代入 単一化 融合節の生成 空節の導出 ~ 矛盾生成 4 融合法(背理法)の原理 対象領域D, 論理式M[x]に対し, ∀x [M[x]]が真であることを示すのは困難 一方, ∃a∈Dに対し, M[a]が偽であることを示せば 恒偽式であることは示せる 5 節形式 素(原子)命題: 述語記号と項から構成される命題 リテラル(literal): 素命題、または素命題の否定 節(clause): リテラル、またはリテラルの選言 節形式命題: (∀x1) (∀x2) ・・ (∀xn)[C1∧C2 ∧ ・・∧Cm] []内: 母式(matrix) 6 節形式への変換-1 冠頭標準形:論理式F: (Q1x1)・・・(Qnxn)α (Q1x1)・・・(Qnxn):冠頭部α:本体 Qi:束縛子 P → Qを¬P∨Qに、 A≡Bを( ¬A∨B)∧( ¬B∨A)に変換 否定記号の括り出し: ¬(¬A)=A ¬(A∧B)= ( ¬A∨¬B) ¬(A∨B)= ( ¬A∧¬B) ¬ ((∀x)α)= (∃x)(¬α) ¬ ((∃x)α)= (∀x)(¬α) 7 節形式への変換 -2 Skolem標準形への変換 連言標準形へ変換 存在記号∃の除去: (∀x) (∃y)P(x,y) = (∀x) P(x, f(x)) f(x): Skolem関数 存在記号を含む変数を引数とする新しい関数 で置き換えたもの 8 第9回 一階述語論理 [email protected] 節形式への変換 -3 1. 分配法則を用いて、母式を 選言の連言結合形に変換: (A∧B)∨(B∧C)=(A∨B)∧ (B∨C)∧B∧(A∨C) P∨(Q∧R)=(P∨Q)∧(P∨R) P∧(Q ∨ R)=(P∧Q)∨(P∧R) 2.節集合への変換: P ∨ Q ∨ ¬ R ⇒ {P, Q, ¬ R} (A∨B)∧ (B∨C)∧B∧(A∨C) ⇒ {{A,B}, {B,C}, {B}, {A,C}} 9 融合法による推論-1 節の統合 ~ 節集合に変換する前 基本:(P, P→Q)⇒Q (P→Q, Q→R)⇒ P→R 例: C1 = L∨M1∨M2 ・・ ∨Mk C2 = ¬L∨N1∨ N2 ・・ ∨Nl の統合 (¬M1∧ ~M2∧ ・・ ∧ ~Mk) → L 及び L → (N1∨ N2 ・・ ∨Nl ) ⇒ (¬M1∧ ¬M2∧ ・・ ∧ ¬Mk) → (N1∨ N2 ・・ ∨Nl ) ⇒ M1∨M2 ・・ ∨Mk∨ N1∨ N2 ・・ ∨Nl = C3 10 融合法による推論-2 単一化(unification) 複数のリテラルの変数に適当な項を置換・代入 することにより、全てのリテラルを同一化すること 置換(substitution) s=P/Q: 変数QをPで置換える こと ← 全称記号∀のみなのでOK 例)P(y, f(x))とP(a,z)の単一化 s1=a/y: P(y, f(x)) ⇒ P(a, f(x)), P(a,z)不変 s2=f(x)/z: P(a, z) ⇒ P(a, f(x)) で一致 11 融合法による推論-3 融合節の生成・空節の導出 ← 導出原理(resolution principle) 目標の否定を前提に加えた節の集合から 導出・単一化を繰り返すことにより、矛盾 (空節)を導く 12 融合法による推論例 前提S: A(x, b, c)∨B(x) ¬A(g(a), y, z) ¬B(v)∨ C(y, f(u)) 目標: C(b, f(h(y))) [解法] 目標の否定¬C(b, f(h(y)))を前提Sに加えて NILを導出: 一通りとは限らない 13 融合法による推論の例(結果) ¬ P∧¬P=空 ¬ ¬ 14 不確実な事実・知識による推論 例外(非単調性)に起因する不確実性: - サーカムスクリプション - デフォルト推論 曖昧さに起因する不確実性: - 信頼性係数(CF:Certainty Factor) - ファジィ理論 - Dempster-Shafer(DS)理論 15 非単調論理による推論 論理体系の単調性: A⊂B ならば Th(A) ⊂Th(B) X: 矛盾の無い命題(公理)の集合 Th(X): Xから証明される定理の集合 *拡張: 公理系に推論規則を適用することにより 論理式の集合(定理群)を得ること 非単調論理(non-monotonic logic): 単調性が成立しない論理体系 ←例外を含む知識(常識・・)が存在、・・ 16 例外への対処 知識の適用対象を限定することによる 古典(述語)論理への帰着: - サーカムスクリプション 様相記号の導入による古典論理の拡張: - デフォルト推論 17 閉世界仮説とサーカムスクリプション 閉世界仮説(closed world assumption): ¬P(x)が証明できなければP(x)は真とする ~ 実世界では不成立、人間の通常の推論過程 サーカムスクリプション(極小限定) : 述語P(x)に関する命題A(P)が成立している場合 A(φ)∧(∀x)[{φ(x)∧ ¬E(φ)} → P(x)] → (∀x) [P(x) →φ(x)] E:例外 18 閉世界仮説とサーカムスクリプションの例 P≡BLOCK: (∀x)[BLOCK(x)→(x=a∨x=b∨x=c)]:閉世界仮説 A(φ)∧(∀x)[φ(x) → BLOCK(x)] → (∀x) [BLOCK(x) →φ(x)] ここでφ(x) ≡ (x=a ∨x=b ∨ x=c)とすれば、 (∀x)[(x=a ∨x=b ∨ x=c) → BLOCK(x)] → (∀x)→[BLOCK(x)(x=a ∨x=b ∨ x=c)] φ(x)≡RED (x)とすれば、 [RED(a)∧RED(b)∧RED(c)] ∧(∀x)[RED(x) → BLOCK(x)] →(∀x) [BLOCK(x) →RED(x)] 19 デフォルト推論 Pが成立ち、¬Qが証明されていなければ、 Rが成立つ; P:MQ R P:前提 Q:仮定 R:帰結 M:様相記号 正規デフォルト規則: P:MQ Q 拡張: 公理系に推論規則を適用することにより 論理式の集合(定理群)を得ること - 多重拡張 ~ 拡張結果が複数通り出現 - 演繹結果が規則の適用順序に依存 20 デフォルト推論の例 鯨(x) → 脊椎動物(x) 鯨(x) → ¬翼がある(x) 哺乳類(x) → ゆったり 鯨(x) → 水棲(x) (x) 鯨(x) → 恒温動物(x) ¬翼がある(x) → ¬飛ぶ(x) 哺乳類(x) → ¬魚類(x) 鯨(x) → ゆったり(x) 恒温動物(x) ∧¬飛ぶ(x):M哺乳類(x) 哺乳類(x) 21 信頼性係数による推論 血液感染症診断支援・MYCINで最初に導入 後向き推論の効率化に有効 理論的裏付けに乏しい 更新規則:前件(左辺)C1*C2 ・・、 後件(右辺)A CF(右辺)= CF(左辺) CF(規則) CF(C1∧C2 ・・ ∧Ck)=min(CF(Ci ) ) CF(C1∨C2 ・・ ∨Ck)=max(CF(Ci ) ) ~当初 その後は、 =CF(C1)+CF(C2)(1-CF(C1))・・ 22 MYCINにおける知識の例 事実型: ・培養基の場所は血液である(1.0) ・培養基の菌は好気性である(0.25) ・培養基の菌は大腸菌である(0.75) (): 確信度 プロダクションルール型: もし 感染症の種類が一次敗血症であり、 培養基の場所が無菌の場所であり、 培養された菌の入口が胃腸管と推定される ならば、 その菌はバクテロイドである兆候がある(0.7) 23 MYCINにおける推論の例 0.4+0.54(1.0-0.4)=0.72 後向き推論: 結論を仮定して、 ルールの前件部を チェックすることにより、 結論の確からしさを チェック 0.5+0.8(1.0-0.5)=0.9 24 第12回 不確実性の取り扱い [email protected] ベイズネットワークにおける確率推論 ベイズの定理に基づく不確実な情報に 基づく推論 確率変数間の依存関係に関する知識を グラフとして保持・更新 ・ノード: 確率変数 ・アーク: ノード間の因果関係の存在 25 第12回 不確実性の取り扱い [email protected] 確率集合関数 コルモゴロフの公理系 P(E)≧0 P(Ω) =1 Ω:基礎空間(事象の全体集合) Fi が互いに独立(素)の時 P(F1∪F2 ∪・・ ∪Fk) = P(F1) + P(F2 ) +・・ +P(Fk) 26 第12回 不確実性の取り扱い [email protected] 基本的な性質 1. 2. 3. 4. P(φ)= 0 φ:空集合 E⊇Fの時 P(E)≧P(F) P(Ec)=1 - P(E) Ec :Eの補集合≡Ω- E P(E∪F)=P(E)+P(F)- P(E∩F): 確率の加法公式 27 第12回 不確実性の取り扱い [email protected] 条件付確率と乗法定理 事象E,Fに関して, 条件付確率: P(E/F) = P(E∩F)/P(F) 確率の乗法公式: P(E∩F)= P(F) P(E/F) = P(E) P(F/E) ●E,Fが独立の時, P(E∩F)= P(E) P(F) 28 第12回 不確実性の取り扱い [email protected] ベイズの定理 Fi が互いに独立(素),かつ F1∪F2 ∪・・ ∪Fk= Ω P(E) = P(E/F1)P(F1)+ P(E/F2)P(F2) +・・・ + P(E/Fk)P(Fk) ベイズの定理: P(Fi/E) = P(E/Fi)・P(Fi) / P(E) = P(E/Fi)・P(Fi) / {P(E/F1)P(F1)+ P(E/F2)P(F2) +・・・+ P(E/Fk)P(Fk) } 29 第12回 不確実性の取り扱い [email protected] ベイジアンネットの性質 ネットワークにおける全ての変数に対し,その親 に条件付けされた各ノードの結合確率を規定す るだけでOK 以上で規定された条件付き確率は大域的に無 矛盾であることが保証 各ノードにおける条件付き確率の集合は ネットワークにおける全てのノードの唯一の結合 確率分布を規定 確率変数:{真,偽} 30 第12回 不確実性の取り扱い [email protected] ベイズネットワークの例 「ボーナス」-「収入」: ボーナスが真のとき, 収入が真の確率0.8 偽の確率0.2 ボーナスが偽のとき, 収入が真の確率0.3 偽の確率0.7 31 第12回 不確実性の取り扱い [email protected] ベイズネットワークのアルゴリズム 1. 2. 3. 観測された変数の値をノードにセット 親ノードも観測値も持たないノードには 事前確率分布を付与 確率を伝播し,知りたい対象の変数Xの 事後確率を計算 32 第12回 不確実性の取り扱い [email protected] ベイズネットワークの例:確率計算 P(収入)=P(収入/ボーナス)・P(ボーナス)+ P(収入/¬ボーナス)・P(¬ボーナス) =0.8・0.6 + 0.3・(1.0-0.6) = 0.6 P(旅行)=P(旅行/収入)・P(収入)+ P(旅行/¬収入)・P(¬収入) =0.2・0.6 + 0.5・(1.0-0.6) = 0.32 33 ファジイ理論による推論 米・L.A.Zadehが提案 (1965) 確からしさを0~1の実数値で表現:主観 membership(所属度)関数による連続表現 μ(f(x)∧g(y))=min{μ(f(x)), μ(g(y)) } μ(f(x)∨g(y))=max{μ(f(x)), μ(g(y)) } 34 推論の例(エアコンの制御) 温度30度のときの目盛? 快適 → 切る やや暑い → 弱にする 暑い → 強にする 35 推論結果(エアコンの制御) 温度30度 大きい方を選択 (1x0.4+2x0.4+ 3x0.2+4x0.6+ 5x0.6)/(0.4+0.4+ 0.2+0.6+0.6) =3.3 36
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