プログラミング言語論 第11回 情報工学科 篠埜 功 ラムダ計算 ラムダ計算とは: 関数型言語の核となる言語 ラムダ計算は1930年代(計算機ができる前)に考え出 された。 計算可能な関数をすべて表現可能。 ラムダ式 ラムダ式の定義 <ラムダ式> ::= <定数> | <変数> | (<変数> . <ラムダ式>) | (<ラムダ式> <ラムダ式>) <定数> ::= 0 | 1 | 2 | 3 | … <変数> ::= x | y | z | w | … ラムダ式 ラムダ式を表記する場合の約束事項 1. 関数適用は左結合する。 2. ラムダ抽象x .MにおけるMはできるだけ 大きくとる。 3. 括弧を省略した場合、1, 2の約束に従う。 (例) x y z は、(x y) zを表す。 (例) x. y. z. x y z は、 x. (y. (z. ((x y) z))) を表す。 ラムダ式 計算の本質を追究する過程で考えられた言語 ラムダ記法は直感的には関数の表記法。 g(x)=x+1 で定義される関数gを g = x. x + 1 のように書く。 ラムダ計算 ラムダ式に対し、形式的な式変形(β変換、次 ページ以降で説明)を行うことが計算であると いう考えに従った計算体系がラムダ計算。 変換の例 (例) (x. x) z z (例) (y. y) z z 直感的には、λx. xはxを受け取ってxを 返す関数であり、このxをyに変えても 意味は同じである。 g ( x ) = x と g ( y ) = yは同じ意味であるのと同じ。 変換の例2 (例) (x. x y) (z. z) (z. z) y (λx. x y)は、xを受け取って、それをyに適用する 関数である。(λz. z)を受け取った場合は、それをy に適用する関数適用式になる。(これをさらにβ変 換するとyになる) (例) (λx. x) (λy. y) (λy. y) (λx. x)はxを受け取ってxを返す関数であり、 (λy. y) を受けとった場合、 (λy. y)になる。 メタ変数 以下でラムダ式の変換を定義する。その際に、 ラムダ式、定数、変数を表すための変数(メタ 変数)として以下のものを用いる。 M, N, P, M1, M2 等: ラムダ式 c: 定数 x, y, z : 変数(x, y, z, w等。このスライドでは、 立体か斜体かでメタ変数かどうかを区別して いる。) 変換 ラムダ式 M, N, P, 変数xについて、 変換を 以下のように再帰的に定義する。 • (x. M) N M [N / x] • M N ならば、 (x. M) (x. N) MP NP PM PN M [N / x]はラムダ式M中のxをNで置き換 えたラムダ式を表す。ただし、束縛変数が 自由変数とかぶらないように、束縛変数 の名前の付け替えを行う。 置換の例 さきほどの例 (x. x) z は、定義に従ってβ変換す ると、x [ z / x ] になる。x [ z / x ]は、式x中のxをzに 置き換えた式、すなわちzを表す。 (x. x y) (z. z) の例では、β変換すると、 (x y) [ (z. z) / x ] になる。 (x y) [ (z. z) / x ]は、式 (x y)中のxを(z. z)に置き換えた式、すなわち (z. z) yを表す。 置換で名前がかぶる例 例えば、(λx. y) [x / y]のような置換は、(λx . x)にな るべきではない。 (λx. y) 中のxは仮の名前であり、 [x / y] のxと同じではない。 よって、 (λx. y)中の仮の名前xをまず何らかの未 使用の名前に付け替える。例えば(λz . y)としてか ら、[ x / y ]の置き換えを行う。すると、(λz . x)とな る。このようになるように置換を次ページで定義 する。 置換M [ N / x ]の定義 Mが定数の場合 c[N/x]=c Mが変数の場合 x[N/x]=N y[N/x]=y (xy) Mがラムダ抽象の場合 (y. M) [ N / x ] = y. M (x = y) y. (M [N / x]) (x y, y FV (N)) z. ((M [ z / y ]) [N / x] ) ( x y, z x, y FV (N), z FV (M), z FV(N) ) Mが関数適用の場合 (M1 M2) [N / x] = ( M1 [ N / x ] ) ( M2 [N / x] ) 自由変数 ラムダ式 Mの自由変数の集合FV(M)を以下の ように定義する。 FV( c ) = { } FV ( x ) = { x } FV ( x. M ) = FV (M) \ { x } (\ は集合の差をと る演算を表すものとする。) FV (M1 M2) = FV (M1) FV (M2) 例 (例1)ラムダ式 (λx . x)の自由変数を計算してみる。 FVの定義により、 FV (λx. x) = FV (x) \ {x} = {x} \ {x} = { } である。( ラムダ式(λx . x)には自由変数はない。) (例2)ラムダ式 (λx. x y)の自由変数は、 FV (λx. x y) = FV (x y) \ {x} = (FV (x) U FV(y)) \ {x} = ({x} U {y}) \ {x} = {x, y} \ {x} = {y} となり、y1つである。 変換列 ラムダ式M1に変換を有限回(0回以上)繰り 返してラムダ式Mnが得られるとき、 M1 M2 … Mn を変換列という。これはM1 * Mn と表せる。 また、M N かつ N M のとき、 M N と書く。 例 ラムダ式 (x. y. x y) z w に対して、以下の変 換列が存在する。 (x. y. x y) z w (y. z y) w z w 練習問題 ラムダ式 (x. y. x y) (z. z) w は、何度か変 換を行うことによってwに変換できるが、そ の過程を示せ。 解答 黒板で説明。 Church-Rosserの定理 M * M1 かつM * M2 ならばあるラムダ式Nが 存在して M1 * N かつM2 * N が成り立つ。 例 ラムダ式 (x. y. x y) (z. z) w は、 (x. y. x y) (z. z) w (λy. (λz. z) y) w のようにまずβ変換される。このλ式に対し、2 通りのβ変換の適用が可能である。 (1) (λy. (λz. z) y) w (λy. y) w (2) (λy. (λz. z) y) w (λz. z) w (1), (2)に対してβ変換を一度適用すると、どち らもwになる。 このように、β変換で一度枝分かれした後、必 ず合流するルートがあるというのがChurchRosser定理である。 練習問題 ラムダ式 (x. y. x y) (λx. x y) wに対して、β変 換を適用する箇所のないラムダ式になるま でβ変換を適用せよ。また、この例では途中 で、2通りの適用可能性のあるラムダ式が 出てくる。2通りのβ変換列を示せ。 解答 黒板で説明。 参考文献 Alonzo Church, “An unsolvable problem of elementary number theory”, American Journal of Mathematics, vol. 58 , pp. 345-363, 1936.
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