ILCにおけるリトルヒッグス・モデルの検証に関する シミュレーション研究 はじめに リトルヒッグス模型 ILC計画 シミュレーション 重心系エネルギー500GeVでの物理 重心系エネルギー1TeVでの物理 模型パラメータの決定精度 まとめ 高エネルギー加速器実験グループ 佐々木 励 1 はじめに 素粒子物理学における標準模型は 多くの実験により立証されてきた しかし、要のヒッグスは未検証 ヒッグスの質量補正 新しい物理 : O(1)TeVに存在 一方、 電弱相互作用の精密測定 新しい物理 : 10TeV以下にない 新しい物理のエネルギースケールの矛盾を 「リトル・ヒエラルキー問題」 という その解決のために 「リトルヒッグス」 のシナリオが提唱されている 2 リトルヒッグス模型 - Littlest Higgs model with T-parity <対称性の拡張> 標準模型 リトルヒッグス模型 : SU(2)L×U(1)Y : SU(5) <リトルヒッグス機構> SO(5) グローバル対称性: SU(5) (対称性の破れ) 部分群:[SU(2)×U(1)]2 SU(2) ×U(1) 真空期待値 f : ~1TeV L Y <Tパリティ> リトルヒッグスパートナー 標準模型粒子 重いゲージボゾンの質量 対称性の破れに起因 +1 -1 AH, ZH, WH±の質量を精密測定 真空期待値fを決定可能 !! *LEP実験から制限を受ける、標準模型粒子とリトルヒッグスパートナーの危険な結合を禁止 3 リトルヒッグス模型 シミュレーションによる検証をおこなうには 模型パラメータの値を設定する必要がある <考慮した加速器実験の結果> W±の質量、ワインバーグ角、 Zのレプトン崩壊の崩壊幅 <天文観測からの制限> 典型的な値を求める (加速器実験と天文観測の結果を考慮) <模型パラメータの典型的な値> f : 真空期待値 mh : hの質量 AH:暗黒物質の候補 AH, ZH, WH±の質量は500GeV以下 ILC実験(√s=500GeV~1TeV)で探索可能 4 解析の対象 <√s=500GeVでの物理> (*草野智則 氏からの引継ぎ) e+e- AHZH - mAH+mZH<500GeV (1.91fb) - ZHAHh (崩壊比100%) (粒子の質量) 崩壊 <√s=1TeVでの物理> e+e- WH+WH- 反応断面積が非常に大きい(277fb) - WH±AHW± (崩壊比100%) 標準模型 リトルヒッグス 模型 *AH:暗黒物質の候補 5 観測する物理量 s 500GeV ・ hのエネルギー分布 AHとZHの質量 ・ W±のエネルギー分布 AHとWH s 1TeV ±の質量 1) WH±の生成角度の分布 WH±のスピン 2) qqの生成角度の分布 W±の偏極 3) h ZH e+ e- AH + e AH W- W+ AH e- W HW H+ e+ q WH q W H+ AH e- - W± e+e-WH+WH-の反応断面積(e-を偏極) WH±のSU(2)L荷・U(1)Y荷 q* q e+ WH+ W H- e-6 ILC計画 - International Linear Collider <加速器> 電子・陽電子の衝突 (目標値) ・重心系エネルギー:√s=500GeV~1TeV ・積分ルミノシティ(4年間): 500fb-1 ・電子の偏極 : 最大80% <測定器> 測定器の候補 : GLD, LDC, SiD, 4th (加速器の概観) (GLD測定器の概観) ILD (*GLDでシミュレーション) (目標値) ・エネルギー分解能 :⊿E/E=30%/ E (GeV) ・運動量分解能 :⊿pt/pt2=5×10-5 (GeV/c)-1 7 シミュレーション (物理事象の生成における値) • 重心系エネルギー : 500GeV,1TeV • 積分ルミノシティ : 500 fb-1 • 電子の偏極 : -80, 0, +80% (測定器シミュレーションへ) 測定器シミュレータ内の概観(衝突点付近) Beam Pipe ・飛跡検出器 VTX, IT, TPC ・カロリメータ ECAL, HCAL (再構成) ・粒子の運動量 ・粒子のエネルギー 8 s 500GeVでの物理 9 解析の流れ: e+e-AHZH (a) (b) (c) (d) (e) シグナル事象の決定 バックグラウンド事象の選定 物理事象の再構成 物理事象の選択 バックグラウンド事象の除去 10 解析の流れ: e+e-AHZH (a) シグナル事象の決定 : 終状態「2ジェット(bb) + 見えない粒子×2」 (b) バックグラウンド事象の選定 (c) 物理事象の再構成 (d) 物理事象の選択 (e) バックグラウンド事象の除去 (a) シグナル事象 <hの崩壊> *反応断面積 崩壊比が1番大きい & b-タグが可能 *hの質量が134GeVでの崩壊比 *b-タグ : 崩壊点検出器(VTX)を用いて、 bクォークと他の軽いクォークを 11 識別する手法 解析の流れ: e+e-AHZH (a) シグナル事象の決定 : 終状態「2ジェット(bb) + 見えない粒子×2」 (b) バックグラウンド事象の選定 : 終状態「2ジェット(bb)を含む」 (c) 物理事象の再構成 (d) 物理事象の選択 (e) バックグラウンド事象の除去 シグナル事象 (b) バックグラウンド事象 *標準模型において 2ジェットとなる全ての過程を考慮 12 解析の流れ: e+e-AHZH (a) シグナル事象の決定 (b) バックグラウンド事象の選定 (c) 物理事象の再構成 (d) 物理事象の選択 (e) バックグラウンド事象の除去 シグナル事象 : 終状態「2ジェット(bb) + 見えない粒子×2」 : 終状態「2ジェット(bb)を含む」 : 2ジェットとして再構成 hとして再構成 (c) <ジェットの再構成の方法> (q<q0 の場合) q バックグラウンド事象 ja (q>q0 の場合) ja q jb jaとjb:同じジェット jb jaとjb:異なるジェット *q0の値を変えれば、nジェットとして再構成可能 <典型的なシグナル事象> 2ジェットとして再構成 13 解析の流れ: e+e-AHZH (a) シグナル事象の決定 (b) バックグラウンド事象の選定 (c) 物理事象の再構成 (d) 物理事象の選択 (e) バックグラウンド事象の除去 シグナル事象 : 終状態「2ジェット(bb) + 見えない粒子×2」 : 終状態「2ジェット(bb)を含む」 : 2ジェットとして再構成hとして再構成 : hの質量 & 横運動量欠損Ptmiss & b-タグ (d) <hの質量の選択> <Ptmissの選択> バックグラウンド事象 100(GeV)<mh<140(GeV) Ptmiss>80(GeV) *b-タグの選択では bクォークが80%残る 14 解析の流れ: e+e-AHZH (a) シグナル事象の決定 (b) バックグラウンド事象の選定 (c) 物理事象の再構成 (d) 物理事象の選択 (e) バックグラウンド事象の除去 シグナル事象 : : : : 終状態「2ジェット(bb) + 見えない粒子×2」 終状態「2ジェット(bb)を含む」 2ジェットとして再構成hとして再構成 hの質量 & 横運動量欠損Ptmiss & b-タグ (e) バックグラウンド事象のサンプルで差し引く バックグラウンド事象 *高統計のサンプルをスケールダウンすることで、 差し引くことによる誤差の増大を抑える 15 AHとZHの質量 <hのエネルギー分布> バ ッ ク グ ラ ウ ン ド の 除 去 <シグナル事象の統計の有意性> シグナル事象の数 バックグラウンド事象 の数 3.7s シグナル事象を示唆している エネルギー分布をフィットして 2つのエッジから質量を求める *2つのエッジと質量には 依存関係がある 16 2つのエッジと質量の関係式 : 2つのエッジを含む項 17 AHとZHの質量 <エネルギー分布のフィット関数> <hのエネルギー分布のフィット> 形の要素 フィット関数 エッジ (誤差関数の定義) <2つのエッジから求まる質量> mAH = 83.2 ±13.3 GeV mZH = 366.0±16.0 GeV *2つのエッジと質量には 依存関係がある <質量の測定精度> 16.2% 4.3% 18 s 1TeVでの物理 19 解析の流れ: e+e-WH+WH(a) シグナル事象の決定 : 終状態「4ジェット + 見えない粒子×2」 (b) バックグラウンド事象の選定 (c) 物理事象の再構成 (d) 物理事象の選択 (e) バックグラウンド事象の除去 シグナル事象 <W±の崩壊> *反応断面積 W+とW-の2つについて 崩壊比が1番大きい & 検出できない n を含まないので 運動力学から完全に再構成が可能 20 解析の流れ: e+e-WH+WH(a) シグナル事象の決定 : 終状態「4ジェット + 見えない粒子×2」 (b) バックグラウンド事象の選定 : 終状態「4ジェットを含む」 (c) 物理事象の再構成 (d) 物理事象の選択 (e) バックグラウンド事象の除去 シグナル事象 (b) バックグラウンド事象 *リトルヒッグス模型における過程 *標準模型において 4ジェットとなる全ての過程を考慮 21 解析の流れ: e+e-WH+WH(a) シグナル事象の決定 : 終状態「4ジェット + 見えない粒子×2」 (b) バックグラウンド事象の選定 : 終状態「4ジェットを含む」 (c) 物理事象の再構成 : 4ジェットとして再構成2個のW±として再構成 (d) 物理事象の選択 j1 j3 (c) <典型的なシグナル事象> (e) バックグラウンド事象の除去 シグナル事象 j2 j4 3通りの組合せ(4C2÷2) バックグラウンド事象 4ジェットとして再構成 <W±の再構成における指標 > mW=80.4 GeV (PDGでの値) *3通りの組合せの内、 cW2の1番小さいものを採用 22 解析の流れ: e+e-WH+WH(a) (b) (c) (d) (e) シグナル事象の決定 バックグラウンド事象の選定 物理事象の再構成 物理事象の選択 バックグラウンド事象の除去 シグナル事象 : : : : 終状態「4ジェット + 見えない粒子×2」 終状態「4ジェットを含む」 4ジェットとして再構成2個のW±として再構成 W±のエネルギー & cW2 & 横運動量欠損Ptmiss (d) <cW2の選択> <Ptmissの選択> バックグラウンド事象 cW2 < 26 Ptmiss>84(GeV) *W±のエネルギーの選択は 0(GeV)<EW<500(GeV) 23 AHとWH±の質量 <W±のエネルギー分布> バ ッ ク グ ラ ウ ン ド の 除 去 *2つのエッジと質量には 依存関係がある 24 2つのエッジと質量の関係式 : 2つのエッジを含む項 25 AHとWH±の質量 <W±のエネルギー分布> バ ッ ク グ ラ ウ ン ド の 除 去 <2つのエッジから求まる質量> mAH = 81.58±0.67 GeV mWH = 368.3±0.63 GeV <質量の測定精度> 0.8% 0.2% AHとWH±の質量が非常に高い精度で求められた!! 26 WH±のスピン <WH ±の生成角度の分布 > <スピン0の場合> (始状態) 1) e+e- : V,A 結合 & 軌道角運動量なし (全角運動量) (終状態) 2.1) X1,2 : スピン0 (スピン角運動量) 2.2) 全角運動量の保存 (軌道角運動量) WH±のスピン0ではない スピンの検証が可能 !! 27 W±の偏極 <q(q)の生成角度の分布> (始状態) 1) W± : 横波と縦波の偏極 (終状態) 2) qq : V-A結合 <横波の場合> (W±の静止系) <縦波の場合> W±の偏極は縦波優勢 偏極の検証が可能!! 28 WH±のSU(2)L荷・U(1)Y荷 <e+e-WH+WH-の反応断面積> (中間状態) 中性項の混合の式 高エネルギー反応では、 BとW3が伝播する 左巻き 右巻き 右巻き・左巻き 左巻き W3によるSU(2)L結合はするが、 BによるU(1)Y結合はしない WH±はSU(2)L荷を持ち・U(1)Y荷を持たない SU(2)L荷・U(1)Y荷の検証が可能 !! 29 考察 s 500GeVでの物理 と s 1TeVでの物理 30 模型のパラメータ f <質量の測定精度を表す等高線> s 500GeV s 1TeV mAH 0.2 g'f *fと質量には 依存関係がある mZ H gf <質量の測定精度から決まるfの値> f = 576.0 ±25.0 GeV f = 580.0 ±0.69 GeV s 500GeV s 1TeV mAH 0.2 g'f mWH gf <fの決定精度> 4.3% 0.1% s 500GeV s 1TeV 31 模型のパラメータ kl <klと反応断面積s> s 1TeV s 500GeV meH 2kl f *klとsには 依存関係がある <反応断面積の測定から決まるklの値> +0.047 kl = 0.5 -0.036 kl = 0.5 +0.0042 -0.0040 s 500GeV s 1TeV mn H 2kl f <klの決定精度> 9.5% 0.8% s 500GeV s 1TeV 32 暗黒物質(AH)の残存密度 Wh2 *Wh2とfには依存関係がある <Wh2の確率密度の分布> 暗黒物質の残存密度 暗黒物質の対消滅断面積 (*富山大 松本重貴 氏による) mAH∝f 暗黒物質(AH)の対消滅ダイアグラム <Ωh2の決定精度> O(10%) O(1%) s 500GeV s 1TeV 33 まとめ リトルヒッグス模型は リトル・ヒエラルキー問題と暗黒物質の問題を解決する新しい物理 ILC実験におけるシミュレーションで検証 <√s=500GeVでの物理 : e+e-AHZH> ・シグナル事象の統計の有意性 : 3.7s ・質量の測定精度 : 16.2%(AH), 4.3%(ZH) <√s=1TeVでの物理 : e+e-WH+WH-> ・質量の測定精度 : 0.8%(AH), 0.2%(WH±) ・WH±のスピン, W±の偏極, WH±のSU(2)L荷・U(1)Y荷について検証可能 <考察> ・模型パラメータの決定精度 f : 4.3% s 500GeV, 0.1% s 1TeV kl: 9.5% s 500GeV , 0.8% s 1TeV ・暗黒物質の残存密度の決定精度 : O(10%) s 500GeV , O(1%) s 1TeV 34 研究の成果 <論文の投稿> 論文の表紙 1/09 : arXiv hep-phに投稿 1/21 : Phys. Rev. Dに投稿 <ILC計画への寄与> 2/16~18 : ILD Workshop at Seoulにて発表 LOI (Letter Of Intent)に記載 プロット 6/8 を担当 35
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