数理論理学 第11回 茨城大学工学部情報工学科 佐々木 稔 前回までのあらすじ 述語論理の解釈 述語論理式の形成規則 述語論理式の解釈 述語論理の恒真式 配布資料は以下のURLからダウンロードできます http://sas.cis.ibaraki.ac.jp/logic/ 今週のお題 述語論理の解釈 量記号を含む述語論理式の性質 スコーレム標準形 束縛変数の付け替え 冠頭標準形 スコーレム関数 スコーレム標準形 量記号を含む述語論理式の性質 命題論理の性質は述語論理でも使える 論理式に任意の述語論理式を代入しても成立 量記号を使った場合にできる性質が存在 すべての第1階述語論理で成り立つ 論理式の記述は単項述語とする n 項述語でも成り立つ 述語論理式の性質1 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. ~∀xP(x) = ∃x~P(x) ~∃xP(x) = ∀x~P(x) ∀xP(x) ⇒ ∃xP(x) ∀xP(x)∧Q(y) = ∀x (P(x)∧Q(y)) ∃xP(x)∧Q(y) = ∃x (P(x)∧Q(y)) ∀xP(x)∨Q(y) = ∀x (P(x)∨Q(y)) ∃xP(x)∨Q(y) = ∃x (P(x)∨Q(y)) 述語論理式の性質2 8. ∀xP(x)∧∀xQ(x) = ∀x (P(x)∧Q(x)) 9. ∀xP(x)∨∀xQ(x) ⇒ ∀x (P(x)∨Q(x)) 10.∃xP(x)∨∃xQ(x) = ∃x (P(x)∨Q(x)) 11.∃x(P(x)∧Q(x)) ⇒ ∃xP(x)∧∃xQ(x) 12.P(x) が恒真 ⇔ ∀xP(x)が恒真 補足(述語論理式の性質) ∀xP(x)∨∀xQ(x) ⇒ ∀x (P(x)∨Q(x)) P(x) Q(x) ∀x (P(x)∨Q(x)) が真ならば、∀xP(x)は? 補足の続き(述語論理式の性質) ∀xP(x)∨∀xQ(x) ⇒ ∀x (P(x)∨Q(x)) P(x) Q(x) 重なった部分があるので等しくない 補足(述語論理式の性質) ∃x(P(x)∧Q(x)) ⇒ ∃xP(x)∧∃xQ(x) P(x) Q(x) スコープの違いで真偽値も異なる スコーレム標準形 述語論理による推論の難しさ 量記号の存在 量記号の混在した論理式の推論 量記号を全称記号に統一 スコーレム標準形 存在記号を除去して全称記号と連言で記述 束縛変数の付け替え 論理式 P 自由変数 x1, x2, ・・・, xn 全称閉形 ∀x1∀x2・・・∀xn P 存在閉形 ∃x1∃x2・・・∃xn P 束縛変数の付け替え P(x)⇒∃xQ(x) を全称閉形に変形する x を全称記号で束縛する ∀x(P(x)⇒∃xQ(x)) P(x) の x と ∃xQ(x) の x が区別できない ∃xQ(x) の x を y に付け替える ∀x(P(x)⇒∃yQ(y)) ∀xP の形となので全称閉形 冠頭標準形 変数の付け替えをした論理式 命題論理式、述語論理式の性質を使って変形 冠頭連言標準形 Qx1Qx2・・・Qxn P1∧P2∧・・・∧Pm Q は ∀、∃のどちらかの記号 Pk は論理式 冠頭選言標準形 Qx1Qx2・・・Qxn P1∨P2∨・・・∨Pm 冠頭標準形への変換方法 1. 量記号 Qx のスコープ内に x がなければ、 量記号を削除 2. ⇒、⇔記号を~、∨、∧記号で書き換える 3. ~記号を基本論理式の直前に移動 4. 量記号を左に移す スコープ、束縛変数の名前に注意 変数の数が少なくならないよう注意 ∀xP(x)∧∀xQ(x) = ∀x (P(x)∧Q(x)) 5. 分配律などで、選言または連言に統一 冠頭標準形への変換例 ∀x(∀y∀z(P(x, y)⇒Q(y, z)) ⇒∃y∀zR(y, z)) 1. ⇒記号の除去 ∀x(~∀y∀z(~P(x, y)∨Q(y, z))∨∃y∀zR(y, z)) 2. ~の移動 ∀x(∃y∃z(~~P(x, y)∧~Q(y, z))∨∃y∀zR(y, z)) 3. 変数の標準化 ∀x(∃y∃z(P(x, y)∧~Q(y, z))∨∃y∀wR(y, w)) 冠頭標準形への変換例 4. ∃y でくくる(量記号をまとめる) ∀x(∃y(∃z(P(x, y)∧~Q(y, z))∨∀wR(y, w))) 5. 量記号の移動 ∀x∃y∃z∀w((P(x, y)∧~Q(y, z))∨R(y, w)) 6. 分配律を使い、連言標準形にする ∀x∃y∃z∀w((P(x, y)∨R(y, w)) ∧(~Q(y, z)∨R(y, w))) スコーレム関数 存在記号を取り除く 論理式は同値ではなくなる 真偽は等しい なぜ書き換えるのか 論理式の恒真性を証明するため スコーレム関数 ∀x∃y(P(x)⇒Q(x,f(y))) 任意のxで P(x)⇒Q(x,f(y)) を満たすyが存在 x x の定義域 y どんな x を与えても、 y の値が存在する 関数として記述可能 y g x スコーレム関数 存在記号で束縛された変数 y それより左の全称記号で束縛された変数の関数 ∀x1∀x2・・・∀xn∃yP(x1, x2,・・・, xn, y) y = f(x1, x2,・・・, xn) と置いて ∀x1∀x2・・・∀xnP(x1, x2,・・・, xn, f(x1, x2,・・・, xn)) 存在記号の左に全称記号がなければ定数 ∃wP(w) P(a) スコーレム関数の例 ∃y∀zP(y, z)∧∀x∃wQ(x, w) y = a とおいて ∀zP(a, z) w = f(x) とおいて ∀xQ(x, f(x)) したがって、 ∀zP(a, z)∧∀xQ(x, f(x)) ∀x∀z(P(a, z)∧Q(x, f(x))) スコーレム標準形 スコーレム標準形 存在記号を除去した冠頭連言標準形 節の連言から成る 節集合 スコーレム標準形に含まれるすべての節の集合 ∀x1∀x2・・・∀xn P1∧P2∧・・・∧Pm 節集合 {P1, P2, ・・・, Pm} スコーレム標準形への変換方法 1. 量記号のスコープ内に束縛変数がなければ、 量記号を削除 2. ⇒、⇔記号を~、∨、∧記号で書き換える 3. ~記号を基本論理式の直前に移動 4. 束縛変数の付け替え 5. スコーレム関数を導入し、存在記号を除去 6. 全称記号を左に移す 7. 分配律などで、連言に統一 スコーレム標準形への変換例 ∀x(∃y(P(x, y)⇒∀zQ(y, z))⇒∀y∃zR(y, z)) 1. ⇒記号の除去 ∀x(~∃y(~P(x, y)∨∀zQ(y, z))∨∀y∃zR(y, z)) 2. ~を内側に移動 ∀x(∀y(~~P(x, y)∧~∀zQ(y, z))∨∀y∃zR(y, z)) 3. ~を内側に移動 ∀x(∀y(P(x, y)∧∃z~Q(y, z))∨∀y∃zR(y, z)) 4. 変数の標準化 ∀x(∀y(P(x, y)∧∃z~Q(y, z))∨∀u∃vR(u, v)) スコーレム標準形への変換例 5. スコーレム関数 ∀x(∀y(P(x,y)∧~Q(y,f(x,y)))∨∀uR(u,g(x,u))) 6. 冠頭形に変換 ∀x∀y∀u(P(x,y)∧~Q(y,f(x,y))∨R(u,g(x,u))) 7. 連言冠頭形に変換 ∀x∀y∀u((P(x, y)∨R(u, g(x, u))) ∧(~Q(y,f(x,y))∨R(u,g(x,u)))) 8. 節集合を取り出す {P(x, y)∨R(u, g(x, u)), ~Q(y,f(x, y))∨R(u, g(x, u))} 導出とは 肯定式 P⇒Q P Q もしくは、 ~P ∨ Q P Q 導出 否定式1 P⇒Q ~Q ~P もしくは、 ~P ∨ Q ~Q ~P 導出 否定式2 P∨Q ~P Q 導出 否定式3 P Q P ~Q もしくは、 (P ∨ Q)∧(~P ∨ ~Q) P ~Q 導出 三段論法 P⇒Q Q⇒R P⇒R もしくは、 ~P ∨ Q ~Q ∨ R ~P ∨ R 導出 三段論法 P⇒Q R ⇒ ~Q P ⇒ ~R もしくは、 ~P ∨ Q ~R ∨ ~Q ~P ∨ ~R 導出 推論規則の法則 ある述語の正のリテラルを含む選言式 その述語の負のリテラルを含む選言式 以上の2つの選言式から その述語を削除した選言式を導くことができる p∨Q ~p ∨ R Q∨R 導出節 反駁導出 論理式 P P = P1∧P2∧・・・∧Pm 論理式 P から、ある論理式 Q が導ける P1∧P2∧・・・∧Pm ⇒ Q 背理法より、下の論理式が恒偽なのと同値 P1∧P2∧・・・∧Pm∧~Q 次の節形式が矛盾することでQの証明が可能 {P1, P2, ・・・, Pm , ~Q} 反駁導出による証明方法 節形式から以下の2つの節を取り出す { ・・・, p ∨ Q, ~p ∨ R, ・・・} 導出した新しい節を節形式に加える { ・・・, Q ∨ R, ・・・} 2つの節が同一述語で正負のリテラルの場合、 { ・・・, p, ~p, ・・・} 導出により、何も残らない(空節) { ・・・, □, ・・・} 反駁導出による証明方法 反駁木 導出過程を木構造で表現 節集合 {A(a), ~A(y)∨B(a), ~B(x)∨C(x)} ∃xC(x) を証明 便宜上、x, y はすべて a と置き換える 以下の節集合を反駁導出により証明 {A(a), ~A(a)∨B(a), ~B(a)∨C(a), ~C(a)} 反駁導出による証明方法 A(a) ~A(a)∨B(a) B(a) ~B(a)∨C(a) C(a) ~C(a) □ 矛盾するため、 ∃xC(x) は成り立つ (証明終わり)
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