要注意と言われたら

気になる脈のみだれ
あおば循環器内科クリニック
院長 木村俊昭
参考文献
不整脈の正しい知識
五十嵐正男著
南江堂
心臓ペースメーカーの理解と生活 横山正義著
文光堂
循環器疾患最新の治療2000-2001 篠山重威、矢崎義雄編 南江堂
心臓・血管病変アトラス
山科章、石丸新、山口徹監修
トーアエーヨー
開業医のための循環器クリニック 五十嵐正男著
医学書院
Ⅰ.心臓の働き
身体の細胞に酸素や栄養を補給し、組織の老廃
物を運び去るために血液循環が続いている。この
原動力としてのポンプの役目を担っているのが心
臓である。
心臓はポンプとして働く
1回拍出量= 70㎖
心拍出量 = 70㎖×70
= 4900㎖
= 5ℓ
血圧
120㎜Hg
これは、ドラム缶50本分の血液を
24時間かけて1.6mの棚に持ち上げる
のに相当する
Ⅱ.脈の作られるしくみ
心臓では自然に電気が発生し、電流として
決まった道筋を流れる。心臓の筋肉(心筋)に
電気が流れると、心筋は収縮して心臓から
血液が送り出される。この拍動を脈という。
刺激伝導系
胸部の臓器
心臓
刺激伝導系
刺激伝導系
電気的に絶縁
洞結節→房室結節→ヒス束
→左右の脚→プルキンエ線維
もしも洞結節から刺激が出なくなったら?
房室結節で刺激が発生する(50拍/分)
心室で刺激が発生する(30〜40拍/分)
心臓が止まらないように保護回路がある
Ⅲ.不整脈とは
刺激伝導系が正常に働かず脈が乱れた状態
→心臓の機能的な異常
正常心臓にみられる不整脈
ほとんどの不整脈
病的心臓にみられる不整脈
(心筋梗塞、心筋症)
生命に関わる不整脈のことも
不整脈が疑われたら
まず専門医の診断をうけてください
•どのような不整脈か
•心臓に異常がないか
Ⅳ.不整脈の種類
①期外収縮
②頻脈性不整脈
③徐脈性不整脈
④致死的不整脈
Ⅳ-① 期外収縮
正常
期外収縮
•洞結節以外から電気刺激が早期に発生してドキンとする
•とても不愉快な感じ
•多くの人に見られるが、大抵は治療の必要はない
Ⅳ-② 頻脈性不整脈
正常
発作性頻拍症
心房細動
•脈が速くなり、ドキドキして不安になりやすい
•発作性頻拍症、心房細動、心房粗動など
•生命の危険は少ないが脳塞栓との関連がある
Ⅳ-③ 徐脈性不整脈
正常
洞不全症候群
房室ブロック
•いつも、または突然脈が遅くなる
•めまいや気の遠くなる感じがある
•洞不全症候群や房室ブロックがある
•生命の危険がありペースメーカーが必要なこともある
Ⅳ-④ 致死的不整脈
正常
心室頻拍
•心室から発生するとても速い異常電流により起こる
•血液が送られなくなり、放っておくと死に至ることもある
•心室頻拍や心室細動がある
•正常な心臓から発生することはない
Ⅴ.不整脈の症状
①期外収縮
ドキンと1回
安静時や夜間に多い
②頻脈性
とても不安になる
動悸が持続する
体を動かすと動悸が悪化する
立ちくらみ、めまい、胸痛が起こる
非常に不安になる
③徐脈性
ほとんど無症状
時にふらつき、めまい
④致死的不整脈
失神発作
突然の胸苦、失神
できるだけ早く除細動する
無症状の方が危険
Ⅵ.不整脈での検査
心電図
不整脈の診断に不可欠
胸部レントゲン写真
心臓の器質的病気を診断
心エコー
心臓の器質的病気を診断
ホルター心電図
電気生理学的検査(EPS)
発作性や運動時の不整脈を診断
電気刺激で不整脈を誘発して
治療方法を検討する
心電図
胸部レントゲン写真
心エコー
ホルター心電図
電気生理学的検査(EPS)
正常洞調律
心房細動
心室性期外収縮
心臓の状態を調べる
心電図
正常
胸部レントゲン写真
心エコー
ホルター心電図
電気生理学的検査(EPS)
心不全
心拡大がみられる
心電図
胸部レントゲン写真
心エコー
ホルター心電図
電気生理学的検査(EPS)
心臓の形態や機能を調べる
心電図
胸部レントゲン写真
心エコー
ホルター心電図
電気生理学的検査(EPS)
•不整脈の種類・頻度・出現条件 な
どを調べる
•不整脈診断では最も大切な検査
ホルター心電計
ホルター心電計の装着
解析装置
圧縮心電図
心電図
胸部レントゲン写真
心エコー
ホルター心電図
電気生理学的検査
•電極付きカテーテルを心臓に入れ
電気刺激を与えて不整脈を誘発さ
せる
•薬剤効果の判定
•アブレーションにより異常伝導路を
断ち切る
心臓の中からの心電図を記録
して、電気的刺激がどのように
伝わっているかを知る
Ⅶ.代表的な不整脈
①期外収縮
②発作性頻拍症
③心房細動
④心室頻拍症
⑤洞不全症候群
⑥房室ブロック
Ⅶ-① 期外収縮
予定より早期に一度収縮が起こるもの
正常
期外収縮
⒝ 心房性期外収縮
⒜ 心室性期外収縮
Ⅶ-①- ⒜ 心室性期外収縮
<特徴>
•夜間など安静時に多い
•突然「ドキン」として胸さわぎを感じる
•とても不安になる
•一番よく見られる不整脈
•大抵は心配ない
Ⅶ-①- ⒜ 心室性期外収縮
<血行動態>
•心室に血液が充満する前に次の収縮がおこる
(一回だけ空回りする)
•脈が欠けてしまう(欠脈)
•次の拍動が大きく感じる
•まれに心室頻拍をひき起こす
Ⅶ-①- ⒜ 心室性期外収縮
心室性期外収縮 心室頻拍
↓
↓
Ⅶ-①- ⒜ 心室性期外収縮
<原因・誘因>
•多くの場合、原因は分からない
•正常心臓
精神的ストレス、喫煙、アルコール、不眠が誘因
•病的心臓
拡張末期圧の上昇(心不全)
狭心症、心筋梗塞、心筋症
•薬剤性
ジギタリスなど
Ⅶ-①- ⒜ 心室性期外収縮
<Lown分類>
•第1群 散発性で、1時間に30個未満
•第2群 多発性で、1時間に30個以上、または1分間1個以上
•第3群 多発性で、2種類以上の形があるもの
•第4群 連発性で、A:2連発
B:3連発以上
•第5群 R on T型
Ⅶ-①- ⒜ 心室性期外収縮
<正常な心臓にみられるもの>
35〜40歳 20%
55〜60歳 62%
60〜65歳 81%
•高頻度でみられる
•心臓が止まることはない
•原則として治療は要らない
Ⅶ-①- ⒜ 心室性期外収縮
<病的な心臓にみられるもの>
•心筋梗塞や特発性心筋症
•危険な不整脈を誘発しやすい
•抗不整脈薬を服用
•専門医が治療に当たるべき
Ⅶ-①- ⒝ 心房性期外収縮
<特徴>
•心房から発生する期外収縮
•高齢者に多い
•強い動悸
•正常の心臓では心配ない
•数が多いと心房細動に移行しやすい
•原則として放置してよい
Ⅶ-① 期外収縮
<治療法>
<心臓の正常な人>
•治療の要らない無害なもの
•自覚症状の強い人には安定剤
または抗不整脈剤を少な目に
•70点を目標に
•副作用に注意して
Ⅶ-① 期外収縮
<治療法>
<心臓の悪い人>
•抗不整脈剤を投与
•多剤併用も行って期外収縮の減少を目指す
•副作用に注意して
Ⅶ-② 発作性頻拍症
突然に脈が速くなるもの
正常
発作性頻拍症
心房細動
心房に原因:発作性上室性頻拍症、心房細動、心房粗動など
心室に原因:心室性頻拍症
Ⅶ-②‘ 発作性上室性頻拍症
<症状>
•突然に心臓がドキドキして真っ青になりうずくまる
•脈が毎分180回くらいになる
•脈は規則正しい
•死ぬのではないかと不安になるが死ぬことはない
•数秒から約1日持続する
•突然不整脈が止まり、楽になる
Ⅶ-②‘ 発作性上室性頻拍症
<原因>
•心臓にある刺激伝導系
は1つである
•時に側副伝導路(バイ
パス)をもつ人がいる
•この側副伝導を通って
電気が回旋する
•1回の回旋で心臓が1回
収縮する
Ⅶ-②‘ 発作性
上室性頻拍症
<対処法>
•右記対処をする
•だめなら医師のもとへ
•薬剤カクテルの頓服
Ⅶ-②‘ 発作性上室性頻拍症
<薬剤カクテル療法>
•プロプラノロール(インデラル)
•ジソピラミド(リスモダン)
•ベラパミル(ワソラン)
これらを一度にまとめて服用すること
大変有効な方法
Ⅶ-②‘ 発作性上室性頻拍症
<電気的焼灼術(アブレーション)>
高周波電流を用いて側副伝導路を焼き切
る方法(後述)
Ⅶ-②‘ (付)WPW症候群
<名前の由来>
Wolff,Parkinson,White
<特徴>
•心電図にデルタ波(Δ波)と呼ばれる特殊な波があらわれる
•時々発作性頻拍症が起こる
•発作性心房細動がでると生命の危険がある
正常心電図
WPW症候群
Δ波
Ⅶ-②‘ (付)WPW症候群
<原因>
ケント束とよばれる側副伝導路による
<治療>
頻拍発作を繰り返すときは薬物療
法、またはアブレーション
Ⅶ-③ 心房細動
心房の各部位が部分的に不規則に収縮し
脈が全く不規則になるもの
正常
心房細動
高齢者に多く
心機能低下を伴う
Ⅶ-③ 心房細動
<影響>
•心機能低下を伴い激しい運動ができなくなる
•頻脈になりやすい
•血栓ができやすく脳塞栓の原因となる
Ⅶ-③ 心房細動
<原因>
•老化に伴う心房筋の線維化
•僧帽弁狭窄症や甲状腺機能亢進症
•孤立性心房細動---若い人にみられ顕微鏡的な病変による
Ⅶ-③ 心房細動
<治療法>
•新鮮なもの:薬物や電気的除細動器によって洞調律へ
•旧いもの :頻脈にならないような管理(薬剤)
•血栓を防ぐ目的で抗凝固療法(ワーファリン、アスピリン)
•基礎疾患の治療(弁膜症、甲状腺機能亢進症)
Ⅶ-④ 心室頻拍症
心室から発生する異常電流により突然脈が速くなるもの
正常
心室頻拍
•正常な心臓には起こらない
•心室細動まで進行する危険が大きい
Ⅶ-④ 心室頻拍症
<症状と診断>
•動悸や胸痛(発作性上室性頻拍症と同じ)
•心機能の悪い人に多くショックにまで進行する
•心電図で診断する
Ⅶ-④ 心室頻拍症
ホルター心電図
心電図
Ⅶ-④ 心室頻拍症
<分類>
•ショートラン型
•持続型
<原因>
•特発性心筋症(特に拡張型心筋症)
•心筋梗塞
心筋に病的変化があり心不全を伴う
Ⅶ-④ 心室頻拍症
<治療法>
Yes
ショック
No
薬物療法
電気的除細動
Yes
薬物療法・EPS
アブレーション
植込み型除細動器
再発
No
薬物療法
Ⅶ-⑤ 洞不全症候群
洞結節からの刺激発生が非常に遅いもの
洞結節からの刺激発生がときどき停止するもの
正常
洞不全症候群
Ⅶ-⑤ 洞不全症候群
<原因>
•高齢者に多い
•洞結節や周囲の組織の老化現象による
Ⅶ-⑤ 洞不全症候群
①
②
③
<分類>
①心拍が非常に遅いもの
②心拍が突然停止するもの
③頻脈の直後に長い心停止を来すもの
Ⅶ-⑤ 洞不全症候群
<症状>
①徐脈 :だるい、易疲労感
②洞停止 :めまい、失神
③徐脈頻脈:動悸⇄意識障害
<診断>
①心電図
②ホルター心電図
③電気生理学的検査
Ⅶ-⑤ 洞不全症候群
<治療>
人工ペースメーカー
Ⅶ-⑥ 房室ブロック
房室結節から心筋までの間(房室時間)で刺激の
通過が遅れたり通過できなかったりするためにお
こる
正常
房室ブロック
Ⅶ-⑥ 房室ブロック
<特徴>
•洞結節は正常、房室結節以下が異常
•刺激が時々伝わらなかったり、全く伝わらなかったりする
Ⅶ-⑥ 房室ブロック
<原因>
•刺激伝導系の退行変性や線維化
•大動脈弁狭窄症によるカルシウムの沈着
•先天性
Ⅶ-⑥ 房室ブロック
<分類>
•1度:心房から心室までの刺激伝導時間(房室時間)が長い
•2度 ウェンケバッハ型:房室時間が徐々に延びて、ついに1回抜ける
モービッツ型 :突然房室刺激伝導が途切れ、心停止する
•3度(完全):房室伝導が全くつながらない
<診断>
①心電図やホルター心電図を
繰り返し行う
②電気生理学的検査
Ⅶ-⑥ 房室ブロック
1度
ウェンケバッハ型
モービッツ型
3度(完全)
Ⅶ-⑥ 房室ブロック
<症状と治療>
•1度:無症状→治療不要
•2度 ウェンケバッハ型:無症状→治療不要
モービッツ型 :意識障害、死亡
→ペースメーカー植え込み術
•3度(完全) :易疲労感→ペースメーカー植え込み術
Ⅷ.不整脈の治療法
①薬物療法(抗不整脈剤)
②ペースメーカー植え込み術
③アブレーション(電気的焼灼術)
Ⅷ-① 薬物療法
すべての不整脈に治療するわけではない
ほとんどの不整脈は治療の要らないもの
治療する場合
•重症の不整脈(緊急性あり)
•心機能低下があり、不整脈のため状態が悪化する場合
(基礎疾患とともに治療)
•自覚症状が強く、日常生活に支障を来す場合
薬剤の選択
⑴抗不整脈薬は非常に切れ味がよい
⑵ただし多くの副作用があり、薬に熟知した医師が 慎
重に投与すべきである
抗不整脈薬の分類
•Vaugham-Williams分類
•Sicilian-Gambit分類
抗不整脈薬のメリット、デメリットを十分検
討して投薬すべき
Vaugham-Williams分類(抜粋)
Sicilian-Gambit分類(1)
Sicilian-Gambit分類(2)
抗不整脈薬のメリット、デメリットを十分検
討して投薬すべき
信頼の置ける医師に相談
Ⅷ-② ペースメーカー植え込み術
洞不全症候群や房室ブロックなどの徐脈性不
整脈に対して行われる手術のこと
厚さ5mm、長さ5cmく
らいのジェネレー
ターを胸壁の皮下へ
埋め込み、これに接
続した電極を鎖骨下
静脈をとおして右心
房や右心室に埋め
込む
右鎖骨下に植え込んだところ
左鎖骨下に植え込んだところ
リード先端の形状
リードの固定
リード1本
リード2本
リード走行の様子
心房電極
心室電極
ペーシングモード
Ⅷ-③ カテーテルアブレーション
(電気的焼灼術)
高周波電流の熱を利用して、心腔内に挿入したカ
テーテル電極により心筋の一部を焼灼し、頻脈不
整脈の原因となる心筋組織を破壊する方法
<適応>
頻脈性不整脈
(回帰性頻拍症、心房粗動など)
電気生理学的検査によりマッピングを行い、
アブレーションの部位を検索する
目的の部位にアブレーションカ
テーテルをすすめ、高周波電流
を通電して心筋組織を焼灼する
Ⅷ-附1 電気的除細動器(DC)
緊急を要する致
死的不整脈や薬
剤抵抗性の不整
脈を停止させる
ために用いる除
細動装置。
意識のないこと
が原則である。
Ⅷ-附2 植込み型除細動器(ICD)
治療抵抗性の致死的不整脈に対しては電気的除
細動(DC)が唯一の救命手段である。電気的除細動
器を体内植込み型にしたものが植込み型除細動器
(ICD)である。
Ⅷ-附2 植込み型除細動器(ICD)
<適応>
他の方法では救命し得ない心室頻
拍または心室細動
<問題点と将来の展望>
歴史が浅く種々の合併症がある
適応症例の徹底と症例の蓄積
機器の改良と高性能化
不整脈が疑われたら
くよくよ悩まずに
まず専門医の診断をうけてください
多くの不整脈は
治療の要らない安全なものです