史学講義8 近代世界システム2 第2回 上田信(立教大学) 序章(2) 「近代世界システム」とは何か 前回の補足:交易の類型 1.略奪 2.互酬 3.貢納 4.集中と分配 5.市場 1.「近代世界システム論」前史 史的唯物論 歴史理論の流れ • • • • • マルクスの史的唯物論(唯物史観) ウェーバーのエートス論 アミンやフランクの従属理論 ウォーラーステインの近代世界システム論 上田信の史的システム論 マルクスの史的唯物論(1) • • • • • • 労働という側面から、歴史を見る。 人は生きるために、生産する。 人は生産するために、社会的な関係を結ぶ。 生産力は、向上してきた。 生産力の向上→生産関係も変化。 ここでのキーワード 生産関係 マルクスの史的唯物論(2) • 直接生産する人と、生産する人を管理する人 生産の道具を使う人と、道具を保有する人 などに社会集団が分化する→階級 • 生産者をコントロールする集団=支配階級 • ここでのキーワード 階級 マルクスの史的唯物論(3) • 支配階級は生産者から必要とする生産物を 獲得する。 • 剰余労働の搾取。 • ここでのキーワード 搾取 マルクスの史的唯物論(4) • 支配階級にとって都合の良い生産関係を支 えるために、制度や法律などが作られる。 • 支配階級の搾取を覆い隠すために、思想や 宗教などが生まれる。 • 生産様式=上部構造=制度・法律・思想など • 下部構造=生産力、生産関係や階級 • ここでのキーワード 上部構造 マルクスの史的唯物論(5) • 支配階級のための権力機構が、国家。 • 国家=支配階級が、自らの好ましい生産関 係を維持するように運営される。 • ここでのキーワード 国家 マルクスの史的唯物論(6) • 生産様式は、いったんできると、なかなか変 化しない。 • 生産力は、しだいに向上する。 • 新しい生産力に応じた生産関係が生まれる。 • 新しい支配的な階級が成立。 • いつか、古い生産様式が足かせとなる。 生産様式 生産力 マルクスの史的唯物論(7) • 新たに生まれた支配的な階級が、古い支配 階級のために作られた国家・制度・思想など の生産様式を破壊して、支配階級となる。 • 新しい支配階級のための、新しい国家・制度 ・思想などが生産様式として確立する。 • 革命 生産様式 生産力 マルクスの史的唯物論(8) • 社会の発展は、段階的。=発展段階論 • 原始共同体=支配階級は確立していない。 • アジア的生産様式=古代オリエントの専制国 家に典型的に発達した。首長が部族共同体 的諸関係をそのまま搾取の手段とし、土地は もとより成員の人格をも所有し、すべての剰 余労働を取得する。 • 古代奴隷制=奴隷(生産者)と奴隷主(支配 階級) マルクスの史的唯物論(9) • 封建制=農奴(生産者)と領主(支配階級) • 資本主義=労働者(生産者)と資本家(支配 階級) • 社会主義=労働者が支配階級となる。 剰余労働の搾取はなくなる。分配は労働に応 じてなされる。 • 共産主義=とても豊かになるので、分配は必 要に応じてなされる。 発展段階論 • • • • 古代=奴隷制 中世=封建制 近代=資本主義 未来=社会主義と共産主義 史的唯物論の問題点 • 近代の国を単位として考える。 • どの発展段階に位置するか、という視点で考 える。 • ある国のある時代について、ヨーロッパ(特に イギリス)を基準として、遅れているか、進ん でいるか、という議論となる。 中国史の場合 • 中国の時代区分をめぐる論争 • 京都では、宋代から近代という意見。 • 東京では、宋代は中世という意見。 2.「近代世界システム論」前史 従属理論 第三世界からの疑問 • 史的唯物論で遅れた段階の「国家」が、豊か になるには、どうすればよいのか。 • 20世紀前半の見通し=国内の富裕層に対 する「革命」を起こし、社会主義を実現する。 • アフリカなどに社会主義的な政権が生まれた が、貧困は解決されない。 なぜ? 従属理論の登場 • 1970年代:国際従属理論 – 貧しい国の開発が進まない原因=先進国 への従属・支配関係に巻き込まれている。 – 貧しい国は、発展段階が遅れているので はない。 – 貧しい国は、開発されていない、のではな い。 – 「低」開発 代表的な提唱者 • アンドレ・グンダー・フランク=代表的な論者 がドイツ出身の経済学者 『従属的蓄積と低開発』 吾郷健二訳: 岩波 書店 , 1980年 近著:『リオリエント : アジア時代のグローバ ル・エコノミー』 山下範久訳、藤原書店 2000 →これは、ウォーラーステインに対する反論 代表的な論者 • サミール・アミン= エジプトの経済学者 • 『世界資本蓄積論』 野口祐 [ほか] 訳||柘植書 房 , 1979.3 中心と周辺(周縁) • 資本主義経済は、経済の中心の国々と周辺 の国々を生み出す。 • 中心の国々は、自分たちの経済発展に都合 の良いように、周辺の国々の構造を造り替え ようとする。 • 効率的な原料供給の仕組み • 安い労働力を維持する仕組み • 中心にとって都合の良い形に「開発」される。 3.世界システム論 世界システム論のポイント① • 中心=周縁の外側に、外部 • 中心は周縁を自らの都合の良い形に造り変 えながら、その外側の外部をしだいに取り込 んでゆく。 世界システム論のポイント② • 百数十年を単位とする、長期的な景気変動 があった。 世界システム論のポイント③ • 世界経済と世界帝国とを区分する • 世界システムの形態 (1)世界帝国=全体が政治的に統合される (2)世界経済=政治的統合を欠いたグローバル な分業体制 ウォーラーステイの著作①-1 • 『近代世界システム:農業資本主義と「ヨーロ ッパ世界経済の成立』川北稔:訳、岩波書店 、1981年 はじめに 社会変動研究のために 1、近代への序曲 2、新たなヨーロッパ分業体制の確立 ~1450年頃から1640年頃まで~ 3、絶対王政と国際機構の強化 ウォーラーステイの著作①-2 4、セビーリャからアムステルダムへ ~帝国の挫折~ 5、強大な中核諸国家 ~階級形成と国際商業~ 6、「ヨーロッパ世界経済」 ~辺境と外部世界~ 7、理論的総括 ウォーラーステイの著作②-1 • 『近代世界システム:1600-1750,重商主義と「ヨ ーロッパ世界経済」の凝集』川北稔:訳、 名古屋大学出版会、1993年 序章 「17世紀の危機」は実在したか 1、収縮(B)局面 2、「世界経済」におけるオランダのヘゲモニー 3、中核における抗争 ~第1の局面:1651年~1689年 ウォーラーステイの著作②-2 4、低成長期における周辺諸地域 5、岐路に立つ半辺境 6、中核地域における抗争 ~第2の局面:1689~1763年まで~ ウォーラーステイの著作③-1 • 『近代世界システム:1730-1840s,大西洋革命 の時代』川北稔:訳、 名古屋大学出版会、1997年 1、工業とブルジョワ 2、中核部における抗争の第3局面 ~1763年から1815年まで~ 3、広大な新地域の「世界経済」への組み込み ~1750年から1850年まで~ ウォーラーステイの著作③-2 4、南北アメリカにおける定住植民地の解放 ~1763年から1833年まで~ リアクションペーパーから 人間の生態系破壊 • 授業の冒頭にあった「人間の生態系破壊」に ついて、なぜ「破壊」という言葉が使われるの か、疑問に思います。---人間が生命を維持す るため、生活を充実させるために自然を利用 することにマイナス・イメージが持たれている 気がします。人間以外の動物が木を倒したり 、草を減らしたりしても、そのようなことは叫ば れません。ある意味で「人間至上主義」的思 想なのではないでしょうか。 生態系と人間 • 人間は生態環境のまとまりを越えて物質のや りとりをする性質があるということでしたが、 人間はそうした性質を持ちつつも、まとまった 生態系がないと生きていけないので(というの も自然を破壊しすぎて自ら文明を破壊した古 代の国があると聞きましたので)、難しい生き 物だな、と思います。 文化とは何か • 私の文化の定義はこうです。「いま、ここ、と いうものに安住するのを否定すること」。---さ まざまな矛盾・怒り・悲しみ・喜びなどから湧 き出る試行錯誤から文化は生まれるのだと思 います。常に文化は流動的なモノだと言うこと が、今回の講義を通じて再確認することでき ればいいと思います。 生態系と人間との関係 • 生態系と人間との関係を考えて思ったことと しては、一方的な利益をあげることで、生態 環境が狂ってしまい、何らかの負の要素が興 ると言うことに対し、最近、北海道の大雪山系 で起きたことにも当てはまるのか、という疑問 があった。 • クマが増えたため、キタキツネ・エゾタヌキ などが増え、水の中にエキノコックスが含ま れ、井戸水が飲めなくなった。 • こういった事象も、文化と文明について関係 はあるのだろうか。 雑草は生かさず殺さず • 講義の中の「文化」の定義にあわせるならば 、「雑草は生かさず殺さず」のことばが、私が 聴いた中で一番近いと思う。農家をしていた 祖母が、むかし、よく言っていた。取りすぎる と見栄えが悪いという面もあるのかもしれな いが、案外に深い意味があったのかもしれな い。 宝物 • 子どもは別に希少価値のないモノも集めるが 、それは自分たちの中で魅力のあるモノを集 めているという点で、「宝物を集めている」と 理解しても良いのでしょうか? 第1章 モノから見た東ユーラシア • • • • 第3回 第4回 第5回 第6回 ①銀と生糸をめぐる交易史 ②砂糖めぐる交易史 ③茶をめぐる交易史 ④綿布をめぐる交易史 第2章 東ユーラシア列伝 • • • • • • 第7回 ①鄭和 第8回 ②鄭成功 第9回 ③新井白石 第10回④ジャーディン=マセソン 第11回⑤李鴻章 第12回⑥毛沢東 終章 今を考える • 第13回 今を考える 評価方法 • 授業への参画度---主にリアクションペーパー • 毎回のリアクションペーパーに評価 S(10)、A(8)、B(7)、C(6)、D(5)、×(0) その総計を 「x」 とする。 最終レポートの評価 「y」 成績=√xy つまりxyが3600点以上だと合格 受講者へのメッセージ • • • • http://blog.goo.ne.jp/east-eurasia/ 上田が主催するブログ。 大学院生の書き込みがあります。 この授業に関連する情報も、掲載中。 受講者へのメッセージ② • 各講義のなかで興味を持った事柄について、 図書館で調べてください。 5.参考書 テキスト • 上田信『海と帝国』講談社、2005年、\2,600。 • 海と帝国 • この講義の時代背景 を知るために、参考 にしてください。
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