最近の成層圏突然昇温 - IUGONET

2010年8月17日 IUGONET中間報告会
成層圏突然昇温の長期変動
冨川喜弘(国立極地研究所、総合研究大学院大学)
成層圏・中間圏のclimatology
80km
50km
30km
0km
夏半球
冬半球
CIRA86による1月の帯状平均気温(カラー)、及び東西風(等値線)の緯度高度断面
[Tomikawa et al., JGR, 2008]
成層圏突然昇温(Stratospheric Sudden Warming)
•冬半球成層圏の強い西風(極夜ジェット)が弱まり、または逆
転し、冬極成層圏の気温が急上昇する現象
•時間スケールは数日程度
•Scherhag [1952]による発見、
当時はベルリン現象と呼ばれていた
•波動平均流相互作用に基づく
約60℃
メカニズムの説明[Matsuno, 1971]
•歴史的経緯は廣田[2003]参照
O’Neill [2003]
成層圏突然昇温の種類
• 大昇温(Major (Midwinter) Warming)
60N,10hPaの帯状平均東西風が西向きになり、90Nの気温が
60Nよりも高くなる(南半球ではほとんど発生しない)
• 小昇温(Minor Warming)
大昇温の基準を満たさない昇温
• 最終昇温(Final Warming)
MaW
CW
FW
MiW
冬の西風から夏の東風へ移行する際の昇温
• カナダ昇温(Canadian Warming)
初冬にアリューシャン高気圧の増幅に伴って発生する昇温
成層圏突然昇温のメカニズム
Matsuno [1971]
プラネタリ波砕波による平均流加速
∇・Fに対する非定常応答
子午面循環を駆動
+
東西平均流を減速
z
降温
小昇温
高度30~50km
  Fを両方に配分
降温
U
1
*
 f 0v 
F  X
t
0
東西風の運動方程式( QG版)
赤道
プラネタリ波
大昇温
北極
y
大昇温カレンダー
11
12
1
2
11
3
[冨川, MTIハンドブック, 2010]
12
1
2
89/90
90/91
91/92
92/93
93/94
94/95
95/96
96/97
97/98
78/79
79/80
80/81
81/82
82/83
83/84
84/85
85/86
86/87
87/88
88/89
赤が大昇温のあった月
9回(8年)/11年
11
3
0回(0年)/9年
過去32年間で23回(19年)の大昇温が発生
12
1
2
98/99
99/00
00/01
01/02
02/03
03/04
04/05
05/06
06/07
07/08
08/09
09/10
14回(11年)/12年
内訳:11月:0回、12月:4回、1月:6回、2月:9回、3月:4回
Charlton & Polvani [2007]の結果を合わせると、34回(27年)/53年
3
成層圏突然昇温の長期変動に関連しそうな現象
• 北極振動(北半球環状モード)
• 準二年周期振動(QBO)
• 太陽活動
• ブロッキング高気圧
北極振動(北半球環状モード)
Thompson & Wallace [1998]
北極域と中緯度域との間の海面気圧のシーソーを北極振動
(Arctic Oscillation)と命名
Baldwin & Dunkerton [1999, 2001]
北極振動のシグナルが成層圏から対流圏へ下方伝播するこ
とを示す
成層圏突然昇温は北極振動の負の位相に相当
大昇温
大昇温
北極振動の長期変動
80年代後半から90年代前半にかけて正のAO indexが卓越
⇒成層圏の強い極渦
⇒成層圏突然昇温の発生しない時期と大体一致
北極振動は現象を記述して
いるだけで、なぜそのような
気圧の変動が起こるのかは
説明していない
http://www.cpc.noaa.gov/products/precip/CWlink/daily_ao_index/JFM_season_ao_index.shtml
準二年周期振動(Quasi-Biennial Oscillation)
熱帯成層圏において、西風と東風が約28カ月周期で交互に現
れる現象[Baldwin et al., 2001]
Holton-Tan mechanism [Holton & Tan, 1980, 1982]
QBOの東風位相時に、プラネタリ波の赤道への伝播がブ
ロックされ、極冠域に集中するため、成層圏突然昇温が起
こりやすくなるという仮説
太陽活動との関連
Labitzke [1982]
QBOの東風位相時に突然昇温が起
きる傾向(Holton-Tan mechanism)は、
太陽活動極大期には見られない
Kodera & Kuroda [2002]
太陽活動極大期には、初冬の中間
圏西風ジェットが強くなり、そのシグ
ナルが極夜ジェット振動の形で極域
成層圏に伝わる
ブロッキング高気圧

西風ジェット気流を妨げる形で長期間停滞する高気圧

西風ジェットの蛇行、あるいは分流と対応

対流圏のブロッキングの発生が成層圏突然昇温のトリガーと
なるという説が古くからある
Castanheira & Barriopedro [2010]
北大西洋域のブロッキングは波数1型の突然昇温と、北太平
洋域のブロッキングは波数2型の突然昇温と良い対応
Nishii et al. [2010]
北大西洋域のブロッキングがプラネタリ波の成層圏への伝播
を妨げ、極渦を強めることがある
まとめ
• 成層圏突然昇温のclimatologyを作成
• 過去32年で23回(19年)の大昇温が発生
• 大昇温の発生しやすい時期としにくい時期が10年程度の周期で
交互に到来
• 成層圏突然昇温の長期変動を引き起こすメカニズムとして、熱帯
の準二年周期振動、11年周期の太陽活動、対流圏ブロッキング
の長期変動などが考えられるが、定説はない
• 突然昇温の発生は連続的なシグナルではなく、閾値による0か1
かの判別なので、解析・解釈には注意が必要
• 長期間のデータの蓄積が非常に重要