PowerPoint プレゼンテーション

民法(債権関係)改正案の
第三者評価
2015年9月22日
明治学院大学法学部教授 加賀山 茂
2015/9/22
Third-Paty Evaluation of Ammendmend of Civil Code, 2015
加賀山茂『民法(債権関係)
改正案の第三者評価-改正
の問題点と解説策-』信山
社(2015/9)
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民法(債権関係)改正案の第三者評価
 Ⅰ 公私混同の不適正手続
目次
 Ⅱ 改正理由との不適合
 1. 民法(債権関係)改正検討委員会の設立
 発起人 筒井健夫参事官 単なる参加と強弁
 発起人 内田貴参与 民間団体の仕事に専
念
 事務局 商事法務研究会 億単位の投資
 2. 法制審議会での「出来レース」





1. 時効期間の統一 領収書の保存が一律5年に
2. 法定利率の変動制 ゼロ金利でも下がらない
3. 保証人の保護 連帯保証人の保護は後退
4. 定型約款規定の新設 作成者有利原則へ
5. 原始的不能のドグマからの解放 瑕疵担保責任の削除へ
 Ⅲ 諮問との不適合
 不適切な人選
 1. 社会・経済の変化への対応
 民法(債権関係)改正検討委員会の委員の
横滑り
 少子・高齢化への不適合 障害者権利条約に違反
 検討委員会で反対意見を述べた委員の排
 情報化への不適合 電子マネーに対応せず
除
 国際化への不適合 インターネット取引に不適合
 改正目的の審議なしに具体案の検討
 2. 国民一般にとってわかりやすくする
 法制審での議論
 むしろ,わかりにくくなっている
 民間委員 vs. 大村 敦志
 裁判官に明確な判断基準を与えていない(解釈の混乱)
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Ⅰ
公私混同の不適正手続
1. 民法(債権関係)改正検討委員会の公私混同
2. 検討委員会のメンバーが横滑りした法制審議会
の「出来レース」([加藤・民法典はどこにいくのか(2011/5)
25頁以下]参照)
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Ⅰ-1. 法務省筒井参事官と内田参与の役割
鈴木仁志『民法改正
の真実-自壊する日
本の法と社会』講談社
(2013/03/10)81頁
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Ⅰ-2. 改革規制会議でのやり取り(改正目的)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2007/0406/summary0406.pdf
 福井委員
 では,いったい何をやるんですか。抜本的見直しといっても,ふつう,立法をおこなうときには理由
があってやるわけです。たとえばこの条文が現代のこういう課題に対応していないとか,あるいは
判例が分かれていて,解決がつきにくいとか,そういうものとして想定しているはずです。
 いまの民法の契約法の規定で,実務に対応できないような具体的な問題がいっさいないのであれ
ば,それは法を変えてはいけないということです。
 あるのだったら,それが何かを想定した上で立法過程の俎上にのせるというのが,立法を担当す
る行政庁関係者の当然のマナーのはずです。あるいは最低限のモラルといっていいかもしれない。
それをちゃんと聞かせていただきたいんです。
 筒井参事官
 もしそうだとすれば,私どもは具体的な立法作業に入る前の準備的な研究を,いま,始めたとご理
解いただいたほうがいいんだと思います。
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Ⅰ-2. 改革規制会議でのやり取り(改正目的)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2007/0406/summary0406.pdf
 福井委員
 準備に当たって,行政庁として,完全に白紙だということはありえない話だと思います。
 筒井参事官
 そうでしょうか。民事の基本法ですので,判例・学説などが条文のすき間を埋めてきている。
 民法百年の歴史のなかで,そういうすき間にあるもの,それが規定の透明性を妨げているの
ではないかという抽象的なことです。
 福井委員
 それを聞きたいんです。たとえばどの条文のどの判例の分かれ方が,規定の透明性を妨げ
ているということなんですか。
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Ⅰ-2. 改革規制会議でのやり取り(改正目的)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2007/0406/summary0406.pdf
 筒井参事官
 いま,具体的にこれといって例示を挙げるようなことは,まだ考えていないということ
を申し上げているわけです。それではご納得いただけないでしょうか。
 福井委員
 それは理解できない。行政庁として着手するんだったら,たとえばこの事項について
なんらかの解決が必要だということで,おそらくいまおっしゃったすき間を埋めるとい
うことも,そういうことを念頭に置かれているんだと思いますが,何も仮説がなくてや
るということはありえない。
 そんなことを本気で考えておられるのでしょうか。たとえば何なのですか。判例で分
かれているということ等について,この場で一つでも二つでも例を挙げられないよう
では困ります。
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Ⅰ-2. 改革規制会議でのやり取り(改正目的)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2007/0406/summary0406.pdf
 筒井参事官
 そういうことはいろいろあるだろうなとは思いますが,とくに,いま,例を挙げて説明するように,特
定のものについて,ここの部分を直したいからという形で,今回,見直しの作業に着手しようとした
わけではありません。
 抽象的な説明をくりかえしますけれども,この間の条文の規定だけからわかりにくくなっているであ
ろうもの,そういったものを拾い上げて,全体として,どんな見直しがありうるのかといったことを検
討しておるわけでございます。
 福井委員
 「あろうもの」というのは,あるだろうと推測されているわけですね。だったら,推測している根拠を
一つでも,二つでも,今この場で教えてください。
 筒井参事官
 とくにそういう形はございません。
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Ⅰ-3. 改革規制会議でのやり取り(公私混同)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2007/0406/summary0406.pdf
 福井委員
 見直しをおこなうのであれば,いったいそれは何ですかということです。しかも,準備
段階というのであれば,政府の責任で準備をおこなうべきでしょう。筒井さんが個人
で参加される勉強会ではなくて,筒井さんが事務局を務められる民事局の勉強会を
つくられて,そこにたまたま民間のいろんな提言をされたり,研究をされている方が
参加される。それならわかります。
 なんの腹案もない段階で,自分のところではいっさい基礎的勉強の組織もつくられず,
どこかほかでやっている私的な勉強会に公職を持つ自覚を持ちつつ自分が参加す
る。しかも,情報公開法制の適用も受けないところでの議論を受けて検討を進める。
 それ自体が異常なことだと,ほんとうに思われませんか。
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Ⅰ-3. 改革規制会議でのやり取り(公私混同)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2007/0406/summary0406.pdf
 福井委員
 失礼ながら,外部民間組織を何かからの隠れみのに使おうとされているかのごとき印象を持
たざるをえないのです。それは行政のあり方としておかしいと思います。
 安念主査
 もう少し,御省なりのスタンスを承ることができるかなと楽しみにしておったんです。
 福井委員
 無責任でもあります。政府として見直すんだと言いながら,具体例は一つも申し上げられる
段階にないというそんなおかしな話は,どこで通る常識ですか。
 筒井参事官
 もう少し具体化してきた段階で,そういうことを議論させていただいたほうがいいかと思います。
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Ⅰ-3. 改革規制会議でのやり取り(公私混同)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2007/0406/summary0406.pdf
 福井委員
 具体化していないのがおかしいと申し上げているんです。
 筒井参事官
 ご発言の趣旨はわかります。
 福井委員
 接本見直しをおこなうという結論は決めて,それを公文書で公表されているお
方が,イメージすら一つも例を挙げられない。それは異常なことでしょう。
 いま,こんなレベルの議論をしていること自体,公的機関相互でそんなことを
議論していていいのかというぐらいの由々しき事態です。
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Ⅰ-4. 法制審の
学者メンバー
主として内田らの考えに反対
意見を述べていた,池田真朗
(慶應義塾大),加藤雅信(上智
大),角 紀代恵(立教大),河上
正二(東京大),廣瀬和久(東京
大)は,法制審の委員には選ば
れなかった。
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Ⅰ-5. 法制審でも改正の理念の検討は後回し
 中井康之(弁護士)
 「トータルとしてどのような理念で,どういう方向に改正をしていくのか(略)/つまり,トータル
で考えるのか,個別問題を解決するために改正するのかという,大もとの考え方について,も
う少しみなさんの意見を聞かせていただきたい。」(略)
 大村敦志(東京大学教授)
 もちろん理念について語ることは重要なことだろうと思いますけれども,公正といい,安全とい
い,あるいは合意というときに,具体的に何をイメージしているのかというのは,個別の問題
についての議論を重ねたうえでないとなかなか共通のイメージというのを形成することは難し
いのではないかと思います。
 ただ,理念について語る必要はないということではありませんので,どこかの段階でやはり具
体的な議論を経たうえで,そうしたものについて後日,われわれの考え方をすり寄せるという
プロセスはあってよいのではないかと思います。
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Ⅱ 改正理由・適合性の評価
1. 消滅時効期間の統一 → 領収書の保管が一律5年に
2. 法定利率の変動制
→ ゼロ金利でも下がらない利率
3. 保証人の保護
→ 連帯保証人の保護は後退
4. 定型約款の規定の新設
→ 約款作成者有利原則へ
5. 原始的不能のドグマからの解放→ 民法570条の削除へ
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Ⅱ-1. 消滅時効期間の統一(1/2)
 消滅時効期間の統一
 第166条(債権等の消滅時効)
 ①債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
 二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
 ②債権又は所有権以外の財産権は,権利を行使することができる時から
20年間行使しないときは,時効によって消滅する。
 短期消滅時効の削除
 第170条から第174条まで 削除
 家計管理者にとっては,一大事(領収書を一律に,5年間保管しなければならなくなる)
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Ⅱ-1. 消滅時効期間の統一(2/2)
 たとえば,野球の試合で途中3回表に雨が降ってきて,試合が中断する
ことがありますが,試合を再開するときは当然3回表から再開されます。
しかし,法律用語の〔時効の〕「中断」は,このような意味で用いられてお
らず,1回表からあらためて試合を始めるということになります。
 一方,3回表から再開することを時効の停止と読んでいます。このような
用語はわかりにくいことから,新しい民法では現行民法の時効の中断を
時効の更新,時効の停止を時効の完成猶予と改めることとしています。
 [司法書士連合会・ビジネスはこう変わる(2015/7)34頁]
改正案の「時効の更新」は「時効の中止・再開」へ,改正案の「時効の完
成猶予」は,「時効の短期更新」へと修正されるべきである。
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Ⅱ-2. 法定利率の変動制
 第404条(法定利率)
 ①利息を生ずべき債権に
ついて別段の意思表示が
ないときは,その利率は,
その利息が生じた最初の
時点における法定利率に
よる。
 ②法定利率は,年3パーセ
ントとする。
 ③前項の規定にかかわら
ず,法定利率は,法務省令
で定めるところにより,3年
を一期とし,一期ごとに,次
項の規定により変動するも
のとする。
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 ④各期における法定利率は,この項の規定により法定利率に
変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近
変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合と
の差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があ
るときは,これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率
に加算し,又は減算した割合とする。
 ⑤前項に規定する「基準割合」とは,法務省令で定めるところ
により,各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年
の12月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月
において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のも
のに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計
算した割合(その割合に0.1パーセント未満の端数があるときは,
これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。
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Ⅱ-3. 保証人の保護
 連帯保証人に準用される連帯債務者の保護の規定の削除
第437条(連帯債務者の一人に対する免除)
 【削除】
第439条(連帯債務者の一人についての時効の完成)
 【削除】
第445条(連帯債務者の一人との間の免除等と求償権)
 連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ,又は連帯債務者の一人の
ために時効が完成した場合においても,他の連帯債務者は,その一人の
連帯債務者に対し,第442条第1項の求償権を行使することができる。
 連帯債務者いじめの規定であり,この規定こそが削除されるべきである。
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Ⅱ-4. 約款規定の新設
 第548条の2(定型約款の合意)
 ①定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方
として行う取引であって,その内容の全部又は一部が画
一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。
以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合
意」という。)をした者は,次に掲げる場合には,定型約款
(定型取引において,契約の内容とすることを目的として
その特定の者により準備された条項の総体をいう。以下
同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
 一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
 二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)
があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に
表示していたとき。
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 ②前項の規定にかかわ
らず,同項の条項のうち,
相手方の権利を制限し,
又は相手方の義務を加
重する条項であって,そ
の定型取引の態様及び
その実情並びに取引上
の社会通念に照らして第
1条第2項に規定する基
本原則に反して相手方
の利益を一方的に害す
ると認められるものにつ
いては,合意をしなかっ
たものとみなす。
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Ⅱ-5. 原始的不能・特定物ドグマからの解放
(1/3)→(2/3)
 現行民法に存在する原始的不能に関する条文
 現行法 第410条(不能による選択債権の特定)
 ①債権の目的である給付の中に,初めから不能であるもの又は後に至って不能となったもの
があるときは,債権は,その残存するものについて存在する。
 ②選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは,前項の規定は,適用し
ない。
 現行法 第565条(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
 前2条〔権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任〕の規定は,数量を指示して
売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において,
買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。
 これらの文言又は規定は,改正案では削除されてしまう。
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Ⅱ-5. 原始的不能・特定物ドグマからの解放
(2/3)→(1/3)
 改正案による「原始的不能」の文言の削除
 改正案410条(不能による選択債権の特定)
 債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において,その不能が選択権を有す
る者の過失によるものであるときは,債権は,その残存するものについて存在する。
 ②(削る)
 自分たちで削除しておきながら,解説書では復活させるという離れ業
 本条によれば,選択債権の目的とされた給付のうちのあるものについて,給付不能
(後発的不能のみならず,原始的不能も含む)が,「選択権を有する者の過失」により
生じたときは,債権は,その残存するものについて存在する。
• [潮見・改正案の概要(2015/8)52頁]
 改正案565条(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)→
 現行法565条(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)の削除
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Ⅱ-5. 原始的不能・特定物ドグマからの解放
(3/3)
 現行法570条(売主の瑕疵担保責任)
 削除 → 改正案570条(抵当権等がある場合の買主による費用の償還請求)
 従来の条文による判例検索は,不可能となる(学者生命にかかわる一大事)
 改正案564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
 前2条の規定〔買主の追完請求権,買主の代金減額請求権〕は,第415条の規定による損害
賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。
 改正案541条(催告による解除)
 改正案542条(催告によらない解除)
 改正案543条(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,債権者は,前二条の規
定による契約の解除をすることができない。
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Ⅲ 諮問・適合性の評価
1. 社会・経済の変化への対応
 少子・高齢化への対応 →障害者権利条約違反
 情報化への対応 →電子マネーに不適合
 国際化への対応 →インターネット取引に不適合
2. 国民にとってわかりやすくする →むしろわかりにくい
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Ⅲ-1. 社会・経済の変化への対応
 少子・高齢化への対応
 成年後見制度は,障害者権利条約(12条4項)に違反するおそれがある。
 意思能力を有しない場合の効果は,「無効」ではなく,追認ができる「取消し」が適切(改正案3
条の2)。
 情報化への対応
 預金について改正案477条(預金又は貯金の口座に対する払込みによる弁済)という1箇条
を新設しただけである。
 電子マネーへの対応が必要。
 国際化への対応
 承諾の延着についての規定(現行法522条)を削除したのは,インターネット時代におけるパ
ケット通信の実体を無視している。
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Ⅲ-2. 国民一般にわかりやすくすること
 原則と例外による体系化
 改正案473条(弁済)の新設と改正案474条(第三者の弁済)との関係
 判例法理の明文化
 改正案3条の2(意思能力を有しない時にした意思表示の効力)
 改正案93条(心裡留保)第2項の追加
 裁判官に対する明確な基準の供与
 改正案420条(賠償額の予定)による現行法1項2文の削除
 加藤雅信説:契約自由・私的自治の制約に服するので,増減ともに出来ない。
 潮見説:減額だけが可能であり,増額ができるわけでない。
 浜辺・拡張説:予定を賠償額の最低限度の定めと認定すれば,増額も可能である。
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Ⅲ-2-1. わかりやすいとは何か?(1/5)
原則を追加するとわかりやすくなるか?
 [司法書士連合会・ビジネスはこう変わる(2015/7)12頁]
 現行民法は,条文自体がわかりにくいという指摘がなされています。
 たとえば,現行民法474条では,「債務の弁済は,第三者もすることができ
る。」と規定されています。
 お金の貸し借りで,借主である債務者は当然にお金を返す義務を負いますが,
これは当然ということで規定が設けられておらず,いきなり第三者が弁済でき
る旨が規定されています。
 そこで,新しい民法〔改正案473条〕では,「債務者が債権者に対して債務の
弁済をしたときは,その債権は消滅する」という前提となるルールを明らかに
することで,よりわかりやすいものにしようとしています。
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Ⅲ-2-2. わかりやすいとは何か(2/5)
判例を明文化するとわかりやすくなるか?
 今回の改正案では,明確に条文に書かれていないものの,これま
で確立した判例法理については,判例法理の明文化という観点か
ら,明文の規定が置かれたものもあります。
 このような点からも,消費者にとってわかりやすい民法ということが
いえるでしょう
 [弁護士連合会・消費者からみた民法改正(2015/4)5頁](山本健司執筆)
 改正案 第3条の2
 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかっ
たときは,その法律行為は,無効とする。
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Ⅲ-2-3. わかりやすいとは何か(3/5)
判例を明文化するとわかりやすくなるか?
 改正案では,無効の意味について,
 絶対的無効となるか(相手方からも主張できるか,本人が主張しなくても当然に無効となるか),
 取消的無効になるか(本人以外は主張できない無効となるか)
 について,特に明文化されませんでした。
 現行民法においても,解釈上,意思無能力無効は,表意者保護のための考え方であることか
ら表意者以外は主張できない(取消的無効)という考え方が有力になっており,改正案におい
ても,このような解釈が妥当と考えられます。([弁護士連合会・消費者からみた民法改正
(2015/4)13頁](岡島順治執筆))
 意思能力とは何か? 事理弁識能力とどこが違うのか?
 意思の不存在である「要素の錯誤」が取消しと改正されるのに,この場合が無効なのはなぜか?正気に
返ったときに「追認」ができる「取消し」の方がよくないか?
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Ⅲ-2-3. わかりやすいとは何か(4/5)
判例を明文化するとわかりやすくなるか?
改正案93条(心理留保)
改正案93条(心裡留保)修正私案
 ①意思表示は,表意者がその真意ではな
いことを知ってしたときであっても,そのた
めにその効力を妨げられない。ただし,相
手方がその意思表示が表意者の真意で
はないことを知り,又は知ることができたと
きは,その意思表示は,無効とする。
 ①意思表示は,表意者がその真意ではないこ
とを知ってしたときであっても,そのためにその
効力を妨げられない。ただし,相手方がその意
思表示が表意者の真意ではないことを知り,
又は知ることができたときは,その意思表示は,
無効とする。
 ②前項ただし書の規定による意思表示の
無効は,善意の第三者に対抗することが
できない。
 ②前項ただし書の規定による意思表示の無効
は,第三者がその意思表示が表意者の真意
でないことを知り〔悪意〕,又は知ることができ
たとき〔有過失〕に限り,表意者がその第三者
に対して主張することができる。
 第1項と第2項とで,相手方と第三者との
保護のレベルに不整合が生じている。
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Ⅲ-2-4. わかりやすいとは何か(5/5)
問題の箇所を削除すればわかりやすくなるか?
 現行法
 第420条(賠償額の予定)
①当事者は,債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において,裁判
所は,その額を増減することができない。
 改正案 →解釈の混乱
 第420条(賠償額の予定)
①当事者は,債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
 改正案の修正私案(加賀山)
 第420条(賠償額の予定)
①当事者は,債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において,その
賠償額の予定が,平均的損害又は通常生ずべき損害と比較して過大又は過小である場合には,裁判
所は当事者が予見できる通常生ずべき損害の範囲までその額を増減することができる。
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参考文献

[大久保他・民法改正法案(2015/8)]
 大久保紀彦=青山大樹=末廣裕亮=篠原孝典=河上佳世子=畑江智監
修『「民法改正」法案-重要条文ミニ解説付き』中央経済社(2015/8)

[商事法務・新旧対照条文(2015/5)]
 商事法務編『民法(債権関係)改正法案 新旧対照条文』商事法務
(2015/5)

[加賀山・現新対照表(2015/7)]
 加賀山茂『民法(債権関係)改正法案の〔現・新〕条文対照表<条文番
号整理案付>』信山社(2015/7)

[鈴木・改正の真実(2013/3)]
 鈴木仁志『民法改正の真実─自壊する日本の法と社会 』講談社
(2013/3)

[加藤・民法典はどこにいくのか(2011/5)]
 加藤雅信『民法(債権法)改正―民法典はどこにいくのか 』日本評論
者(2011/5)

[浜辺・民法改正がわかる(2015/8)]
 浜辺陽一郎『スピード解説 民法<債権法>改正がわかる本』東洋経
済新報社(2015/8)
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[加藤・債権法改正(2015/9)]
 加藤雅信『迫りつつある債権法改正』信山社(2015/9)
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[潮見・改正案の概要(2015/08)]
[弁護士連合会・消費者からみた民法改正(2015/4)]
 日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編『Q&A 消費者からみ
た民法改正』民事法研究会(2015/4)

[法曹親和会・ポイント解説(2015/8)]

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潮見佳男『民法(債権関係)改正法案の概要』金融財政事情研究会
(2018/08)
[司法書士連合会・ビジネスはこう変わる(2015/7)]
 日本司法書士会連合会編『民法改正でくらし・ビジネスはこう変わる!
-120年ぶりの抜本改正を司法書士がやさしく解説』中央経済社
(2015/7)
2015/9/22
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法曹親和会民法改正プロジェクトチーム編『民法(債権関係)改正法
案のポイント解説』【新旧条文対照表付き】信山社(2015/8)
[三井住友信託銀行・金融実務はこう変わる(2015/5)]

三井住友信託銀行再建法研究会編『民法改正で金融実務はこう変
わる!』清文社(2015/5)
Third-Paty Evaluation of Ammendmend of Civil Code, 2015
31
民法(債権関係)改正案の第三者評価
加賀山茂『民法(債権関係)改正法案の〔現・新〕条文
対照表<条文番号整理案付>』信山社(2015/07)
2015/9/22
加賀山茂『民法(債権関係)改正案の第三者評価-
改正の問題点とその解決-』信山社(2015/9)
Third-Paty Evaluation of Ammendmend of Civil Code, 2015
32