生命科学基礎C 第5回 早い神経伝達と遅い神経伝達 和田 勝 東京医科歯科大学教養部 シナプス入力の統合 3)軸索を伝導して 1)ここで多数の シナプス入力が 統合 2)ここで活動電 位が発生 4)ここから伝達 物質を放出 リガンド依存性チャンネル リガンド依存性チャンネルは、チャンネルで あるとともに受容体という、二重の性格 1)リガンドに対する特異性 2)チャンネルとしてのイオン選択性 リガンド依存性チャンネル アセチルコリン ナトリウムイオンチャンネル 開口 EPSPが発生 GABA 塩素イオンチャンネル 開口 IPSPが発生 シナプス電位と活動電位 EPSP、IPSPの総和は段階的シナプス電位 軸索丘で閾電位を越えれば活動電位が発生 次のニューロン(あるいは筋肉などの効果器) へ伝えられる 介在ニューロン もっとも単純な神経系は、感覚ニューロンと 運動ニューロンからなる 神経系が発達すると感覚ニューロンと運動 ニューロンの間に、介在ニューロンが入る 中枢神経系は介在ニューロンの集合で、こ こでいろいろな処理が行なわれる 感覚ニューロン 介在ニューロン 運動ニューロン 介在ニューロン 介在ニューロンの数が増え、介在ニューロン 同士が複雑な連結をするようになる 介在ニューロンによる神経回路が、中枢神 経系内につくられる 特定の神経回路が定型的行動パターンに 対応する 早いシナプス伝達 さて、すでに話したように、アセチルコリンや GABAは、リガンド連結型受容体と結合 受容体に結合すると、チャンネルが開いてシ ナプス後電位を発生 これを早いシナプス伝達という 早いシナプス伝達 早いシナプス伝達に関わる主な伝達物質 アセチルコリン γアミノ酪酸(γ-aminobutyric acid、GABA) グリシン(glycine) グルタミン酸(glutamic acid) このうち、アセチルコリンとグルタミン酸は興 奮性、GABAとグリシンは抑制性 グルタミン酸受容体 パッチクランプ の結果 4個結合するら しい Naイオンを通 す GABA受容体 Clイオンを 通す 早いシナプス伝達 ここまでは早いシナプス伝達のお話 早いシナプス伝達は、比較的単純 神経系の多様なはたらきを作っているのは、 もう一つのシナプス伝達様式があるから 遅いシナプス伝達 アセチルコリンの発見 カエルの心臓をリンガ ー液中に入れ、迷走神 経を刺激すると心拍数 が下がる リンガー液を別のカエ ルの心臓に作用すると 、この心臓の拍動は抑 制される 迷走神経から液性物 質が分泌される 遅いシナプス伝達 この物質がアセチルコリンであると同定される 神経筋接合部にアセチルコリンがあることが確 認され、神経伝達物質であると認定される 神経筋接合部でのアセチルコリンのはたらきは これまで話したとおりである それでは、このアセチルコリンがどうやって心 臓の拍動を抑制するのだろうか アゴニストとアンタゴニスト 薬理学ではいろいろな薬物を使い、生理反応 を代替できるか、あるいは阻害するかという研 究をおこなう 代替できる薬物をアゴニスト(agonist)、阻害す る薬物をアンタゴニスト(antagonist)と言う アゴニストは受容体に結合して本来の作用を 起こすことができるが、アンタゴニストは受容体 に結合はするが、本来の作用は起こさず、場 所を塞いでしまう アゴニストとアンタゴニスト アセチルコリンの場合 神経筋接合部では、アゴニストはニコチン、ア ンタゴニストは矢毒であるクラーレ 心臓の迷走神経では、アゴニストはムスカリン、 アンタゴニストはベラドンナの成分であるアトロ ピン アセチルコリンのアゴニスト ここで回転できるので両方の受容体に結合 ニコチン受容体と 呼ぶ ムスカリン受容体と 呼ぶ ムスカリン受容体 アセチルコリンが迷走神経の節後繊維から 放出されて抑制的にはたらくのは、アセチル コリンがムスカリン受容体と結合するため この受容体は、ホルモン受容体のところで 述べたGタンパク質連結型受容体 ヒトムスカリン受容体(青い部分は膜貫通ドメイン) 1 61 121 181 241 301 361 421 1 MNNSTNSSNN FLFSLACADL RYFCVTKPLT FSNAAVTFGT VKPNNNNMPS ITQDENTVST VARKIVKMTK VWTIGYWLCY 11 SLALTSPYKT IIGVFSMNLY YPVKRTTKMA AIAAFYLPVI SDDGLEHNKI SLGHSKDENS QPAKKKPPPS INSTINPACY 21 FEVVFIVLVA TLYTVIGYWP GMMIAAAWVL IMTVLYWHIS QNGKAPRDPV KQTCIRIGTK REKKVTRTIL ALCNATFKKT 31 GSLSLVTIIG LGPVVCDLWL SFILWAPAIL RASKSRIKKD TENCVQGEEK TPKSDSCTPT AILLAFIITW FKHLLMCHYK 41 NILVMVSIKV ALDYVVSNAS FWQFIVGVRT KKEPVANQDP ESSNDSTSVS NTTVEVVGSS APYNVMVLIN NIGATR 51 NRHLQTVNNY VMNLLIISFD VEDGECYIQF VSPSLVQGRI AVASNMRDDE GQNGDEKQNI TFCAPCIPNT 60 120 180 240 300 360 420 ムスカリン受容体 副交感神経迷走神経 末端から放出 心臓のアセチルコリン (ムスカリン)受容体と 結合 Gタンパク質を活性化 Kチャンネルを開く 交感神経と副交感神経 副交感神経である迷走神経の節後繊維から 放出されたアセチルコリンが、心臓に抑制的 にはたらくのは、ムスカリン受容体と結合する ため それでは、交感神経が興奮性にはたらくのは? 交感神経の節後繊維からはノルアドレナリンが 分泌される 交感神経の心臓への作用 交感神経の節後繊維からはアドレナリンが 分泌される 心臓ではアドレナリンは受容体に結合し、ア デニル酸シクラーゼを活性化してcAMPを産 生する アドレナリン受容体β1(青い部分は膜貫通ドメイン) 1 11 21 31 41 51 1 MGAGVLVLGA SEPGNLSSAA PLPDGAATAA RLLVPASPPA SLLPPASESP EPLSQQWTAG 61 MGLLMALIVL LIVAGNVLVI VAIAKTPRLQ TLTNLFIMSL ASADLVMGLL VVPFGATIVV 121 WGRWEYGSFF CELWTSVDVL CVTASIETLC VIALDRYLAI TSPFRYQSLL TRARARGLVC 181 TVWAISALVS FLPILMHWWR AESDEARRCY NDPKCCDFVT NRAYAIASSV VSFYVPLCIM 241 AFVYLRVFRE AQKQVKKIDS CERRFLGGPA RPPSPSPSPV PAPAPPPGPP RPAAAAATAP 301 LANGRAGKRR PSRLVALREQ KALKTLGIIM GVFTLCWLPF FLANVVKAFH RELVPDRLFV 361 FFNWLGYANS AFNPIIYCRS PDFRKAFQGL LCCARRAARR RHATHGDRPR ASGCLARPGP 421 PPSPGAASDD DDDDVVGATP PARLLEPWAG CNGGAAADSD SSLDEPCRPG FASESKV 60 120 180 240 300 360 420 交感神経の心臓への作用 cAMPはPKA(Aキナーゼ)を活性化し、心 臓ではPKAは電位依存性カルシウムチャン ネルを開くことによって、興奮しやすくして心 臓の鼓動を早めている 心臓に対する交感神経系と副交感神経系 の拮抗的なはたらきは、このような仕組みで 達成されている 自律神経系と運動神経系 シナプスは薬物の作用点 伝達物質の受容体は毒や薬物の標的であ り、これを利用すると薬を開発することがで きる クラーレはニコチン受容体に作用して、筋肉 を弛緩させるが、ムスカリン受容体には作 用しないため、心臓には影響しない シナプスは薬物の作用点 向精神薬は、中枢のシナプスに作用する benzodiazepin “tranquilizers”やbarbiturate drugsは、GABAとともにそれぞれ異なる受 容部に結合し、低いGABA濃度でチャンネ ルを開くように作用し、GABAの作用を増強 する シナプスにおける伝達 早いシナプス伝達は信号を伝える 早いシナプス伝達には興奮性伝達と抑制性 伝達がある 遅いシナプス伝達もある 遅いシナプス伝達によって、信号の伝わり方が 修飾されるようだが、その話は次回へ続く
© Copyright 2024 ExpyDoc