宗 谷 岬 ウ ィ ン ド フ ァ ー ム 風力発電と鳥類へのリスク • 総合的な視点での自然保護を • ほかの人工物のリスクと比較すべき • 再生エネルギー開発の重要性 • 人と企業をやる気にさせる環境政策を • 野生生物へのリスクは個体群の存続性で • 不可逆的な開発との差別化を(20年の実験) 松田裕之(横浜国立大学・環境リスクマネジメント専攻) • 日本MAB(人間と生物圏)計画委員会委員長 • 知床・屋久島の世界遺産科学委員 1 1 風力は本来経済的 日本は遅れている。 総合資源エネルギー調査会新エネ ルギー部会2001.6 原子力 18 16 発 電 14 量 12 ( ギ 10 ガ ワ 8 ッ ト 6 LNG火力 石炭火力 石油火力 水力 燃料電池(リン酸型) 廃棄物中小規模 廃棄物大規模 ドイツ スペイン アメリカ デンマーク インド イタリア 日本 ) 4 風力 2 太陽光非住宅用 太陽光住宅用 0 20 40 60 80 発電費用(円/kW時) 0 1994 1996 1998 2000 2002 2004 年 2 気候変動が鳥類に与える脅威 WWF岡安氏 ・特に影響を受けるのは、渡り鳥、山岳や島嶼鳥 類、水禽類、極地方に生息する鳥類、海鳥。 Photo: Kevin Schafer, © WWF Canon 渡り鳥が渡りに失敗する例が出ている。 生態系の変動速度に同調できない種が増えている。 気候変動による影響で、エトピリカのカナダ 最大の繁殖コロニーが、繁殖不可能になる かもしれない。 ・産業革命前に比べ平均気温が2℃上昇した場合 (現在は0.8℃)、絶滅の比率はヨーロッパで38%、 オーストラリア北部で72%に達する可能性。 イギリス北海沿岸(2004):イカナゴ不足で7000つがいの オオトウゾクカモメやウミガラスのコロニーが繁殖失敗。 カリフォルニア南部沿岸(2002):旱魃により、ズアカスズ メモドキ、ミソサザイモドキ、2種のトウヒチョウの繁殖率 が例年の3%に落ち込む。 アジア:ソデグロヅル(絶滅危惧種)の繁殖地のツンドラ の70%が失われ、旱魃で越冬地の国立公園が使えなくな る。 『Bird Species and Climate Change: The Global Status Report』 Climate Risk Pty Ltd, (2006) international specialists in climate change risk management 気候変動による影響の世界的傾向を見るために、すべての大陸から200件以上の鳥類に関する学術論文を再編。 3 http://www.env.go.jp/nature/wind_power/index.html 国立・国定公園内における風力発電施設設置のあり方 に関する基本的考え方(2004.2環境省自然環境局) • 3 (1)基本的方針 – 優れた自然の風景地として、国家的見地から保全上の意義を認められ区 域指定された国立・国定公園内においては、財産権の尊重や国土の開発そ の他の公益との調整に留意しつつも、人為的な影響を極力抑制し、自然景 観の保護と生物多様性の保全を主として考えることが基本となる。このため、 風力発電施設の立地計画を検討する際に は、まず国立・国定公園外における風力 発電施設の立地の可能性やその促進の ための方策が充分検討される必要がある。 裏庭問題 4 国立公園は風発立地のホットスポット (長井・世良2005) • 「①国定公園の普通地域と第3種特別地域の開放、②国立・ 国定公園の普通地域の何れかの規制解除が最低限必要」 5 Mr.Ishuwaran Renewable MAB計画では風発推奨 Electricity Certified Biodiversity CO2 Offset Sustainable Credits Credits Timber MAB計画では 風発推奨 Certified Sustainable Seafoods Water Credits 6 鳥類の事故死のうち、風車はごくわずか 島田泰夫氏 (2006)生物科学 項目 死亡する鳥類個体数 備 考 自動車 6,000万~8,000万羽 道路総延長400万マイル 建物 9,800万~9億8,000万羽 450万のビルと9,350万の住宅 送電線 1億7,400万羽 送電線総延長50万マイル 通信鉄塔 400万~5,000万羽 80,000鉄塔 風力発電 1万~4万羽 15,000施設 Erickson WP et al (2001) Avian Collisions with Wind Turbines 項目 内容 全米での年間鳥類推定死亡数 3.5万個体/6,374MW/年 衝突率(既存文献全体) 鳥類全般5.55個体/MW/年 猛禽類1.85個体/MW/年 衝突率(最近の9論文から) 鳥類全般5.45個体/MW/年 猛禽類1.74個体/MW/年 California Energy Commission (2004) Developing Methods to Reduce Bird Mortality In the Altamont Pass Wind Resource Area 7 7 鳥衝突リスクはさらに低減可能 • 順応的リスク管理の典型例 – 季節,時刻,場所,天候によりリスクが違う – 高リスク部分の稼動を避ければよい – 最大の処方箋は衝突死のモニタリング • 成鳥の衝突リスクは低い? • 恒久改変ではない 20年の実験 8 8 http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=5218 たくさんいるクマタカ 普通種と比較可能な データを環境省は公 表していない 過去との比較が重要 発見努力は増えているが 消失区画数を知りたい クマタカを守れば、内地の殆どの森を守れる 9 9 環境省生物多様性センターhttp://www.biodic.go.jp/reports2/6th/6_bird_species/ 分布データは環境省が持っている A:繁殖確認 B:繁殖可能性 C:生息確認 ca1975 A+B=49,C=96 希少猛禽類の多くは非公開 生息・消失区画数は公開できるはず ca2000 A+B=49,C=131 新たな生息区画の多くは新発見 消失区画数を知りたい 10 10 杉本寛氏 視 界 不 良 に 注 意 鳥は風車を避ける (デンマーク海上風発の事例) 設置前は施設内を通過 する鳥は全体の40.4%、 設置後は昼間4.5%に 減少。さらに、風車の 50m以内に接近するの は0.6%である。 1000m 2007/6/22 Desholm & Kahlert 2005. Biology Letters 1:296-298. 11 11 たくさん衝突するAltamont風発群 • 餌場に立地(餌を見つけ ると夢中になる?)→ • 遠方から風車に気づけば 避ける?↓ 秋田鉄也博士撮影 ←福井県あわら市の 風車の手前を通過す るマガンの群れ(日本 野鳥の会・田尻浩伸 博士提供。2011.1.6 早朝撮影) 魚崎耕平氏撮影 12 「許容人為死亡数」と順応的リスク管理(案) Sugimotoら(印刷中) • 米国で海獣類の生物学的許容除去数PBRを援用 PBR=Nmin/2×Rmax×Fr (Barlow et al. 1995) • ヒシクイPBR = 300/2×0.09×0.5 = 6.9羽 • マガンPBR = 3266/2×0.09×0.5 = 75.4羽 • 衝突数が許容限度を超えた場合か主たる採餌場が 変った場合には、稼働率を調節してリスクを減らす – 例:朝夕の移動時刻、風発施設に飛来した場合に風車を 止める – 大群が上空に来たときだけ止める – 小さな群れが来ても止める – 毎日止める など – 事業採算性の範囲での対応 13 13 http://www.env.go.jp/nature/yasei/sg_windplant/03/gijiroku.html 松田裕之 風力発電施設と自然環境保全に関する研究会 (第3回)議事録 2007.5.29 松田の発言 • 風力開発という技術は将来の投資であると思います。 今、採算が合うとか合わないとかいうのではなくて、風 力の利用というのは化石資源の枯渇に備えた国策な のである。それを今民間企業がやっている • 自然環境への配慮というのも国策です。これを全部 民間企業に丸投げということでは、環境にやさしく、し かも風力もつくるというふうにはなかなか進まないとい う現状があります。 • 民間企業に委託している以上、採算割れしない方策 というのをちゃんと国策として担保すべき 14 14 自然の保護と過保護 自然保護団体が期待する猛禽の役割 ○猛禽保護を理由にダム建設を止める(ダムの 生態系への影響は大きく、猛禽はその一部) 自然の過保護 • 道路は作るが猛禽の巣のためにトンネルを 掘る(人間でも移住させられるのに。ほかの 生物は救わず猛禽だけに配慮) • 風発は期待される再生エネルギー 15 白水智(2010)『人と自然の環境史』(文一) 「前近代日本列島の資源利用をめぐる社会的葛藤」 • 箕作村秋山郷の江戸時代の訴訟(享保年間) – 越後側が畑として利用。信濃側が「巣鷹」保護を 理由に保全を訴え勝訴 – 信濃側にとっては巣鷹献上は経済的に重要では ないが森を総合的に利用 – 「それでも巣鷹山を表看板にして越後側と闘った のは、訴訟上それが幕府を説得する好材料で あったからにほかならない。幕府権威によるガバ ナンス(統治)をうまく利用したのである」 16
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