さあ,どうしましょう 糖尿病と高血圧の既往のある79 歳の女性が,急にめまいがするよ うになったと救急外来を受診した めまい・ふらつきの原因 % 非前庭・非心因性 24 低血圧 平衡障害 その他(薬剤,貧血,Parkinsonなど) 6 5 13 心因性 16 精神科疾患 過呼吸 11 5 末梢性 44 BPPV 前庭神経炎 メニエル その他(薬剤,反復性前庭障害など) 16 9 5 14 中枢性 10 脳血管障害 腫瘍 その他(多発性硬化症,偏頭痛など) 6 <1 3 原因不明 13 全身疾患 末梢・中枢 本日のお話 回転性めまい Vertigo 体がふらつく Dysequibrium 頭がふらふら Light Headed 気が遠くなる Faintness 患者さんの訴え で鑑別するとい うよりも,それぞ れの病態を鑑別 するための目安 と考えるとよい 急性めまいの診断 確診 詰 め 末梢性 中枢性 誤った印象 自信がない 正しい理解 急性めまいの基本戦略 危険なめまいを選り分ける 頻度が多い末梢性のRule in→ 頻度が少ない中枢性のRule out の両面から攻めるのが効率的 危急 険性 なめ めま まい い診 を断 選ロ ー り 分ド マ けッ るプ 蝸牛症状(耳鳴り,難聴,耳閉塞感) ↓ →内耳疾患 頭,首の痛み ↓ →小脳出血・梗塞,椎骨動脈解離 神経症状の病歴 →あり ↓ →中枢病変 ↓なし 頭位の影響・発作性 ↓ → BPPV (R/O MPPV) よくわからない(前庭神経炎?椎骨脳底 動脈潅流不全?R/O 小脳梗塞・出血) 蝸牛症状の有無が第一分岐 • 蝸牛症状あり:耳鳴り,難聴を伴う – 突発性難聴,メニエル,他の内耳疾患 – (前下小脳動脈梗塞):まれ,鑑別簡単 • 蝸牛症状なし:Solo Vertigo 突発性難聴とメニエール • 突発性難聴 – 耳鳴りとともに急激 に難聴になる – 回転性めまいは初 期のみ – 日単位で持続 – 50~60歳代ピーク – 男女差なし – 30人/人口10万人 • メニエール – 耳鳴,耳閉感を伴う めまい発作を反復 – 持続時間は1時間以 上,24時間未満 – 30歳台後半から40歳 台前半にピーク – 女性に多い – 20人/人口10万人 前下小脳動脈梗塞 ー蝸牛症状を伴う稀な梗塞ー • • • • • • 急性めまい 耳鳴,難聴(分枝である迷路動脈の閉塞) 病巣側の顔面神経麻痺 病巣側の小脳性運動失調(中小脳脚) 病巣側のHorner症候群 交代性の温痛覚障害 病歴で中枢病変を感度良く除外 • • • • • • 脳血管障害の危険因子(年齢も含めて) 頭痛・頸部痛 複視 顔,口の周りのしびれ 構音障害,嚥下障害 半身のしびれ,脱力 – オプション:瞳孔不同と上肢の小脳症状 • 意識状態,バイタルサイン 蝸牛症状の有無が第一分岐 • 蝸牛症状あり:耳鳴り,難聴を伴う – 突発性難聴,メニエル,他の内耳疾患 – (前下小脳動脈梗塞):まれ,鑑別簡単 • 蝸牛症状なし:Solo Vertigo Solo Vertigoという前に,本当に “Solo?” 頭痛・頸部痛は? 頭痛・頸部痛を伴う急性めまい ↓ 偏頭痛,椎骨動脈解離,小脳出血・梗塞 ↓ 危険!,迷わず脳外科・神経内科へ 椎骨動脈解離 • 若年者の脳血管障害,男:女=1:3 • 誘発行為:ゴルフなどの運動,美容院,カ イロプラクティック,天井を相手にする作業 • 受傷より発症まで潜時(時間~日)あり Solo Vertigoの原因 • 頭位誘発性 • 良性発作性頭位めまいBPPV • 悪性持続性頭位めまいMPPV (脳血管障害) • 非誘発性 • 前庭神経炎 • 上記のいずれでもない BPPVは病歴で診断:床の 中! • • • • 耳鳴り,難聴,耳閉塞感はない 頭位変換時にだけ起きる 30秒以内に消失 繰り返すと減弱してくる(habituation) 植村研一.頭痛・め まい・しびれの臨床. 医学書院 より引用 Dix-Hallpke 試験の留意点 • フレンツェル眼鏡装着が望ましい – 眼振が見やすい – Visual Supressionが避けられる • • • • 眼振が出現するまで数秒の潜時がある 素早く倒す 眼振は持続しない(30秒以内に減弱) 禁忌:頚椎・頚髄疾患 BPPVの治療 • Epley法 – 一回での奏効率8割(44%~90%) – RCTでも,実治療群で89%,無治療で23% • 他の方法 :とくにDix-Hallpike陰性の場合 – Brandt-Daroff exercises: (Arch Otolaryngol 1980;106:484-5) repetitive side-to-side head movements:再発(1年後までに15%の率で)例 で,もう医者に行きたくない人にも有効 朝,昼,晩,5回繰り返す(1回2分で合計10分) BPPVの現実 • 病歴で診断 • 温度眼振検査で異常なし • Dix-Hallpikeの陽性率にこだわらない? – 病歴で疑っても陽性率は半分未満? (病歴では107/100,000/year,DH陽性はその1/10?) • Dix-Hallpikeが陰性の場合 – debrisがある程度元の位置に戻った? – 水平半規管性?(ごく稀に後頭蓋窩腫瘍) • Epley法が効かない場合 – やはりdebrisの位置が移動した? 悪性持続性頭位めまいMPPV • • • • • • 一定の頭位によりめまいが起こる その頭位でめまいが持続する 頭位を変えると止まる→学習効果に注意 しばしば座位,立位可能 眼振はしばしば垂直,下向き 前下・後下小脳動脈閉塞→小脳虫部梗塞 植村研一.頭痛・めまい・しびれ の臨床.医学書院 より引用 前庭神経炎 • 頭位置とは無関係の、急性Solo Vertigo • 30-60歳に好発し,性差はない(脳梗塞よりも若い 世代) • 症状は単回性 – 蝸牛症状はない!! – 回転性めまいは1日~数日でおさまる – ふらつきは数週間持続 • 上気道感染の先行はたかだか30% • 一部は反復性前庭障害 or BPPVへ移行 • 温度眼振検査で患側の温度反応高度低下 外来でカロリックテスト? • 適応はどんな場合か? – 陰性・陽性の事前確率は? – 結果によって診断・治療方針が変わる? – 前庭神経炎の診断に有用? • 技術的な問題:救急場面での労力と成果 – 耳垢の除去 – 鼓膜の穴のチェック 危急 険性 なめ めま まい い診 を断 選ロ ー り 分ド マ けッ るプ 蝸牛症状(耳鳴り,難聴,耳閉塞感) ↓ →内耳疾患 頭,首の痛み ↓ →小脳出血・梗塞,椎骨動脈解離 神経症状の病歴 →あり ↓ →中枢病変 ↓なし 頭位の影響・発作性 ↓ → BPPV (R/O MPPV) よくわからない(前庭神経炎?椎骨脳底 動脈潅流不全?R/O 小脳梗塞・出血) おさらい:病歴で中枢病変を除外 • • • • • • 脳血管障害の危険因子(年齢も含めて) 頭痛・頸部痛 複視 顔,口の周りのしびれ 構音障害,嚥下障害 半身のしびれ,脱力 – オプション:瞳孔不同と上肢の小脳症状 • バイタルサイン 冒頭の症例 糖尿病と高血圧の既往のある79 歳の女性が,急にめまいがするよ うになったと救急外来を受診した 何を聞きますか? • • • • • • • • 吐気は少しするが,吐いてはいない 耳鳴りはない.耳はもともと遠い 頭は痛くない.首の痛みもない 頭を回してもめまいがひどくなることはない 呂律が少し回りにくい.飲み込みは大丈夫 物が二重に見えることはない 顔も手足もしびれない 手足が力が入りにくいこともない 何を診察しますか? • 意識は清明 • ふらつきがひどくて立っているのが精一杯で歩け ない • 臥位で160/70 mmHg,脈拍は80,立位で148/60, 脈拍は80 • 瞼結膜に貧血はない • 注視方向性の水平眼振がある • 四肢の協調運動障害は明らかでない Solo Vertigoを呈する脳血管障害 • 頭痛・頸部痛があったら – 偏頭痛 – 椎骨動脈解離 • 座位での頸部の屈曲・回旋で誘発 – 変形性頚椎症による椎骨動脈の圧迫 • 後下・前下小脳動脈領域の梗塞の一部 – 偽性迷路症状だけ 小脳梗塞側から見た症状,症候 151例の検討 症状・所見 % 四肢のしびれ 回転性めまい 体幹のふらつき 嘔吐 Dysmetria 昏睡 起立障害 傾眠 吐気 顔面神経麻痺 眼振 複視 その他 22.5 20.5 20.5 17.2 17.2 16.5 11.9 10.5 9.9 8.6 4.6 3.3 37.7 小脳虫部卒中による偽性迷路障害 • • • • 急性のめまい 耳鳴り・聴力障害なし 頭痛・頸部痛もなし 他の神経症状もなし – 眼振もひどくない • なのに体幹失調著明 危急 険性 なめ めま まい い診 を断 選ロ ー り 分ド マ けッ るプ 蝸牛症状(耳鳴り,難聴,耳閉塞感) ↓ →内耳疾患 頭,首の痛み ↓ →小脳出血・梗塞,椎骨動脈解離 神経症状の病歴 →あり ↓ →中枢病変 ↓なし 頭位の影響・発作性 ↓ → BPPV (R/O MPPV) よくわからない(前庭神経炎?椎骨脳底 動脈潅流不全?R/O 小脳梗塞・出血) 誰にでも手に入る資料 このスライドは,Google→“公演スライド集”で検索 • BPPVを含めためまいの優れた総合サイト – http://www.dizziness-and-balance.com/ • 植村研一.頭痛・めまい・しびれの臨床.医学書院 • めまいの診断基準化のための資料 – http://memai.jp/shindan/Supp-11.htm • Does this dizzy patient have a serious form of vertigo? JAMA 271;1994:385-388 • BPPVの総説.NEJM 1999;341:1590
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