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個体と多様性の
生物学
第3回 多細胞生物への道
ー個体の数を増やす
和田 勝
東京医科歯科大学教養部
体細胞分裂
細胞は、体細胞分裂によって、そ
の数を増やしていく。
S期にDNAが複製されて、染色体は
まったく同じ2本の染色分体になる
ので、2つの娘細胞はまったく同じ遺
伝情報をもつ
さて有性生殖をおこなう生物では、
減数分裂
生殖細胞(卵や精子)を作るときに
は、染色体の数を半分にしなけれ
ばならない。
そうしないと受精によって染色体の
数が倍々と増えていってしまう。
染色体の数を半分にして生殖細胞
をつくる分裂を減数分裂(meiosis)
という
減数分裂の過程
減数分裂Ⅰ
前期Ⅰ、中期Ⅰ、後期Ⅰ、終期Ⅰ
減数分裂Ⅱ
前期Ⅱ、中期Ⅱ、後期Ⅱ、終期Ⅱ
減数分裂ⅠとⅡは連続している。
減数分裂の特長
2回の連続した分裂(減数分裂Ⅰと
減数分裂Ⅱ)からなる。
Ⅰに入る前にDNAの合成は起こっ
ているが、ⅠとⅡの間にS期はない
(DNA合成は起こらない)。
その結果、染色体数が半分(n)に
なった細胞が4つできる。
減数分裂の特長
減数分裂の過程でもうひとつ重要な
ことは、減数分裂Ⅰの中期で相同
染色体が対合することである。
対合とは、相同染色体の全長にわ
たって寄り添うこと。二価染色体とい
う(4本の染色分体)。
二価染色体の赤道面での並び方に
よって相同染色体のシャッフルが起
こる。
減数分裂の過程1
このとき二
価染色体が
赤道面でど
う並ぶか(こ
の図で言え
ば赤が上を
向くか黒が
上を向くか)
によって、
シャッフルさ
れる
前期Ⅰ
中期Ⅰ
後期Ⅰ
終期Ⅰ
減数分裂の過程2
後期Ⅱ
終期Ⅱ
この図は2n=2の例。2n=46では相
同染色体の1本ずつがシャッフル
されて各生殖細胞に分配される
相同染色体の交叉と組み替え
このとき相
同染色体の
異なる姉妹
染色分体の
間で乗り換
え(crossing
over)がおこ
る
前期Ⅰ
中期Ⅰ
後期Ⅰ
終期Ⅰ
遺伝的多様性
相同染色体のシャッフルと染色分
体の交叉・組み換えによって、生
殖細胞に遺伝的多様性が生まれ
る。
異なる2つの生殖細胞(卵と精子)
の受精によって新しい個体が生じ
るのだから、どの個体も遺伝情報
は同一(identical)ではない。
交叉の起こりやすさ
セントロメア部では交叉は起こらず、
セントロメアから遠いほど交叉が起
こる確立は高くなる。
連鎖(linkage)
無性生殖と有性生殖
違いは配偶子(gamete)を作るか作ら
ないか
無性生殖では、二分裂や出芽によ
り自分と同じコピーをつくる
●
有性生殖では、特別な配偶子を作
り、これを合体させて新しい世代を作
り出す
●
無性生殖と有性生殖
子供は親と全く同じ遺伝子
無性生殖
安定した環境では増殖が早い
環境が変わると対応できない
ことがある
子供は両親の遺伝子の組み
合わせ
有性生殖
両性の出会いが必要
環境の変化に対応できる
配偶子と接合子
配偶子と接合子
接合子は、2つの配偶子に由来する
2セットの染色体(相同染色体)をもっ
ている。
配偶子は減数分裂によって作られる
が、その過程で親の2セットの染色体
からさまざまな組み合わせに分けら
れ1セットとなるので、配偶子ごとに
遺伝子型は異なる。
新個体へ
遺伝子型の異なる配偶子同士が接
合あるいは受精して新個体ができる
ので、その組み合わせはユニークで
ある。
接合子あるいは受精卵から新個体
ができる過程を発生(development)
という。
減数分裂、実際には
実際の減数分裂は、上に述べたよう
に連続して起こるわけではない。減
数分裂は、生殖腺(卵巣と精巣)の
中で起こる。
この過程を配偶子形成(gametogenesis)と呼ぶ。
配偶子形成
減数分裂は、生殖器官(雄では精巣、
雌では卵巣)の中で起こる。
生殖器官の中で起こる、減数分裂を含む
この生殖細胞(精巣では精子、卵巣では
卵)を作る過程を、配偶子形成という。
具体的には、精巣の中では精子形成、
卵巣の中では卵形成が起こっている。
配偶子形成
精子形成(spermatogenensis)
始原生殖細胞
精原細胞
第一次精母細胞
(減数分裂Ⅰ)
第二次精母細胞x2
(減数分裂Ⅱ)
精細胞x4
精子
(変態)
精子形成
精子形成
セルトリ細胞
精原細胞
精子形成
第一次精母細胞
精子形成
第二次精母細胞
精子形成
精細胞
精子形成
精子へ変態
(細胞質はセルトリ細胞が
吸収)
精子形成
精子
精子の構造
卵形成
原始卵胞と発達中の卵胞
原始卵胞とグラーフ卵胞
A:原始卵胞
グラーフ卵胞
卵形成(oogenensis)
始原生殖細胞
卵原細胞
第一次卵母細胞
(減数分裂Ⅰ)
第二次卵母細胞+極体
(減数分裂Ⅱ)
卵+極体x3
極体の放出
こうして、一つの卵細胞が資源を独占する
実際の卵形成の過程は、、、
卵形成(oogenensis)
始原生殖細胞
卵原細胞
第一次卵母細胞
LHサージで進行
(減数分裂Ⅰ)
第二次卵母細胞+極体
排卵
第二次卵母細胞
受精によって進行
(減数分裂Ⅱ)
卵が受精卵に
精子と卵
精子
父方の遺伝情報
鞭毛による運動性
中心体→分裂装置
母方の遺伝情報
発生に必要なタンパク質
卵
発生に必要なエネルギー源
リボソームとtRNA、mRNA、
分化促進因子群など
精子と卵の運命的な出会い
精子と卵を確実に出会わせ、受精がうまく
いくためには、精子と卵を接近させる必要
がある
そのために、動物はあらゆる可能な手立
てを使う
体外受精と体内受精
体内受精
精子を雌の体内に送り込み、確実に卵と
出会えるようにする
交尾器官の発達
・生殖口の構造を変える
・他の部位の構造を変える(例:交接腕)
タイミングの一致(繁殖の周期と行動)
・季節繁殖
・繁殖行動
体外受精
なるべく雌雄が接近し、確実に精子と卵が
出会えるようにする
タイミングの一致
・季節繁殖
多数の精子と卵を放出
受精
精子と卵が出会って、染色体数が元の2n
にもどり、新しい個体が生まれる。この過程
を受精と呼ぶ。受精は、二つの細胞の
認識過程でもある。
受精における多精拒否
一つの卵には、一つの精子しか入らない
ように、多精拒否機構が備わっている。
下図はウニの受精。
卵割の開始
受精によって、精子から父親由来の染色体
と、中心体が卵に入る。こうして卵割(卵細
胞の細胞分裂)が始まる。
卵割には、卵に蓄積されている卵黄量に
よって卵割のパターンが異なる。
卵黄量と卵割のパターン
少黄卵
等黄卵
少量の卵黄が均等に分布
全割で
放射卵割
中黄卵
中程度の卵黄が植物極に
より多く分布
全割で
放射卵割
端黄卵
多量の卵黄が全体に分布
部分割で
盤状卵割
心黄卵
卵黄が中心に集まる
部分割で
表層卵割
ウニの発生(受精から胞胚まで)
広島大学大学院教育学研究科自然システム教育学講座池田研究室作製
ウニの発生(孵化)
ウニの発生(胞胚から8腕プルテウス幼生)
ウニの発生Ⅰ
ウニの発生Ⅱ
カエルの発生(受精卵から胞胚まで)
KazuhiroのHomePage(http://www2s.biglobe.ne.jp/~nkazu/index.htm)より
カエルの発生(桑実胚から原腸胚まで)
カエルの発生(原腸胚後期から神経胚)
カエルの発生Ⅰ
カエルの発生Ⅱ
胚葉の分化
ウニの場合もカエルの場合も、こうして
外胚葉、内胚葉、中胚葉に分化する
外胚葉、内胚葉、中胚葉からは、それぞれ
異なる器官が分化してくる
●外胚葉からできる器官
表皮
皮膚の表皮(毛、つめ、汗腺など)、眼の水晶体、
角膜、口腔上皮、嗅上皮
神経管 脳、脊髄、脳神経、眼の網膜
●内胚葉からできる器官
消化管(食道・胃・小腸・大腸の内面の上皮)、えら、中耳、
肺、気管
●中胚葉からできる器官
脊索(みずからは器官を作らないが、脊椎骨や筋肉の分
化に関与する)
体節 脊椎骨、骨格、骨格筋(横紋筋)、皮膚の真皮
腎節 腎臓、輸尿管、生殖腺、生殖輸管
側板 腹膜、腸管膜、内蔵筋(平滑筋)、心臓、血管、
結合組織
ニワトリの発生
青矢印は胚盤
ここだけで卵割が起こる
鳥類の
初期発生
羊膜、漿膜、尿膜の生成
鳥類の
器官形成
哺乳類の初期発生
ーコンパクション
哺乳類の
初期発生
哺乳類の初期発生
哺乳類の初期発生
胚性幹細胞
胚性幹細胞(embryonic stem cell, ES細
胞)という言葉を聴いたことがあるだろう。
再生医療にとって必須な、なんにでも分化
できる細胞として、注目され研究されてい
る
ES細胞は、上に述べた内部細胞塊を取り
出してばらした細胞のことである