日本の安全保障政策と防衛体制 III

日本の安全保障政策と防衛体制 III
現在の課題と将来の展望
安全保障論
(第13回)
担当:神保 謙
Source: http://www.globalsecurity.org
北朝鮮ミサイル発射の概要

ミサイル発射の経緯
7月5日(日本時間)
1発目: 3:33AM
2発目: 4:04AM
3発目: 5:01AM
4発目:
5発目:
6発目:
7発目:

7:12AM
7:31AM
8:20AM
17:20AM
500km (推定)
600km
Unknown
500km
550-600km
500km
600km?
Scud-C (Kittaeryong)
No-dong-A (Kitterryong)
Tae-podong 2 (Musudan-ri)
(Exploded after 42 sec)
Scud-C (Kittaeryong)
No-dong-A
Scud-C / or No-dong-A
Scud-C / or No-dong-A
ミサイル再発射の準備
7月6日 日本政府筋テポドン2号2基目の存在を確認
(発射台組上げを確認・設置・燃料注入はまだ)
7月7日 額賀長官(ミサイル再発射)「差し迫った状況にあるとは考えていない」
7月9日 麻生外務大臣「ノドンを撃っている場所に動きがあるようだ」
北朝鮮のミサイル発射―問題の整理

北朝鮮はなぜミサイル発射を行ったのか?
政治的意図


米国による北朝鮮金融制裁(約27億円規模)の解除 ⇒ 米朝直接交渉
1994年(使用済み燃料棒抜き取り)・1998年(テポドン発射)の教訓
⇒ 瀬戸際外交による米国との直接交渉の実現
軍事的意図




テポドン2号(米国本土の一部、グアム、ハワイを射程)の実験
Nodong-A の短時間による連続試射
Scud-C / Nodong-A / Taepo-dong 2 の連続的運用
⇒ 実戦配備を誇示し対米抑止力を強化
北朝鮮はなぜ7発ものミサイル発射を行ったのか?
米軍再編後・ミサイル防衛配備後の対米抑止力
Tae-Podong 2 ⇒ ハワイ・グアムにおける米太平洋軍基地
No-dong A
⇒ (連続発射による)日本のミサイル防衛網の突破
Scud-C
⇒ (在韓米軍再編後の)在韓米軍基地攻撃
北朝鮮の政治意図―問題の整理

北朝鮮の損得計算
北朝鮮が得られる(と考えた)もの


瀬戸際外交による米国との直接交渉の実現
対米抑止力の強化
北朝鮮の判断にどのような
合理性が存在するのか?
北朝鮮が失う(現時点で可能性のある)もの
六者協議合意文書
 米国からの安全の保証
 軽水炉の提供
国連安全保障理事会
非難決議 ⇒ 経済制裁へ?

日朝平壌宣言
 日朝国交正常化 ⇒ 大規模経済支援

中国・韓国からの経済・エネルギー支援
経済支援の停止?
 中国: エネルギー支援・対北直接投資
 韓国: コメ・肥料・天然資源開発・ケソン工業団地・金剛山観光
単独の経済制裁へ
第4回六者協議共同声明
日朝平壌宣言

第4回六者協議に関する共同声明(2005年9月19日) 抜粋




朝鮮民主主義人民共和国は、すべての核兵器及び既存の核計画を放棄する
こと、並びに、核兵器不拡散条約及びIAEA保障措置に早期に復帰すること
を約束した。
アメリカ合衆国は、朝鮮半島において核兵器を有しないこと、及び、朝鮮民主
主義人民共和国に対して核兵器又は通常兵器による攻撃又は侵略を行う意
図を有しないことを確認した。
朝鮮民主主義人民共和国は、原子力の平和的利用の権利を有する旨発言し
た。他の参加者は、この発言を尊重する旨述べるとともに、適当な時期に、朝
鮮民主主義人民共和国への軽水炉提供問題について議論を行うことに合意
した。
日朝平壌宣言 (2002年9月17日) 抜粋

朝鮮民主主義人民共和国側は、この宣言の精神に従い、ミサイル発射のモラト
リアムを2003年以降も更に延長していく意向を表明した。
内閣官房長官談話 (7月5日)
2.我が国としては、北朝鮮による今回の弾道ミサイル又は飛翔体の発射は極め
て憂慮すべきものであると考えている。北朝鮮については、1998年8月にも
我が国上空を通過するテポドン1を基礎とした弾道ミサイルの発射を行ってお
り、今回、我が国を含む関係各国による事前の警告にもかかわらず発射を強
行したことは、我が国の安全保障や国際社会の平和と安定、さらには大量破
壊兵器の不拡散という観点から重大な問題であり、船舶・航空機の航行の安
全に関する国際法上問題であると同時に、日朝平壌宣言にあるミサイル発射
モラトリアムにも反する疑いが強い。また、六者会合の共同声明とも相容れな
い。北朝鮮に対しては、我が国として厳重に抗議し、遺憾の意を表明する。さ
らに、北朝鮮がミサイル発射モラトリアムを改めて確認し、それに従った行動を
とると同時に、六者会合へ早期かつ無条件に復帰することを強く求める。
3. 北朝鮮による今回の発射に対しては、我が国として厳しい措置をもって臨む。
今後速やかに我が国として法に則った措置を決定し、改めて発表する。
4. また、北朝鮮による発射は、国際社会において厳しく糾弾されるべきものである。
このため、国際社会全体としての対応が重要であり、日米同盟に基づく米国との
協力を始め、六者会合参加国を含む関係国との連携をさらに進め、また、国連安
全保障理事会において然るべき対処がなされるよう働きかけを行う。
当面の措置と今後可能性のある経済制裁
日本政府の当面の対応(骨子)
今後可能性のある措置
対北朝鮮措置
 ミサイル発射のモラトリアムと6
者協議の早期・無条件復帰を要
求
 万景峰号の入港禁止(6ヶ月間)
 北朝鮮に渡航していた在日の北
朝鮮当局職員の再入国を原則
禁止
 日本政府職員の北朝鮮の渡航
見合わせ。国民への渡航自粛要
請
 北朝鮮からの航空チャーター便
の乗り入れ禁止
 北朝鮮に対するミサイルや核に
関連する物資の輸出管理を厳格
化
外国為替・外国貿易法
 送金や支払いなどを制限・停止
 貿易の制限・停止
 直接投資の変更や中止の勧告
(閣議決定が必要)
特定船舶入港禁止特別措置法
 北朝鮮国籍の船舶の入港を全
て禁止
 北朝鮮の港に寄港した船舶の入
港を禁止
(閣議決定が必要)
国連安全保障理事会の対応
北朝鮮制裁決議案(7月7日提出)
特徴
決議
議長
声明
法的拘束力 採択の条件
安保理とし
て最も重い
決定
議長による
公式な立
場や見解
の表明
プレス 報道陣向
声明
けの非公
式な声明
あ
り
な
し
な
し
15理事国の
うち9カ国以
上の賛成・
P5の全会
一致
原則として
全理事国の
同意が前提
原則として
全理事国の
同意が前提

今回のミサイル発射は国際の平和と安全
への脅威

安保理は(経済制裁や軍事行動を認め
る)国連憲章第7章のもとに行動

今回の発射を非難

弾道ミサイルの開発・試験・配備・拡散を
即時停止

北朝鮮のミサイル、大量破壊兵器開発へ
の資金、物資、技術の移転、北朝鮮から
のミサイルと関連物資・技術の調達を阻
止

北朝鮮に6カ国協議への無条件即時復
帰・六者協議共同声明の迅速な履行
ミサイル防衛の配備スケジュール

当面の目標


2006年度末に最初のペトリオットPAC-3の導入
2011年度





イージス艦(BMD機能付加):4隻
ペトリオットPAC-3:16個FU9(高射隊分)
FPS-XX:4基
FPS-3改(能力向上型):7基
以上を指揮・通信システムで連接したシステムを構築
将来の目標

弾道ミサイルのCounter-Measuresへの対応



デコイ・シャフ・バルーン
一つのシステムが防護できる範囲の拡大
迎撃確立の向上
⇒ システムの効率性・信頼性の向上
北朝鮮報道官談話(7月6日)
The latest successful missile launches
were part of the routine military exercises
staged by the KPA to increase the nation's
military capacity for self-defense.
The DPRK's exercise of its legitimate right
as a sovereign state is neither bound to
any international law nor to bilateral or
multilateral agreements such as the DPRKJapan Pyongyang Declaration and the joint
statement of the six-party talks.
The DPRK is not a signatory to the Missile
Technology Control Regime and, therefore, is
not bound to any commitment under it.
As for the moratorium on long-range
missile test-fire which the DPRK agreed with
the U.S. in 1999, it was valid only when the
DPRK-U.S. dialogue was under way.
The Bush administration, however,
scrapped all the agreements its preceding
administration concluded with the DPRK and
totally scuttled the bilateral dialogue.
The DPRK had already clarified in
March 2005 that its moratorium on the
missile test-fire lost its validity.
The same can be said of the moratorium
on the long-range missile test-fire which the
DPRK agreed with Japan in the DPRK-Japan
Pyongyang Declaration in 2002.
The Japanese authorities, however,
have abused the DPRK's good faith. They
have not honored their commitment but
internationalized the "abduction issue,"
pursuant to the U.S. hostile policy toward the
DPRK, although the DPRK had fully settled
the issue. This behavior has brought the
overall DPRK-Japan relations to what was
before the publication of the declaration.
But no sooner had the joint statement
been adopted than the U.S. applied
financial sanctions against the DPRK and
escalated pressure upon it in various fields
through them. The U.S., at the same time,
has totally hamstrung the efforts for the
implementation of the joint statement through
such threat and blackmail as large-scale
military exercises targeted against the
DPRK.
The KPA will go on with missile launch
exercises as part of its efforts to
bolster deterrent for self-defence in the
future, too.
The DPRK will have no option but to take
stronger physical actions of other forms,
should any other country dares take issue
with the exercises and put pressure upon it.
今後のシナリオ(全て想定)
安保理制裁決議採択
北朝鮮・安保理制裁決議を非難
北朝鮮・協議復帰の用意があることを表明
(金融制裁緩和を条件)
六者協議の開催と米朝協議の実施
核廃棄検証プロセスでの再びの混乱
北朝鮮・テポドン2号の再発射
国連安保理さらなる制裁決議
北朝鮮による国連脱退
核実験と核配備宣言
北朝鮮に対する軍事制裁
米朝・囚人のジレンマ?
(注:数字については全て概念化のための仮定)
北朝鮮
ミサイル実験をしない
米国
交渉による
解決
強硬手段
の加速
危
機
回
避
の
合
理
的
判
断
?
(0, -2)
(-2, -10)
中
間
的
選
択
肢
の
存
在
?
ミサイル実験をする
(-10, +2)
(不明, -8)
北
朝
鮮
の
期
待
と
誤
解
?
第13回授業の問題提起

「新防衛大綱」と防衛政策の課題

「日本21世紀ビジョン」と中長期的な安全
保障のイメージ

安全保障を学ぶということ
新防衛大綱策定までの過程
1995.11 「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱」策定
1996.4
「日米安全保障共同宣言」
1997.9
「日米防衛協力ガイドライン見直し」
1999
「周辺事態安全確保法」成立
2000
「船舶検査活動法」成立
2001.10 「テロ対策特措法」成立
2003.6
「武力攻撃事態対処法」成立
「イラク支援特措法」成立
2003.12 「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」
閣議決定
2004.10 「安全保障と防衛力に関する懇談会」最終報告
2004.12 「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」策定
弾道ミサイル防衛の整備等について
(閣議決定:2003年12月19日)
我が国をめぐる安全保障環境については、我が国に
対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下する一
方、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の進展、国際
テロ組織等の活動を含む新たな脅威や平和と安全に影
響を与える多様な事態(以下「新たな脅威等」という。)へ
の対応が国際社会の差し迫った課題となっており、我が
国としても、我が国及び国際社会の平和と安定のため、
日米安全保障体制を堅持しつつ、外交努力の推進及び
防衛力の効果的な運用を含む諸施策の有機的な連携の
下、総合的かつ迅速な対応によって、万全を期す必要が
ある。このような新たな安全保障環境やBMDシステム
の導入を踏まえれば、防衛力全般について見直しが必
要な状況が生じている。
「安全保障と防衛力に関する懇談会」
報告書
(脅威認識)
「一方の極に非国家主体が引き起こしかねない想像を絶す
るテロリスト攻撃があり、他方の極にきわめて古典的な戦
争の可能性がある。その中間にあらゆる組み合わせによ
る危険が存在している」
(統合的安全保障戦略)
「これらの目標を達成するためには、日本自身の努力、同盟
国との協力、国際社会との協力という・・・(中略)三つのア
プローチを適切に組み合わせることによって、自国防衛に
備えるとともに、国際的安全保障環境の改善をはかる」
「防衛計画の大綱」と三空間の概念
グローバル
リージョナル
バイラテラル
ナショナル
国際テロリズム
ゲリラ・特殊部隊
脅
威
認
識
北朝鮮
中国
島嶼部侵略
極東ロシア
弾道ミサイル攻撃
WMD・ミサイル拡散
中東から東アジア
に至る地域
日米間の緊密な協力
政
策
日米防衛協力
統合運用強化
ODAの戦略的活用
国連改革
情報機能強化
ARF(信頼醸成・予防外交)
国際平和協力活動
国際平和協力法
制
度
日米防衛協力の
ガイドライン
対テロ特措法
イラク支援特措法
周辺事態法
日米安保条約
自衛隊法
有事関連法制
国民保護法制
National Level
Security 日本有事
Regional Level
Security 周辺事態
イラク支援特措法
テロ特別措置法
PKO協力法
Global Level Security
グローバルな協力
日本の防衛関連法制と活動「空間」
日米同盟「共通の戦略目標」
上海協力機構
六者協議
同盟関係のネットワーク化
ASEAN安全保障共同体
ASEAN地域フォーラム
「空間横断型」
「多層型」
安全保障の構造
日本の安全保障の中長期的ビジョン

「21世紀ビジョン」(経済財政諮問会議)
– 朝鮮半島情勢のシナリオ
– 中国の台頭シナリオ
⇒「グローバル・パワー」としての日米中関係?

「グローバル・エンゲージメント」
– 「空間横断の安全保障」に基づく世界的視野での安全保障
政策
– 「安全保障共同体」(Security Community)としての地域安
全保障メカニズムの構築
– 「日米間のグローバル・エンゲージメント」
– 「日中間の戦略的パートナーシップ」
– 「多機能弾力的な」防衛体制の確立
安全保障を学ぶということ

安全保障は総合的な「政策学」
– 「理論」と「実践」をつなぐ「政策学」として
– 観念的な平和主義と伝統的な国家主義の対立軸を超
えた安全保障論の重要性

「安全保障リテラシー」と「安全保障マインド」
– 世界的な構想力・競争力をもつSFC生
• ハーバード/コロンビアの学生に負けないように!!
– 「価値」を「守る」ということ
• 国際情勢・地域環境・コミュニティ・人間関係・テクノロジーの変
化を見きわめ、「価値」を「守る」という発想を大事にしてください
Security is like Oxygen:
You tend not to notice it until
you begin to lose it.
ーJoseph Nye, Jr.
1学期間ありがとうございました
See You and Good Luck!