本日のメニュー(6/9) • 「考える」ということ – 理性的・合理的な思考とはどういうことか – それを形式的・客観的な手法で記述・定式化できるか ⇒ 論理学 – それを機械によって実現できるか ⇒ 人工知能 • 人工知能は何を実現しえたか、人間の認知研究 とどのような関わりを持つか。(次回も) 1 本日のキーワード • • • • • 論理学・記号論理 数学基礎論 形式体系 チューリングマシン チャーチ・チューリング の提唱 • 形式体系の限界 • 記号処理 • チューリングテスト • 人工知能 • ダートマス会議 • (人工知能関係のキ ーワードは次回資料) 2 はじめに • 機械が考えたり、人間のようにふるまったりす るのを考えるのは楽しいし簡単 – 鉄腕アトム、C3PO/R2D2 等のロボット、 HAL (2001 Space Odessey)、等々 – しかし(研究者の目から見ると)不自然な点も多い • 技術的に極めて困難なことが易々と実現されている • 逆にそれほど難しくないことがさも難しいように扱われる • 過度の擬人化、等々 • 一方で、(真面目な研究対象として)「考える」こ とを解明しようとする、それを機械で実現しよう とするのはどういう発想に拠るのだろう? 3 そもそもなぜコンピュータか • からくり人形や時計は知能を持ちうるか。 • 自動楽器は音楽の演奏か • 「チェスを指す人形」(ケンペレン作) • 計算器(パスカル、ライプニッツ、バベッジ) • コンピュータは他の機械と何が違うか。 • コンピュータに知能が実現できると考える 先験的な根拠はあるのか。 • コンピュータは人間の認知を実現しうるの か、それについてどんな知見を与えるか。 4 そもそもなぜコンピュータか(2) • コンピュータは: – 計算を行う機械である – 記号処理機械である – 特定の仕事をする機械ではない。どのような情報処理 も(プログラムされれば)実行できる。 ⇒ 汎用機械、万能機械である • 人間は: – 脳・神経細胞 300億個 – 10億年の進化 – 66 億の人口 ... 5 そもそもなぜコンピュータか(3) • コンピュータの登場(1950 年代)に至るまで – 論理学の整備(紀元前から) – 思考の手段・表現としての記号・言語 (Leibniz(17C)以来) – その延長上での記号論理の誕生(19C) – 数学の形式化と基礎付け(数学基礎論:19C 末~) – 形式的体系、記号論理の発達(20C 前半) – 神経系の計算モデル(McCulloch & Pitts, 1943) ⇒ パーセプトロン、ニューラルネット – サイバネティックス(Wiener 1948) – (情報理論: Shannon 1948) 6 論理学(Logic) • 人間が筋道だって、理性的・合理的に物事を思考・ 推論する過程・構造そのものを対象とする学問。 • 古典的にはやはりアリストテレスにより集大成され る(名辞論理)。 – 「三段論法(syllogism)」: 「A は B である」、「B は C である」なら 「A は C である」 – これに否定・限量(「ある」、「すべての」)を加えた 256 通 りのパターンを分類し、「正しい推論」 24通りを抽出。 • 下って Leibniz(17 世紀)の「普遍言語」 7 論理学(2) • 大きな転換は 19 世紀以降: Boole, de Morgan, Frege らにより、記号論理 (命題論理・述語論理)が築かれる。 • Russell & Whitehead による Principia Mathematica (1910) は そういった(古典)記号論理の集大成。 – 数学の基礎付け(論理化)を図ったもの ⇒ 「ヒルベルト・プログラム」 – 論理実証主義の先導役(Wittgenstein と合わせ) – 最初の人工知能プログラム(Logic Theorist)の題材 8 記号論理 • 「古典論理」(20C 初頭までの記号論理) – 命題論理(ブール代数、他) – 述語論理(Frege) – その集大成が Russel & Whitehead • 20C 以降の論理 – – – – – – (直観主義論理、構成的論理) 様相論理 多値論理 ファジイ論理 量子論理 その他 9 命題論理 • 命題を記号 𝑃, 𝑄, 𝑅, … で表す – 値は真・偽(1 / 0)のいずれか • 命題間の演算記号を導入する – 標準的には¬(否定 not)、かつ(∧ and)、または(∨ or)、ならば(→ implies)、同値(≡ equivalent) 𝑃 ¬𝑃 𝑃 𝑄 𝑃∧Q 𝑃 𝑄 𝑃 ∨Q 𝑃 𝑄 P→Q 𝑃 𝑄 P≡Q 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 1 0 0 1 0 0 1 1 0 1 1 0 1 0 1 0 0 1 0 1 1 0 0 1 0 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 • それによる命題論理式で論理関係を表す 10 述語論理 • 命題論理に加えて述語記号を導入する – 述語: 真偽を値とする関数 𝐹 𝑥 , 𝐺 𝑥, 𝑦 , … – 𝑥, 𝑦等の変項(変数)は「個体」を表し、 適当な「議論領域」を定義域とする – 新たな論理記号として全称記号 ∀𝑥: 𝐹 𝑥 、特称 記号(存在記号)∃𝑥: 𝐹 𝑥 を導入する • 1変項述語は議論領域の部分集合を表す 集合 𝐴 = 𝑥 | 𝐴(𝑥) • 高階の述語論理 – 述語の変項に述語を許したもの (定式化の仕方はいろいろある) 11 恒真性、公理系 • どのような解釈のもとでも真である論理式を トートロジー(tautology)、より一般には恒真 式と呼ぶ。 例: A∨¬A、A→A – 参考:「存在仮定」: ∀𝑥: 𝐹 𝑥 → ∃𝑥: 𝐹 𝑥 か? • 記号論理の公理系 – 少数の公理(となる論理式)と変形規則により、 他の論理式(=定理)を導く形式的体系 – 目標はすべての恒真式を定理として表すこと 12 完全性、決定可能性 • 命題論理 – すべての恒真式を過不足なく表す公理系が存在する(完全性) – すべての論理式について、それが恒真式(=定理)か否かを決定 するアルゴリズムが存在する(決定可能性) • 述語論理 – すべての恒真式を過不足なく表す公理系が存在する(完全性) – 任意の論理式が恒真式か否かを決定するアルゴリズムは存在し ない(決定不能性) • 高階論理(=自然数論を含むような) – すべての真である論理式を定理とする公理系は存在しない。 – 特に真であって定理でない論理式が必ず存在する(不完全性1) – その公理系の無矛盾性はその公理系では証明できない(不完全 性2) 13 数学の基礎付け・形式化 • • • • Peano: 自然数の公理系 Dedekind, Cantor, Weierstrass: 実数論 Cantor: 集合論 Hilbert: ユークリッド幾何学の公理系 • David Hilbert (1862~1943) – 20世紀最大の数学者 – 数学のあらゆる分野に貢献 – 「ヒルベルトの23の問題」 14 数学基礎論 • 数学・論理学の定式化に対する立場 – 論理主義(Logicism: Russell) 数学は形式論理の上に構築できる。 道具立てが複雑になり、数学ではあまり支持されない。 – 形式主義(Formalism: Hilbert) 数学は形式的な記号操作の上に構築できる。 さらに、記号系は「有限の立場」で与えられる。 現在の主流の立場だが、原理的な意味での「有限の立 場」は Gödel の不完全性定理により限界が示される。 – 直観主義(Intuitionism: Brouwer) 構成的に扱えるもののみを数学の対象とする。 制限が多いため少数派だが、コンピュータ上の構成数 15 学の発展により別の形で復活。 形式体系(Formal Systems) • 191~30 年代に計算概念の様々な定式化が提 案される。 – – – – – – 帰納関数 (Gödel など) λ-calculus (Church, Kleene) Post 正準系 (Post) チューリングマシン (Turing) (Combinatory logic (Curry, Schönfinkel)) (レジスタマシン: もっと後世) • これらはすべて数学的には同等であることが示 される(計算できる関数:「一般帰納関数」) – 参考: 量子力学における波動力学と行列力学 16 形式体系(2) • 様々な形で現代にも大きな影響を及ぼして いる – プログラミング言語 記号処理言語 (Lisp/Scheme)、論理型言語 (Prolog)、関数型言語 (Haskell, ML, APL)等々 – チューリングマシン(コンピュータの理論モデル) – 自動証明 • 論理学の定理証明 • 数学の定理証明 • プログラムの正当性 17 チューリングマシン(Turing Machine) • Alan M. Turing (1912~1954) – 計算可能性の理論 チューリングマシン 「チャーチ・チューリングの提唱」 – 暗号解読(戦時中) – コンピュータ開発 (Colossus、ACE, Manchester Mark 1 等) – 「チューリングテスト」 • 「チューリング賞(Turing Award)」に名を残す。 コンピュータ科学の最高賞 • 伝記:Hodges, A. (1983). Alan Turing: The Enigma. New York: Simon & Schuster • Imitation Game (2014: 映画) 18 チューリングマシン(2) • 「計算」のモデルとなる仮想的な機械。 • といっても構成は簡単。構成部品は: – 有限個の状態を持つ本体 – 長さが無限(無制限)のテープ – それを読み取る本体のヘッド • マシンはヘッドからテープの1文字を読み取り 、それに応じてテープの移動、本体の状態の 変更を行う(だけ)。 • 例: (英語 Wiki ページ) 19 チューリングマシン(3) • チョムスキー階層との関係 – チューリングマシンは0型言語(帰納可算言語)を 受理・生成できる。 • テープの本数を増やしても本質的な能力は変わらない。 • 現在のコンピュータ(レジスタマシン)と実質的に同等の 能力(ただしメモリが無限大(無制限)として) – 3型言語(正規言語): 有限状態オートマトン – 2型言語(文脈自由言語): スタックマシン(プッシュダウンオートマトン) – 1型言語(文脈依存言語): 有限テープの(線形拘束の)チューリングマシン 20 チューリングマシン(4) • 万能チューリングマシン (Universal Turing Machine: UTM) – ある特別なチューリングマシンで、任意のチューリング マシン TM に対し、それと同じ出力を行うように初期 設定できる(TM の動作を模倣(シミュレート)する)。 – 仕掛けのタネは、TM の機能を「プログラム」として UTM のテープに仕込み、それにしたがって TM の動 作を逐次模倣する。 – 現在のコンピュータの理論的モデルになっている。 – UTM で UTM 自身も模倣できる(エミュレーション) 21 チャーチ・チューリングの提唱 (Church-Turing Thesis) • 様々な形式体系が互いに同等であることに基づいた「仮 説」 • 「(実効的に)計算可能な関数は、すべて一般帰納的関数 である」 • 「任意の計算可能な関数は、適当なチューリングマシンに より機械的に計算できる」 • ただし「計算可能」とは、人間が普通の意味で考えつく「計 算」すべてを含む概念で、厳密な定義はない。 (むしろ、上が厳密な定義を与えているという面もある。) 22 形式的体系の限界 • 「チューリングマシンの停止問題」 (1936) 与えられた TM の計算が終了して停止するか を、すべての TM について判定できるような チューリングマシンは存在しない。 – P(x): プログラム P を入力データ x で実行する – (背理法の仮定) H(P, x): 任意の P, x に対し、P(x) が停止するなら yes を、停止しないなら no を返す。 – M(P): H(P, P)=yes なら停止せず、H(P, P)=no なら 停止する。 – M(M) は停止するか? (停止するとしてもしないとしても矛盾: なぜか?) 23 決定不能問題 • 「ゲーデルの不完全性定理」 (1931) 停止問題と深い関連あり。 – 形式的論理体系では、真偽が決定 できない命題が必ず存在する。 – その論理体系の無矛盾性は、 そのような命題の例である。 • 他にも様々な決定不能問題が知られている。 • 多くの未解決問題は解決可能かどうかさえ 未解決(!?) 人間の知の限界を示す(!?) 24 人工知能の揺籃期 • 形式的体系の理論、「チャーチ・チューリングの 提唱」は、(広い意味での)「計算」という概念で捉 えられる人間の知的活動を機械化しうる可能性 を示している。 • 第2次大戦中および戦後に登場するコンピュータ は、そのような「計算機械」(記号処理機械)を具 現化したものである。 • その他の技術的・理論的発展もそれを下支えし ている(サイバネティックス/制御理論、神経系 の計算モデル、情報理論等々) 25 チューリングテスト(Turing Test) • (1950 年の論文: “Computing Machines and Intelligence” : Web 資料 [TT 1~3] 参照) • いわゆる「イミテーション・ゲーム」 人間のマネをする機械(コンピュータ)を人間が 見破れなければ、機械は知能を持っているとして よい。 • 知能についての操作的(、便宜的)な「定義」 • 知能についての相対的な捉え方ではあるが、一 方で「人間中心主義的」でもある。 26 チューリングテスト(2) • 哲学では深刻・まともにに受け止められて いる、らしい。 – J.R. Searle: 「中国語の部屋」など (チューリングテストの意義への「反論」) – 人工知能と言えばチューリングテストしか知ら ない哲学者もいる? • 人工知能への批判は、チューリングテスト や不完全性定理絡みで論じられることが 多い。 27 チューリングテスト(3) • 話として魅力的・教訓的だが、現実問題と して知能についての十分な定義・判定条件 を与えているかはかなり疑問 – チューリングテストを通らなくても知能を持って いると言えるプログラムが存在しうる。 (人間は?) – チューリングテストを通っても知能を持ってい るとは言えないプログラム(人工無脳?)。 参考: J. Weizenbaum と “ELIZA” – 実際の「チューリングテスト」:Loebner Prize • 「知能」よりは「人格」の実現が必要? 28 参考書 • チューリングテスト、心や意識 – D. R. Hofstadter & D.C. Dennett (Eds.) “The Mind’s I”, Basic Books 1981. 坂本(監訳)「マインズ・アイ」 , TBS ブリタニカ 1992/2001. • 形式的体系、計算可能性、人工知能 – D. R. Hofstadter. “Goedel Escher Bach: An Eternal Golden Braid” Basic Books 1979. 野崎他訳「ゲーデル、エッシャー、バッハ、...」、 白楊社 1985. • (他にも教科書・啓蒙書は多数あり) 29 参考書(人工知能) • 歴史・分野概観 – P. McCorduck (黒川利明訳): 「コンピュータは考える」、培風館、1983 (Machines Who Think, Freeman & Co. 1979) – M. ボーデン(野崎他訳):「人工知能と人間1,2」、 サイエンス社 1986 • 入門書 – P.H. Winston(長尾・白井訳): 「人工知能」、培風館、1980 – E. Rich(広田・宮村訳): 「人工知能」、マグロウヒルブック、1984 – B. Raphael(溝口・内田・岩田訳): 「考えるコンピュータ:人工知能入門」、近代科学社、1986 – 白井良明、辻井潤一: 「人工知能」、岩波講座情報科学 22、1982 30 人工知能について(Web) • 人工知能学会ホームページ http://www.ai-gakkai.or.jp/jsai/ – 人工知能のやさしい説明「What‘s AI」 – 人工知能学会誌「私のブックマーク」 • John McCarthy のページ http://www-formal.stanford.edu/jmc/index.html – What is Artificial Intelligence? (Q&A) • Marvin Minsky のページ http://web.media.mit.edu/~minsky/ • T.Dunn, A.Dyess, B.Snitzer “An Introduction to the Science of Artificial Intelligence” • http://www.aaai.org/AITopics/pmwiki/pmwiki.php/AITopi cs/BriefHistory 31 人工知能の誕生(1) • 「ダートマス会議」(Dartmouth Conference: Dartmouth Summer Research Conference on Artificial Intelligence) (1956 夏) • J. McCarthy らの発議により開催された「会議」 (というか、合宿:1カ月に及ぶブレーン・ストーミング) • “Artificial Intelligence (AI)” という名称及び分野 の発祥とされている。 – もっとも名称そのものは(会議名にもあるように)すで に前年の提案書にもあるし、これを採用するかどうか についてはかなりの議論があったらしい。 32 人工知能の誕生(2) ダートマス会議出席者 • 発起人サイド • – John McCarthy†(2011) – Marvin Minsky – Nathaniel Rochester† – Claude Shannon† その他の出席者 – Ray Solomonoff †(2009) – Oliver Selfridge† – Trenchard More – Arthur Samuel† – Herbert Simon† – Allen Newell† 50周年記念会議スナップ(2006) 33 John McCarthy Marvin Minsky Herbert A. Simon Oliver Selfridge Ray Solomonoff Allen Newell Arthur Samuel(左) Claude Shannon 34 人工知能の誕生(3) • ダートマス会議の時に実際に動いていた人工知能 プログラムは、Newell, Simon による「LT (Logic Theorist, Logic Theory Machine)」だけ(?) • また Samuel によるチェッカーズ(ゲーム)プログラ ムは、最初期の AI プログラムであるにも関わらず 、学習機能を有し、プログラマ(Samuel)よりも強く なったという意味で画期的だった。 IBM にとっても宣伝効果が大きかった。 – IBM は後にチェスの “Deep Blue”, “Watson” のスポン サーにもなる。 35 初期の人工知能(1) • 参考書 – Edward A. Feigenbaum & Julian Feldman (Eds.). Computers and Thought. McGraw-Hill 1963/1995 (阿部・横山訳「コンピュータと思考」、好学社、1969) – Marvin Minsky (Ed.) Semantic Information Processing. MIT Press, 1968. – James Slagle: Artificial Intellingence: The Heuristic Programming Approach. McGraw-Hill, 1971. (南雲・野崎訳:「人工知能-発見的プログラミング」、 産業図書、1972) 36 初期の人工知能(2):題材 • ゲームのプログラム – チェス、チェッカーズ、トランプ、5目並べ等 • 数学・論理学の問題解決、定理証明 – 解析(積分)、幾何の図形問題、LT(前述)等 • 問題解決、質問応答システム • パターン認識 • 認知過程のシミュレーション – EPAM (Feigenbaum)、GPS (Newell & Simon) 37 初期の人工知能(3) • Slagle の SAINT(大学初年級の積分) (SAINT は 11 分) (18 分:解けたうちでは最長) • MIT 期末試験の 54 問中 52 問が解けた。 • (積分、一般に数学の記号計算は、後に人工 知能からは独立していく。) Mathematica Integrator 38 人工知能の歴史:大まかな動向 • 状態空間と探索(60 年代) • 知識表現と推論(70・80 年代) 問題領域固有の知識と一般的推論技法の分離 • 学習・自己適応(80 年代以降) • 能動的・分散的処理(90 年代以降):「エージェント」 • 人工知能の「復興」(2000年代以降) – 統計的・確率的処理、大規模データに基づく処理 – 「古典的分野」における成果(ゲーム等) – 環境・世界の中での知能 – 人工知能技法の各種の応用 – “Technological Singularity” 39 人工知能は何を目指すか(1) • 人工知能の二面性(2つの対極) 高度な知的機能の実現 コンピュータ 科学・技術 中間地帯 人間の認知活動の実現 心理学・認知科学 40 人工知能は何を目指すか(2) • コンピュータ科学として – 高度な知的処理の実現 – そのための理論・技法の研究・開発 – 高度な処理機能を持つツールの実現 • 問題(解決)主導的 – ⇒ 知能・問題解決の一般理論 – 人間を手本にする 人間はどう解いているか、それをコンピュータ上に実 現・応用できるか 41 人工知能は何を目指すか(3) • 認知科学として – 人間のもっている知的能力の研究・解明 – 人間の(必ずしも「知的」とは限らない)認知活動の研 究・解明 – そのためのモデル・理論の研究・開発・検証 • 認知科学研究においては: – – – – 情報処理的(計算論的)アプローチの最右翼 形式化・理論化の厳格な適用 「モデル化」(認知モデル)、「メタファ」としての意義 ⇒ 「理論心理学」、「理論認知科学」 42 人工知能は何を目指すか(4) × × × △ △ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △ △ 膨大な統計的計算の処理(会計等) 高度な科学技術計算 膨大な数値計算: πの1兆桁計算等 数式の記号的計算 →数式処理 論理学・幾何学などの定理証明 ゲーム・パズル 問題解決一般 自然言語理解 視覚・聴覚等による外界の認識 高度な専門性を要する領域での問題解決 学習: 環境への適応、自己改変 ロボット(外界への働きかけ) 自己組織化、人工進化 43 人工知能は何を目指すか(5) • 問題解決型 – 解決すべき課題が主体(人間・コンピュータ)と は独立に設定され、結果が客観的に評価可能 – 人間と同じやり方である必要はない ⇒ 「超知能」の実現 – 典型例 • 知能ゲーム・パズル • 数式処理 • 科学的発見、高度な知識・技能を要する作業 ⇒ 「エキスパートシステム」 • 一般的な問題解決(道順探索など) 44 人工知能は何を目指すか(6) • 人間中心型 – 人間が普通に行う活動を、コンピュータに実現 させる。 – あくまで人間が基準(規範) 人間を「超える」ことには意味がない(たぶん) – 典型例 • 自然言語理解、自然言語による対話 • 概念理解・学習 • 人間の認知過程のシミュレーション EPAM, 認知アーキテクチャ • (音楽理解、音楽作成) 45 人工知能は何を目指すか(7) • 知覚・行動 – 人間の活動のうち、自動的(無意識的)に行わ れるものをコンピュータに実現させる – 視覚(画像・情景理解、文字認識)、聴覚(音声 認識、音楽理解)、行動(歩行・動作)等 • 学習・知識獲得 – 自身で知識を獲得したり、環境に適応していく • 記号的学習(概念学習等) • ニューラルネット • 確率モデル等のパラメタ強化学習 46 (実働)モデルの意義 • 心理学・言語学などで言う「モデル」 ⇒ 「記述的モデル」 ⇔ 「認知アーキテクチャ(Cognitive Architecture)」 • 実際に「動かして」みせることの重要性 – 明確に意識されていなかった仮定、背景、プロセスなどを すべて厳密に定義・定式化・実現する必要がある。 – それを通じて、暗黙に仮定されていたこと、及びそれがい かに大きいかが明らかになる。 – 反面、「動く」ようにするために様々な制約が生じ、本来の 姿をゆがめる危険もある。 47 本日の課題 • チューリングテストに関する Turing の論文 を読んでみる(訳・原文とも:できれば全文 版も)。 • そこに示されているアイディアや議論につ いて理解し、また自分の考えをまとめてみ る。 • 人工知能の研究(とりあえず初期)につい て、資料を調べてみる。 – 人工知能の歴史(英語 Wiki) 48 天使・悪魔問題 • 登場人物 – 天使: 常に必ず本当のことを言う – 悪魔: 常に必ずウソをつく • 人間(本当・ウソのいずれを言うかわからない)を 加えた変形版もある • 約束事(ルール) – 質問は答えられるものに限る – 各登場人物は互いの正体を知っている 49 「天国への道」(オリジナル問題) • 天国・地獄への分かれ道に人物が1人いて、天使・ 悪魔のいずれかではあるが、外観からはどちらかわ からない。 この人物に1回だけ質問して、どちらが天国への道 かを知ることはできるか? • (変形版) 分かれ道に3人の人物、天使・悪魔・人間の1人ず つがいるが、誰がどれかはわからない。 – 1回の質問では天国への道はわからないことを示せ。 – 2回質問すれば(質問は誰に聞いてもよい)、天国への 道を知ることが出来ることを示せ。 50 天使・悪魔問題(1) • A, B 等は天使・悪魔のいずれかである。 以下のそれぞれを A / B が発言したとき、それぞ れの正体について何がわかるか。 1. A: 「B は天使だ」 2. A: 「私と B とは同じタイプだ」 (=両方天使か、両方悪魔) 3. A: 「B は悪魔だ」 B: 「それはウソだ」 4. A: 「私が天使なら B は悪魔だ」 5. A: 「C は天使だ」 B: 「A は悪魔だ」 C: 「A, B は2人とも天使だ」 51 天使・悪魔問題(2) • A, B に「はい、いいえ」のいずれかで答えられる質 問をしたとする。 1. A, B の一方が天使で一方が悪魔とする。 両者に同じ質問をしたとき、返ってくる答え (はい/いいえ)は必ず異なっているか? 2. A, B のいずれも答えられない質問はあるか。(ただし 未知の事項(答えがわからない事項)の質問は除く) • 関連問題: 次の□に同じ文字列を入れて、どちら も正しい文になるようにせよ(できるか?) – – である でない 52 天使・悪魔問題(3) • A がある1文を発言したため、A, B が両方天使である ことがわかった。そのような文の例を示せ。 • A がある1文を発言したため、A は悪魔、 B は天使で あることがわかった。そのような文の例を示せ。 • A がある1文を発言したため、B は悪魔であることはわ かったが、A が天使か悪魔かはわからなかった。その ような文の例を示せ。 • (他の組合せについても同様に考えてみよ) 53 天使・悪魔問題と記号論理 • 以上に掲げたような天使・悪魔問題、さら には同種の「論理パズル」一般は、適当な 論理式による定式化によって、論理式の 上での機械的な計算で答えが導ける。 • 天使悪魔問題の「2大原理」 「A が天使である」という命題を A で表す – A が X と発言すれば A≡X は真である – A が A≡X と発言すれば X は真である 54 天使・悪魔問題(2) • A, B に「はい、いいえ」のいずれかで答えられる質 問をしたとする。 1. A, B の一方が天使で一方が悪魔とする。 両者に同じ質問をしたとき、返ってくる答え (はい/いいえ)は必ず異なっているか? 2. A, B のいずれも答えられない質問はあるか。(ただし 未知の事項(答えがわからない事項)の質問は除く) • 関連問題: 次の□に同じ文字列を入れて、どちら も正しい文になるようにせよ(できるか?) – – この文は肯定文 この文は肯定文 である でない 55
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