起立不耐症と体位性起立頻拍症候群 (POTS)との関係 ――― 起立試験 からの検討 ミワ内科クリニック 三羽 邦久 三羽邦久: 演題発表に関連し、開示すべき CO I 関係にある企業などは ありません。 背景 強度の疲労、めまい、ふらつき、集中力低下、 身震い、悪心などの症状により、立位維持困難を 訴える起立不耐症(OI)は、多くの若年者の生活の質、 労働能力を低下させ、重要な健康問題となっている。 OIは慢性疲労症候群(CFS)患者の立位時症状とし てもよく見られ、生活機能を著しく制限している。 OI患者はしばしば体位性起立頻拍症候群(POTS) を伴うことから、POTSとほぼ同義語とされ、交感 神経の過剰緊張が主因とされている。 起立不耐症患者の循環器的特徴 OI with marked idiopathic hypovolemia Fouad FM (Ann Int Med 1986) CFS患者では、低心拍出量を伴う“Small Heart”が多い。 Miwa K (Clin Cardiol 2008) Miwa K (J Cardiol 2009) Miwa K (Int Med 2009) Hurwitz BE (Clin Sci 2010) Miwa K (Int J Cardiol 2011) 起立不耐症にしばしば見られるPOTS患者でも “Small Heart”が多い。 Fu Q (J Am Coll Cardiol 2010) OIを伴うCFS患者では“Small Heart”の程度がより強い。 Miwa K (Clin Cardiol 2011) Myalgic encephalomyelitis: International Consensus Criteria B. M. Carruthers1,M. I. van de Sande2, K. L.DeMeirleir3, N. G. Klimas4, G.Broderick5, T.Mitchell6, D. Staines7,8, A. C. P. Powles9, N.Speight10, R.Vallings11, L. Bateman12,13, B. Baumgarten-Austrheim14, D.S.Bell15, N. Carlo-Stella16, J. Chia17,18, A.Darragh19, D. Jo20, D. Lewis21, A.R. Light22, S.Marshall-Gradisbik8, I. Mena23, J.A.Mikovits24, K.Miwa25, M. Murovska26, M. L.Pall27&S. Stevens28 (J Int Med 2011; 270:327-338) 慢性疲労症候群の原因として、筋痛性脳脊髄炎 に伴う中枢神経系の機能異常が提唱され、 国際委員会から診断基準が公表された。 この診断基準は、Cardiovascular symptoms としてOrthostatic intoleranceを含み、本文中には、 Small heartと低心拍出量についても言及。 起立不耐症 (Orthostatic Intolerance: OI) 原因: 起立時の脳血流不足 交感神経の高度緊張 立位時の循環異常: 血圧低下(+) 遅発性起立性低血圧 神経調節性低血圧 血圧低下(-) 体位性起立頻拍症候群 (POTS) その他 目 的 体位性起立頻拍症候群(POTS)が 起立不耐症(OI)の原因となって いるのかを、起立試験と心エコー 検査から検討した。 起立試験の利点 (Head-up tilt 試験に比し) ・ 簡便に施行できる ・ 普段の症状時と同じ体位で症状を再現できる ・ 本人の意思でいつでも中止できる Point: できるだけそっけなく、じっと立たせておく (刺激を与えず) 【対象と方法】 Performance Status 4のOI患者 15例(男3、女12、3111歳) 10分間の起立試験を日を変えて延べ48回施行、 自動血圧計(Omron HEM-907)にて循環動態を 観察(仰臥位、起立直後、1、3、5、7、 10分後、および症状時)。 心エコー検査にて左室のサイズと心機能を計測。 診断基準 POTS: 心拍数増加30/分 または、 心拍数120/分 遅発性起立性低血圧: 収縮期血圧 20mmHg以上低下 または 90mmHg未満 または 拡張期血圧 10mmHg以上低下 神経調節性低血圧: 血圧の低下にもかかわらず、 心拍数が減少する 19歳女性 主訴: 大学生 禁煙希望 労作時呼吸困難、胸痛、咳、痰 立ち眩み、冷え、便秘、全身倦怠感、易疲労感 既往歴:不眠症(昨年8月より眠剤常用)、性器ヘルペス で婦人科治療中。 タバコ:30-60本x3.5年間 父:ヘビースモーカー 現病歴:昨年4月より種々の症状、出現。1人でいると 吸ってしまう。禁煙を決意し、2012/3/28 来院。 身体所見:158cm、48.4kg、血圧107/57、脈拍:77/分 体温:36.5度。呼吸音清、心音純、下腿浮腫 (+) 腱反射:両側膝蓋腱反射 亢進、足先冷 胸部X線: CTR37%、心電図: 垂直軸 禁煙補助薬服用にて4月7日より禁煙開始。 2012/4/16 臥位 立位 直後 19歳女性 血圧 (mmHg) 102/62 脈拍数 (拍/分) 62 起立試験 症状 97/67 78 1分 86/57 82 顔、上半身の動揺 3分 77/46 98 浮遊感、顔色不良 (遅発性起立性低血圧) 5分 65/28 76 (神経調節性低血圧) 臥位 103/59 57 眼前暗黒感、 立位困難、検査中止 2011/6/3 臥位 立位 5分 25歳女性 血圧 (mmHg) 103/67 脈拍数 (拍/分) 56 起立試験 症状 108/70 88 座りたい(継続可能) (体位性起立頻拍症候群) 2011/6/28 臥位 立位 直後 3分 100/60 68 頭がぼーっと 90/64 96/76 79 85 立ち眩みでぐらぐら 床に座り込みたい 検査中止 2010/6/5 25歳女性 起立試験 血圧 脈拍数 症状 (mmHg) (拍/分) 臥位 100/49 55 立位 直後 97/57 93 少し、ふらっと (体位性起立頻拍症候群) 3分 103/60 84 少し、ふわふわ 継続可能 2010/7/22 臥位 108/67 立位 直後 102/70 3分 105/72 67 77 75 ふわふわ ふわふわ 「横になってもいいですか」 検査中止 【結果】 起立試験により、全例で症状が再現された。 POTS: 遅発性起立性低血圧: 即時性起立性低血圧: 神経調節性低血圧: 軽度の頻拍のみ: 9例(60%) 2例(13%) 1例(7%) 1例(7%) 4例(27%) 起立継続不能時(7例、延べ12回) 4例: 1例: 1例: 1例: 軽度の頻拍のみ 即時性または遅発性起立性低血圧 神経調節性低血圧 POTS+血圧低下 POTSのみ見られた22回の試験は全て、立位継続が可能。 OI Control N 13 12 男/女 3/10 3/9 年齢 (歳) 3111 308 心胸郭比 (%) 383 心拍数 (beats/min) 698 左室拡張末期径 (mm) 403 p<0.01 453 1回拍出量係数 (ml/min/m2) 313 p<0.01 405 心係数 (l/min/m2) 2.20.4 p<0.01 2.80.7 左室駆出分画 696 p<0.01 423 7115 683 考 察 OI患者では、立位時に血行動態的変化が軽度 でも、症状が出現し、立位継続不能となるこ とも少なくない。 POTSはしばしば見られるが、POTSのまま、 全例、立位持続可能であった。 POTSを、交感神経系の過剰興奮として一次的 自律神経異常と捉える考え方は再評価の必要 がある。 結 語 POTSは小左室に伴う、1回拍出量低下に 対する、起立時の生理的代償反応のように 思われる。 OIの病因の本質は、自律神経異常としての POTSではなく、低心拍出量状態に伴いやすい、 立位時における脳循環の自動調節能の破綻と する考え方を取り入れる必要がある。 起立不耐症の治療 立位時下肢の動作(足踏み、交又、踏み上げ、蹲踞など) 上半身を挙上した睡眠 起立調節訓練法(Tilt-training) 運動 下肢筋肉トレーニング 塩分、水分の摂取 Fludrocortisone 弾性ストッキング 交感神経α1受容体刺激薬 交感神経β受容体遮断薬(少量) Tanaka H (J Pediatr 2002) Tanaka H et al. (J Pediatr 2002;140:412-7)
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