GUIDLINES OF THE ORTHOPAEDIC TRAUMA 2004 VERSION

福島県立医科大学整形外科
川上亮一
外傷・術後創傷の管理
概 略
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創傷治療の歴史
手術創(一次治癒)の術後管理
二次治癒を目指す創傷
新しい創傷治療~消毒とガーゼ撲滅をめざして~
http://www.asahi-net.or.jp/~kr2m-nti/wound
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閉鎖療法の勧め
創外固定ピンの管理
外傷、褥創の局所持続陰圧療法(VAC療法)
創傷治療の歴史
様々な治療法が横行
1800年代・・・防腐法、乾燥状態の維持
1867
Lister 石炭酸とリント布で創傷を治療
Pasteur 腐敗と細菌の関係
Koch 病原菌と病気の関係
1950年代・・・湿潤環境での治療
1956
1973
Odland 熱傷は、水疱を破らないと早く治る
Rovee 湿潤環境で、上皮細胞が移動して上皮が
再生
1980年代・・・創傷被覆剤での治療
1990年代・・・局所陰圧療法(VAC療法)1997 Argenta, Armstrong
2002
新しい創傷治療~消毒とガーゼ撲滅をめざして~
ガーゼの弊害
創面から分泌される各種の「細胞成長因子」を創面を乾燥させ
ることで,傷の治癒をストップさせてしまう。
 ガーゼは細胞成長因子を吸い取って蒸発させ,細胞成長因子
が創面に働くことを妨害している。
 ガーゼの網目が傷に食い込み,ガーゼを剥がす時に出血する。
そのため,治りかけた傷をさらに悪化させる。
 ガーゼが傷に固着するため,ガーゼ交換すると非常に痛い。
★Cochrane review

・・・急性期創傷:疼痛、治療期間でガーゼは×
新しい創傷治療 ~消毒とガーゼ撲滅をめざして~
http://www.asahi-net.or.jp/~kr2m-nti/wound
一次閉鎖した手術創の管理
Guideline for prevention of surgical site infection.
Mangram AJ1999. Hospital Infection Control Practices Advisory Committee.
Infect Control Hosp Epidemiol 1999; 20 (4): 250-78; quiz 79-80
術後24-48時間は、被覆剤で覆っておく
その後も被覆が必要か否か、シャワーや入浴が有害かは不明
→Evidence level 1
手術縫合創の上皮化の時間
撥水性のある被覆剤を使用して、シャワー浴が確実
国立大学医学部附属病院感染対策協議会(編):
病院感染対策ガイドライン、じほう、p24, 2004 (コホート研究)
皮膚の滅菌状態は持続しない
健常皮膚:104~105個/cm2の常在菌
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ポピヨンヨードの効果持続:数十分~2時間
皮膚には毛根・・・細菌叢
手術野のドレープは極力最後まで
洗浄、DEBRIDEMENTが重要

創面106個/cm2以上で創感染の危険性
壊死組織(有機物)で感染率上昇
1.
〔創面〕+〔10万個の細菌〕=〔創感染〕
2.
〔創面〕+〔200個の細菌〕+〔異物・壊死組織〕= 〔創感染〕
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洗浄=細菌の希釈
水道水を洗浄に使ってよい!
消毒薬(化学物質)=組織毒性 疼痛
Water for wound cleansing.
Fernandez, Ritin. Griffiths, Rhonda.
Cochrane Wounds Group Cochrane Database of Systematic Reviews. 5, 2010.
[Systematic Review]
CHECK POINT 1
一時閉鎖された縫合創
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
縫合後24-48時間は、創面を被覆剤で覆う
創処置時、痂皮や血痕を洗う
縫合部の消毒は、必須ではない
撥水性のある被覆剤で、創面を覆いシャワー浴
創傷の二次治癒
真皮に至る欠損創
挫創
擦過創
指尖部損傷
剥奪創
創傷被覆剤を使用した閉鎖療法
閉鎖療法を支持
Suturing versus conservative management of lacerations of
the hand: randomised controlled trial.
James Quinn. BMJ 2002;325:299 ( 10 August )
2㎝未満の手指の真皮までの挫創
疼痛面・治療期間:保存療法>手術療法
Dressings and topical agents for surgical wounds healing
by secondary intention. Cochrane Database of Systematic reviews. 1,2009
ガーゼによる創面の被覆は、他のどの方法よりも
疼痛面、患者の満足度、治療回数で劣る(費用面で勝る)
ビジダーム®の使い方
受傷 2日目
受傷 6日目
受傷 10日目
交換時には,水道水でしっかり
傷を洗ってください。消毒は必
要ありません。水分を優しく拭き
取ってから,ビジダームを貼りま
しょう。
ビジダームから滲出液が漏れ出してきたら,
交換してください。
濡らしても大丈夫?
剥がしたら,どろどろとして,
くさい汁がついてるけど大丈
夫?
どろどろした液は,滲出液と ビ
ジダームが溶けてゲル状になっ
たものです。膿(うみ)ではありま
せん。
このままお風呂に入っても大丈夫ですが,ビジダームの成分が溶けて,
べとべとになることがあります。
かぶれることがあります。赤みや痛みが強くなったり,ぶつぶつが出たりしたら,必ず受
診してください。
閉鎖療法治療例
分層植皮の採皮部の比較
閉鎖療法
ガーゼ治療
疼痛 ○
整容 ○
※ フィルムに薬効成分はない!
創傷被覆材
1)ポリウレタンフィルム・ドレッシング材
商品名: テガダーム(3M)
オプサイトウンド(Smith & Nephew)
IV3000(Smith & Nephew)
バイオクルーシブ(Johnson & Johnson)
創傷被覆材
2)ハイドロコロイド・ドレッシング材
商品名: デュオアクティブ(Convatec)
コムフィール(コロプラスト)
テガソーブ(3M)
アブソキュア(日東メディカル)
などがある。
創傷被覆材
3)ポリウレタンフォーム・ドレッシング材
商品名: ハイドロサイト(Smith & Nephew)
写真の上が表側,下が創面側となる。
一番外側が水分を通さないポリウレタンフィルム,一番
内側が非固着性の薄いポリウレタンで,これらに厚い
親水性吸収フォームが挟まれている。
浸出液の多い創面がよい適応となる。
創傷被覆材
4)アルギン酸塩被覆材
商品名: カルトスタット(Convatec)
ソーブサン(アルケア)
アルゴダーム(メディコン)
クラビオAG(クラレ)など
海草のコンブから抽出されたアルギン酸塩を繊維状に
して不織布にしたもの。
極めて強力な止血効果を有することが特徴的。これは,
ゲル化する際にカルシウムイオンを放出することによる
もの。
創傷被覆材
5)ハイドロジェル・ドレッシング材
商品名: ジェリパーム(竹虎)
ニュージェル(Johnson & Johnson)
イントラサイト(Smith & Nephew)
グラニュゲル(Convatec)
クリアサイト(日本シグマックス)など
親水性ポリマー分子が架橋を作り,マトリックス構造をと
り,その中に水分を含んでいる。
この被覆材が最も効果を発揮するのは 「乾燥気味の
開放創」,すなわち浸出液が少ない創面である。
創傷被覆材
6)ハイドロポリマー
商品名: ティエール(Johnson & Johnson)
写真右側が傷にあたる部分であるが,これは浸出液を
吸収して浸出液の方向に向かって膨らむ(体積が増加
する)という性質を持つハイドロポリマー吸収パッド。
主成分は少量のアクリルポリマーを含む親水性ポリウ
レタンフォーム。
陥凹した創にこの被覆材を使うとその陥凹した形に合
わせて突出し,創面に柔らかくフィットすることになる。
創傷被覆材の利点
1. 速やかな治癒が得られる。→?疼痛面ではEBMあり
2. ケロイドや肥厚性瘢痕の発生が少ない。
3. 創面に固着しないため,創処置時の疼痛が無い
4. 創傷被覆材の連続使用には「2週間の壁」がある。
→保険の適応
5. ほとんどの新鮮外傷は2週間以内に治癒可能であり,
保険請求で頭を痛める必要が無い。 (褥創は苦し
い)
新しい創傷治療~消毒とガーゼ撲滅をめざして~
http://www.asahi-net.or.jp/~kr2m-nti/wound
保険請求と創傷被覆材



「顔面外傷性皮膚欠損創」「左下腿皮膚欠損創」
などのように「皮膚欠損」の病名を必ず記入。
「顔面皮膚欠損創(真皮に至る)」(完璧)
いずれにしても,創傷被覆材の使用には「褥瘡」
あるいは「外傷性皮膚欠損創」などの病名は必
須。
閉鎖療法の治療例
50歳男性 前額部挫創
膿みたいに見えるが・・・
閉鎖療法の治療例


電動のこぎりによる皮膚欠損創
治療期間 37日間
閉鎖療法の治療例
指尖部損傷の場合
閉鎖療法の治療例
83歳女性 膝表皮剥離創
治療期間 14日
創傷の化膿
皮膚や皮下組織の感染は、細菌単独で起こすことが可能
その場合,組織1gあたり10万個から100万個の細菌が必要
1.〔創面〕+〔10万個の細菌〕=〔創感染〕
2.〔創面〕+〔200個の細菌〕+〔異物・壊死組織〕= 〔創感染〕
創面の異物、壊死組織の除去が肝要
CHECK POINT 2
二次治癒を目指す外傷
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Debridement、洗浄が肝要
洗浄は、水道水でもかまわない
創面の状況に応じた被覆剤の使用
被覆剤から浸出液が漏れる前に創処置
被覆剤+撥水性テープ剤の使用
創外固定器のピン周囲管理 1
Pin-tract complications in external
fixation of fractures of the distal radius.
Ahlborg HG, Acta Orthop Scand 1999; 70 (2):
116-8
橈骨遠位部骨折にホフマン型創外固定
ピン周囲感染: 21% 抗菌薬使用
75歳以上の女性でピンがゆるみやすい傾向
創外固定器のピン周囲管理 2
Pin site care during external fixation in children: results of a
nihilistic approach. Gordon JE, Kelly-Hahn J, J Pediatr Orthop 2000; 20 (2): 1635
イリザロフ型創外固定を装着した小児27人
創部を消毒せず、毎日シャワー、1週間に一度創部観察
4%にピン刺入部感染 抗菌薬内服10日で治癒
Pin site care in external fixation sodium chloride or
chlorhexidine solution as a cleansing agent.
W-Dahl A, Toksvig-Larsen S. Arch Orthop Trauma Surg 2004; 124 (8): 555-8
1週間に一回ピン周囲の処置:クロルヘキシジン対生理食塩水
消毒薬で処置した方が、感染率は低い
創外固定器のピン周囲管理 3
Pin site care for preventing infections associated with
external bone fixators and pins. Temple J, Santy J. Cochrane Database
Syst Rev 2004; (1): CD004551
Meta analysis
創外固定器のピン管理の方法を比較した質の高い研究はない
Check point 3
数日に1回、ピンの処置
クロルヘキシジン等、透明な消毒薬の使用
感染と診断したら、抗菌薬内服
創傷の二次治癒
真皮より深い欠損創
開放骨折
挫創
褥創
手術療法:皮弁術
Vacuum assisted closure VAC療法
皮弁、筋弁不要
VACUUM ASSISTED CLOSURE®(V.A.C.®)療法
陰圧閉鎖療法(NEGATIVE PRESSURE WOUND THERAPY)NPWT
圧倒的な論文数 V.A.C.® グラニューフォームを使用するV.A.C.®
19の無作為化比較対照試験(RCT)
550以上の査読論文
780以上の医学学会での抄録
64件の医学テキストでの引用
References
Vuerstaek, J.D. et al. State-of-the-art treatment of chronic leg ulcers: A randomized controlled trial
comparing vacuum-assisted closure (V.A.C.) with modern wound dressings. J. Vasc. Surg. (2006).
Blume P.A., Walters J., Payne W., Ayala J., Lantis J., Comparison of Negative Pressure Wound Therapy
using Vacuum-assisted Closure with Advanced Moist Wound Therapy in the Treatment of Diabetic Foot
Ulcers, Diabetes Care, Vol 31: 631-36; April 2008.
Augustin M., Zschocke I., Nutzenbewertung der Ambulanten und Stationaeren V.A.C.® Therapie aus
Patientensicht, MMW-Fortschritte der Medizin Originalien Nr. I/2006 (148. Jg.), S. 25-32.
Apelqvist J., Armstrong D.G., Lavery L.A., Boulton A.J.M, Resource utilization and economic cost of care
based on a randomized trial of vacuum-assisted closure therapy in the treatment of diabetic foot wounds,
The American Journal of Surgery, March 2008.
V.A.C.®療法の作用
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感染性物質を除去
創面を保護
過剰な滲出液を除去
浮腫(間質液)を軽減
湿潤環境を維持
局所血流を改善
細胞の遊走と増殖を促進
V.A.C.®療法
Negative pressure wound therapy after partial diabetic foot
amputation: a multicentre, randomised controlled trial.
Armstrong DG. Lancet 2005 Nov12;366(9498):1704-10.
RCT:糖尿病の四肢切断端でAVC療法 vs. 従来の方法
疼痛、治療期間、美容面、機能面でVAC療法が優れる
Wound healing society : Evidence level 1
合併症:Toxic Shock Syndromeの報告例
→感染を制御してからの治療が必要
V.A.C.®療法
大転子部の褥創
筋膜組織融解、感染
V.A.C.®システム
V.A.C.®療法
糖尿病に伴う皮膚潰瘍
皮下組織壊死、感染
V.A.C.®療法
7週間の治療結果
赤色肉芽増生→植皮
V.A.C.®療法
2010年4月から、保険請求可能
J003 局所陰圧閉鎖処置(1日につき)
1 被覆材を貼付した場合
イ 100平方センチメートル未満 1,600点
ロ 100平方センチメートル以上200平方センチ、メートル未満 1,680点
ハ 200平方センチメートル以上 1,900点
注 初回の貼付に限り、イにあっては1,690点を、ロにあっては2,650点を、ハ
にあっては3,300点を、それぞれ所定点数に加算する。
2 その他の場合 900点
CHECK POINT 4
V.A.C.®療法
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創部の感染を制御して、VACシステムを装着
皮弁を回避・・・虚血肢、糖尿病性壊疽・切断肢
創の縮小、または植皮後は閉鎖療法へ
ご静聴ありがとうございました
質問は・・・