第7回 日本ホスピス緩和ケア協会近畿ブロック会 2011.11. 20 LCP日本語版 使用方法の実際 ~事例検討~ 東北大学大学院医学系研究科 清水 恵 事例に沿って実際の使い方を説明します。 なお、事例は仮想事例です。 事例紹介 A氏 60歳代 女性 疾患 大腸がん 肝転移 腹膜転移 家族背景 両親:他界 夫:死別 子供:娘1人(既婚 別世帯 孫2人) 兄妹:兄と妹が近隣に在住 関係良好 キーパーソン:娘 疾病の経過 200X年 大腸がん(横行結腸がん)と診断。 診断時すでに、肝転移・腹膜転移が認められ、Ope適応なし。 化学療法施行後自宅で一人暮らしをしてきた。 200X+1年 腹痛、ADL低下、食欲低下にて、自宅療養困難と なり入院。血液データ上 低アルブミン血症、肝機能 腎機能低 下 腫瘍マーカー高値 電解質異常・・・等々 認められた。 入院後の経過 入院後、補液1500ml/日。疼痛緩和目的にてフェンタニルパッチ 開始され腹痛は緩和。食事も楽しみ程度の摂取は可能となり、お 孫さんの訪問を楽しみに待つ姿が見られた。 入院後2週間が経過。次第に病状進行による症状の変化が顕著 に見られ始める。(終日傾眠傾向、ADL低下、食欲低下 等) 医師も、臨床症状や血液データから予後が日単位と判断。 終日臥床、意識の低下、経口摂取低下を認める。 チームで予後数日と判断。 LCP開始 (200X+1年 11月25日10:00) セクション1 初期アセスメントの項目に沿って・・(1) A氏 診断名: 年齢: 大腸がん 肝転移 腹膜転移 60歳 性別: 女性 セクション1 初期アセスメントの項目に沿って・・(1) ≪身体症状≫ 苦痛症状: フェンタニルパッチ貼付中、苦痛増強なし。 呼吸器症状: 呼吸困難なし。喘鳴なし。痰がらみなし。 消化器症状: 嘔気・嘔吐なし。嚥下困難なし。 意識・精神の状態:終日傾眠傾向 呼名反応あり。 明瞭な会話困難。家族の認識はできる。 せん妄、抑うつ等精神症状はなし。 排泄: 便秘なし。便意尿意なく、おむつ内失禁。 その他の症状: 四肢の浮腫あり。 セクション1 初期アセスメントの項目に沿って・・(1) ≪目標1~3:安楽の評価≫ 投薬方法:末梢静脈ルート、貼付剤、 一部内服薬あり 頓用薬の指示:疼痛時・発熱時オーダー: いずれも内服指示 治療・検査のオーダー: 定期採血(3日毎) 看護ケアの内容: 2時間毎PC バイタル4時間毎チェック シリンジポンプの準備: 病棟に常備あり。 ≪目標4、5:精神面/病状認識≫ 日本語の理解:本人家族とも問題なし 病状認識:本人・家族ともに病名告知あり。 予後告知なし。 初期アセスメント・患者の問題(セクション1)のバリアンス抽出 によって変更された治療とケア 目標1.投薬方法 →内服薬中止。注射薬 坐薬の指示に。 目標2.頓用薬の指示 →内服指示からSp 皮下注射へ変更 目標3.治療・検査のオーダー →定期採血中止 DNR確認(面談) 目標3a.2時間毎体位交換/骨突出の発赤 → Airマットへ バイタル4時間毎チェック→必要時適宜(家族とも確認) 目標5.病状認識:予後告知なし→ 病状説明の面談セッティング ( DNR確認など) 目標7.家族他との連絡:→ 必ずつながる連絡先を確認 *ページ下欄の、“このページのバリアンス” に記入 セクション1 初期アセスメントの項目に沿って・・(2) ≪目標6:宗教/信条≫ 宗教に関すること:本人・家族、仏教で特別な慣習はない。 ≪目標7、8:家族/関係者とのコミュニケーション≫ 家族他との連絡:何かあれば常時連絡(病院まで車20分) つながらないときの連絡先は未確認 施設案内:オリエンテーション用紙あり ≪目標9、10:まとめ≫ ケア計画の開示、理解:必要時パンフレットなど用いて 初期アセスメント・患者の問題(セクション1)のバリアンス抽出 によって変更された治療とケア 目標1.投薬方法 →内服薬中止。 目標2.頓用薬の指示 →内服指示からSp 皮下注射へ変更 目標3.治療・検査のオーダー →定期採血中止 DNR確認(面談) 目標3a.2時間毎体位交換/骨突出の発赤 → Airマットへ バイタル4時間毎チェック→必要時適宜(家族とも確認) 目標5.病状認識:予後告知なし→ 病状説明の面談セッティング ( DNR確認など) 目標7.家族他との連絡:→ 必ずつながる連絡先を確認 *ページ下欄の、“このページのバリアンス” に記入 セクション2 各項目に沿って継続アセスメント (11月25日10:00) *LCP開始時 セクション2 各項目を記入しながら評価する。 身体症状の情報からチェックしてみてください。 セクション2 各項目に沿って継続アセスメント (11月25日10:00) ≪身体症状≫ 苦痛症状: フェンタニルパッチ貼付中、苦痛増強なし。 呼吸器症状: 呼吸困難なし。喘鳴なし。痰がらみなし。 消化器症状: 嘔気・嘔吐なし。嚥下困難なし。 意識・精神の状態:終日傾眠傾向 呼名反応あり。 明瞭な会話困難。家族の認識はできる。 せん妄、抑うつ等精神症状はなし。 排泄: 便秘なし。便意尿意なく、おむつ内失禁。 その他の症状: 四肢の浮腫あり。 セクション2 各項目に沿って継続アセスメント (11月25日10:00) 口腔ケア 経口摂取なし。口腔乾燥著明。 褥創ケア 骨突出部に可逆性発赤あり。除圧マットレス使用 自力体動なし。体位交換2時間おき 家族/その他関係者の病状理解 家族への日単位の面談はまだ。 宗教:前述に情報あり 家族/関係者のケア キーパーソン娘。家庭・子供があり付添したいが困難。 家族の思いにも関心を向け、可能な範囲でのお見舞い として、病棟も支援している。 開始の時点で セクション2(継続アセスメント)のバリアンス 抽出によって変更された治療とケア 口腔ケア:口腔乾燥 →口腔ケアの方法 口腔保湿剤の使用 ケア頻度など見直し 褥瘡ケア:骨突出の発赤 → 圧切り替え型Airマットへ変更 家族/その他の関係者の病状理解 :予後告知なし → 病状説明の面談セッティング ページ下欄の、“このページのバリアンス”あるいは、 次ページの“バリアンス分析シート”へ記入 記入例 バリアンス分析 対処方法 結果 どのようなバリアンスがなぜ生じたか? 口腔乾燥がある。 経口摂取なし。唾液分泌低下 口腔内感染、脱水の進行、不十分なケア等 によると考えられる。 サイン ○本 . 日付/時間 11/25 14時 . 口腔内観察し、口腔ケアを一日3回と定期化し清潔 を保つ。口腔保湿剤を併用し、 口腔内の保湿を保つ。 サイン ○本 . 日付/時間11/2514時 . 口腔内は常に清潔・湿潤環境となった。 サイン ○本 . 日付/時11/25 14時30分 . サイン 日付/時間 サイン 日付/時間 サイン 日付/時間 . . . . . . *どちらを利用して記入するかは、病棟で約束事を決めておく LCP開始後2日目 (11月27日 10:00) 開始後2日目 (11月27日 10:00) ≪患者の状態≫ 終日傾眠傾向さらに強まっている。呼名にも明確に反応 しないことも多くなる。しかし、疼痛増強したのか苦顔みら れる。レスキュー投与してみるが表情の変化はない。 → 疼痛 また、咽頭喘鳴みられ、効果的な喀痰もできず、吸引して もすぐ湧き上がってくる状態となる。 → 気道分泌 他の症状は見られない。 口腔内は、清潔が保たれている。 排泄は、排便排尿とも失禁。(排泄にともなう苦痛はない) 新たな皮膚トラブルの発生なし。 開始後2日目 (11月27日 10:00) ≪家族の状態≫ 家族面談後、病状が看取りであることを理解し家族間 で娘が側にいられるようサポートされている。医療者に も不安なことや自身の気持ち(悲しさ)を話すことがで きている。 セクション2(継続アセスメント)のバリアンス抽出によって 変更された治療とケア 疼痛: 疼痛増強?(苦顔)明確な評価困難 → 家族とともに苦痛の程度を評価し、オピオイド増量した。 気道分泌: 咽頭喘鳴=死前喘鳴? 非効果的な対処(吸引) → 気道分泌の状態を評価し(感染? 水分過多徴候?) 適切な治療を行う。(輸液量の検討、分泌抑制剤の開始) ケアの目標と意味を家族と共有し、対処方法を検討する。 (吸引のメリット/デメリット、薬物療法の効果、ケアの工夫 家族にできることなど) 死が近づいていることについて話し合い共有する。 ページ下欄の、“このページのバリアンス” あるいは、 次ページの “バリアンス分析シート” へ記入 記入例 バリアンス分析 対処方法 結果 どのようなバリアンスがなぜ生じたか? 疼痛増強の可能性 苦顔がみられる。 昏睡状態にて明確な症状の確認は困難 原疾患の進行 他に関連したと考えられる サイン ○田 . 日付/時間 11/27 10:00 . ご家族と苦痛の状況を確認。苦痛であろうこと、苦痛 緩和優先を希望される。 NSAIDs鎮痛薬レスキュー使用。→× オピオイド鎮痛薬レスキュー使用。 オピオイド鎮痛薬ベースUp。 サイン ○田 . 日付/時間 11/27 10:15 . 咽頭喘鳴出現。気道分泌増強。 死前喘鳴か感染によると考えられる。 サイン ○田 . 日付/時間 11/27 10:00 . 吸引では効果的な対処は困難。 家族と病態と対処方法について相談。 輸液量減量。分泌抑制剤の開始。 体位の工夫。 吸引は苦痛のない範囲で。 死が近付いていることについても話し合う。 サイン ○田 . 日付/時間 11/27 10:30 . オピオイド鎮痛薬レスキュー使用、ベースUpで効果 あり。苦痛表情消失。 サイン ○田 . 日付/時間 11/27 11:00 . 喘鳴は自然消失。 家族は残された時間が少ないことを理解。 サイン 日付/時間 ○田 11/27 14:00 . . 看取り~その後 (11月29日11:00) 看取り~その後 (11月29日 11:00) ≪患者の状態≫ 苦痛や喘鳴への対処後、苦痛症状を感じている様子 もなく、喘鳴も消失。穏やかな表情となり2日間を 過ごす。娘、孫、兄妹に見守られ最期を迎えた。 ≪家族の状態(目標11~14)≫ 看取りまで、娘が中心となり付き添う。娘はしばらく 側を離れることができない様子が見られた。 セクション3≪死亡診断≫のバリアンス抽出によって 変更されたケア 目標11. 娘の悲嘆 → 娘の気持ちに配慮して、十分な時間を提供した。 また、死後のケアを娘の希望に応じてともに行うことで、喪失 の悲嘆への支援を行った。 その経過の中、次第に娘の表情も和らぎ、本人への感謝の 言葉を伝える姿がみられた。 目標12. 娘がキーパーソンではあるが、悲嘆の状況を考慮し、他の家族 に説明を行なった。 目評14. 何かあれば相談窓口として病棟に連絡が欲しいことをご家族に 伝えた。 事例を通してのまとめ ・看取りの時期の認識が主観(個々の感覚的判断)に よるのではなく、客観的指標によってチームで判断され 共有できる。 ・適切な時期での治療やケアの見直しが見落としなくで きる。(薬剤、投与経路、ケア方法、環境調整 など) ・苦痛症状へのタイムリーな対応と評価ができる。 ・看取りの時期における家族ケアも実践される。 *看取りの支援がチームによって継続的に共通の目標 を持ち行うことができる。
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