ジオエコツーリズムの提唱と ジオパークによる地域振興・人材育成

ジオエコツーリズムの提唱と
ジオパークによる地域振興・人材育成
小泉武栄
発表
村山浩平
1.はじめに
○ジオパーク活動
優れた地形・地質などの「大地の遺産」を保全するとともに,研究や教育,普及に
活用し,さらにはジオツーリズムを通じて地域の持続的な発展に活用することを目的とする。
○地形・地質
・生態系の成り立ちに大きな影響
・生活様式や産業,文化にも大きな関わり
○ジオツーリズム
・植物群落や動物群集,生態系
・棚田や草原のような人文景観
・お酒のような産物
生態学的,考古学的遺産や文化遺産も含む
植物や群落から生態系や人間活動までを対象に
することにより,ジオパーク活動は理解者を増やし
より大きな広がりをみせる
ジオエコツーリズムについてその事例を示し、そのあり方や
それに関わる地域振興と人材育成について論じる
2.ジオツアーとエコツアー
専門家によるきちんとした説明のあるのがジオツアー,ないのが観光旅行。
【現状】
○日本各地で毎年開催されているエコツアーの多くは,単に野草や樹木,昆虫,鳥などの
名前を教えてくれるだけのもの,子供たちに川や森などの野外の自然を体験させるだけ
○内容は基本的に生物学の分野だけに限定
○参加者のほとんどが名前を教えてもらうだけで満足する
そこで
ジオツアーのガイド
○解説にストーリー性をもたせ,成因や形成のメカニズムを含めて語る必要
○地域ごとのインタープリターの養成が必要
3.ジオエコツアーの代表的な事例
ジオエコツアーは,参加した市民には大変人気がある
筆者の行うジオエコツアー
1)不思議な地形や不思議な植物の分布を指摘
2)原因について参加者は考える
3)自己の体験や本などで得た知識を総動員して原因を検討
4)専門家が謎解きの解説
参加者が最初から「自然の不思議」に気づき,なぜだろうと考えるようになるとよい
体験と勘のよさが必要
現時点では高望み
4.ジオエコツアーの事例(1)
白山山頂部の無植生地
植生を欠く原因
冬季の猛烈な風
一部に先駆植物であるコメススキが生育
周辺部にはイワスゲやイワツメクサ,ガンコウラン等
植被率は増加
植被を破壊した原因は?
図1 白山山頂部・御前峰の無植生地
コケモモやクロマメノキ
などからなる群落に移行して行く
植物群落がいったん破壊された後
植生は回復の途上にある
遷移の初期段階から植物群落にいたる
さまざまな段階が中心の無植生地から
図2 裸地の中心から周辺部にかけての 周辺に向かって配列
植物の増加
4.ジオエコツアーの事例(2)
植被を破壊した原因
・尾根筋を乗り越えた火砕流
・火山灰や軽石,火山礫など火砕流の堆積物を観察
・白山では火山活動が活発化し,至るところで噴火が発生
・ 15 か所あまりの火口の跡
・噴火は水蒸気爆発によるものだろうと推定
図1 白山山頂部・御前峰の無植生地
白山山頂部でのジオエコツアー
火砕流堆積物の経路を野外で追跡
・無植生になった後,現在植生が徐々に回復しつつあることを確認
・特異な植生分布が新しい火山の噴火史と結びついている
ツアー参加者はそれに強い関心を示した
5.ジオパークと地域振興
ジオツアーが,巡検という名前で古くから行われてきた
ジオパーク,ジオツーリズムとなると,それが社会人や子供にまで拡大する
電車や飛行機,バス,レンタカー等による移動や宿泊,飲食,買い物
経済活動に直結
例)道の駅
地元産の野菜や山菜,みやげものなどを扱うところが増えている
○博物館や資料館などの設置や自然観察路の整備
○野外における看板や解説板等の設置
○ガイドブックやガイドマップの編集・出版、観察会
○ジオパークの方は何らかの活動をつねに行っている
最終的には地域振興につながる
国民の自然についての
教養を高める
6.人材育成の重要性とそれに関わる諸問題(1)
ジオツアーやジオエコツアー
・この地形はどのようにしてできたか
・この岩はなぜここにあるのか
・この植物はなぜここに分布しているのか
参加者になぜと問いかけ,疑問に答えてもらう
自然のつながりを説明する
問題は野外で魅力的な解説のできるインタープリターがきわめて少ないこと
ジオパーク=地質だけでなく,はるかに広い領域を含む概念
登山ブームが続いているが,スポーツとして,常生活のストレスの解消のための登山
地域の特性にあったカリキュラム
6.人材育成の重要性とそれに関わる諸問題(2)
インタープリターの養成のほかに,克服しなければならない課題
地学教育・自然史教育の充実
自然史に関する内容が欠落
・日本列島の自然の価値を知らない
・日本列島の自然の歴史も知らない
ジオエコツーリズムを
受け入れるだけの素養が十分でない
地学や自然地理学に関する知識は国民の基礎的教養として不可欠
地学の必修化や自然地理学の充実を考えるべき
7.おわりに

日本のジオパークは2008 年に発足したばかりだが,そ
の後,ジオパークに立候補する地域が増えてきたのは
喜ばしい限りである。わが国はまさにジオパークの宝庫
である。ジオパーク運動の進展によって,地域が活性化
し,人材が育つことと,地学や自然地理学が本来のある
べき形に戻ることを期待したい。