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契約の種類と債務の種類
名古屋大学法学研究科教授
加賀山 茂
1
契約の種類と債務の種類
目次

契約の種類






契約の種類と債務の
種類との関係
典型契約
片務契約・双務契約
無償契約・有償契約
諾成契約・要物契約
債務の種類

与える債務となす・なさない債務

引渡債務






金銭債務
物の引渡債務
なす債務
さない債務
結果債務と手段債務
参考資料



CISG
UNIDROIT原則
特定融資枠契約法
2
契約の種類と債務の種類
との関係(フランス民法)

フランス民法1101条


フランス民法1136条


与える債務には,物を引き渡す債務及びその引渡に至るまで物を保存
する債務が含まれる。この義務に違反した場合には,債務者は債権者
に対して損害を賠償する責任を負う。
フランス民法1142条


契約とは,一人若しくは複数人が,他の一人又は複数人に対し,ある物
を与える債務,あることをなす債務又はあることをなさない債務を負う合
意である。
債務者側の不履行の場合には,なす債務,または,なさない債務は,す
べて損害賠償に転化する。
フランス民法1143条

前条の規定にもかかわらず,債権者は,約束に違反してなされた物に
対して,次の各号のいずれかを請求する権利を有する。ただし,損害賠
償の請求を妨げない。
一 その物を取り壊すこと
二 債務者の費用でその物を取り壊すことの許可
3
契約(典型契約)の種類
契約の目的
契約の性質
無償
財産権の 財産権の移転のほか,
金銭
移転
目的物の引渡・保存を含む 有償
物
代替物の返還が必要
物の利用(使用・収益)
その他
労務の利用
物・労務の利用の結合
紛争の解決
契約の名称
贈与
売買
交換
無償,有償
消費貸借
無償
使用貸借
有償
賃貸借
有償
雇傭
有償
請負
無償,有償
委任
無償,有償
寄託
有償
組合
有償
終身定期金
有償
和解
4
契約の分類とその意味

典型契約と非典型契約



無償契約と有償契約



区別の基準と要物契約の処遇
危険負担・解除
諾成契約と要物契約,そして要式契約




担保責任の有無の基準
片務契約と双務契約


契約自由の原則とその制限
契約の目的と性質に基づく分類の効用
強制履行との関係
使用貸借と賃貸借との比較,贈与と売買のとの比較
諾成消費貸借契約の可能性と将来の課題
一時的契約と継続的契約

解約告知・中途解除
贈与
無償,片務
売買
有償,双務
交換
有償,双務
消費貸借
無償・有償,片務
使用貸借
無償,片務
賃貸借
有償,双務
雇傭
有償,双務
請負
有償,双務
委任
無償・片務
有償・双務
寄託
無償・片務
有償・双務
組合
有償・双務
終身定期金
有償・双務
和解
有償・双務
5
諾成契約と要物契約
との比較
契約の種類
無償
有償
贈与
財産権移転
書面によらない契約
書面による契約
目的物の引渡までは
取消可能
合意のみで成立
無償・消費貸借
目的物の引渡までは契約不成立
使用貸借
特定物の利用
労務の利用
目的物の引渡までは契約不成立
無償・寄託
物の引渡までは契約不成立
売買・交換
合意のみで
契約成立
有償・消費貸借
左に同じ
賃貸借
合意のみで
契約成立
有償・寄託
左に同じ
6
要物契約の廃止(私案)
契約の種類
無償
有償
贈与
財産権移転
その他
書面によらない契約
目的物の引渡
までは取消可能
書面による契約
合意のみで成立
売買・交換
合意のみで
契約成立
無償・消費貸借,使用貸借,無償・寄託 有償・消費貸借
賃貸借
書面によらない契約 書面による契約
有償・寄託
目的物の引渡
までは取消可能
合意のみで成立
合意のみで
契約成立
7
有償契約と無償契約の原則

有償契約

第559条〔有償契約一般への準用〕


本節ノ規定ハ売買以外ノ有償契約ニ之ヲ準用ス但其契約ノ性質
カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス
無償契約

第551条〔贈与者の担保責任〕



①贈与者ハ贈与ノ目的タル物又ハ権利ノ瑕疵又ハ欠缺ニ付キ
其責ニ任セス但贈与者カ其瑕疵又ハ欠缺ヲ知リテ之ヲ受贈者ニ
告ケサリシトキハ此限ニ在ラス
②負担附贈与ニ付テハ贈与者ハ其負担ノ限度ニ於テ売主ト同シ
ク担保ノ責ニ任ス
第596条〔使用貸借の貸主の担保責任〕

第五百五十一条〔贈与者の担保責任〕ノ規定ハ使用貸借ニ之ヲ
準用ス
8
練習問題3-1
(典型契約の目的による分類)



(1) 民法が規定する13の典型契約
について,契約の目的と性質とをす
べて述べなさい。
(2) 契約の目的が特定物の使用・収
益であり,その性質が無償である契
約の名称を答えなさい。
(3) コインロッカーに物を預ける契約,
クリーニング契約は,それぞれ,13
の契約類型のうちどの契約に分類さ
れるかを答えなさい。
贈与
売買
交換
消費貸借
使用貸借
賃貸借
雇傭
請負
委任
寄託
組合
終身定期金
和解
9
練習問題3-2
(契約の分類と要物契約)





(1) 典型契約のうち,要物契約を列挙しな
さい。
(2) 無償契約を列挙しなさい。
(3) 有償契約を列挙し,そのうち,片務契約
であるものを選びなさい。
(4) 要物契約のうち,有償契約であるもの
を列挙し,それが要物契約であるべき理由
が存在するかどうか考察しなさい。
(5) 有償・諾成の消費貸借契約を創設した
法律名と,契約の名称を調べて答えなさい。
贈与
売買
交換
消費貸借
使用貸借
賃貸借
雇傭
請負
委任
寄託
組合
終身定期金
和解
10
債務の種類と分類の視点
視点
起源
債務の種類
明示の債務
当事者の合意から生じる
黙示の債務
(1) 契約の目的・性質,(2) 当事者間
の慣行・慣習,(3) 信義則・相当性から
生じる
与える債務
執行
証明
説明
金銭債務
最も執行しやすい
物の引渡債務
比較的執行が容易
なす・なさない債務
執行が困難: 不履行の場合には,
原則として損害賠償責任に転化する
結果債務
債務者が帰責事由のないことを証明
手段債務(最善の努力債務)
債権者が帰責事由を証明する
11
与える債務となす・
なさない債務

与える債務となす・なさない債務の区別の意味


「与える債務(Obligation de donner)」と「なす債務・
なさない債務(Obligation de faire ou de ne pas
faire)」との区別は,強制履行の方法の差異を説明す
るために我妻(「作為又は不作為を目的とする債権の
強制執行」『民法研究Ⅴ』有斐閣(1966)所収)によっ
て導入された分類である。
これは,フランス民法上,契約から生じる債務に関す
る最も基本的な分類(フランス民法1101条,1136条
以下,1142条以下)に依拠したものであるとされてい
る(平井宜雄『債権法総論』〔第2版〕弘文堂(1994)15
頁参照)。
12
フランスにおける契約分類と
与える債務の位置づけ

フランス民法1101条(契約から生じる債務の種
類:与える債務,なす・なさない債務)


契約とは,一人若しくは複数人が,他の一人又は複
数人に対し,ある物を与える債務,あることをなす債
務又はあることをなさない債務を負う合意である。
フランス民法1136条(与える債務の目的)

与える債務には,物を引き渡す債務及びその引渡に
至るまで物を保存する債務が含まれる。この義務に
違反した場合には,債務者は債権者に対して損害を
賠償する責任を負う。
13
フランスにおけるなす債務,
なさない債務と強制履行

フランス民法1142条(なす債務・なさない債務の
不履行の場合の原則)


債務者側の不履行の場合には,なす債務,または,
なさない債務は,すべて損害賠償に転化する。
フランス民法1143条(なさない債務の不履行の
場合の例外)

前条の規定にもかかわらず,債権者は,約束に違反
してなされた物に対して,次の各号のいずれかを請求
する権利を有する。ただし,損害賠償の請求を妨げな
い。
一 その物を取り壊すこと
二 債務者の費用でその物を取り壊すことの許可
14
フランス民法を考慮した
債務の分類
債務の種類
与える債務
債務の目的
日本民法との対比
財産権移転債務
民法400条,401条
+物の引渡債務
民法402条~405条
+物の保存債務
なす・ なす債務 作為債務
なさない なさない
不作為債務
債務
債務
民法414条2項
民法414条3項
15
強制執行の難易に基づいた
債務の分類
債務の種類
金銭債務
作
為
債
務
引
特定物の
渡 物の
債 引渡 引渡債務
務 債務 種類物の
引渡債務
民法
民事執行法
402条~405条 43条~167条
400条
168条~170条
401条
-
行為債務(引渡以外の
民法414条2項
作為債務)
171条~173条
不作為債務
民法414条3項
16
与える債務と
引渡債務との関係

与える債務(財産権移転債務)

引渡義務




動産・不動産の引渡債務
金銭債務(代金支払債務)
保存義務
なす・なさない債務

なす債務

引渡債務(消費貸借,使用貸借,賃貸借,請負,寄託)




貸金返還債務
動産・不動産の引渡・返還債務
引渡債務以外のなす債務(作為債務)
なさない債務
17
結果債務と手段の債務

UNIDROIT Article 5.4 - 特定の結果の到達義
務(結果債務),最善の努力義務(手段債務)


(1) 当事者の債務が,特定の結果を達成する債務と
かかわる場合には,その限りにおいて,その当事者
は,その結果を達成するように義務づけられる。
(2) 当事者の債務が,ある行為の履行につき,最善
の努力をする債務とかかわる場合には,その限りに
おいて,その当事者は,同種の合理的人間が同じ状
況において為すであろう努力をするように義務づけら
れる。
18
結果債務と手段債務の
区別の基準

UNIDROIT Article 5.5 - 関連する義務の種類(結
果債務か手段債務か)の決定

当事者の債務が,どの程度まで,行為の履行における
最善の努力債務または特定の結果の達成債務とかか
わるのかを決定するに際しては,とりわけ,以下の各号
の要素が考慮されなければならない。




(a) 契約の中でその債務がどのように表示されているか
(b) 契約の価格,および,価格以外の契約条項
(c) 期待されている結果を達成する上で通常見込まれるリスク
の程度
(d) 相手方がその債務の履行に対して及ぼしうる影響力
19
結果債務と手段の債務の
証明責任
債務不履行
帰責事由
結果の不履行
注意義務の懈怠
結果債務
債務者が過失の
債権者が証明
不存在を証明
最善の努力債務 最善の努力義務の
懈怠
手段債務 の不履行
債権者が最善の努力を怠ったことを証明
20
練習問題5
債務の種類

引渡債務は,与える債務か,なす債務か?


エステ契約において,痩身契約は結果債務
か手段債務か?


→与える債務と引渡債務との関係
→結果債務と手段債務の区別の基準
エステ契約において,永久脱毛契約は結果
債務か手段債務か?

→結果債務と手段債務の区別の基準
21
参考資料




CISG(国連国際動産売買条約)
UNIDROIT国際商事契約法原則
特定融資枠契約に関する法律
製造物責任法 第2条
22
CISG:
国連国際動産売買条約





国連国際動産売買条約(CISG: United Nations Convention on
Contracts for the International Sales of Goods)の略。
1966年に発足した国連国際商取引法委員会(UNCITRAL: United
Nations Commission on International Trade Law)によって,1978年
に草案が起草され,ウィーンで開かれた62カ国が出席する外交会議で,
1980年4月10日に採択された。
国連国際動産売買条約(CISG)は,1980年にウィーンで採択されたため,
「ウィーン統一売買法」とか「ウィーン売買条約」とも呼ばれている。
この条約は,1988年1月1日に発効し,現在,加盟国は,アメリカ合衆国,
ドイツ,フランス,カナダ,イタリア等の先進諸国,ロシア,中国等の社会
主義諸国,開発途上国を含め,52カ国となっている。先進諸国の中で
まだ加盟していないのは,イギリスと日本のみである。
この条約は,これまで不可能とされていた大陸法と英米法との私法の
融合を売買契約について初めて実現した画期的なものであり,各国の
民法改正,例えば,ドイツの債務法改正に大きな影響を与えている。
23
UNIDROIT Principles:ユニ
ドロワ国際商事契約法原則



1926年に国際連盟の一機関として設立され,1930年4月か
ら,国際売買に関する法の統一を推進してきた私法統一国
際協会(UNIDROIT: International Institute for the
Unification of Private Law;Institut international pour
l‘unification du droit prive)が作成した国際商事契約原則
(UNIDROIT Principles for International Commercial
Contracts,1994)の略(PICCとも略す)。
なお,私法統一国際協会(UNIDROIT)は,1940年にユニドロ
ワ法(政府間協定)によって,独立の組織としてローマで再設
立され,現在,イタリア,日本を含めて57の加盟国によって支
えられている。
ユニドロワ原則は,CISGと異なり,正規の条約ではないが,
CISGがカバーしていない売買以外の契約全般および契約の
有効・無効について体系的な規定を持つため,CISGを補うも
のとして,国際商事仲裁を中心に広く利用されている。
24
特定融資枠契約に
関する法律

(目的)


(定義)


第1条 この法律は、特定融資枠契約に係る手数料について利息制限法
(昭和29年法律第100号)及び出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに
関する法律(昭和29年法律第195号)の特例を定めることにより、企業の資
金調達の機動性の増大を図り、もって国民経済の健全な発展に資すること
を目的とする。
第2条 この法律において「特定融資枠契約」とは、一定の期間及び融資の
極度額の限度内において、当事者の一方の意思表示により当事者間にお
いて当事者の一方を借主として金銭を目的とする消費貸借を成立させるこ
とができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに
対して手数料を支払うことを約する契約であって、意思表示により借主とな
る当事者の一方が契約を締結する時に株式会社の監査等に関する商法の
特例に関する法律(昭和49年法律第22号)第2条に規定する株式会社であ
るものをいう。
(利息制限法等の適用除外)

第3条 利息制限法第3条及び出資の受入れ、預り金及び金利等の取締り
に関する法律第5条第6項の規定は、特定融資枠契約に係る前条の手数料
については、適用しない。
25
製造物責任法における
「欠陥」の定義

製造物責任法 第2条(定義)


①この法律において「製造物」とは、製造又は加工さ
れた動産をいう。
②この法律において「欠陥」とは、





当該製造物の特性、
その通常予見される使用形態、
その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期
その他の当該製造物に係る事情
を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠
いていることをいう。
26