日本のジオパークにおける「地球科学」 ー多変量解析

日本のジオパークにおける「地球科学」
ー多変量解析法に基づく検討ー
地学雑誌 Journal of geography 124(1) 31~41 2015
尾方隆幸
紹介者 内藤美里
はじめに
ジオパークとは
地球科学的遺産を保護・保全しそれを学校教育・生涯教育に活かしたうえで,持続的な地域振
興を図ることを使命とし,地球活動を理解するためのひとつのシステムになっている。
これにより,地球科学のすべての分野がジオパークに関係していることがわかる。
ジオパークが健全に発展しているか否かを学会の側から評価するうえでジオパークにおいて
地球科学がどのように扱われているかを調査することは最重要課題の一つである。
本研究では,日本ジオパークネットワーク(JGN)ウェブサイトのテキスト分析と,得られたデータ
の多変量解析によって,日本のジオパークがどの地球科学のどの分野をどの程度の分量で
テーマにしているのか明らかにすることを目的とする。
解析方法
JGNのwebサイトの中のコンテンツのうち,「各地のジオパーク」の中の,「主な見どころ・おすす
めジオサイト」の項目に書いてある各ジオパークのテキストを用いた。
また,本研究での解析の対象となるのは,2013年10月30日の時点でJGNWebサイトにUPされ
ていた25地域である。(2012年以前に認定されたすべてのジオパークに相当)
尚,本研究では「ジオパーク」=「分析対象の25地域」「日本ジオパーク」=「ジオパークの中か
ら世界ジオパークの6地域を除いた19地域」を指すものとする。
テキスト分析
① テキストデータに対して属性コードをつける(コーティング)
② コーティングされたテキストデータを上位の階層に分類しまとめる(カテゴライズ)
という2工程で行う。
本研究では,コーティングでは単語レベル,カテゴライズは文レベルで行った。
テキスト分析の例
「石灰岩の化学的風化によってカルスト地形が形成されている」という記述のうち
石灰岩→「岩石」のコード
化学的風化,カルスト地形→「地形」のコード
※ただし,内容を的確にとらえるために文脈を読みながら個別に用語とコードを対応させるよう
に判断した
カテゴライズ
地球科学を構成する大きな領域として,日本地球惑星科学連合(JpGU)の設定している5つのサイエンスセ
クションを用いた。
「宇宙惑星科学」「大気水圏科学」「地球人間圏科学」「固体地球科学」「地球生命学」
の5領域である。
これはそれぞれ
気象関連 → 大気水圏科学
地理学関連 → 地球人間圏科学
地質学関連 → 固体地球科学
古生物学関連 → 地球生命科学
のように学問分野をふりわけている。
データ解析
解析対象の25地域のジオパークについて,学問領域ごとのテキストの比率より,特化係数を算
出した。
ここから,ジオパークごとに各領域の比率を1/0.2したものを特化係数とし,先ほどの5領域の
比率がどのくらい特化しているのかを求めた。
また,各領域の比率を変数とするクラスター分析を行い,テーマから見たジオパークの類型化
を試みた。
(Ward法を採用。変数の単位が均一であるためデータの標準化は行わず,非類似度として
ユーグリット距離を導いた。
解析結果
学問領域ごとの比率
上から6地域→世界ジオパーク
高い順に
固体地球科学(0.54),地球人間圏科学(0.42),大気
水圏科学(0.03),地球生命科学(0.01),宇宙惑星科
学(0.00)
その下の19地域→日本ジオパーク
高い順に
固体地球科学(0.55),地球人間圏科学(0.33),大気
水圏科学(0.06),地球生命科学(0.05),宇宙惑星科
学(0.01)
ほぼ同じ傾向に!
データ解析からわかること
これらのデータは,日本のジオパークのテーマが
「固体地球科学」及び「地球人間圏科学」であるということがわかる。
ジオパークごとにみると,
「固体地球科学または地球人間圏科学のいずれかに特化している」
又は
「固体地球科学及び地球人間圏科学のいずれもが大きな比率を占めるところ」
がある。
これは逆に言ってしまえば,
それ以外の領域に乏しい
学問領域ごとの特化係数
世界ジオパークと日本ジオパークの特化係数をレーダーチャートに示した
世界ジオパーク
洞爺湖有珠山と島原半島→「固体地球科学」(2.91,3.39)
糸魚川と山陰海岸→「地球人間圏科学」(2.59,2.99)
にそれぞれ特化している。
2008~2010年にJGN加盟した日本ジオパーク
アポイ岳(2.88),白滝(3.62),伊豆大島(3.89),霧島(3.62)
→「固体地球科学」
天草御所浦(3.73)
→「地球生命科学」
2011年にJGNに加盟した日本ジオパーク
男鹿半島・大潟(3.64),茨城県北(2.70),下仁田(4.11)
→固体地球科学
磐梯山(2.64),秩父(2.53),白山手取川(2.56)
→地球人間圏科学
2012年にJGN加盟した日本ジオパーク
伊豆半島(3.44)→固体地球科学
八峰白神(2.67),ゆざわ(2.55),箱根(2.71)
→地球人間圏科学
に特化している
以上から,分析したジオパークのうち19地域は,いずれかの領域に特化す
る傾向にあり,「固体地球科学」を中心にする10地域と,「地球人間圏科学」
を中心とする8地域がほとんどを占めている。
また,JGN加盟の時期から見ると,主なテーマが「固体地球科学」から「地球
人間圏科学」にシフトしていっている傾向がみられる。
ほとんどのジオパークでメインテーマとなっているこの二つのテーマ以外の
テーマは,扱われていないジオパークもあった。
扱われていたものは
「大気水圏科学(16地域)」「地球生命科学(10地域)」「宇宙惑星科学(1地域)」
クラスター分析
各領域の比率を変数とする階層的クラスター分析を行い,デンドログラムを作成
距離0.5の位置で切る→5類型にまとめられる
1.0の位置で切る→3類型にまとめられる
「地質・地理型」
やや特化したタイプ
「地質型」→島原半島,霧島,白滝,伊豆半島,男鹿半島,下仁田の7か所。
「古生物型」→天草御所浦
地理・地質型
地理・地質・気象型
考察
・日本のジオパークでは「固体地球科学」と「地球人間圏科学」に関連するテーマが主に扱われ
ている。
・地質学及び地理学のトピックが主体であった。(時系列から見ると地質学→地質・地理学にシ
フトしている)
これらの結果は日本のジオパークが発展してきた流れと調和している。
→マスコミ報道等により「地質公園」の誤訳が広まったのを,ジオパーク関係者が「大地の公
園」と訂正してきた経緯が結果によく表れている。
しかし,日本のジオパークのメインテーマであるこの「地質・地理学」のトピックスは科学性を保
ちながら結びつけるのはたやすくない。
日本のジオパークにおける問題点
本研究で分析対象としたJGNのテキストを見てみると,生態,文化的トピックスを強引に結び付けて,「ジオス
トーリー」としている傾向がある。
→「地球科学の誤解」が発生している
この誤解の原因
「日本のジオパークが行政主導で進んでいること」
2014年5月時点でJGN会員は33地域ある→その中の32地域は市町村長が運営組織長を兼任,運営は自治体
の観光関連部署におかれることが多い。
このような行政主導のジオパークでは,予算を管理している自治体への権力集中が起こりやすい
行政主導に特徴付けられる日本のジオパークシステムには,学術的な正確性への不不安要素の他にも,地
域振興への偏重,ジオコンサベーションの軽視につながりやすい。
質の高い教育研究活動を欠かさずジオコンサベーションの思想を忘れないためにも,今一度ジオパークの原
点に立ち返り,地球科学の専門家が適切にかかわるシステムを考える必要がある。
まとめ
・日本のジオパークにおける地球科学のあつかいについて,日本のジオパークでは主なテーマ
として地質学を中心とした「固体地球科学」および地理学を中心とした「地球人間圏科学」がほ
とんどで,他はわずかしかない
・時系列でみると,地質学→地質・地理学へシフトしてきている
・クラスター分析によると,「地質・地理型(4)」「地質型(7)」「古生物型(1)」「地理・地質型(9)」「地
理・地質・気象型(4)」が抽出されたがどれも羅列的でジオストーリーの構築が困難である
・ジオパークにおいて地球科学をシームレスに捉えるには分野横断的な地球科学のアウトリー
チが必要である