研 修 技術発表 会 脆弱な試料の HRTEM観察用試料製作 技術センター 理学部等部門 石佐古早実 大学院理学研究科 宮原 正明 はじめに 高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)は,層状珪酸塩鉱物の結晶構造 の解明に非常に大きな能力を発揮している。 HRTEM観察を行う場合 3㎜ 観察する試料の厚さは,100nm以下 の超薄膜とする必要がある。 超薄膜を製作するためには 試 料 まず試料の岩石薄片を製作し,その薄片 から剥がした試料を超薄膜化する。 グリッド 100nm以下 断面図 一般に層状珪酸塩鉱物は加水や加熱の影響によりその結晶構造が 変化しやすく,これらを含む試料は脆弱であるため,それを超薄膜化す ることは容易ではない。 岩石薄片とは? 岩石または鉱物をスライドグラスの上に固定し,研磨して薄膜化した もので,試料の厚さは普通0.02~0.03mmが標準とされている。 岩石試料 接着剤 スライドグラス 岩石の組織,岩石中の鉱物の 種類,岩石中の微細な化石な どを偏光顕微鏡で調べる。 偏光顕微鏡写真 基本的な薄片製作の工程 試料から薄片製作用試料の切出し 試料の研磨 研磨剤(カーボランダム) 試料 薄片製作用試料 試料をスライドグラスへ接着 接着剤 試料の二次切断 試料の研磨(薄膜化) 研磨剤(カーボランダム) 試料の乾燥 ホットプレート 試料の鏡面研磨 ダイヤモンドペースト 3μm・1μm 製作に要する時間は,岩石や鉱物の種類によって違う 花崗岩で3時間程度かかる 我々の手法と従来の手法のメリット・デメリット 1.脆弱試料の含浸強化(補強) 従来の手法 ⇒ 試料の含浸強化は不十分 我々の手法 ⇒ 試料の含浸強化は十分 2.加熱しながら試料とスライドグラスを接着・引き剥がし 従来の手法 ⇒ 試料がダメージを受ける(加熱:110~120℃) 我々の手法 ⇒ 試料へのダメージを最小限に抑えられる(加熱:約70℃) 3.グリッドを引き剥がした後の薄片 従来の手法 ⇒ 薄膜化した試料全てを引き剥がした後,グリッドを接着 するため,再利用できない 我々の手法 ⇒ グリッドを接着した箇所の み引き剥がせるため,再 利用できる 実験試料 風化した緑色岩 10秒後 30秒後 水に浸すと壊れる 試料への補強が必要 接着・補強用材料 市販のエポキシ系樹脂,ワックス及びエポキシ系接着剤を用いた。 エポキシ系樹脂 ワックス 常温硬化 融 点:76℃ エポキシ系接着剤 常温硬化 エポセット(㈱マルトー) スカイワックス415 (㈱マルトー) アラルダイト・スタンダード (㈱ニチバン) エポキシ系樹脂 ワックス エポキシ系接着剤 製 作 工 程 開 始 試料の乾燥 試料が壊れないようにアルミ 箔で保護し,乾燥機(約30℃) で1週間程度乾燥させる。 従来の手法 我々の手法 希釈したエポキシ系 樹脂(エポセット) エポキシ・ポリエス テル系樹脂原液 カップ 試料の含浸強化 樹 脂 試 料 少し温め,そのカップを真 空中に置くが,樹脂の粘 性度は十分に低くなく,試 料内部までに浸透しない シアノアクリレート系 接着剤(瞬間接着剤) 試料に含まれる水と反応し 直ぐに硬化してしまい,表面 から1㎜程度しか浸透しない 試料の含浸強化は不十分 希釈した樹脂が浸透 した部分 粘性度を低下させるために, エポキシ系樹脂をエタノール で希釈し,試料が吸収しなく なるまで滴下することで,十 分に浸透する 利点1 試料の含浸強化は十分 ダイヤモンドカッターで薄片 製作用試料の切り出し 試料の研磨・鏡面研磨 従来の手法 バルサム 110~120℃の ホットプレート上 我々の手法 ワックス 約70℃のホット プレート上 加熱しながら試料とス ライドグラスを接着 利点2 加熱によるダメージ 48㎜ 接着した試料をダイヤモン ドカッターで約1㎜の厚さに 切断した後 試料を薄膜化・鏡面研磨 ⇒ 薄片 試料を100℃以上に加 熱する必要はなく,加 熱によるダメージは最 小限 ワックスの接着力はバ ルサムより弱いが,薄 片の製作には十分な 強度がある 顕微鏡観察・EPMA分析 HRTEM観察を行う領 域を薄片内から選択 観察対象領域 0.3㎜ 従来の手法 我々の手法 従来の手法 我々の手法 グリッドを選択した領域に接着 薄片を加熱しながら試料全 てをスライドグラスから剥離 グリッドの周りに切り込みを入れる グリッドを選択した領域に接着 接着したグリッドを加熱しながらス ライドグラスから引き剥がす 約70℃の温水中 グリッドの切り出し 110~120℃のホットプレート上 加熱によるダメージ 薄片は再利用不可能 3mm 利点2 加熱によるダメージは最小限 利点3 必要な部分のみを引き剥がすことが できるので,その薄片は再利用可能 グリッド直径:3㎜ 熱水変質した泥質片岩 風化した緑色岩 (再度グリッドを接着した状態) 従来の手法 我々の手法 Arイオンミリング Moグリッド Ar+ 試 料 グリッド 回転ステージ Ar + 真空中 超薄膜試料の完成 100nm以下 断面図 HRTEM観察 HRTEM観察写真 白く細い縞の間隔は約1.4nm ま と め 希釈したエポキシ系樹脂及びワックスを用いる手法 脆弱な試料の薄片を製作し,その薄片からHRTEM 観察用の超薄膜を得ることができた。 我々の手法の利点 1. 脆弱試料の十分な含浸強化が行える。 2. 加熱による試料へのダメージを最小限に抑えることがで きる。 3. 必要な部分のみを薄片から取り出すことができる。 ありがとうご ざいました
© Copyright 2024 ExpyDoc