Document

横内 園子
Prière(祈り)
ああ、たったひとりで家庭もなく暮らすことが
どんなにわびしいかご存じなら、
あなたはときには私の住居の前を
お通りにもなるでしょうに。
澄んだまなざしが寂しい心の中に
何を生み出すか、ご存じなら
あなたはたまたま偶然のように
私の窓辺に目を向けてもくださるでしょうに!
ひとりの心の存在が
心にどんな慰めをもたらすかご存じなら
あなたは私の戸口に
姉妹のように腰をかけてもくださるでしょうに。
私があなたを愛していることを
とくに、どんなに愛しているかをご存じなら、
※あなたはおそらく真直ぐに
入ってきてくださるでしょうに!
(※部分、くり返し)
Viens! Les gazons sont verts !
(おいで!芝生は緑だ!)
眠っているのかい、娘さん
お日様はもう起きてるよ!
おまえのまなこから
怠惰な眠気を追い払いなさい!
もう起床の時間ですよ!
(くり返し)
元気を出して、おとなしくついておいで!
素足のまま、おいで!芝生は緑だ!
せせらぐ小川は
ひと気ない森を通り、
明るいさざ波をさまよわせている。
おいで、芝生は緑だ!
(くり返し)
Où voulez-vous aller? (どこへ行きたいの?)
※ねぇ、美しい娘さん
どこへ行きたいの?
帆は翼をひろげ
そよ風が吹こうとしている。
(一行くり返し)
櫂は象牙で
旗は波形織
舵は極上純金づくり
積荷はたったオレンジ一個
帆には天使の翼をはって
見習い水夫は熾天使。
(※部分、くり返し)
Charles Gounod
目指すところはバルト海
太平洋か
ジャワ島か
それとも北はノルウェーに
雪割草かアンソカの
花摘み行と洒落のようか?
(※部分、くり返し)
<連れてって>と娘は言う。
<いつも変わらず愛し合う
誠実な愛の岸辺へ>
<そんな岸辺は、いとしいひとよ、
とんと聞いたためしがないね
恋人たちの国中で>
(※部分、くり返し)
岡田 理恵子
Shéhérazad(シェエラザード)
La flûte enchantée (魔法の笛)
日陰の心地よさ、私の主人は眠っている
絹の円錐形の縁なし帽子をかぶり、
黄色い長い鼻を白い頬髭に埋めて。
だが、私はずっと目覚めたまま、
家の外の、笛の歌に耳をすませる
それは喜びや悲しみを
かわるがわるに伝えてくれるもの、
物憂げと軽やかさが交々に入りまじる調
吹いているのは愛する私の恋人
開き窓に近付くと、
音の一つ一つが
笛から私の頬へと飛んでくる感じ
まるで神秘な接吻のように。
Cinq Mélodies Populaires Grecques(5つのギリシャ民謡)
Le Rével de la mariée(花嫁の目覚め)
さあ、起きて、起きるんだよ、可愛い山鶉、
朝だよ、お前の翼を開くんだ。
三つの黒子、それが僕の心を燃えたたせる。
リボンをごらん、お前の髪を結ぶために
僕が持ってきた金色のリボンを。
ねえ、よかったら結婚しようよ。
2つの家族の、みんなが1つに結ばれる。
Là-bas, vers l’église(向こうの教会へ)
向こうの教会へ
聖シデロ教会へ
教会へ、おお、聖母さま、
聖コンスタンディーノの教会へ、
数えきれない群をなして集まってきました、
おお、聖母さま! この世で
この世で最も律儀な者たちが!
Quel galant m’est comparable?(私と較べられる伊達男は誰?)
私と較べられる伊達男は誰?
あの通りすぎていく連中のなかで、
ねえ、ヴァシリキの奥さん?
見てくれ、腰に吊るし、ぶらさげている
このピストルと鋭い剣を…
俺が惚れているのはお前さんだよ!
Chanson des cueilleuses de lentisques(乳香樹を摘む女たちの歌)
おお、わが魂の喜び
わが心の喜び、かくも貴重な私の宝よ。
魂と心の喜び
激しく私が愛しているお前
お前は天使よりも、もっともっと美しい。
おお、お前が姿をみせると、世にも優しい天使よ、
われらの眼の前の世にも優しい天使よ、
明るい太陽に照らされた、
美しいブロンドの天使さながら、
悲しいかな、哀れな私たちの心は、すべて溜息をつく!
Tout gai(愉快だ!)
何と楽しい、楽しい、ああ、何と楽しい、
何と楽しい、ああ、何と楽しい!
踊る美しい脚よ、ティルリ!
美しい脚よ、食器も踊る
トラ・ラ・ラ…
Maurice Ravel
神田 沙央理
Shéhérazade(シェエラザード)
Asie
(カラスとキツネ)
<教訓: 心にもない、うまいことを言う人に気をつけること。>
カラスの旦那、枝にとまりくちばしにチーズを銜えていた。
キツネの旦那は、その匂いにつられてまぁこんなことを言った。
「これはこれは、カラスの旦那。何と立派で、何とお美しくみえることでしょう!嘘偽りなしに、もしあなたのさえずりがあ
なたの羽毛のように美しかったら、あなたは森の主の不死鳥でありましょう。」
こんな言葉にカラスが有頂天にならないわけがなく、美しい声を聞かせるために大きくくちばしを開けたので、チーズは
落ちてしまった。キツネはそれを摑んで言った。
「よいですかな、あなたは知ることです、おべっか遣いのいうことを真に受ける者は、食い物にされるのがオチなのです。
この教訓はチーズひとかけの価値はありますぞ、疑いなく。はっはっは」
カラスは恥じて、取り乱して誓いましたとさ『もうその手は食わんぞ』と。ちょっと遅すぎましたがね…
Asie
(アリとセミ)
<教訓:人は余力のある時に、将来に備えた仕事をしておくことが大切である。>
夏の間ずっと歌っていたセミさん。北風が吹いてきたのに食べ物はすっからかん。ハエやミミズのひとかけらもないこと
に気がついた。そこで、隣に住むアリさんのところに飢餓を訴えに行った。春まで命をつなぐために麦を少し貸してくだ
さいと。
「動物の名誉にかけて誓いましょう、夏までにお返しします。元金と利子も付けてね。」
アリさんは貸屋さんじゃないが、それが欠点ってほどでもない。
『夏の間いったい何してたんだい』
「夜も昼も皆さんの為に歌っていました。失礼ながらね。」
『歌ってたって!? そりゃまた結構なことだこと。それじゃ今度は踊ってみたらどうかね?』
Asie
(オオカミと子ヒツジ)
<教訓: 悪事を働こうとする者は、いつもなにかしら口実をみつけるものだ。>
~強いものの言い分がいつも正しい。さて、その例えをお見せしましょう~
一頭の子ヒツジが澄んだ水の流れで喉の渇きを癒していた。そこへ腹が減ってひもじいオオカミがやって来た。
「俺様の飲み水を濁すとはなんという生意気なやつ!懲らしめてやる」
怒りを込めてオオカミが言うと、子ヒツジは震えあがって答えた。
『オ、オ、オオカミ様、怒らないで下さいまし。私はあなた様から20歩も川下で水を飲んでいます。水を濁
すなんてことはとてもできません!』
「お前は濁した!それに知っているぞ!お前は去年俺様の悪口を言ったな」
脅し続けるオオカミ。
『ど、ど、どうしてそんなことができましょう?私はまだ生まれてなかったのに。今だってまだお母さんのお乳を
飲んでるんです』
「お前じゃなけりゃお前の兄貴のほうだ」
『兄はおりません』
「それじゃ親戚の誰かだ!お前らも羊飼いも犬どもも俺様を少しも敬わない。この仕返しはせにゃならん!」
そう言うと、オオカミは森の奥へ子ヒツジを連れて行き、そして食べてしまった。正規の裁判もせずにね。