情報科教育法第6回 情報活用の実践力とは何か-その1ー 理学部 数学科 清 水 克 彦 普通教科「情報」では、どのような力を育 成するのか ア 情報活用の実践力 イ 情報の科学的な理解 ウ 情報社会に参画する態度 これらが「体系的な情報教育の実施にむけて」の なかで情報教育の目的とされた。 情報A,B,Cと育成する力(再掲) 情報A 情報C 情報社会に参画する 態度を付ける方向 情報活用の実践力 をつける方向 情報B 情報の科学的な理 解を深める方向 「社会と情報」と「情報の科学」(再掲) 情報の科学 情報の科学的な理解 を深める情報教育 を情 つ報 け活 る用 情 の 社会と情報 報実 教践 育力 情報社会に参画する態 度を付ける情報教育 情報活用の実践力とは 「課題や目的に応じて情報手段を適切に活用 することを含めて、必要な情報を主体的に収 集・判断・表現・処理・創造し、受けての状況な どを踏まえて発信・伝達できる能力」(3つの部 分よりなる) 単に、コンピュータや情報通信ネットワークが使 えるということではない。 「自ら学び、自ら考える力」に関連(教育課程の 基準の改訂のねらい) 情報を扱うときの一連の活動 情報を主体的に収集・判断・表現・処理・ 創造し 「集める」、「選ぶ」、「まとめて表す」、 「様々な形態で整理する・加工する」、「新 しい情報を生み出す」という一連のプロセ ス これをもとに「受けての状況を踏まえて、 発信・伝達する」ことが行われる。 情報活用の実践力の下位要素 1)課題・目的に応じて情報手段を適切に活用 すること 2)必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処 理・創造すること 3)受け手の状況を踏まえて発信・伝達すること 情報活用の実践力を養う場としては、調査・分析、計 画・設計、問題解決、評価・改善、発表・報告といった5 つの問題を解決するプロセスが考えられる。 情報活用の実践力を支える基礎技能1 情報機器の活用の基礎技能 コン ピュー タ 分類 内容 ハード ウエア コンピュータの構成と理解、入力・出力・補助 記憶装置などの理解と利用方法 ソフトウ 文書作成、表計算、図形・画像、音声処理、 エア プレゼンテーションなどのソフトの活用、メ ディアの統合と活用方法 情報 インター インターネットの仕組みと理解、電子メール、 通信 ネット Webの活用方法など ネット LAN LANの仕組みと理解、プリンタ、ファイルなど ワーク のサーバの活用方法 情報活用の実践力を支える基礎技能2 メディアの活用 表現メディ ア 情報メディ ア 文字・言語 画像 音、音声 教科書、プリ 漫画、イラス ラジオ、電 ント、書籍、 ト、絵画、写 話、音楽な ど 雑誌、新聞な 真など ど 映像 テレビ、ビデ オ、映画、ア ニメなど これらの情報機器とメディアを目的に応じて、 活用していくことが求められる。 情報科における問題解決の指導 あてずっぽう的な問題解決をするのではなく、 システマティックな問題解決の手順を踏んだ解 決ができるようになること。 問題解決のプロセスのなかで、情報手段を有 効に活用できるようになること。 情報手段を活用したほうが良い場合とそうでな い場合を判断できるようになること。 問題解決の結果を他者に判りやすく示せるよう になること。 トライしてみよう。 問題:自分の勤務する学校のコンピュータ教室が新しく なる。そこで、コンピュータ42台といくつかの周辺機器、 ソフトウエアなどを発注したい。君は、その発注案を作 成し、他の先生方に合意を得なくてはいけない。発注 案をどのようなプロセスを経て、作成すればいいだろう か。 情報科で扱う問題は、何が問題で何が解決になる かを自分で決めなくては行けないill-structured(悪 構造)な問題が多い。 問題解決とは 現在の状態を、なんらかの手段を用いて、 より良い状態にすることである。 よりよい状態 現在の状態 解決手段 「現在の状態」、「解決手段」、「よりよい状 態」の明確さ、具体性・抽象性の度合い によって、様々な問題解決がある コンピュータ教室の問題の「問題」 問題は何か:コンピュータ教室にはどのような 要求があるのか(要求分析:教師、生徒)、発注 の全体の価格はどれくらいか、それでどのよう な周辺機器等が何台必要か、配置はどのよう にするのか。LANの接続はどのようにするのか。 問題とは、条件と帰結、言い換えれば「現在の 状態」と「望ましい条件」、そしてそれに対する 「束縛(守らなくてはならないこと)からなる コンピュータ教室の問題の「解決方法」 コンピュータ等の規格や価格の情報をどのよう に手に入れるか。他校のコンピュータ教室では どうなっているかの情報をどのように手に入れ るか。 コンピュータ等の規格や価格の情報から、何を 基準にして選択するのか 様々な学校のコンピュータ教室の情報をどのよ うに比較するのか。 コンピュータの問題の「よりよい状態」 何をもって、「よい状態」とするのかを、はっきり 出さないと、他の先生に納得してもらえない。 それは数値で示すのか、アンケート等などの結 果などで示すのか、印象などの報告をするの か。 「解決された」ことの基準を示すことが必要。 情報科における問題解決の指導 情報A(1) 情報を活用するための工夫と情報 機器 ア 問題解決の工夫 イ 情報伝達の工 夫 情報B(1) 問題解決とコンピュータの活用 ア 問題解決における手順とコンピュータの活用 イ コンピュータによる情報処理の工夫 情報C(1) 情報のデジタル化 ウ 情報機器を 活用した表現方法 (問題解決は行わないが制 作が行われる) 問題解決には様々なシステマティックな 手順が開発されている G.Polyaの問題解決の4つの相 問題の理解 解法の計画 解決の実行 解決の評価・ 振り返る 問題解決の一般的手順 問題の認識 問題の分析 解決の立案 解決の実施 結果の評価 問題の認識と分析 情報実習室にコンピュータ42台と周辺機器を 導入するとはどういうことか。 下位問題に分けることが必要 コンピュータの機種 周辺機器の種類と台数 LAN接続の構成と回線速度 購入に使用できる予算 プリインストールのソフトの種類 現在の情報実習室で使用継続できるものはあるか など 問題の認識と分析 要求分析も問題認識と分析の一部 現在の情報実習室の問題点、良い点をしる。(現 在の状態の分析) 新しい情報実習室への期待・要求を知る。(よりよ い状態の同定を行う必要がある) 他の学校の情報実習室の様子を知る(比較する モデルを手に入れる) などがある 解決の立案 要求分析を実行する方法として可能な方 法を検討する:アンケート、インタビュー、 ネットでの情報収集、書籍で調べるなど 情報実習室のハードウエア構成を行うと きに可能な方法:数社からの見積もりを 取る、ネットで価格などの動向を調べる、 コンピュータ雑誌などの参照(学研「教育 とコンピュータ」など 要求分析とは 要求の種類を分類し、種類ごとに要求ソフトウエ アなどの開発において仕様書の作成など計画段 階で行われる「科学的プロセス」 要求の分類を多面的に整理する 要求の確認(要求分類に基づいて要求間の関係 を分析することにより、類似性、一貫性、完全性 を確認する。また要求の必要性や実現の可能性 についても明確化する。) 関係者の合意(要求の問題点ごとに適切な関係 者との間で問題点の解消について合意する。) 「イケメン」の要求分析 イケメンを紹介して欲しいと頼んだのに、イケメ ンではなかった。イケメンではあるかもしれない が十分ではなかった。 例えば、次のように分析してみよう。 ・必須(mandatory):鼻が高い、目が大きい、スリムである、 背か高い、外国人のような顔 ・強く望ましい(highly desirable):服のセンスが良い、話し 方がカッコいい、お金を持っていて、ケチではない ・望ましい(desirable):大学生よりは社会人が良い、友達に 自分を紹介してくれる、スポーツをしている ・任意(optional) :清潔感がある、面白い場所を知っている 「解決した」を定義する 提案が了承されるとは:投票?条件があって いれば良い? 提出する案は一つ、それとも複数? 購入され、本当に設置されるまでとするか。 問題解決には似たプロセスが見られる 学校の調べ学習のモデル 制作・創造活動の現場 コンピュータシステムの開発など ウォーターフローモデルとスパイラルモデ ルがある 学校での「調べ学習」のモデル つかむ:問題を設 定する 見通す:計画を立 てる 調べる:調べる・情 報交換 まとめる 話し合う 深め 合う 制作・創造活動の現場 プランニング: シナリオ作成 コンテンツ作成 評価と修正 公開 コンピュータシステムの開発現場 調査分析 要求定義 仕様作成 製作 試験 運用 品質管理(QC)におけるPDS(PDCA)サ イクル Plan-Do-Seeのサイクル Plan-Do-Check-Actのサイクル これらは基本的に、システマティックに行 うために開発された手順である。 サイクルの回し方も、ウォータフロー・モ デルやスパイラル・モデルがある。 ウォータ・フロー・モデル 要求分析・定義 設計 製造(コーディング) テスト 問題点:「大規模な要求仕様をはじめ から決定することは難しい」、「工程間 の後もどりに対する有効なアプローチ を提供できない」、「工程を区切ってい る基準が不明確」 運用・保守 スパイラル・モデル 要求分析・定義 テスト 設計 製造(コーディング) サイクルを回るごとに 問題点が明確になる 運用・保守 手順の改良にも科学的モデルが ある(基本情報試験項目) 作業のスケジュール管理や各作業の関係をわかりや すくするためのPERT (Program Evaluation and Review Technique)図がある。 基本概念 結合点時刻 最早結合点時刻:作業を最も早く始められる時期 最遅結合点時刻:それ以上遅らせると作業に影響する時期 クリティカルパス:余裕のない作業経路のこと、遅れ が許されない ダミー作業:作業の前後関係を表わすために入れら れる線であり、実際の作業はない。 具体例 作 業 名 必要 日数 先行 作業 A 3日 ー B 2日 ー 0 0 C 1日 A D 4日 A E 1日 A F 2日 B、C G 1日 D H 1日 E、F A(3) 3 7 3 7 D(4) 2 4 G(1) 8 8 1 C(1) B(2) 6 E(1) 3 5 F(2) 4 6 5 7 クリティカルパスはA,D,G H(1) どの段階で、どのように情報手段を活用 するかを考える 問題の理解の段階で:インターネットによる情 報収集、などなど 解法の計画の段階で:インターネットによる情 報収集、シミュレーション、などなど 解決の実行の段階で:様々なソフトウエア、など の 解決の評価・振り返りの段階で:?? 問題解決のために利用できるソフトウエア 表計算ソフト(情報整理・シミュレーション・計算な ど) シミュレーションプログラム(仮に実行してみる) Webブラウザ(情報の収集・情報の発信など) データベースソフト(情報の収集・情報の整理など) E-mailソフト(情報の収集など) などなど 具体例: データベースを活用して、通勤の手段について 検討する。 旅行プランをWWWを使って、作成、検討する。 「カンヌ映画祭」について調べ学習を行う。 「ダビンチ・コード」、「天国と地獄」について調べ てみる。 など 問題解決というプロセスについて、 しっかり考えておかなくては、指 導することができないということ を認識しよう。 今回の課題:情報実習室の設計 残りの時間、問題解決の計画まで教室で 行ったら、どこで課題を行ってもかまいま せん。 時間は50分で、5時40分にTAに提出を お願いします。 次回は1限全部を課題に充てます。 次回の作業課題の予告 Plan(問題の理解、解法の計画)ーDo(解決の実行)ーSee (評価)の手順を踏んだ問題解決を実行する。 課題:日帰り旅行を計画しよう。 理科大生の「チープ・リフレッシュ」プチ旅行、12:20出発、18:00 帰着、予算一人あたり3000円、発表はパワーポイントで6シート 以内 どのようなリフレッシュにするかも含めて、問題を明確化する。 どのような情報源や情報手段を活用するか。 要求分析をしよう。課題分析をしよう。どのような方法で旅行計 画を立てるか決めよう。実際に旅行計画を立てよう。グループ の構成員で立てられた計画を評価しよう。 パワーポイントのファイルはメールでTAに提出
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