モデル入門 - 新潟国際情報大学[Niigata

モデル入門
配布資料:チャールズ・A・レイブ,ジェームズ・
G・マーチ(佐藤嘉倫[ほか]訳)『社会科学のた
めのモデル入門』ハーベスト社 1991年
第1章 2~6ページ
大学生として身につける能力
抽象的思考
動物:名詞のない世界に住ん
でいる(らしい)
ヒト 発育と共に抽象的な思考を身につけていく
学問する
具体の地平からの飛翔
抽象的なモデル(理論・命題・仮説・概
念)
行き来すること
具体的な観察(認識)
根を持つこと
例
問題に直面する(具体)
既存の解決方法(抽象)
自分の問題に応用する(具体)
今のところ、開発に
関しては、中国に負
けない(しかし、優秀
な大学生大量に排出
している。それに対し
て日本は…)
既存の解決方法
ない場合
作り出さなければ
ならない!
(大学で訓練を受
けた人間の責任)
抽象的な思考~ヒトは苦手である。
しかし
人間の最大の武器 世界構築能力
学問を身につけると抽象的な世界に留まりがちになる。
新潟国際情報大学の素晴らしさ:実践~抽象的な理
論を社会の構築に用いることを目指す(詳しくは『情報
社会論』で論じます。
モデル
モノ・状
況
具体
観察
目的に応じて一部
の特性に着目し、
モノ・状況が出き
たプロセスを描き
出すこと
抽象
例
知人のネットワークを利用して新潟
でここ3年以内に結婚した人に披露
宴会場と、理想の披露宴会場(もう
一度やり直せるとしたら、どんな式
場が良いか) を調べた
渡辺美和子「カジュアル式はホテル・専門式場に並ぶ
披露宴会場となるのか」2001年度卒業論文
実際の披露宴会場と理想の披露宴会場のクロス表
ホテル
実際
の披
露宴
会場
合計
ホテ
ル
専門
式場
度数
%
度数
%
カジュ 度数
アル %
その 度数
他
%
度数
%
2
22.2%
1
9.1%
理想の披露宴会場
カジュアル 海外・その
専門式場
式
他
5
55.6%
4
5
1
36.4%
45.5%
披露宴な
し
2
22.2%
4
16.0%
14
56.0%
9
100.0%
11
9.1%
100.0%
1
100.0%
2
8.0%
4
100.0%
1
100.0%
25
100.0%
4
100.0%
3
12.0%
合計
2
8.0%
問い(モノ・状況)
観察
実際にカジュアル式を行った人たちは、理
想の式でもカジュアル式を選択している。
これはなぜか?
2002年度の行動科学出席者の皆さんの仮説
・お金・費用の問題(多数)
・忘却説
・結婚の時期(流行説)
・親の意見を聞いて会場を決めたから。
・手間説 ホテルや専門式場は予約等手間がかかる。
・ホテル・専門式場で挙式した人々は。カジュアル式
経験者からカジュアル式がいいと聞いたから
真理表
決定的実験
挙式の時期によって、理想と現実
の一致度が異なるか
お金のないカップルはカジュアル
式を選ぶ
時間のないカップルはカジュアル
式を選ぶ
親の意見を聞いたカップルはカ
ジュアル式を選ぶ
モデル
忘却説 流行説 お金説 意見説
手間説
はい
いいえ
はい
いいえ いいえ
いいえ いいえ はい
いいえ
いいえ
いいえ いいえ いいえ いいえ
はい
いいえ いいえ いいえ はい
いいえ
観察2
時期について
いずれも最近3年間に挙式した人々に聞い
ている。
時期による、実際の結婚式場の違いはありません。
忘却説・流行説はデータに適合的ではない。
お金について
さすがにアンケートでは聞けない。
仮定:一般に年齢が上がると所得が上がる。
お金説が正しければ、若い人ほどカジュアル
式を好む
観察3:なんとカジュアル式を挙げているのは25歳以上のカップ
ルばかり(女性の表は省略)
男性年齢 と 実際の会場 のクロス表
度数
実際の会場
専門式場 カジュアル
ホテル
年齢
合計
24歳
以下
25‐29
歳
30歳
以上
4
4
4
7
3
1
1
1
9
12
4
その他
合計
8
1
15
3
1
26
さらに、お金の問題。料金だけでは決まらない。
ご祝儀~式場の値段に合わせて包む額を変更する。
カジュアル式は安く上げることも可能だが、ご祝儀も減
るだろう。
また親からお金を出してもらえるかも重要
結婚費用捻出方法(夫の年齢別)
90
80
70
60
(単位名:%) 50
40
30
20
10
0
自
分
の
貯
蓄
親
か
ら
の
援
助
親
か
ら
れの
借
り
入
親
以
り外
入か
れら
の
借
そ
の
他
24歳以下
25~29歳
30歳以上
出典:三和銀行ホームコンサルタント調査レポート「挙式前後の出納簿」
命題:一般的に若い人ほど、お金を出し
てもらっている。
お金説もデータに適合的ではない。
手間説
ブライダルプロデューサーのインタビューから
カジュアル式~手間かかる! 時間を惜しんで敬遠する
カップルも少なくない。
~手間説もデータに適合的ではない。
観察 親の意見と実際の披露宴会場
親の意見の有無と披露宴会場のクロス表
ホテル
親の
意見
あり
なし
合計
度数
%
度数
%
度数
%
3
42.9%
6
33.3%
9
36.0%
実際の披露宴会場
カジュアル
専門式場
式
3
42.9%
8
4
44.4%
22.2%
11
4
44.0%
16.0%
その他
1
14.3%
1
4.0%
合計
7
100.0%
18
100.0%
25
100.0%
モデル
カップルの希望:カジュアルウェディングしたい
自分たちで挙式費
用を払えるカップル
カジュアルウェディングに
しよう!
自分たちで挙式費用
を払えないカップル
親の意見も聞かないと…
「お金出すから、ホテルや
専門式場で」
注意:あくまで、調査した人々関するモデル
結論で一般化はできない。
良いところ1.データの限界を踏まえて結論付けている。モデル
が正しいとしたら、どのような新潟の未来像が描けるか論じて
いる(あくまで仮説として)
良いところ2.出きる限り、代表性のあるデータによる傍証を
行っている点。
注意:モデルがなくて、調査結果と感想が載っているもの~間
違っても論文ではない
このモデルが正しいとすると
年次別平均初婚年齢(夫)
29
28
27
年齢 26
25
24
23
全国
新潟
1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 1996 1997 1998 1999
年度
インプリケーション
カジュアル式が増える~専門式場も対応が必要
モデリング入門
仮説の検証
血液型別「物事にこだわらない」肯定率
調査年度 人数 A型
80 2856
82 2930
86 2979
88 3001
B型
30.6
33
32.4
35.9
AB型 O型
37.8 34.3 31.8
35.6 36.1 39.1
38.8 39.9 42.9
45.1 37.1 42.9
JNNデータバンク:無作為抽出によって選ばれた13~59歳の
日本人、1万人が対象 (出典:菊池聡[ほか]編著1995『不思
議現象なぜ信じるのか 』 北大路書房 )
問い:A型の人は「物事にこだわる」人が多いのはな
ぜか?
医学的原因説: A型の血液型のみが性格に影響
を与える。
(いまのところ医学では否定されているが、想定外
のメカニズムが潜んでいる?!)
これに対し、まったく違うモデルも提唱され
ている。
ラベリング仮説
回りから「彼/彼女はA型だから、神
経質」という目でみられることで、A
型の人々は神経なアイデンティティ
やライフスタイルを獲得する。
真理表
医学的原因説
ラベリング仮説
予想:外国人でも
A型の人は神経
質と言う結果が
得られる。
予想:外国人はA
型の人は神経質
と言う結果が得ら
れない。
実験
血液型占い
を知らない
外国人を相
手に調査を
行う
同様の例
ピグマリオン効果
学者が学校に来て生徒をテスト
教員に耳打ち:「この生徒は伸びま
す!」(他の人にはナイショにしてもら
う)
すると、その生徒、成績がグング
ン伸びた
ラベリング理論(レイベリング・セオ
リー)
1960年代
レマート(Lemert, E.M.)
シャー(Shur, E.M.)
ベッカー(Becker, H.S.)
シェフ(Scheff.Th.J.)
逸脱行動論においてラベリング理論を提唱
以後、さまざまな分野で多大な影響を与える
参考文献:木村邦博 1991 「逸脱とラベリング」 小林淳一, 木村
邦博編著 『考える社会学』 ミネルヴァ書房115-129ページ
逸脱行動の定義
逸脱行動とは、社会規範に反するよ
うな行動であると人々からレッテルを貼
られた、行動のことである。
考えてみよう!
逸脱行動を引き起こす原因はどのようなものがあ
るだろうか? 少年犯罪・非行を例に考えてみよう。
ラベリング理論以前の原因論
・生得的な性格
・精神病
・親のしつけの失敗
・貧困
・下位文化への同調
・社会規範の緩み
ラベリング理論による仮説
社会的資源や勢力の乏しいものほど、す
なわちレッテルを貼ることの出きる人との
社会的距離が大きい者ほど、逸脱者とし
てレッテルを貼られ、サンクション(罰)を受
ける対象になりやすい(選別的ラベリング)。
逸脱者というラベルを貼られた者が、逸
脱者としてのアイデンティティやライフスタ
イルを獲得する原因は、他者がその人を
逸脱者として扱うからである。
軽い逸脱
どんな人でもだいたい同じ頻度・程度で
行う。
選別的ラベリング(=セレクティブサンクション)
非行少年と言うレッテルはその後の社会生活
に大きく影響を及ぼす(スティグマ)
逸脱行動の持続・増幅~逸脱集団との接触・学習
このモデルから、どのよう
なことが予想されるか?
ケイサツが逸脱の取締りを強
化すればするほど、逸脱者は
増える?!
ラベリング理論はホントか?
論争となった。そこで…
検証方法を考えよう!
ラベリング理論の強力な論拠
ローゼンハン(Rosenhan, D.H.)の実験
ニセ患者
精神病院で幻聴の症状を訴える
(ウソ)
まったく見破られず、入院、そして
退院させてもらえなくなってしまった!
医者の見解:ニセ患者経験が精神病を引き起こした
としたかしない。
あらゆる行動が、精神病に結びつけて解釈されて
いく。
例:観察結果をノートに取る~精神病の症状だ!
ちなみに7~52日で無事退院できました。
しかし
精神病が治ったという理由で…最後まで
ニセ患者としては扱われなかった
ここで考えて欲しい
ローゼンハンの実験で、もし「ニ
セ患者」が「ニセ」と見破られてい
たら、ラベリング理論は否定される
のだろうか?
患者が「ニセもの」とバレた場合
「医師が違う「ラベル」を読み取った」と
いいわけしそう…
医師
ニセ患者の職業や経歴のラベル
ニセ患者のラベル
やっぱりラベリング理論
あたった。
循環論法~悪
いモデル
循環論法
どのような実験結果が出ても反証不能
例
日照続きで困っている村
雨乞い屋さん(?)
村人全員が純粋な気持ちで協力してく
れたら必ず雨が降らせられる!
この雨乞い屋さんは雨が降らなかっ
たときインチキといわれるか?
雨が降った
雨が降らなかった
雨乞い成功じゃ!
誰か不順なものがおった
のじゃ!
検証不能
循環論法に陥らない決定的実験を考え
だすことが必要
複数のモデルから予測の異なる新しい
問題を見つけ、それを検証する。
登場人物一覧
実際の逸脱行動の頻度
以後
W
マイノリティ(社会的資源・勢力が乏しい
人々)に属しているか、否か
以後
X
逸脱者としてのレッテルを貼られるか否か
以後
Y
この3者の関係が、
伝統的逸脱行動論モデル
選別ラベリング論モデル
この両者でどのようにことなるのか
伝統モデルの一例
マートン(Merton, R.K.)
アノミー論
マージナリティ
社会規範の拘
束力が弱体化
犯罪
モデル
伝統的な逸脱行動モデル
選別ラベリングモデル
犯罪
W
W
Y
X
予測:Wに関係な
く、Xが増加する
とYが増加する。
精神病
医学的
要因
Y
X
W
Y
X
予測:XはWを経由してYに影響を与える
か、またはXに関係ない。Wが同程度の集
団であれば、XはYに影響を与えない。
真理表
仮説
選別ラベリング
伝統モデル
決定的
実験
同程度のWのグ
ループで
X→Yの関係を比
べる
Wのグループで
分割しないとき
と同じようにX
はYに影響を与
えている
関連全くなし
同じ逸脱行動(W)をした!
選別ラベリング仮説が正しければ
X
Y
マイノリティである
レッテルを貼られる
マイノリティでない
レッテル貼られない
伝統モデルが正しければ
X
Y
マイノリティである
レッテルを貼られる
マイノリティでない
レッテルを貼られる
決定的実験:クロス集計
ラベルを貼られる人々の割合
選別ラベリング
論が正しければ
マイノリティ
逸脱を頻繁に
行うグループ
90%
>
逸脱をあまり行
わないグループ
30%
>
マジョリ
ティ
40%
5%
伝統逸脱行動モデルが正しければ
マイノリティ
逸脱を頻繁に
行うグループ
65%
=
マジョリ
ティ
65%
逸脱をあまり行
わないグループ
15%
=
15%
アイデンティティ形成過程の研究の必要性
取り締まりや
精神病の治療
を行う
ラベリング論
伝統的逸脱論
アイデンティティ
が変容すること
に着目
再犯防止・治療
と捉える
ラベリング~人間の情報処理(世界構築)
のしくみの解明
ラベリング理論はさまざまな分野の研究に影響を与えた。
循環論法
実証には使うな
しかし
それが“癒し”に有効な場合もある
「信じることは救われる」~実証不能
「信じることは救われる」ことを必要とする精神
臨床心理学:トラウマを探して治療
だれでもトラウマの一つや二つある。
言われれば、当てはまる。
トラウマが原因かは実証不能~しかしトラウマというラ
ベル貼ることで治療効果がある
その他の例:タロット占い・カントの実践理
性・大澤真幸の『身体の比較社会学Ⅰ・Ⅱ』
例1:女性学
従来
生物学的性差(sex)と社会的性差(gender)
最近
Sexも
Gender!
セックス
:常識的には二項(男性・女性)
しかし、遺伝・解剖学的には連続的。2つに見ている
(分類している)のは我々のジェンダーのラベリング
効果。
女性は生む性
ジェンダー
例2
文化
日本の子供 勉強
×
原因
呪い(ラベル)が解けてしまった。
高学歴
幸せ
社会学
常識を疑う学問
男らしさ・女らしさ、結婚式、
家族制度、学校制度、学歴
社会等々
それなりの成果をあげた…常識という呪いほころび
出した
しかし
我々の認識
常に価値拘束的な認識~情報縮約
すべてを見ることはできない。
常に一部に着目することしかできない
人間の能力の限界
なんらかのラベル(=情報縮約方法)は必要不可欠
どんな生き方を望むのか!
望む生き方をするためにどんなラベルを用いれ
ばいいのか!
現在・近未来の社会における集団の
“情報(例:ラベル)”による秩序を構想する科学。
“情報”
生物の秩序を記号の
集合
“文化”
行為・行動のパタン
これができる学問:情報文化学
いまこそ、さまざまな分野で、情報文化学が必要
社会学・政治学・平和学・システムエンジニアリング…
決定的実験について詳しく学びたい
社会理論と調査法
“情報” 概念と新しい“社会”を構築する方法
を考えたい
情報社会論
ラベリング理論関係論文
アウトサイダーズ : ラベリング
理論とはなにか / ハワード S.
ベッカー著 ; 村上直之訳 新泉
社
*読みやすいです。