「医療の歴史と将来」 特定非営利活動法人 日本医学ジャーナリスト協会 11月月例会 2007年11月15日 日本製薬工業協会 会長 アステラス製薬株式会社 代表取締役共同会長 青木 初夫 医療の歴史と将来 1. 医療と医薬品産業 2. 個人的経験 (1)医薬品の研究開発 -タクロリムスの歴史- (2)日本企業の国際化 -フジサワのケース- 3. 「これからの医療を考える」 1 医療の歴史と将来 1. 医療と医薬品産業 2. 個人的経験 (1)医薬品の研究開発 -タクロリムスの歴史- (2)日本企業の国際化 -フジサワのケース- 3. 「これからの医療を考える」 2 これから創造すべき社会とは、「安全、安心」で ⇒ 生活時間、経済、文化全てにおいて「真の豊かさ」を実感できる社会 今後加えるべき方向 (Iwashita-Tamamuro model) T 快適、健全で健康な生活時間「T」を(生活時間=健康寿命) Innovation in Living Time 高めることで豊かさを大いに増やす 推進の鍵は ヘルスケアイノベーション 政 策 E (経済) 医療、そして医薬品の貢献: 科学技術をベースに、 国民の健康や 経済力を創り出す V C 高度成長期の最重点課題 (文化) 最近、求められるもの 安全・社会保障 (ex.コンテンツ、芸術、スポーツetc.) 「豊かさ」(V) = E×C×T いずれかがゼロであっては、「豊かさ」は実感できない (製薬産業政策検討TFプレゼン資料(2006年5月)を改変) 3 国民医療費の推移 (兆円) 40.0 (%) 30 32.1 15.7 20 8.0 20.0 30.0 9.0 10 11.1 25.0 10.0 6.1 6.0 30.4 8.5 6.7 0 4.2 15.0 8.9 名目経済成長率 35.0 20.0 (%) 10.0 国民医療費 医療用医薬品生産額 国民医療費の国民所得に対する割合 5.2 1.8 1.0 0.5 16.0 4.1 4.0 12.0 10.0 3.0 3.0 6.5 5.0 0.2 0.0 1955 6.0 5.0 -10 3.4 8.0 7.0 7.2 27.0 5.9 20.6 9.0 3.0 0.4 1.1 2.5 0.8 1960 1965 1970 1961 国民皆保険開始 1.5 1975 1980 オイルショック 注1:名目経済成長率および国民所得額は1980年までは旧68SNAを、81年以降は93SNAを使用 注2:医療用医薬品生産額は1968年実績より記載 3.4 1985 5.2 4.7 5.4 5.8 2.0 1.0 1990 1995 2000 0.0 2004 バブル崩壊 4 資料:厚生労働省「国民医療費」、「薬事工業生産動態統計年報」 内閣府 経済社会総合研究所「国民経済計算統計」 生命科学の進歩と医薬品 ~1950 将来 現在 1950~1990後半 遺伝子医療 再生医療 高くなるイノベーションの壁 システムバイオロジー ファーマコゲノミクス・トキシコゲミクス 抗体医薬 核酸医薬 急速な疾病の克服 クロルプロマジン アスピリン ペニシリン 1950 ゲノミクス・トランスクリプトミクス・プロテオミクス 1990後半 H2受容体拮抗薬 β受容体遮断薬 NSAID ヒトゲノム解読 薬剤標的分子・疾患関連 遺伝子を用いた創薬研究 1990 遺伝子治療 ヒトインスリン インターフェロン 20世紀~ 2000 HMG-CoA ACE阻害薬 疾患のトータル解析 1983 PCR法 1973 DNA組換え技術 生化学 分子生物学 生物医学 メディシナルケミストリー 医学・生物学・有機化学 5 Chronology of b-lactam Antibiotics 1930 penicillin 1929*/1940 1940 1950 1960 1970 benzylpenicillin amoxicillin 1947 1966 1980 1990 2000 piperacillin 1980 Penicillin ampicillin 1952 methicillin ceftriaxone ceftazidime 1960 cephazolin 1983 1971 cefotaxime cefmetazole cefpirome 1993 cephalosporin C 1980 1948* Injectable cefotiam Cephalosporin 1981 latamoxef 1982 cephalexin cefdinir 1969 1991 cefcapene cefixime 1997 Oral Cephalosporin Year : Year of the First Launch (*) : Discovery 1987 cefuroxime 1988 6 Chronology of Other Antibiotics 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 tetracycline 1984 Tetracycline rifampicin 1968 sulfamethoxazole vancomycin /trimethoprim Others 1959 1976 2000 norfloxacin levofloxacin 1984 chloramphenicol linezolid 1993 ofloxacin gatifloxacin 1949 streptomycin 1949 1985 gentamycin 1966 tobramyin 1999 ciprofloxacin 1987 Aminoglycoside 1974 amikacin Quinolone 1976 clarithromycin erythromycin 1953 Macrolide 1990 azithromycin 1991 Year : Year of the First Launch telithromycin 2001 7 Chronology of Cardiovascular Agents 1950 1960 1970 1980 Ca Antagonist nitrendipine 1990 2000 amlodipine 1971 1983 nifedipine Angiotensin II Antagonist 1967 nicardipine verapamil 1973 nilvadipine candesartan 1962 1979 1990 diltiazem losartan 1968 1986 non-peptide ARB 1979* delapril teprotide 1980 1965*/69 eprosartan 1989 valsartan alacepril 1990 imidapril 1978 captopril 1982 cilazapril 1976 ACE Inhibitor 1980 enalapril Year : Year of the First Patent Application (*) : Discovery 1978 8 Chronology of Gastrointestinal Agents 1950 1960 1970 1980 1990 2000 roxatidine burimamide 1979 1969 cimetidine 1972 famotidine 1979 ranitidine 1976 H2 Blocker nizatidine 1980 pantoprazole 1983 H+ Pump Inhibitor omeprazole 1978 lansoprazole 1984 rabeprazole Year : Year of the First Patent Application 1986 9 Chronology of Cholesterol-lowering Agents 1960 1970 1980 1990 2000 clofibrate 1961 gemfibrozil bezafibrate 1969 1982 (Launched) lovastatin 1979 compactin fluvastatin 1974 1982 pravastatin 1980 cerivastatin 1988 simvastatin 1980 HMG-CoA reductase inhibitor Year : Year of the First Patent Application 10 Chronology of Anti-diabetic Drugs 1950 insulin 1923* 1960 tolbutamide 1956 1970 1980 1990 2000 troglitazone 1988 PPARc receptor 1990** pioglitazone 1991 rosiglitazone 1991 Thiazolidinedione Year : Year of the First Patent Application (*) : First Patent Approved, (**) : Discovery 11 治療満足度と医薬品の貢献 100% 消化性潰瘍 治 療 に 対 す る 薬 剤 の 貢 献 度 結核 90% 高脂血症 高血圧症 痛風 80% 喘息 アレルギー性鼻炎 糖尿病 70% 狭心症 てんかん 心不全 うつ病 不安神経症 機能性胃腸症 慢性B型肝炎 関節リウマチ 白血病 60% 慢性C型肝炎 50% 不整脈 心筋梗塞 前立腺肥大症 緑内障 パーキンソン病 MRSA IBD/炎症性腸疾患 ネフローゼ症候群 前立腺癌 子宮内膜症 IBS/過敏性腸症候群 40% SLE アトピー性皮膚炎 総合失調症 骨粗鬆症 脳梗塞 過活動膀胱症候群 COPD/慢性閉塞性肺疾患 乳癌 慢性糸球体腎炎 エイズ 乾癬 30% 脳出血(含くも膜下出血) 大腸癌 胃癌 腹圧性尿失禁 じょくそう 多発性硬化症 変形性関節症 糖尿病性腎症 慢性腎不全 20% 肝硬変 子宮癌 肺癌 肝癌 糖尿病性神経障害 血管性痴呆 10% アルツハイマー病 加齢黄班変性 子宮筋腫 睡眠時無呼吸症候群 糖尿病性網膜症 0% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 出典:財団法人HS振興財団:平成17年度 国内基盤技術調査報告書 2015年の医療ニーズの展望 一部改変 60% 70% 80% 90% 12 100% 治療の満足度 治療満足度と医薬品の貢献 100% 消化性潰瘍 結核 90% 治 療 に 対 す る 薬 剤 の 貢 献 度 高脂血症 高血圧症 痛風 80% 喘息 アレルギー性鼻炎 糖尿病 狭心症 治療満足度が高い疾患 70% てんかん 心不全 うつ病 不安神経症 機能性胃腸症 慢性B型肝炎 関節リウマチ 白血病 60% 慢性C型肝炎 50% 不整脈 心筋梗塞 前立腺肥大症 緑内障 パーキンソン病 MRSA IBD/炎症性腸疾患 ネフローゼ症候群 前立腺癌 子宮内膜症 IBS/過敏性腸症候群 40% SLE アトピー性皮膚炎 総合失調症 骨粗鬆症 脳梗塞 過活動膀胱症候群 COPD/慢性閉塞性肺疾患 乳癌 慢性糸球体腎炎 エイズ 乾癬 30% 脳出血(含くも膜下出血) 大腸癌 胃癌 腹圧性尿失禁 じょくそう 多発性硬化症 変形性関節症 糖尿病性腎症 慢性腎不全 20% 肝硬変 子宮癌 肺癌 肝癌 糖尿病性神経障害 血管性痴呆 10% アルツハイマー病 加齢黄班変性 子宮筋腫 睡眠時無呼吸症候群 糖尿病性網膜症 0% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 出典:財団法人HS振興財団:平成17年度 国内基盤技術調査報告書 2015年の医療ニーズの展望 一部改変 60% 70% 80% 90% 13 100% 治療の満足度 治療満足度が高い事例:消化性潰瘍治療薬の進歩 1956年 1968年 1982年 1991年 2000年 代 H2ブロッカー、プロトンポンプインヒビ ター 治 療 領 域 に お け る 価 値 身体的、経済的負担を飛躍的に 軽減 手術療法から 薬物療法へ 酸分泌抑制 ミルク・アルカリ (Sippy)療法 胃粘膜防御因子の増強 酸抑制&胃蠕動運動抑制効果 抗コリン薬 H. pylori 除菌療法へ 再発率低下 H. pylori除菌 速効性 内視鏡所見改善 自覚症状改善 酸中和 制酸 剤 年齢調整死亡率(人口10万対-基準人口:1985年モデル人口) (厚生労働省 人口動態調査) 総患者数(推計) (万人) (厚生労働省 患者調査) リサーチペーパーNo.20(医薬産業政策研究所 2004.7)をもとに加筆して作成 14 治療満足度と医薬品の貢献 100% 消化性潰瘍 治 療 に 対 す る 薬 剤 の 貢 献 度 結核 90% 高脂血症 高血圧症 痛風 80% 喘息 アレルギー性鼻炎 糖尿病 70% 狭心症 てんかん 心不全 うつ病 不安神経症 治療満足度が改善しつつある疾患 機能性胃腸症 慢性B型肝炎 関節リウマチ 慢性C型肝炎 白血病 60% 50% 不整脈 心筋梗塞 前立腺肥大症 緑内障 パーキンソン病 MRSA IBD/炎症性腸疾患 ネフローゼ症候群 前立腺癌 子宮内膜症 IBS/過敏性腸症候群 40% SLE アトピー性皮膚炎 総合失調症 骨粗鬆症 脳梗塞 過活動膀胱症候群 COPD/慢性閉塞性肺疾患 乳癌 慢性糸球体腎炎 エイズ 乾癬 30% 脳出血(含くも膜下出血) 大腸癌 胃癌 腹圧性尿失禁 じょくそう 多発性硬化症 変形性関節症 糖尿病性腎症 慢性腎不全 20% 肝硬変 子宮癌 肺癌 肝癌 糖尿病性神経障害 血管性痴呆 10% アルツハイマー病 加齢黄班変性 子宮筋腫 睡眠時無呼吸症候群 糖尿病性網膜症 0% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 出典:財団法人HS振興財団:平成17年度 国内基盤技術調査報告書 2015年の医療ニーズの展望 一部改変 60% 70% 80% 90% 15 100% 治療の満足度 治療満足度が改善しつつある事例:慢性腎不全 透析患者、腎移植患者の生存率(1983〜1999) 100 (95%) (90%) 90 (87%) (83%) (77%) 70 (85%) (81%) (88%) (87%) 80 生 存 率 (92%) (72%) (76%) (67%) 60 (52%) (49%) 50 (36%) 40 30 20 10 0 (24%) 0-14歳(n=1229) 15-29歳(n=11841) 30-44歳(n=43595) 45-59歳(n=107921) 60-74歳(n=135949) 透析 (10%) 腎移植(n=1500,東京女子医大) 0 5 10 15 年 16 治療満足度が改善しつつある事例:小児アトピー性皮膚炎 タクロリムス軟膏による短期使用におけるQOLからみた有効性の検討 4歳以上QOL各スコアの推移 Q10 Q10 * 1.0 小児皮膚QOL質問票の概要 2.0 Q9 (原著:Finlayら,日本語版:大矢ら) ** Q2 Q3 3.0 Q8 Q4 Q7 * * Q6 Q5 Q1:症状(痒み) Q2:感情 Q3:友人関係への影響 Q4:異なる服装の使用 Q5:外出・遊びへの影響 Q6:水泳・運動への影響 Q7:勉強・休日活動への影響 Q8:いじめ Q9:睡眠への影響 Q10:治療のわずらわしさ 開始時(n=25) 1週後(n=19) 4週後(n=23) スコアが低いほどQOLが良好 数値は平均値で表示 開始時と各時点の比較:Wilcoxon‘s signed-ranks test (*p<0.05, **p<0.01) 出典:近藤康人ほか藤田保健衛生大学小児 17 治療満足度と医薬品の貢献 治 100% 療 に 対 90% す る 薬 80% 剤 の 貢 70% 献 度 60% 消化性潰瘍 結核 高脂血症 高血圧症 痛風 喘息 アレルギー性鼻炎 糖尿病 狭心症 てんかん 心不全 うつ病 不安神経症 機能性胃腸症 慢性B型肝炎 関節リウマチ 白血病 慢性C型肝炎 50% 不整脈 心筋梗塞 前立腺肥大症 緑内障 パーキンソン病 MRSA IBD/炎症性腸疾患 ネフローゼ症候群 前立腺癌 子宮内膜症 IBS/過敏性腸症候群 40% SLE アトピー性皮膚炎 治療満足度に比し、 総合失調症 骨粗鬆症 脳梗塞 過活動膀胱症候群 COPD/慢性閉塞性肺疾患 乳癌 薬剤貢献度が低い疾患 慢性糸球体腎炎 エイズ 乾癬 30% 脳出血(含くも膜下出血) 大腸癌 胃癌 腹圧性尿失禁 じょくそう 多発性硬化症 変形性関節症 糖尿病性腎症 慢性腎不全 子宮筋腫 20% 肝硬変 子宮癌 肺癌 肝癌 糖尿病性神経障害 血管性痴呆 10% アルツハイマー病 加齢黄班変性 睡眠時無呼吸症候群 糖尿病性網膜症 治療満足度が低い疾患 0% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 出典:財団法人HS振興財団:平成17年度 国内基盤技術調査報告書 2015年の医療ニーズの展望 一部改変 60% 70% 80% 90% 100% 18 治療の満足度 治療満足度に比し薬剤貢献度が低い疾患(ex.癌)、治療満足度が低い疾患への挑戦 ⇒ 2005 低分子医薬 87% 創薬イノベーション 2015 2010 2020 2025 71% 60% ・ DDSによる経口製剤の増加 ・既存薬のPGx未対応の補完 ・ In silico と連携した化合物設計の実用化 薬物治療の中心的役割を担う ・抗体医薬の低分子医薬化 ・核酸医薬の低分子医薬化 抗体医 薬 核酸医 薬 3% ・低コスト化 ・低分子化、 アプタマー化 イノベーション加速へ の取組みが重要 11% 20% ・ 低分子化による細胞内分子の標的化や 低コスト化実現による需要の拡大 ・ 即時型アレルギー、糖尿病・肥満、 循環器疾患などへ適応 0% 1% ・核酸医薬の実用化 再生医薬 0% 1% ・細胞医療の実用化 ・低分子再生薬の認知 ワクチン 1% 4~15% 薬物療法で一定の地位を確保 細胞医療と低分子再生薬の実用 3~5% 化が進む 5~7% 癌ワクチンから慢性疾患へ展開 4% ・癌ワクチンの実用化 癌および免疫疾患で市場拡大 低コスト化により適応疾患が拡大 ・感染症ワクチン製造継続 赤数字は、当該年度の医薬品売上高に対する各カテゴリーの売上高の割合。 19 出所:長谷川閑史 BioJapan2007 イノベーション強化に向けた環境整備の重点課題 基礎研究から臨床研究を通じた基盤整備 ・ 大学/公的研究機関等での先端基礎研究 ・ 橋渡し研究の充実、臨床研究・治験体制の改革 ・ 人材の教育訓練・養成 研究開発 インフラ整備 成果の実用化に向けた 産学官連携の強化 新薬創出を 促進する環境 薬価制度 イノベーション評価 知的財産に 関する政策 新薬アクセス改善 ・連携協議会の設置 (予算、重点課題を審議) 規制改革 承認審査制度 20 生命関連分野の研究開発基盤整備(基礎研究 医療機関 (含む 大学病院、 ナショナルセンター) 臨床研究) 普及 (実用、情報提供) 企業 (含む ベンチャー) 新たな発見 (臨床研究・ 疫学研究) 製品化 患者 トランスレーショナルリサーチ、 治験(新薬等の開発) 現象の解明 (臨床研究・疫学研究 ⇔ 基礎研究) 新技術の開発 新しい科学の創造 (基礎研究) 医療上の新ニーズ 医療の現場 ⇒ 共通のプラットフォーム アカデミア (大学、公的研究機関) 各プレーヤーが 主体となるべき役割を 高いレベルで 果たすことが必要 21 産学官連携の強化 官民対話 連携協議会の設置 産学官分担 研究体制改革 産学連携システム ベンチャー育成 特許政策 etc 蛋白質や 抗体の調製 ゲノム 遺伝子 蛋白質 など 探索医療 センター etc 産学官共同 治験実施体制 治験ビジネス 治療ガイドライン 臨床研究者 etc 審査体制 バイオ医薬品 着想 標的分子 の同定 前臨床開発 臨床治験 低分子医薬品 リード探索 と 最適化 市販後調査・ 申 EBM/疫学的 請 臨床研究 トランスレーション研究 22 カナダでは、科学研究は社会的に、経済的に 役立つ方向に向けられるべきだという科学政 策が現に進んでいる。もちろん莫大な資金を必 要とする科学応用、ことに工業の分野では、相 応の統制や組織化が必要であろうし、現に多く の努力が払われている。しかも、もしこの方法 を基礎科学の分野にまで持ち込めば、それは そのまま科学の死を意味するであろう。基礎科 学とは、どんな種類の制限も極端に嫌う、真に 創造的な行為である。 23 (G・ヘルツベルグ博士/日本化学会機関紙「化学と工業 1989年1月号) 生命科学の進歩と医薬品(再掲) ~1950 将来 現在 1950~1990後半 遺伝子医療 再生医療 高くなるイノベーションの壁 システムバイオロジー ファーマコゲノミクス・トキシコゲミクス 抗体医薬 核酸医薬 急速な疾病の克服 クロルプロマジン アスピリン ペニシリン 1950 ゲノミクス・トランスクリプトミクス・プロテオミクス 1990後半 H2受容体拮抗薬 β受容体遮断薬 NSAID ヒトゲノム解読 薬剤標的分子・疾患関連 遺伝子を用いた創薬研究 1990 遺伝子治療 ヒトインスリン インターフェロン 20世紀~ 2000 HMG-CoA ACE阻害薬 疾患のトータル解析 1983 PCR法 1973 DNA組換え技術 生化学 分子生物学 生物医学 メディシナルケミストリー 医学・生物学・有機化学 24 創薬イノベーションの主体として製薬企業のVOCATION 2025 膵臓癌生存率50%超 現在 1990後半 2023 筋萎縮症 2021 統合失調症 2019 アトピー性皮膚炎・喘息 2019 関節リウマチ 2019 エイズ 2017 アルツハイ 2014 マー 副作用の少ない抗うつ剤 遺伝子医療 再生医療 疾患のトータル解析 システムバイオロジー 抗体医薬 核酸医薬 ファーマコゲノミクス・トキシコゲミクス 2000 ヒトゲノム解読 生命科学/ゲノミクス・トランスクリプトミクス・プロテオミクス 薬剤標的分子・疾患関連 遺伝子を用いた創薬研究 25 医療の歴史と将来 1. 医療と医薬品産業 2. 個人的経験 (1)医薬品の研究開発 -タクロリムスの歴史- (2)日本企業の国際化 -フジサワのケース- 3. 「これからの医療を考える」 26 タクロリムスの歴史(1) 1983. 5 免疫抑制剤のスクリーニング開始 1984. 3 FK506発見(活性培養液の発見) 1984.12 結晶化成功 ~ 構造決定へ 1985. 4 千葉大学(落合先生)と共同研究開始 1986. 8 国際移植学会(ヘルシンキ)でFK506 前臨床データ発表 1987. 6 欧州移植学会(ヨーテボリ)でFK506シンポジ ウム 27 タクロリムスの発見 つくば山 藤沢薬品つくば研究所 28 タクロリムスの発見 なぜ成功したか? ▲ 微生物からの薬物探索技術が蓄積されていた ▲ 急速に進歩した免疫学の知見をいち早く応用した 29 フジサワにおける微生物スクリーニングの歴史 (1960-1980) 30 フジサワにおける微生物スクリーニングの歴史 (1981-2000) CH3 OH H3C O HO H2N O O NH O HO OH H N N H N N O OH HN O NH N OO OH CH3 OH O OH HO OSO 3Na O FK463 (1994) 31 antifungal 強みとしての醗酵 32 MLR (Mixed Lymphocyte Reaction) spleen cell BALB/c (H-2 d) spleen cell X ray responder 2 C57BL/6 (H-2 b) stimulator screening samples 33 34 タクロリムス HO H3CO 31 CH3 O CH3 O OH 37 36 N O O OH O H3C 19 CH3 O CH3 15 12 結晶体 13 OCH3 OCH3 35 FK506とシクロスポリン のin vitroにおける免疫抑制効果 IC50 (nM) FK506 シクロスポリン テスト項目 動物種 混合リンパ球反応 ヒト 0.2 14 細胞傷害性T細胞増殖 マウス 0.3 24 IL-2産生 ヒト 0.068 7 IL-3産生 マウス 0.3 32 IFN-γ産生 ヒト 0.05 0.2 IL-2受容体発現 ヒト 0.14 9.9 骨髄細胞コロニー形成 マウス 1400 800 36 タクロリムスに関連する受賞 国内 農芸化学技術賞 :1995年4月 日本薬学会技術賞 :1997年3月 日本生物工学会技術賞 :1997年9月 中日産業技術賞 :2000年1月 大河内記念賞 :2001年2月 文部科学大臣発明奨励賞 :2003年11月 海外 プリ・ガリエン賞(英) :1996年1月 37 タクロリムスの歴史(2) 1988. 9 1989. 2 1989.10 1989.10 1990. 5 1990. 6 1990.7 1990.9 1990.8 1991.8 1991.12 1992.2 Prof. Starzl, FK506 non-commercial IND 申請 FK506肝移植患者へ初めて投与-rescue成功 以後、PittsburghでFK506の臨床研究開始 NY Times, FK506トップ記事に掲載 欧州移植学会(バルセロナ) 日本で最初にFK506が人に投与 日本で肝移植治験開始 日本で腎移植治験開始 日本で骨髄移植治験開始 米欧で肝移植開始 第1回FK506国際会議(Pittsburgh) 日本で肝移植申請 腎移植治験 米で開始(欧州は同年9月) 38 タクロリムスの評価(当時) Wonder Drug (Prof. Thomas Starzl) Fujitoxin (Sir Roy Calne) 39 タクロリムス: 臓器移植における治験開始にあたって 条件 1.対象はlife-threatening patients 2.FK506の有効性が未だ分からない 3.FK506の安全性が未だ分からない 4.至適投与量が不明 5.既存薬として有効性の確認されたCyAがある Rescue試験で先ずFK506の有効性を確認することが必要 1.対象は既存薬無効で再移植しか道は無い 2.最初は併用、後、既存薬を漸減 3.救命のために多目のFK506を投与→安全性が問題 40 FK506開発におけるPittsburgh大学の意義 1. 藤沢による治験の確度の高い水先案内人 positive POC studyの利用→効率開発 compassionate useの要求増加→コスト負担 2. 藤沢による治験のacademicな支え - 研究者 - Health authority 3. スピード開発→innovative therapyの早期提供→ 迅速な患者救済 41 42 タクロリムスの歴史(3) 1991年12月 日本で肝移植申請 1992年2月 腎移植治験 米で開始(欧州は同年9月) 1993年4月 日本で肝移植承認(6月発売) 1994年4月 米国で肝移植承認(6月発売) 1994年10月 英国で発売 1997年4月 米国腎移植適応取得 2003年 発売国67カ国へ 43 プログラフ:画期性加算の取得 1992年新算定方式を導入後現在まで、画期性加算を 認定されたのは4製品のみ →内、2製品はフジサワ創製 1993年 プログラフ 10%強加算(+市場性を加算約1%) 2002年 注射用抗真菌剤ファンガード (ミカファンギン) 30%加算 44 プログラフ新規移植患者への使用率推移(米国) 肝移植 % 腎移植 腎臓/膵臓同時移植 Q /4 02 Q /1 02 Q /1 01 Q /1 00 Q /1 99 Q /1 98 Q /1 97 96 /1 Q 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 45 FK506研究から Chemical Genetics構想までの流れ ハーバード大 Dr.Schreiber アフィニティーカラム FK506 FK506結合蛋白質 FKBPの発見 46 FK506(タクロリムス)の発見は「ゲノム」からは困難 47 医療の歴史と将来 1. 医療と医薬品産業 2. 個人的経験 (1)医薬品の研究開発 -タクロリムスの歴史- (2)日本企業の国際化 -フジサワのケース- 3. 「これからの医療を考える」 48 Fujisawa Case 1st Stage (before 1980) Low Risk - Low Return Export Business, Open of Rep. Office 2nd Stage (1980-) Medium Risk-Medium Return JV, Minority Participation 3rd Stage (1990-) High Risk-High Return Full-fledged Subsidiary (R&D, Production, Marketing & Sales) 49 Fujisawa Case:1980 USA FPC(NY) (’77設立.6名) Europe Asia London Office 台湾藤沢 (’78設立.4名) (’62設立.30名) 50 Fujisawa Case:1985 USA Europe Asia FSK(50%) Klinge Pharma(28%) 台湾藤沢 (’81設立.’85売$20M) (’83,’85売DM100M) ソウル事務所 Lyphomed(26%) London Office(4名) (’83設立.3名) (’85参加.’85売$60M) CRC-Europe(’85設立.3名) PMP (Chemical) (’81設立.’85売&10M) FPC(2名) 51 Fujisawa Case:1991 USA Europe Asia Fujisawa USA Fujisawa GmbH (1991) 台湾藤沢 (’90設立.’91売$310M) Klinge Pharma (80%) 韓国藤沢 PMP(Chemical) (売上DM150M) (’89設立.19名) (売上$20M) Fujisawa Ireland(’90設立) Fujisawa Holland (’87設立.金融) London Office CRC-Europe エディンバラ研究所 (’89設立.5名) 52 Fujisawa Case:1999 USA Europe Asia Fujisawa Healthcare Fujisawa GmbH (+販社) (’98設立.’99売$390M) (売上DM210M) (売上$30M) FRIA(R&D) Klinge Pharma (91%) 韓国藤沢 (20名) (売上$300M) (売上\0.2B) PMP (Chemical) Fujisawa Ireland(200名) (売上$30M) Fujisawa Holland(金融) 香港藤沢 北京事務所 London Office (’93設立.3名) 台湾藤沢 CRC-Europe エディンバラ研究所(20名) 53 Lyphomed Story 1981 1985 Lyphomed Starts Business First Equity Participation (22.5%) followed by three major share-ups 1987- ‘88 GMP Problems 1989 TOB 1990 Integrated into Fujisawa USA 1991- ‘94 “FDA Problems” 1997 Divestiture of Generic Business 54 Generic Products Problem 1988/7 The Dingle Subcommittee 1989 Quad Pharmaceutical 1991/2 Investigation of Lyphomed 1991/3 House Energy & Commerce/Oversight Subcommittee 1991/11 FDA 483 1992/2 The Independence Report 1992/3 FDA Fraud Policy (AIP) 1993/8 Corrective Action Plan 1993-94 Assay Validation Task Force, Product/Process Validation Task Force 1993/11 GMP Inspection (Grand Island Plant) 1994/6 GMP Inspection (Melrose Park Plant) 1994/7 Removal from AIP 55 Major Requirements of FDA Application Integrity Policy a) Voluntary withdrawal of fraudulent applications b) Voluntary recall of products covered by fraudulent applications c) Full cooperation with FDA during the Validity Assessment d) Identification of all individuals who were or may have been involved or associated with the fraudulent acts e) Conduct a credible internal review of all approved and pending ANDAs to supplement FDA’s own independent comprehensive investigation f) Submit a written Corrective Action Operating Plan to FDA, describing Fujisawa’s commitment and procedures to preclude further instances of violation, including a comprehensive ethics training program for all employees 56 Corrective Actions Implemented By Fujisawa USA, Inc. in order to Rehabilitate the Company GMP Improvement Initiatives A. Management FUSA hired new Vice Presidents of: Manufacturing, Q.A. Regulatory Affairs Operations All of these individuals have extensive experience in their respective areas in the pharma. Industry In addition, they have also made changes to improve the management and structure in each of their respective organizations 57 Corrective Actions Implemented By Fujisawa USA, Inc. in order to Rehabilitate the Company GMP Improvement Initiatives B. Assay Validations FUSA completed a major effort to validated all assays for active products A total of 129 products at Melrose park and 153 products at Grand Island Were completed The cost of this effort was approximately $1.0 million C. Product/ Process Validations A total of 136 products codes at Melrose Park ad 98 product codes at Grand Island were validated In addition, the Company completed 152 protocols validating equipment, processes and computer, software at both facilities 58 The cost for this effort was in excess of 3.3 million Corrective Actions Implemented By Fujisawa USA, Inc. in order to Rehabilitate the Company GMP Improvement Initiatives D. Stability Programs FUSA made a number of organization changes in the stability area. Stability program SOPs have been reviewed and revised to assure consistency between al sites and compliance with FDA guidelines. A common computer software program was purchased for each manufacturing site as well as Pharmaceutical Sciences and validated. An SOP for conducting investigations and communicating issues was developed and issued. An SOP for handling out of specification results (based on Barr decision) was developed and issues Temperature and humidity storage conditions were standardized for all locations. A new stability storage chamber and retention sample room were built in Grand Island ($110,000). The testing requirements for reconstitution time and particulate matter were standardized and stability sampling requirements were standardized. 59 Corrective Actions Implemented By Fujisawa USA, Inc. in order to Rehabilitate the Company GMP Improvement Initiatives E. Facility and Process Capital Investments FUSA invested approximately $1.4 million from 1992-1994 to improve our facilities at Grand Island and Melrose Park. F. Summary In total from 1992-1994, FUSA has directly invested approximately $12 million as part of completing its GMP rehabilitation with the FDA. 60 製薬業界の変動~米国~ 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 0 01 0 91合併 00 買収 Pfizer Pharmacia GD Searle Kabi Pharmacia 93 合併 Erbamont 85 買収 Upjohn Merck & Co 84 51%買収 Johnson & Johnson 61 買収 Janssen Pfizer Merck & Co 04 100%子会社化 Centocor Banyu 99 買収 Bristol-Myers Squibb Johnson & Johnson DuPont 医薬品部門 89 合併 01 Bristol-Myers Squibb American Home Products 03 買収 Warner-Lambert 95 合併 Pharmacia & Upjohn Pharmacia 00合併 Monsanto Monsanto Banyu 02 03 04 買収 Bristol-Myers Squibb 94 買収 02 社名変更 American Home Products American Cyanamid BASF(Knoll) 96 買収 北陸製薬 01 Wyeth Abbott Abbott 02 医薬品事業 BASFから買収 買収 61 製薬業界の変動~欧州~ 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 Glaxo Glaxo Wellcome 95合併 SK Beckman 89合併 Glaxo SmithKline Wellcome 00 合併 SmithKline Beecham Beecham 93 医薬品事業部門分離独立 ICI Zeneca Rhone-Poulenc Rhone-Poulenc Rorer 90 買収 W.H.Rorer Hoechst 68 Astra acquisition of a majority holding Marion Roussel-Uclaf 89 Merrell Dow Ciba Ciba-Geigy 95買収 Fisons Sandoz 90 資本参加 Roche Genentech Aventis 04買収 Marion Merrell Dow Sanofi SI Synthelabo Ciba-Geigy 70合併 99 合併 Hoechst 95 買収 94 Sanofi Prescription drug部門 Sterling JR Geigy AstraZeneca 99 合併 94買収 Syntex 96 合併 sanofiー aventis Sanofi-Synthelabo 99合併 Novartis 97 買収 Boehringer Mannheim Novartis 02 買収 Chugai Roche 62 製薬業界の変動~日本~ 90 91 92 93 94 吉冨製薬 95 96 97 98 98 合併 吉冨製薬 99 00 01 03 04 05 00年 社名変更 ウェルファイド 01年10月 合併 ミドリ十字 三菱ウェルファーマ 三菱化学 東京田辺製薬 03 三菱東京製薬 99合併 医薬事業を分社化 山之内製薬 藤沢薬品 大日本製薬 05年4月 合併 アステラス製薬 05年10月 合併 大日本住友 住友製薬 三共 第一製薬 05年10月 合併 第一三共 63 64 65 66 67 医療の歴史と将来 1. 医療と医薬品産業 2. 個人的経験 (1)医薬品の研究開発 -タクロリムスの歴史- (2)日本企業の国際化 -フジサワのケース- 3. 「これからの医療を考える」 68 生命の歴史 50-40億年 40-30億年 (1017秒) 地球誕生 1000-500万年 現 在 (1014秒) 生命誕生 (Luca) ヒトの祖先 誕生 チンパンジー と分かれる (1%の差) 5000万の 生物種 60億のヒト (3億トンのバイオマ ス) 生体寿命と 生理寿命の接近 69 これからの医療 ヒト(人類/各個人)は何のために生きるか? どのように死んでいくのか? 70
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