日本経済リレー講義 2011 第2講 日本の将来人口と経済 担当:山田勝裕(マクロ経済学) 現在,日本の総人口は減少し,政府は子ども手当でそれ を食い止めようとしているかに見えます。果たして,そんなこ とで上手く行くのでしょうか?また,そんなことが必要なので しょうか?この回では,人口学の分析を利用し,50年先の日 本の人口ピラミッドをお見せし,日本経済を考えます。 * (C) Katsuhiro YAMADA 1 目 次 1.人口と経済の関係 2.人口ピラミッド~情報のオンパレード 3.合計特殊出生率~TFRとは 4.簡易生命表~余命の期待値 5.失業率と自殺率の関係 6.将来の日本経済~マルサスの賞賛 * 1.人口と経済の関係 人口 Y=A・F(K,N) • 数 • 労働力 • 需要 • 構造 • 老・若 • 男・女 • 都市・地方 • 時間(動学) • 出生力 • 死亡率 Y=F(K,N) C,I 賦課方式・年金 少子化 過疎化, シャッター通り 合計特殊出生率 2005年1.26 2009年1.37 平均余命 * 2009年 男79.59歳 女86.44歳 2.人口ピラミッド~情報のオンパレード * 2.人口ピラミッド~情報のオンパレード 2009年10月1日現在 人口ピラミッドの説明: ① 団塊の世代とその子供たち。世代のサイクル。 250万人以上の出生数であった1947年から1949年までの世代 ② 日本における文化的要因の存在。丙午(ひのえうま)。 1966年は最近の丙午。次回はこの60年後2026年 ③ 第二次世界大戦(1939年~1945年)の世代は女子が多い。 わだつみの世代 ④ 出生数は男子の方が多い。 1:1.05~1.06 ⑤ 男女の人口比が逆転する年齢は? ⑥ 80歳以上の人に出会う確率は? * 3.合計特殊出生率~TFRとは 合計特殊出生率の説明: 人口統計学上の概念で, 一人の女性が一生の間に生む 子供の数を示す。 日本の場合,2010年 1.39 合計特殊出生率(Total (Total Fertility Rate) * 合計特殊出生率 (Total Fertility Rate) 新生児出産数 0.01 0.09 0.12 再生産年齢人口 15~49歳の女性 0.03 0.001 仮想コーホート * これらすべてを合計 新生児 1.39 合計特殊出生率 (Total Fertility Rate) 0.01 0.09 0.12 再生産年齢人口 15~49歳の女性 0.03 0.001 仮想コーホート * 1 : 1.05 これらすべてを合計 新生児 日本の場合,女子1人を再生産するには2.05人産む必要あり! 1.39 主要国のTFR 4.00 日本 アメリカ 日本 3.50 アメリカ合衆国 フランス ドイツ イタリア 3.00 フランス ノルウェー スウェーデン 2.50 イギリス アメリカ 2.00 フランス 1.50 日本 1.00 0.50 0.00 * 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 主要先進国のTFR 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 * 日本 3.65 2.37 2.00 2.14 2.13 1.91 1.75 1.76 1.72 1.69 1.66 1.57 1.54 1.53 1.50 1.46 1.50 1.42 1.43 1.39 1.38 1.34 1.36 1.33 1.32 1.29 1.29 1.26 1.32 アメリカ合衆国 3.02 3.51 3.64 2.92 2.44 1.80 1.84 1.84 1.84 1.87 1.92 2.02 2.08 2.07 2.07 2.05 2.04 2.02 2.03 2.03 2.06 2.01 2.06 2.03 2.01 2.04 2.05 2.05 フランス 2.90 2.68 2.70 2.82 2.47 1.96 1.99 1.81 1.83 1.80 1.80 1.79 1.78 1.77 1.73 1.65 1.65 1.70 1.72 1.73 1.76 1.79 1.88 1.88 1.87 1.88 1.90 1.94 2.00 ドイツ イタリア 2.52 2.37 2.50 2.03 1.48 1.56 1.37 1.41 1.43 1.46 1.42 1.45 1.33 1.30 1.28 1.24 1.25 1.32 1.36 1.36 1.36 1.38 1.35 1.34 1.34 1.36 1.34 1.32 2.29 2.55 2.43 2.15 1.62 1.45 1.37 1.35 1.38 1.35 1.36 1.33 1.33 1.26 1.22 1.19 1.19 1.21 1.21 1.23 1.26 1.25 1.27 1.29 1.33 1.32 ノルウェー 2.53 2.76 2.85 2.92 2.54 1.99 1.73 1.68 1.71 1.75 1.84 1.89 1.93 1.92 1.89 1.86 1.87 1.89 1.89 1.86 1.81 1.84 1.85 1.78 1.75 1.80 1.83 1.84 1.90 スウェーデン 2.32 2.24 2.17 2.39 1.94 1.78 1.68 1.73 1.79 1.84 1.96 2.02 2.14 2.12 2.09 2.00 1.89 1.74 1.61 1.53 1.51 1.50 1.57 1.57 1.65 1.72 1.75 1.77 1.85 イギリス 2.19 2.16 2.57 2.86 2.43 1.81 1.89 1.80 1.78 1.82 1.84 1.81 1.84 1.82 1.79 1.76 1.74 1.71 1.73 1.72 1.71 1.69 1.64 1.63 1.64 1.71 1.76 1.78 1.84 4.簡易生命表~余命の期待値 生命表の説明: ある年の10万人の新生児が各年齢に達した時,どれだけ 死亡し,生き残るかを,その時点で求めた年齢別死亡率に 基づいて算出した表で,平均余命を計算する。 静止人口などの概念を用いるので計算値は異なるが, 年齢別死亡率から求めたある年齢の人間があと何年生きる か(余命は何年か)の期待値を計算するもの考えてよい。 ゼロ歳児の平均余命を平均寿命と言う。 * 0.00246 0.00036 0.00026 0.00018 0.00013 ・各年齢の死亡率が与件 ・仮想コーホートを考える 0.99964 0.99974 0.99982 0.99987 0.99754 0.997181 0.996922 0.996742 0.996613 ・各年齢の生存(残)率が分かる→もう1歳生きる確率 ∴ゼロ歳児があと何年生きるかの期待値: 1×99.754%+1×99.718%+1×99.692%+・・・・・・・ =79.59 4歳 0.018% 99.982% 99.692%×99.982% 99.674% 3歳 0.026% 99.974% 99.718%×99.974% 99.692% 2歳 0.036% 99.964% 99.754%×99.964% 99.718% 1歳 0.246% 99.754% 1から2歳の死亡率を引く * 4.簡易生命表~余命の期待値 静止人口 * 死亡率 生存率 死亡数 99640 7684780 1 99190 7585140 0.007194 0.992806 2 99100 7485950 0.001817 3 99100 7386849 4 99011 5 生存数 76.3478 719 100000 0.992806 75.355 180 99281 0.998183 0.991002 74.364 0 0 1 0.991002 73.37299 7287749 0 1 0.991002 98746 7188739 0.00181 0.99819 6 98487 7089993 0.003534 7 98319 6991506 8 98235 9 平均余命 76.3478 76.8478 7634780 75.90105 76.40105 99100 7535500 75.03918 75.53918 0 99100 7436400 74.03918 74.53918 72.38199 179 99100 7337299 73.03918 73.53918 0.989209 71.39278 350 98921 7238199 72.17161 72.67161 0.996466 0.985713 70.40707 169 98571 7139278 71.42754 71.92754 0.001717 0.998283 0.984021 69.42305 167 98402 7040707 70.55037 71.05037 6893187 0.001693 0.998307 0.982355 68.44069 0 98235 6942305 69.67005 70.17005 98154 6794952 0 1 0.982355 67.45834 164 98235 6844069 68.67005 69.17005 10 97991 6696798 0.001668 0.998332 0.980716 66.47762 162 98072 6745834 67.78479 68.28479 11 97910 6598807 0.001649 0.998351 0.979099 65.49852 0 97910 6647762 66.89674 67.39674 12 97829 6500898 0 1 0.979099 64.51943 163 97910 6549852 65.89674 66.39674 13 97747 6403069 0.001663 0.998337 0.977471 63.54195 0 97747 6451943 65.00647 65.50647 14 97747 6305322 0 1 0.977471 62.56448 0 97747 6354195 64.00647 64.50647 15 97747 6207575 0 1 0.977471 61.58701 0 97747 6256448 63.00647 63.50647 16 97747 6109828 0 1 0.977471 60.60954 0 97747 6158701 62.00647 62.50647 17 97668 6012081 0 1 0.977471 59.63207 159 97747 6060954 61.00647 61.50647 18 97510 5914413 0.001627 0.998373 0.97588 58.65619 156 97588 5963207 60.10592 60.60592 19 97282 5816903 0.001594 0.998406 0.974325 57.68186 301 97433 5865619 59.20185 59.70185 20 97059 5719621 0.003086 0.996914 0.971318 56.71055 145 97132 5768186 58.38514 58.88514 21 96987 5622561 0.001496 0.998504 0.969865 55.74068 0 96987 5671055 57.47261 57.97261 22 96918 5525575 0 1 0.969865 54.77082 137 96987 5574068 56.47261 56.97261 4.簡易生命表~余命の期待値 作成基礎期間 男 1 スイス 2 イスラエル 2009* 79.7 731 3 日本 2010* 79.64 12 637 4 スウェーデン 2010* 79.53 5 アイスランド 2010* 6 シンガポール 2010* 7 オーストラリア 2007-2009* 8 ノルウェー 2010* 9 イタリア 2008* 10 オランダ 11 1 日本 2010* 2 フランス 3 スペイン 922 4 79.5 32 79.3 79.8 765 女 人口(万人) 86.39 12 637 2010* 84.8 6 228 2009* 84.56 4 559 スイス 2009* 84.4 765 5 シンガポール 2010* 84.1 364 364 6 イタリア 2008* 84.07 5 983 79.3 2 150 7 オーストラリア 2007-2009* 83.9 2 150 78.85 477 8 韓国 2009* 83.8 4 861 78.81 5 983 9 スウェーデン 2010* 83.51 922 2010* 78.8 1 645 10 イスラエル 2009* 83.5 731 スペイン 2009* 78.55 4 559 11 アイスランド 2010* 83.5 32 12 ニュージーランド 2007-2009 78.4 427 12 オーストリア 2010* 83.2 834 13 フランス 2010* 78.1 6 228 13 フィンランド 2010* 83.2 531 14 カナダ 2005* 78 3 333 14 ノルウェー 2010* 83.15 477 15 カタール 2008 77.9 145 15 カナダ 2005* 82.7 3 333 16 オーストリア 2010* 77.7 834 16 ベルギー 2006 82.7 1 067 17 イギリス 2007-2009* 77.7 6 138 17 オランダ 2010* 82.7 1 645 18 ドイツ 2007-2009* 77.33 8 213 18 ドイツ 2007-2009* 82.53 8 213 19 デンマーク 2009-2010* 77.05 549 19 ニュージーランド 2007-2009 82.4 427 20 韓国 2009* 77 4 861 20 イギリス 2007-2009* 81.9 6 138 21 ベルギー 2006 77 1 067 21 チリ 2005-2010 81.5 1 676 22 フィンランド 2010* 76.7 531 22 デンマーク 2009-2010* 81.22 549 23 チリ 2005-2010 75.5 1 676 23 アメリカ合衆国 2007* 80.4 30 406 24 アメリカ合衆国 2007* 75.4 30 406 24 チェコ 2009* 80.13 1 043 25 アルジェリア 2008 74.9 3 475 25 ポーランド 2009* 80.05 3 812 * 2009* 作成基礎期間 人口(万人) 5.失業率と自殺率の関係 因果関係←原因・結果の関係 相関関係←どれだけ直線に近いか 相関係数の評価 -1 ~ -0.7 強い負の相関 -0.7 ~ -0.4 かなりの負の相関 -0.4 ~ -0.2 やや相関あり -0.2 ~ 0 ほとんど相関なし 0 ~ 0.2 ほとんど相関なし 0.2 ~ 0.4 * 0.4 ~ 0.7 0.7 ~ 1 やや相関あり かなりの正の相関 強い正の相関 5.失業率と自殺率の関係 自殺者数 総数 失業率 * 男 女 総数 0.925367 0.938198 0.742879 15~19歳 0.842254 0.853891 0.676389 20~24 0.926305 0.941149 0.732377 25~29 0.925447 0.939825 0.73424 30~34 0.931048 0.945533 0.738571 35~39 0.938058 0.948265 0.768825 40~44 0.911168 0.921381 0.745099 45~49 0.915843 0.927072 0.743501 50~54 0.926487 0.936985 0.756996 55~59 0.796271 0.79567 0.704759 60~64 0.625234 0.639166 0.472316 65歳以上 0.842906 0.857083 0.662662 5.失業率と自殺率の関係 男自殺者数と35~39歳の失業率 30,000 y = 3672.5x + 7932.8 R² = 0.8992 25,000 j自殺者数 20,000 15,000 10,000 5,000 0 0.0 * 1.0 2.0 3.0 完全失業率 4.0 5.0 6.0 6.将来の日本経済~マルサスの賞賛 将来の人口予測:最も簡単なケース: 1.2009年10月1日現在人口ピラミッドと2008年10月1日現在人口ピラミッド 2.2009年のTFRのためのデータ 1から死亡率,2から出生率が分かるから,将来人口を推計出来る。 * 6.将来の日本経済~マルサスの賞賛 * * 1872 1875 1878 1881 1884 1887 1890 1893 1896 1899 1902 1905 1908 1911 1914 1917 1920 1922 1925 1928 1931 1934 1937 1940 1943 1946 1949 1952 1955 1958 1961 1964 1967 1970 1972 1975 1978 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002 2005 2008 6.将来の日本経済~マルサスの賞賛 2005年から総人口,男子人口減少 2008年から女子人口減少 日本の総人口(明治5年から平成21年) 140000000 女子人口 120000000 男子人口 100000000 80000000 60000000 40000000 20000000 0 6.将来の日本経済~マルサスの賞賛 順位 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 * 国名 シンガポール 香港 バーレーン マルタ バングラデシュ モルディブ バルバドス 台湾 モーリシャス 韓国 オランダ ルワンダ レバノン インド ベルギー ハイチ イスラエル 日本 フィリピン スリランカ コモロ ブルンジ グレナダ セントビンセント・グレナディーン エルサルバドル セントルシア ベトナム イギリス ジャマイカ ドイツ パキスタン km^2 699 1103 720.14 316 144000 298 431 36000 2045 99274 41864 26300 10452 3287263 30528 27750 22000 377835 299404 65607 2236 27800 345 389 21040 616 329241 243000 11424 357000 796000 人 5170000 7120000 1110000 420000 164470000 320000 280000 23330000 1280000 48910000 16610000 10000000 3910000 1215940000 10920000 9860000 7430000 127480000 94010000 20400000 670000 8270000 100000 110000 5860000 170000 88260000 62220000 2720000 81600000 166580000 人口密度 7396.28 6455.122 1541.367 1329.114 1142.153 1073.826 649.652 648.0556 625.9169 492.6768 396.7609 380.2281 374.0911 369.8943 357.7044 355.3153 337.7273 337.396 313.9905 310.9424 299.6422 297.482 289.8551 282.7763 278.5171 275.974 268.0711 256.0494 238.0952 228.5714 209.2714 地域 アジア アジア 中東 ヨーロッパ アジア アジア 中南米 アジア アフリカ アジア ヨーロッパ アフリカ 中東 アジア ヨーロッパ 中南米 中東 アジア アジア アジア アフリカ アフリカ 中南米 中南米 中南米 中南米 アジア ヨーロッパ 中南米 ヨーロッパ アジア 6.将来の日本経済~マルサスの賞賛 * マルサス『人口の原理』(1798年): ・人口の増加 幾何級数的,食料の増加 算術級数的 ・人口と食料の不均衡は不可避 ∴道徳的抑制が必要 日本は先進国の中で少子・高齢化のもっとも進んだ国。 マルサスの呪縛から逃れた国! これを自由度が増したと考えて将来を見るべきである。 提言: ・明治期の人口は3500万人。富国は人口の多い国とは違う認識を持つべき。 ・人口減少を肯定的に受け入れ,技術進歩をソフトランディングに利用すべき。 ・水資源を生かし,保全(山林を守る)すべき。 ・放っておいても雑草の茂る国は農業(農業工場)に適しているゆえ, 食料の自給出来る国を目指すべき。人口減で農地を増やすことが可能。 ・人口密度をドイツ・イギリス並みに減少すべき。 ・鎖国パラダイスはダメ。交易(共存)は行うべし。海をバリア-に有効利用。 ・安全・平和は資源であることを認識し,世界に広めるべき。 ・平和憲法を遵守,軍産複合体による経済発展は拒むべき。 ・教育・技術・文化(民族気質)のソフト産業を目指すべき。 ・自然・再生可能エネルギーを利用すべき。 参考文献: 阿藤誠(2000);『現代人口学-少子高齢社会の基礎知識』,日本評論社。 岡崎陽一(1993);『人口分析ハンドブック』,古今書院。 岡崎陽一(1999);『人口統計学』,増補改訂版,古今書院。 日本人口学会編(2002);『人口大事典』,培風館。 山口喜一編著(1990);『人口推計入門』,古今書院。 山田勝裕(2010年6月);「人口変数と経済 -人口波動による経済分析の試み」 『経済学論究』64巻1号。 資料引用: 総務省統計局 人口推計長期時系列データ 厚生労働省 生命表(完全生命表) *
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