Moodleの活用によるインタラクティブ授業の試み

Moodleの活用による
インタラクティブ授業の試み
名古屋工業大学 電気電子工学科
加藤 正史
http://araiweb.elcom.nitech.ac.jp/
e-learningの利点欠点(Wikipedia)
利点
学習者側
同時間、同一場所に集まる必要がなく自由な時間場所で学習できる
自分のペースや達成度に応じて学習を進めることができる
教師側
成績管理などの自動化が図れる
教師は必ずしも必要はない
欠点
学習者側
学習意欲の持続が難しい
質疑などその場での問題解決がしにくい
教師やほかの学習者との交流がとりにくい
教師側
学習者の状況をデータからしか把握できない
教材・学習材の作成の工数が大きい
注意:e-learningは大学だけのものではない
オープンなe-learning教材
OCW (Open course ware)
大学の授業の開放(動画・ノート・問題集)
i-Tunes U
OCWや他の動画教材を一括管理
Khan Academy
小学校から大学までの授業動画サイト
放送大学
2011年10月よりBSデジタル放送開始
ウェブ・放送上で誰もがアクセス可能な素晴らしい教材
利点
学習者側
同時間、同一場所に集まる必要がなく自由な時間場所で学習できる
自分のペースや達成度に応じて学習を進めることができる
名工大のe-learning教材
Moodle
オープンソースのe-learningプラットフォーム
授業資料の提供のみならず、課題提出、テスト、アンケート、チャット、
成績管理、採点、フィードバックなどのプラットフォームを提供
名工大独自の機能として出欠システム・シラバスと連動
利点
教師側
成績管理などの自動化が図れる
教師は必ずしも必要はない
授業との連動によりe-learningの欠点を回避可能
この試みの動機
授業の悩み
学生が出席しないor寝る
学生が計算機で授業と関係ないことをする
結果として学生の理解度が低い
問題意識
ウェブ・放送によるe-learningに勝てないのでは
解決に必要だと考えたもの
教員・学生間の議論、授業の緊張感、内容の意外性
つまり授業の場でのインタラクティブ性
従来、紙ベースで解決を試みている取り組みは存在
H20年度名工大第3回FD研究会 「学生の声を基にした継続的な教育改善の試み ~入学・卒業
時アンケート調査によるFD活動~」 本学 大原教授
しかし、紙ベースでは印刷・集計コストが必要
Moodleの活用が解決の一助にならないだろうか?
情報技術Iでの試み
名古屋工業大学
電気電子工学科
1年次前期
必修科目
内容はコンピューターリテラシー
受講者数150人前後
全員に端末あり
利点:通信によるインタラクティブ性
欠点:学生がウェブで遊ぶ
授業スライドを端末と
ディスプレイで視聴
ただしスライドだけでは
学生はすぐに飽きる
受動的ではなく
能動的に参加させる仕組み
シラバスURL
http://syllabus.ict.nitech.ac.jp/view.php?id=10078
演習・アンケートの多用
授業に必ずアンケートもしくは演習・レポート
演習(×6)・レポート(×2)のない回は平均6回のアンケート
時には遊びや、即興の質問
例:学長の名前を書いてみてください
ネットいじめ、○○ことがある?
結果はすぐに学生に公開
コンピュータに関するアンケート
100%
100%
80%
80%
いいえ
60%
はい
40%
いいえ
60%
はい
40%
20%
20%
0%
0%
2009
2010
2011
自宅にPCはありますか?
2009
2010
2011
マイクロソフトオフィスを
使ったことがありますか
ほとんどの学生がPCに触れ、オフィス使用経験を有する
入学時の学生のコンピューターリテラシーは向上
興味深いアンケート結果
著作物への意識変化
100%
100%
90%
90%
80%
80%
70%
70%
60%
許せない 60%
50%
許せる
許せる
50%
40%
40%
30%
30%
20%
許せない
20%
10%
10%
0%
2008
2009
2010
2011
0%
2008
2009
2010
2011
自分が何日もかけて作った絵、文章、プログラムなどが
テレビ局の番組を録画した映像が無断で
無断でインターネット上に流出して勝手に使用される
インターネット上に掲載されていること
どちらも「許せる」が増加傾向
学生の著作物に対する意識は変化し
著作物の無断利用に対して寛容になりつつある
小テストを利用した調査
100%
その他
90%
80%
特に理由はない
70%
回答割合
60%
家族、先生が進学をすすめ
たから
50%
40%
理科、数学などの理系科目
が得意だったから
小テストモジュール使用練習を兼ねた 30%
20%
ボリュームのある入学の動機調査
10%
就職に有利だと思ったから
電気電子に関する知識・能
力を身につけたかったから
度
年
度
H
22
年
度
21
H
H
20
年
度
年
度
H
19
年
H
18
年
17
H
大
阪
大
学
度
0%
「あなたは,なぜ名工大電気電子工学科に進学しま
したか?主な理由を一つだけあげてください」
入学の動機調査結果
100%
その他
90%
80%
大学出身者の就
職率や就職先
回答割合
70%
60%
研究内容
50%
入学の動機は就職重視だが、
同時に知識・能力の獲得を希望
40%
教育内容
30%
20%
偏差値
10%
度
22
年
度
H
21
年
度
H
20
年
度
H
H
19
年
度
年
18
H
17
H
大
阪
大
年
学
度
0%
受験生獲得の手法として
・学科の高い就職率
・大学教育がキャリア形成に寄与
の2点のアピールが重要
「あなたが受験する大学を決める上で,最も重視した
項目は何ですか?一つだけ選択してください」
“電気電子工学系大学生の入学動機の時系列変化および
大学間における相違の調査”
加藤正史、平田晃正、大原繁男、江龍修、丸田章博
電気学会論文誌A 基礎・材料・共通部門誌 Vol. 131,
No.8, pp.635-636 (2011)
高校生が大学選択の情報として何を望んでいるか、という情報も
学生からの評価と今後の展開
アンケート回答により授業改善の方向性が示唆
端末で遊ぶ・喋る学生は顕著に減少
シラバス参照
参加機会
5
4
講義レベル
3
熱意
出席率
予習・復習
受講態度
2
教材使用
シラバス
話し方
成績評価
進度
コンピューターリテラシーの向上:
以前の学生に比べオフィス経験者増加
オフィス関連の演習課題の見直し
理解度把握
意欲向上
授業評価アンケート結果
H20年度
H21年度
H22年度
H23年度
平均
科目平均よりもかなり高い評価
コメントもアンケートの多用に好意的
倫理教育の必要性:
著作権関連法は大きく変化していない
一方、学生の意識は変化
法の尊守を改めて認識させる必要
授業改善以外への寄与
学生の入学動機が明らかに
ディジタル電子回路での試み
名古屋工業大学
電気電子工学科
2年次後期
必修→選択
内容はディジタル回路の動作の説明
受講者数75~115人
端末なし
利点:端末で遊ぶことはない
欠点:学生が寝やすい
構築型のスライドを
Moodleにより事前提供
学生は印刷または携帯端末
により授業に持ち込み
シラバスURL
http://syllabus.ict.nitech.ac.jp/view.php?id=10866
構築型のスライド
半加算器の動作
入力
出力
A
+ B
--CS
事前提供するスライド
0
+ 0
--00
0
+ 1
--01
1
+ 0
--01
1
+ 1
--10
指名・回答の後に見せるスライド
指名された学生は考えて回答
指名されない学生もスライドを埋める作業
ランダム指名とコミュニケーション
エクセルの乱数によりランダムに指名
乱数順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
カナ氏名 学生ID
氏名
22114132
21114005
22114096
22114084
22114082
22114026
22114061
22114066
22114114
22114141
乱数
乱数
0.9931092 0.6722857
0.9819037 0.3637698
0.9717246 0.6413002
0.9705127 0.4475956
0.929293 0.7488284
0.9134497 0.4434512
0.8966881
0.040866
0.8885163 0.4797309
0.8410561
0.839462
0.8346216 0.6918318
一回の授業に20回程度の指名機会
間違い、もしくは「わからない」という回答の場合は
コミュニケーションを取り正解に近づける
寝る学生は顕著に減少
効果検証
1
平均点
0.9
シラバス参照
導入前
導入後
参加機会
4
講義レベル
3
熱意
0.8
5
出席率
予習・復習
受講態度
2
教材使用
0.7
シラバス
話し方
0.6
H20
H21
H22
年度
H23
ほぼ同じ難易度の中間試験結果
導入後の成績が向上
成績評価
進度
理解度把握
意欲向上
導入前
導入後
H21年度
H22年度
平均
授業評価アンケート結果
導入後、高評価
自由記述でも評価するコメント多数
学習者への授業参加を促進し、成績向上にも効果
今回の試みの効果
アンケートの多用・構築型のスライド:
学習者の授業参加を促進
授業中に端末で遊ぶ学生・寝る学生は顕著に減少
授業評価アンケートにおいて学生から高評価
学生の成績向上
アンケートによる副次的な効果:
学習者の情報の取得
学生の入学動機の傾向把握
高校生への効果的情報提供手段を示唆
著作権意識・コンピュータリテラシーの把握
授業改善の方向性を示唆
大学の授業を振り返る 中世
12~16世紀の大学
都市に集う知識人の情報交換
教員は学生に雇われる
情報はインタラクティブ
大学とはインタラクティブな「知のメディア」
『大学とは何か』
吉見俊哉
岩波新書
宗教対立・印刷技術の発達により変化
2011
大学の授業を振り返る 近代
19世紀半ばのアメリカの大学
20世紀初頭の東京帝国大学
復唱
『キャンパスの生態史』
ノートの山
潮木守一
中公新書
1986年
情報の一方的な伝達
フンボルト理念(「研究」と「教育」の一致)
の登場により、状況変化
大学の授業を振り返る 現在
教員と学生のある程度のインタラクティブ性
一方、ウェブ・放送教材のクオリティ・アクセシビリティは向上
授業の仮想敵はハーバードや東大の教授
簡単には勝てない
情報通信技術により状況は今後変化
大学の授業 未来像
ICT機器・コンテンツの充実により、これまでとは違った形態
過去にも技術革新は教育を変えてきた
「未来の完全なインターネット社会で、キャンパスと教室、学年制や多数
の専任教員を備えた大学は生き残ることができるのかーー。この問は(中
略)真実味をもっている」
(『大学とは何か』
吉見俊哉
岩波新書
2011)
性能向上していくICT機器をうまく活用すれば、
ウェブだけでは得られない授業体験が可能では
予想される例:タブレット端末と数式認識ソフトによる数学の授業
シミュレータを使った物理・電気の授業
個人的な考え
数十~数百の人間を集められるというのは貴重
逆に言えば教員も学生も貴重な時間を使っている
知識を得る手段として効率が良いのは読書・自習
授業参加の機会費用に見合う価値を作りたい
そのために今後も進歩するICT・e-learningを活用
「大学が知識と知識にもとづいた技能の生産という点で最も中心的な機関であ
る以上、知識の変化にともなって変わりゆく存在」
カリフォルニア州立大学元総長、カーの言葉
(『大学は生まれ変われるか』
喜多村和之
中公新書
2002年)
おそらく私も、大学も進歩し、変わっていく必要がある
謝辞
以下の方々に感謝申し上げます。
名古屋工業大学 電気電子工学科
大原教授 江龍教授 市村教授
平田准教授 岸助教
大阪大学大学院工学研究科 丸田准教授
釧路高専(元名工大)
高助教
加藤の授業
名古屋工業大学 情報基盤センターの皆様
授業に参加した学生の皆さん
大学(名工大)の授業価値向上に
繋げていけることを願って
情報基盤センター
電気電子工学科
名工大