ヨーロッパでの BSEに関するリスク軽減策と リスクコミュニケーション ウルリッヒ・キーム(Ulrich Kihm) 2008年10月15日、東京 本文書は、書面によるセーフ・フード・ソリューションズ(SAFOSO)の事前承諾なく、配布・複製してはならない。 リスク分析プロセス リスク管理 リスク評価 リスクコミュニケーション 2 ファクト • リスク評価は、科学的プロセスであるが、不確実性を 伴う。 • リスク管理やリスクコミュニケーションに携わる者は、 自組織内においても、一般大衆としての「消費者」と 話をする際にも、こうした不確実性を認識しておく必 要がある。 3 リスクコミュニケーションの本質的な目標 世間や消費者に対して、最も正確かつ信頼性の 高い情報を提供すること。 4 消費者は、何を知っておく必要があるのか? • • • • 最も精度の高い、かつ最新の科学的情報・知見 不確実性および未知の要素の性質・範囲 知識格差を補うために講じられていること 最も信頼性の高いリスク軽減策 5 リスクコミュニケーションにおける誤り • “ゼロリスク” はありえない • “ゼロリスク”というメッセージの発表方法/方策 – 根拠のない不安から消費者を守りたいという願望が動機となり、指針 とする – 一般の人々は“ゼロリスク”を望んでいるという想定も動機となる – “ゼロリスク”というメッセージを発すれば、間違いなく信頼を損なう 6 BSEに関する情報 • • • • ヨーロッパでは何が起こったのか? 何が問題か? 感染性やリスクがあるのはどの部位か? 感染牛の検査・検出方法は? • どのような対策が効果的か? • 対策の責任者は誰か? • 対策の実施方法は? • コミュニケーションは、どの程度有効か? • どのようなメッセージを発すればよいのか? • コミュニケーションの責任者は誰か? 7 1200 英国 BSE発生件数 1000 EU15カ国合計―ただし英国は除く 800 600 400 200 0 1989199019911992 1993199419951996 19971998199920002001 2002200320042005 診断年 日本/10月8日/msc 8 40000 35000 30000 25000 20000 15000 10000 5000 0 BSE発生件数 英国 EUにおけるBSE発生件数の推移 BSE病原体の再循環 BSE 感染牛 BSE 曝露牛 BSE感染牛の 加工 BSE感染物質の レンダリング 飼育牛への 肉骨粉(MBM)の給 餌 9 BSEへの感染 子牛への 感染 BSE保有母牛 平均潜伏期間:4~6年 生存期間 最大6 カ月 脳幹において BSE病原体の 検出が可能 BSEの検出は不可能 日本/10月8日/msc 10 牛のBSE:感染性のある組織 • • • • • • • 脳(経口感染後32〜40カ月) 脊髄(経口感染後32〜40カ月) 眼球 三叉神経節 背根神経節(経口感染後32〜40カ月) 回腸(経口感染後6〜14カ月) 扁桃腺(経口感染後10カ月) 11 牛のBSE:感染性のない組織 • 牛脳内の生物学的検定において陰性 – – – – – – 脾臓、リンパ節 筋肉 肝臓 腎臓 白血球 その他 12 BSEのサーベイランス • 受動的サーベイランス: – 臨床的に疑わしい症状の報告に基づく • 能動的サーベイランス: – 受動的サーベイランスに加えて、 – リスクグループの違いを考慮に入れ、 – サンプルを“能動的”に収集する 日本/10月8日/msc 13 能動的サーベイランス • リスクグループは、疫学的研究に基づいて決定する • 3つのリスクグループ: – 死亡牛 (農場または輸送中に死亡またはと畜された牛) – 緊急と畜 – と畜前検査でBSEの臨床兆候がみられた牛 日本/10月8日/msc 14 牛のリスクグループ 牛の 行く末 日本/10月8日/msc 臨床的に健康な牛 通常と畜 非特異的な疾病症状 を示した牛または 生産性を喪失した牛 疾病/緊急と畜/歩行 困難牛(ダウナー) 死亡原因が わからない牛 死亡牛 特異的な疾病症状 を示した牛または 疾病が疑われる牛 BSEが疑われる牛 15 BSEの抑止対策 日本/10月8日/msc 16 抑止対策 • 動物健康対策 – 直接目的:BSEの根絶 – 間接目的:人間への曝露の低減 • 公衆衛生対策 – 目的:人間への曝露リスクの低減 • 食物連鎖 • その他:血液、医薬品、化粧品など 日本/10月8日/msc 17 動物健康対策 • 飼料規制 – 反すう動物への肉骨粉(MBM)の給餌禁止(二次汚 染された飼料の給餌も禁止) • 動物性廃棄物の処理 – 動物性廃棄物の感染性を低減 • 飼料への特定危険部位(SRM)の混入禁止 – 感染性のある部位を飼料から除去 • 輸入規制 – (新たな)感染の導入を阻止 日本/10月8日/msc 18 BSEおよび牛のサイクル MBMの輸入 牛の輸入 最初のBSE源 BSEの再循環 および増幅 サーベイラン スおよび処分 BSE 感染牛数 給餌および飼料 の管理 BSE 曝露牛 処理された BSE牛 二次汚染の 抑止 と畜時の月齢 レンダリングされ たBSE感染 飼育牛のMBM の汚染 レンダリング処理 = 感染性の低減 19 SRMの除去 = 感染性の低減 EU15カ国における飼料規制違反 出典:EFSA、2008年 年 反すう動物の飼料 サンプル数 違反率 非反すう動物の飼料 サンプル数 違反率 原料 サンプル数 違反率 2001 24,102 2.89% 14,751 4.03% 2,315 1.73% 2002 26,288 0.12% 17,521 0.55% 8,092 0.63% 2003 20,305 0.18% 17,661 0.41% 11,019 0.54% 2004 20,332 0.16% 16,141 0.69% 12,482 0.47% 2005 11,591 0.16% 7,844 0.56% 4,933 0.81% 日本/10月8日/msc 20 英国における飼料検査1の結果 (2000-2007年) 出典:DEFRA 年 サンプル数 陽性サンプル 陽性サンプル率 (%) 2000 17,587 30 0.17% 2001 6,791 18 0.27% 2002 7,155 39 0.55% 2003 12,506 1 0.01% 2004 17,280 23 0.13% 2005 12,570 20 0.16% 2006 14,439 17 0.12% 20072 8,944 9 0.10% 1: 統計は、あらゆる種類の飼料または飼料原料を含み、禁止されている全てのタンパク質を対象としている 2: 2007年12月11日現在のデータ 日本/10月8日/msc 21 スイスにおける飼料検査の結果 (1991-2007年) 出典:ALP (1991-2000年は反すう動物の飼料のみ、2001-2007年は全動物種の飼料が対象) 検査したサンプル数 動物性タンパク質に汚染され ていたサンプルの割合 全面的な 飼料規制 反すう動物に対す る飼料規制 日本/10月8日/msc 飼料へのSRM の使用禁止 22 公衆衛生対策 • • • • • 特定危険部位の使用禁止 機械によって骨から分離した肉の使用禁止 と畜前検査 輸入条件および管理 BSE個体の焼却 日本/10月8日/msc 23 BSE検査の妥当性 • 消費者を保護するためには、BSE検査だけでは 不十分 どうしてか? 日本/10月8日/msc 24 BSEへの感染 子牛への 感染 BSE保有母牛 平均潜伏期間:4〜6年 生存期間 最大6カ月 脳幹において BSE病原体の 検出が可能 BSEの検出は不可能 日本/10月8日/msc 25 BSE検査の妥当性 • 消費者を保護するためには、BSE検査だけでは不 十分――どうしてか? • 全ての健康と畜牛からSRMを除去する方が、より 重要 • 適切に実施することが極めて重要 • 資格を有する食肉検査官 • SRMの除去に対する第三者監視 (管理状況の監 視) 日本/10月8日/msc 26 補完的な対策の組み合わせが必要 SRMの使用禁止 動物性 廃棄物 の処理 輸入 制限 飼料へ のSRM の使用 禁止 BSE個体の 排除 BSE個体の 排除 反すう動物 に対する飼 料制限 と畜前検査 あらゆる対策を導入・実施する必要がある 日本/10月8日/msc 27 食品の輸入条件 および管理 モニタリング • EUは、加盟国におけるBSE発生件数の増加に対 応すべく、BSEモニタリングシステムを拡充 • 2001年より前:牛の受動的モニタリング • 2001年以降:牛の能動的モニタリング 日本/10月8日/msc 28 能動的モニタリング • 先述の3リスクグループに加えて • BSE患畜の同時出生群、同時給餌群、および子 孫 • BSE患畜との疫学的関連が理由でと畜された、そ の他の牛 29 能動的モニタリング • 各リスクグループごとに、月齢制限の範囲を決定 する • 月齢制限の範囲は、疫学的研究に基づいて決定 する 日本/10月8日/msc 30 能動的サーベイランスの効果 80 スイス:1999年に能動的 サーベイランスを開始 70 50 40 68 63 30 50 45 20 38 29 10 15 14 9 0 1 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 診断年 フランス 200 150 北西フランス:2000年に能動 的サーベイランスを開始 100 50 日本/10月8日/msc 31 20 00 19 98 19 96 19 94 19 92 0 19 90 発生件数 60 法律に基づく月齢制限 出典: EC年次TSEモニタリング報告書(EC annual TSE monitoring reports) リスク・カテゴリー EU(英国以外) 英国 死亡牛 24カ月齢以上の全頭 緊急と畜 24カ月齢以上の全頭 と畜前検査で臨床兆候が見られた牛 24カ月齢以上の全頭 健康と畜 30カ月齢以上の全頭 BSEの疑いがある牛 全頭 1995年8月1日〜 1996年8月1日に生ま れ、廃棄目的でと畜され た牛の全頭 その他 日本/10月8日/msc 30カ月齢以上の全頭 (1996年より前に生ま れた牛を除く) 32 月齢制限の効果的な実施 出典: EC年次TSEモニタリング報告書(EC annual TSE monitoring reports) 法定 死亡牛 緊急と畜 と畜前検査で 臨床的に疑わ しい点を発見 健康と畜 BSEの疑い がある牛 BSE根絶 >24カ月齢 >24カ月齢 >24カ月齢 >30カ月齢 月齢制限なし 月齢制限なし >24カ月齢 >24カ月齢 >12カ月齢 >30カ月齢 月齢制限なし >24カ月齢 >24カ月齢、 >24カ月齢、 <24カ月齢 <24カ月齢 任意 任意 >24カ月齢、 <24カ月齢 任意 >24カ月齢、 <24カ月齢 任意 月齢制限なし 月齢制限なし >24カ月齢 >24カ月齢 月齢制限なし >30カ月齢 月齢制限なし 月齢制限なし >24カ月齢 >24カ月齢 >24カ月齢 >24カ月齢 月齢制限なし 月齢制限なし >24カ月齢 >24カ月齢 >24カ月齢 >30カ月齢 月齢制限なし >30カ月齢 日本/10月8日/msc 33 能動的モニタリングの効果 健康と畜牛として検査し た成牛の割合(%) 検査した成牛の割合( %) 25 20 検査したリスクのある個体 10,000頭当たりの陽性件数 15 10 5 リスクがある個体として検 査した成牛の割合(%) 検査した健康と畜牛10,000 頭当たりの陽性件数 0 2001 2002 2003 2004 34 2005 2006 2007 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 検査牛 10,000頭当たりの 陽性件数 出典: EC年次TSEモニタリング報告書(EC annual TSE monitoring reports) EUにおける総BSE検査回数(2001-2007年) 出典: EC年次TSEモニタリング報告書(EC annual TSE monitoring reports) 検査数 BSE件数 検査実施回数 10,000,000 2,500 2,000 8,000,000 1,500 6,000,000 1,000 4,000,000 500 2,000,000 0 0 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 日本/10月8日/msc 35 BSE件数 12,000,000 2001年以降における検出症例の出生年 出典: EC年次TSEモニタリング報告書(EC annual TSE monitoring reports) EU15カ国 EU12カ国 <1 9 90 19 90 19 91 19 92 19 93 19 94 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% 日本/10月8日/msc 36 EU15カ国での2001年以降における検出症 例の出生年 出典: EC年次TSEモニタリング報告書(EC annual TSE monitoring reports) 45% 40% 35% 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% ベルギー ドイツ スペイン フランス アイルランド イタリア <1990 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 オランダ 日本/10月8日/msc 37 ポルトガル 英国 EU12カ国での2001年以降における検出症 例の出生年 出典: EC年次TSEモニタリング報告書(EC annual TSE monitoring reports) 60% 50% 40% チェコ共和国 30% ポーランド 20% スロベニア スロバキア 10% <1990 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 0% 日本/10月8日/msc 38 BSE症例の平均月齢(2001-2007年): EU15カ国のみ 出典: EC年次TSEモニタリング報告書(EC annual TSE monitoring reports) 健康と畜 BSEの疑いがある牛 BSE根絶 リスクのある個体 150 月齢(カ月) 130 110 90 70 50 2001 日本/10月8日/msc 2002 2003 2004 39 2005 2006 2007 BSE症例の平均月齢(2001-2007年): 新規EU加盟国を含む 出典: EC年次TSEモニタリング報告書(EC annual TSE monitoring reports) 健康と畜 BSEの疑いがある牛 BSE根絶 リスクのある個体 150 -1カ月 月齢(カ月) 130 -1カ月 -11カ月 110 -7カ月 +3カ月 90 70 -1カ月 -2カ月 50 2001 日本/10月8日/msc 2002 2003 2004 40 -4カ月 2005 2006 2007 19 7 19 4 7 19 5 7 19 6 7 19 7 7 19 8 7 19 9 8 19 0 8 19 1 8 19 2 8 19 3 8 19 4 8 19 5 8 19 6 8 19 7 8 19 8 8 19 9 9 19 0 9 19 1 9 19 2 9 19 3 9 19 4 9 19 5 9 19 6 9 19 7 9 19 8 9 20 9 0 20 0 0 20 1 0 20 2 0 20 3 0 20 4 0 20 5 0 20 6 07 症例数 対策の効果:英国BSE症例の出生年 (2008年6月2日現在) 40000 36000 32000 28000 24000 20000 16000 12000 8000 4000 出典:VLA 日本/10月8日/msc 1 32 0 7 0 53 0 0 104 51 12 5 0 反すう動物に対す る飼料規制 飼料へのSRM の使用禁止 41 全面的な 飼料規制 対策の効果:スイスBSE症例の出生年 (2008年6月現在) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 出典:FVO 日本/10月8日/msc 反すう動物に対 する飼料規制 133/3/20 飼料への 全ての動物性 SRMの使 42 廃棄物 用禁止 全面的な飼料規制 対策の効果:フランスBSE症例の出生年 (2001-2007年の検出症例) 350 300 250 200 150 100 12 9 牛に対する飼料 日本/10月8日/msc 規制 飼料へのSRMの使用禁止 4 3 5 3 1 0 出典:EC 43 全面的な 飼料規制 0 50 0 0 EU15カ国における今後の予想症例数: シナリオ1 出典:EFSA、2008年 月齢 (カ月) 24-29 30-35 36-47 48-59 HS RG HS RG HS RG HS RG 2008年 - 0.00 0.08 0.15 0.10 0.32 1.44 1.98 2009年 - 0.00 0.08 0.15 0.10 0.32 1.44 1.98 2010年 - 0.00 0.08 0.15 0.10 0.32 1.44 1.98 2003年同時出生群以降のBSE発生率は一定と仮定 日本/10月8日/msc 44 EU15カ国における今後の予想症例数: シナリオ2 出典:EFSA、2008年 月齢 (カ月) 24-29 30-35 36-47 48-59 HS RG HS RG HS RG HS RG 2008年 - 0.00 0.03 0.06 0.06 0.18 1.18 1.63 2009年 - 0.00 0.02 0.05 0.04 0.13 0.84 1.15 2010年 - 0.00 0.02 0.04 0.03 0.10 0.61 0.83 2003年同時出生群以降、BSEの発生はさらに減少し続けると仮定 日本/10月8日/msc 45 ECからの提案 • 検査する牛の月齢を48カ月に引き上げる: 健康と畜牛のみ、あるいは リスクのある個体も含める? 日本/10月8日/msc 46 牛由来の食品は、いつ安全になるのか? • 月齢制限 • 検査した動物に由来する食品 • 国際獣疫事務局(OIE)規則:当該国のBSEの状況 に関わらず、肉は安全 • 枝肉の汚染 • MBMが混入されていない飼料で飼養された牛 • SRMの完全除去 • その他 日本/10月8日/msc 47 ECによるコミュニケーション • 法律、検査の目的・内容、検査結果などに関する 情報をインターネット上で提供 日本/10月8日/msc 48 Japan/Oct08/msc 49 Japan/Oct08/msc 50 ヨーロッパ諸国のリスクコミュニケーション:教訓 • 判明した点や今後の計画について定期的に情報 を提供する • 実行する内容を言明し、言ったことは実行する • 責任者は早期かつ頻繁に行動を起こす • リスク情報の空白化は絶対に避ける • “ゼロリスク”というメッセージを無くす • リスクコミュニケーションを上手に行うことが、リスク 管理に役立つ 日本/10月8日/msc 51 ご静聴ありがとうございました 52
© Copyright 2024 ExpyDoc