LCA講義全部 東北大学使用版

東日本大震災の歴史的位置付けと
今後の方向性
---大局的&柔軟な発想のすすめ---
安井 至
(独)製品評価技術基盤機構・理事長
東京大学名誉教授・国際連合大学名誉副学長
http://www.yasuienv.net/
1
概要






東日本大震災とその影響で起きたことの
位置付け
1000年に1度をどう考えるかという問題
を取り扱わないと解が見つからない
極めて長期的な視点をあえて持つことの
重要性
住民の不安の解消ができない国
信頼する対象と信頼しない対象
誰が将来を決めるのか
2
東日本大震災で起きたこと

自然災害





1.Mw9級大震災そのもの
2.Mw9級津波
3.人命・資産の喪失
4.インフラの喪失
間接的被害の影響






間接的被害


1.福島原発炉心溶融
2.放射性物質大量放出

1.高線量地域の避難
2.避難地域以外での懸念
3.農水産業への風評被害
4.規制被害
5.コミュニティーの喪失危機
低線量放射線被曝不安





1.緊急事態と平常時
2.科学者の見解の不一致
3.意図的な扇動
4.無責任な扇動
5.ゼロリスク願望
3
東日本大震災で天災として起きたこと

Mw9クラスの大地震



規模としては、恐らく869年の貞観地震以来
建物の被害は重大ではあったが、無事な建物
も多かった
Mw9クラスの大津波




やはり貞観地震の津波以来か
巨大防波堤は楽々と超えた
ほとんどすべてを流した
防御に有効に機能したのは、松島という自然の
配置ぐらいか
4
朝日新聞2011年11月24日
5
これまでの地震の規模(Mw)と津波の高さ
実測
予測
最大平均高(m) 最大平均高(m)
3.9
4.5
地震名
Mw
関東
7.9
1933年
03月03日
三陸
8.4
8.0
7.9
1944年12月07日
東南海
8.1
5.0
5.6
1946年12月21日
南海
8.1
4.4
5.6
1952年03月04日
十勝沖
8.1
4.0
5.6
1964年06月16日
新潟
7.6
3.5
5.0
1968年04月01日
日向灘
7.4
1.9
2.5
1968年05月16日
十勝沖
8.2
4.5
6.3
1973年06月17日
根室沖
7.8
3.0
4.0
1983年05月26日
日本海中部
7.9
7.5
7.1
1993年07月12日
北海道南西沖
7.7
7.7
5.6
1994年10月04日
北海道東方沖
8.1
5.9
5.6
発生年月日
1923年09月01日
阿部勝征、東京大学地震研地震火山情報センターによる
6
M8.1とM8.4(気象庁)≒Mw8.4とMw9
地点
名
震央
距離
波源付近
津波平 津波最
津波平 津波
震央
予報区分
均高 大高
均高
最大 予報区分 地点名
距離
(m)
(m)
(m)
高(m)
8.23
16.45
大津波警報
波源付近
12.74
25.47
大津波警報
522
3.48
6.97
大津波警報
北海道・浦河
435
4.18
8.36
大津波警報
北海道・室蘭
506
3.60
7.19
大津波警報
青森県・八戸
309
5.88
11.77
大津波警報
北海道・釧路
522
1.45
2.91
津波警報
北海道・釧路
北海道・浦河
435
1.74
3.49
大津波警報
北海道・室蘭
506
1.50
3.00
津波警報
青森県・八戸
309
2.45
4.91
大津波警報
岩手
大津波 岩手・
大津波
209 3.63 7.25
209 8.69 17.39
宮古
警報
宮古
警報
宮城
大津波 宮城・
大津波
189 4.00 8.00
189
9.59
19.17
鮎川
警報
鮎川
警報
福島県・小名
浜
287
2.64
5.27
大津波警報
千葉県・銚子
379
2.00
4.00
大津波警報
千葉県・館山
502
1.51
3.02
大津波警報
神奈川県・油
壺
504
1.51
3.01
大津波警報
静岡県・御前
崎
639
1.19
2.38
津波警報
三重県・尾鷲
820
0.93
1.85
和歌山県・潮
894
0.85
1.70
福島県・小名浜
287
6.32
12.64
大津波警報
千葉県・銚子
379
4.79
9.58
大津波警報
千葉県・館山
502
3.63
7.25
大津波警報
神奈川県・油壺
504
3.61
7.22
大津波警報
津波警報
静岡県・御前崎
639
2.85
5.70
大津波警報
津波警報
三重県・尾鷲
820
2.22
4.44
大津波警報
7
1000年後の津波にどう備える
宮古市田老町の実例から考える


今回の津波:高さ10mの二重の防潮堤を
超え、防潮堤の一部が破壊された
これまでの対処法(全面防御・回避)を延長



高さ15mのコンクリート製の防潮堤を200年
に1回、作り続ける
高台にのみ居住し、海岸付近は別用途
別の方法は無いのか


松島の奥に津波被害は少なかった
M8前半の津波用の防潮堤+高層(10階)程
度の居住用兼避難建物で対処する
8
松島湾の奥は津波被害が少ない
日本地理学会
http://map311.ecom-plat.jp/map/map/?mid=40&cid=3&gid=0
9
朝日新聞による報道より
完璧な堤防を作る?
それとも、避難地?
船舶の緊急避難は?
毎日車で通勤?
高齢者は?
農業従事者の年齢は?
避難はどこに?
10
津波受け流し型
11
12
原子力発電なしのエネルギー
13
天災の影響で起きたこと




最大の影響は福島原発の炉心溶融
それに伴う大量の放射性物質の放出拡散
1.原発なしでエネルギー供給ができるか
2.低線量被曝の不安をどう解消するか
14
原子炉の歴史





原発の原理的な発明は1934年にイタリア
人フェルミが核分裂の実験
1938年 核分裂実験結果の公表
1942年12月にフェルミは米国に移住、
最初の実験原子炉で連鎖反応
1951年12月 米国アイダホ州で EBR-I
世界最初の原発
福島第一の1号機 GE製

1967年9月着工 営業運転 1971年3月
15
原発は技術として未完成か




化石燃料を使いこなす技術でも歴史的に事故
が多発したが、幸いにしてエネルギー強度が
低かったので、大規模被害ではなかった
原発は、それを使う人間側の態度を含めると、
使用済み核燃料の問題を除外したとしても、完
成した技術とはみなしにくい
まだ、コストを無視した安全投資を行うべき段
階であったように思える
今後、古い原発ほど、さらなる安全投資を行う
かどうかの判断を行うべきだろう
16
化石燃料文明 別名 エネルギー文明
二酸化炭素排出の歴史的推移
2050
Costa Rica
18
エネルギー使用量の長期推移
Ultra-Long Term Scope Fossil Fuel
Fossil Fuel Era
500 Years
BC 10,000
AD 10,000
19
自然エネルギー文明時代は来るか



早ければ、300年後には必然的にそうなる
日本では、人口減のお陰で、エネルギー的に
自立した社会になる可能性がある
日本で最終的に頼りになるのは、




地熱エネルギー
◆バイオマスだけでは難しい
潮流エネルギー
◆絶対にダメ=油産出藻類
洋上風力エネルギー
東北がエネルギー生産地になることを意味する
20
原子力文明時代は有りうるか








文明というには、数100年の期間継続必須
現在の原子炉(軽水炉)の燃料ウラン235の
埋蔵量はかなり限界あり
世界中の電力をまかなうと20年程度以下?
高速増殖炉だと500年
使用済み核燃料の問題は残る
高レベル廃棄物を分離しても、1000年
文明の継続期間よりも長い
現時点の福島県民の不安をどう考える
21
各種エネルギーシナリオ
人
間
活
動
の
総
量
・
地
球
へ
の
イ
ン
パ
ク
ト
化石燃料依存から核融合依存へ
地球の持続能力
300年必要
100年間で人口の半減は厳しい
1800
2000
2300
22
東北エネルギー拠点の必須条件

東北地方での自然エネルギーが、中部地方
でも活用できる直流送電網ができている



既得権がかなり消滅している




電圧は現在ほど安定でない
周波数も電力事業者が自由に選択
例えば、漁業補償のシステムが変わっている
送電線建設コストが欧米並みに下がっている
地熱発電用の蒸気井掘削コストが欧米なみにな
っている
既成概念が消えている

電力は品質が第一ではなく、量が問題
23
直流には位相はない 小さい交流電力網なら、電力の品質
は問題でなくなる
交流
電力網
発
電
機
揚水
発電
直流幹線
直流幹線
交流
電力網
交流
電力網
発
電
機
交流
電力網
交流
電力網
交流
電力網
交流
電力網
直流幹線
交流
電力網
発
電
機
24
22世紀に世界は







世界は65億人
日本の省エネ技術が世界で使われている
一人あたりのエネルギー使用量は、1/3になって、
世界平均で1.5トン石油相当/人
世界全体で100億トン石油相当=2000年の全エ
ネルギー消費量
構成は、化石燃料30%(石炭はCCS付)、原子力2
0%、自然エネルギー50%
アフリカ、アジアの多雨地帯は水力
乾燥地帯は太陽光+太陽熱発電+大規模送電
25
国連の人口予測
12000000
10000000
8000000
中位予測
上位予測
下位予測
6000000
4000000
2000000
2050
2040
2030
2020
2010
2000
1990
1980
1970
1960
1950
0
26
22世紀に日本は






日本は人口が4500万人
一人あたりのエネルギー使用量は、世界平均の1.
5トン石油相当/人
2000年=1.26億人×4トン/人=5.0億トン
2100年=0.45億人×1.5トン/人=0.7億トン
化石燃料40%(すべてCCS)、自然エネルギー60%
自然エネルギーの中身のすべて
洋上風力発電
■地熱・高温岩体発電
■海流・潮流発電
■太陽熱利用
■

家庭用太陽電池
■家庭用蓄電池併設
■地中熱利用エアコン
■不安定エネルギーによる水素
■
最大の効果は、「エネルギー自給率が60%」
27
低線量被曝の不安への対処
28
福島県放射性セシウムの不安
不安の根底にあるもの
=国は何かを隠している=原発の安全の実
態についても知っていたのに
 ICRP(国際放射線防護委員会)というその筋
の権威も何か隠しているものがある
 これはメディアが好きな題材=NHKですら、そ
の方向性
 文部科学省の「放射線委員会」の動向を注目
している
 それは、国が信頼性を再構築できるか

29
学者の意見が一致しないのは当然





放射線防護学の分野では、ICRP(国際放射線防
護委員会)が圧倒的権威であった
統計的に母数が最大(=8万2千人)であった広島
・長崎の被爆者を対象とした調査が唯一のデータ
それ以外の調査では、かなり統計的に操作をしな
い限り、有意なデータはでない
自然科学者とは、過去からの権威に挑戦し、権威
の一部を修正することによって、自らの存在を認め
させることに挑戦する存在
それにチャレンジしないのは科学者でない
30
安心できるか、信頼できるか




クリアーに表現している書籍を探していた
昨年暮れにアマゾンを検索しかつ自分の
蔵書をひっくり返して探したところ、
山岸俊男「安心社会から信頼社会へ」
中公新書1479 1999年初版
1948年生まれ、一橋大学社会学部卒、
ワシントン大学社会学博士、北海道大学
教授、紫綬褒章(2004)
31
組織の信頼性





山岸俊男氏:「信頼は組織の能力と意図に依存する」
ICRPの場合、能力は問題なし
構成委員には、国、原子力関係者も多い
なおかつ信頼できる2つの理由
ICRPの1965年勧告。
 「しきい値が存在しないという仮定、および、完全に
線形であるという仮定は正しくないかもしれないこと
を知っているが、この仮定によって過小評価をするこ
とになる恐れはないことで満足している」。
 原発への信頼がいつでも揺らぐことを認識している。
事業者が勧告を弱めることを求めても、それを拒否。
32
ICRPの勧告の変化


ICRP1977年勧告とICRP1990年勧告
被曝1Svあたり

1977年:発がん死亡リスクは125/10000
1990年勧告では500/10000と4倍に厳しくした
理由:1950年~1975年のがんの過剰発生数
135例が、1950~1985年では260例に。
理由:中性子線の被曝値を修正(湿度による吸収補正)

理由:相加予測モデルから、相乗予測モデルへ






自然発生率に一定数を加えるか、一定数を掛けるか。
発がんは長寿命化によって増えているので、相乗予測は大。
その他:致死性がんからすべてのがんを対象に
33
ICRP1990年勧告 死亡確率の年齢依存
公衆
従事者
34
ICRP 2007年勧告

低線量についての表現が変わっている



1990年勧告:何年もの期間にわたり放射線被ば
くをした場合、約 500mGy 以下の線量では重篤
な影響は起こりそうもない
2007年勧告:吸収線量が約 100mGy の線量域
まででは臨床的に意味のある機能障害を示すと
は判断されない
変えた背景


管理が可能になった
寿命が伸びた
35
「安心」と「信頼」の関係は何か
もともと受け手の心理的な状況の表現であり
、対象が信頼ができない場合には、決して、
安心しない。
 それなら、逆も真なのか。
すなわち、「対象が信頼できれば、必ず安心
できるのか」。
 これは、重要な問題であるが、個人的には答
えが見つかっていない。
 多分違うのではないか。

36
山岸流 「安心」と「信頼」の差異





友達の借金の要請にどう対応するか
「100万円貸してくれ。必ず返すから」
友達をいくら「信頼」していても「安心」はでき
ない場合もある。
もしも、友達の所有物、例えば、宝石などを
担保として預かれば、「安心」ができる。
理由:担保による保証
37
安心:
日蝕後にも太陽は必ず戻る





これはなんの担保もないのに安心できる
原始人は不安になった(らしい)
それは、自然科学によって100%保証されて
いるから
過去に、日蝕後妙なことが起きた歴史はない
理由:絶対的真理・歴史的真理による保証?
38
安心?
明日の朝、海外出張。起きられるか?




この目覚まし時計は、これまで壊れたこと
はないので、大丈夫。
しかし、安心はしにくい。
個人的にはせめて、「2つ目の目覚まし時
計を準備したい」。
できれば、違ったメーカーのものにするな
ど、リスクに十分な対応ができる
39
マフィアのボスの安心
=部下は命令を必ず守る


もしも部下がボスの命令に背けば、必ず
「死の掟」が発動される
すなわち、ボスは「死の掟」のお陰で、安心
していられる。
担保による被害補填の安心


銀行業が安心していられる理由
ときに、不良債権になるが。。。
40
不安解消のシナリオ

1.皆既日蝕でも不安にならない理由



知識が確実である
リスクなら統計というものをもう少し理解する
2.長期的なフォローが長寿へ
=ケアが実質の被害を防ぐ
広島・長崎の被爆者や原子力関係者の寿命
が長いのは、健康診断のため
 政府と自治体がフォローを約束


3.究極は補償を約束すること

被曝の多い場合での甲状腺がん・白血病の生
命保険
41
最悪の状況下での最悪の災害
42
誰が未来を決めるのか?
43
2050年日本の将来人口(
<国立社会保障・人口問題研究所の推計>
出典:国土交通省 「長期展望に向けた検討の方向性について」p4.より引用
44
2050年日本の将来人口構成(
<国立社会保障・人口問題研究所の推計>
(才)
(男)
2050年
総人口
(女) 100
2050年
90
65歳以上人口
80
2005年
1億3千万人
↓
2050年
9500万人
(25%減)
70
60
50
40
30
20
10
2005年
1,500
1,000
2005年
500
0
500
日本の人口ピラミッド


1,000
0
1,500
80歳以上人口
2005年 5%
↓
2050年 17%
(千人)
黄色の帯はWS参加者の2005年時点の年齢帯。緑の帯はWS参加者の2050年の年齢帯。
出典:国立社会保障・人口問題研究所,日本の将来推計人口(H18,12月推計)より作成
2005年 20%
↓
2050年 40%
45
2050年とはどんな状況にあるか

人口は3割減
都市の中心部は空洞化している
社会インフラは保守すらままならない
どこかを諦めることが必要か?
それとも、移民を入れるか?

2050年の定年は、扶養者、被扶養者の比率を




一定とするとなんと78歳である
46
対応策1


日本に明るい将来を取り戻そうと思ったら、
日本の将来の選択に関わることは、2050年に確実
に生存して現役を務めていると思われる人々の合意
によって決める。

78歳まで現役。今から39年後にも現役。

現在年齢は39歳以下の人に決定権を!
47
対応策2




日本全体に明るい将来を取り戻す
2050年にどのような日本を作りたいか、もう一度、
日本人全体で考え直す。
実現可能かどうか、どのような夢・希望を持てる社会
か、できるだけ詳細に記述する。相当多数の社会像
を描く。
対応策1:そして、39歳以下の人々に決めてもらう。
48
私案:日本の将来=知・心・技でNo.1

世界No.1の省エネ・省資源国家になる


世界No.1の自然エネルギー利用法を開発


少なくとも、40~50年先を読み切る知力
世界No.1の人と人の絆を維持した国になる


不安定な電源利用技術で世界を救う
世界No.1の未来と環境に配慮した国になる


省エネ・省資源技術で世界を救う
経済効率だけでなく、本当の幸福を考える国
世界No.1の文化的価値を重視した国になる

文化的価値の重要性を120%理解する
49
必須条件:放射線汚染からの復活



現時点での日本政府の対応は、やや遅い
が、それでも、対応が妥当な方向になりつつ
ある
今のまま順調に推移すれば、30年後、福
島県でも放射線の被曝によって健康被害を
受けた人はほぼゼロだということになってい
るだろう
それには、


適切な除染、食品の管理、を確実に行う
人々が小さなリスクは小さなリスクと判断できる
50
対応策3 国会の機能を回復する

一般重要法案国民投票法を作る
(これができないという現実は別として)
そして、
国政・地方選挙二票制度を成立させる
 第1票目は、現在の自分にとって良い候補

者に投票

第2票目は、20年後の日本にとって良い
候補者に投票
51