スライド 1 - K-net by Kume Family: 粂 和彦・粂 昭

北九州予備校 講演
学習と睡眠の関係を
科学的に見直す
熊本大学 発生医学研究センター・薬学部
医学教育部・社会文化科学研究科
くわみず病院 内科睡眠障害外来
粂
1
和 彦
K.Kume 2009. 2. 27.
アウトライン
1.睡眠の科学的基盤
睡眠の基礎知識
睡眠を作り出す脳の働きと、その制御
2.睡眠と学習・記憶の関係
学習記憶システムの基礎知識
睡眠との関係
3.睡眠リズムの整え方
良い睡眠リズムを維持・回復するために
2
本日の資料について
講演資料=> 5.粂 和彦の著作・発表資料
http://k-net.org
(第二高校、熊本高校、北予備校)
睡眠リズムの整え方
http://k-net.org/dsps.html
睡眠障害相談室
http://homepage2.nifty.com/sleep
著書
「眠りの悩み相談室」「時間の分子生物学」
3
熊大ブックレット
熊大
知のフロンティア
講演会
(2008年2月)
4
1.睡眠の科学的基盤
ノンレム睡眠とレム睡眠
レム睡眠の不思議
一晩の眠気のリズム
睡眠を作り出す脳の部分
イルカの睡眠
眠気と体内時計
断眠とその影響
5
眠りには2種類ある
レム睡眠 (急速眼球運動睡眠)
=REM=Rapid Eye Movement
目だけが動いている睡眠
ノンレム睡眠 それ以外の睡眠
=脳を休めている睡眠
6
脊椎動物の種類によるレム睡眠の有無
レム睡眠がない
ノンレム睡眠とレム睡眠
哺乳類
爬虫類の多く
鳥類
両生類
魚類
爬虫類の一部
7
脳を休めるノンレム睡眠
レムではない睡眠(変な言葉です)
脳波は、ゆっくりとしたデルタ波に
起きている時の脳波
8
眠っている時の脳波
夢を見る、不思議なレム睡眠
脳は、起きている時のように、活発に
活動をしている
体の力が、ぐったり抜けている
目玉が、ぎょろぎょろ動いている
(まぶたは、閉じています)
鮮やかな夢を、よく見ている
9
レム睡眠の不思議
脳波は、覚醒時と同じようなパターン
筋肉が弛緩する = 緩むこと
=>脳の出口に遮断機がある
=>目が覚める=>「金縛り」
=>遮断機が壊れると、異常な寝ボケ
(レム睡眠行動異常)
10
眠りには、波がある
Wake
REM
1
2
NREM
ZZZ・・
3
4
1
60-120 min
11
2
3
4
5
睡眠 (時間)
6
7
8
眠る脳と、眠らせる脳
大脳皮質=眠る脳
眠らせる
脳幹=眠らせる脳
=眠らない脳
12
覚醒・ノンレム・レム睡眠時に働く場所
覚醒
ノンレム
覚醒/ノン
レム神経
ノンレム/
レム神経
レム神経
レムオフ
神経
VLPO: 腹側外側視索前野 MnPN: 視索前野内側核
BF: 前脳基底核 PFA: 脳弓周囲領域 TMN: 結節乳頭核
DR: 背側縫線核 LC: 青斑核 PRF:橋網様体核
13
Karashima et al. 2007
レム
イルカは、脳の半分ずつが、眠る
14
睡眠を制御するもの: 二大要素
睡眠の量と質は、「眠気」で決まる
「眠気」=「昼間の活動」と「体内時計」
「昼間の活動による脳の疲れ」
=>活発に活動すると、よく眠れる
昼寝をしてると、眠れない
「体内時計」
=>徹夜しても、明け方には目が冴える
時差ボケで眠る時間がずれる
15
眠らないと・・・
動物は、死んでしまう!
人間では、翌日には、眠気が強まる
=>注意力が下がる
記憶力が悪くなる
=>仕事の効率が下がる 事故が多くなる
ホルモンのバランスが崩れる
=>食欲が上がる
血圧が上がる
=>筋肉が減り、脂肪が増える
16
断眠によるホルモンへの影響
断眠
?
コルチゾール↑
異化作用↑
インスリン↑
脂肪貯蔵↑
糖代謝変化
筋肉増強↓
脂肪蓄積
筋肉減少
17
レプチン↓
食欲↑↑
睡眠不足で切れやすくなる 1
扁桃体の活性が強まる
眠った時 断眠した時
18
Yoo et al. Current Biology 17, R77 (2007)
睡眠不足で切れやすくなる 2
前頭葉のつながりが弱まる
断眠で
弱まる部分
19
Yoo et al. Current Biology 17, R77 (2007)
2.睡眠と学習・記憶
2種類の記憶
意識と無意識
夢と、リプレイ
シナプスの可塑性と睡眠
記憶の固定
20
2種類の記憶
1.手続き的記憶(非陳述記憶)
歩くこと、スポーツ・・・
でも、計算とかも!
2.宣言的記憶(陳述記憶)
=>どちらも、睡眠が必要
21
心と体の関係を、どうとらえるか?
心の基礎に、体がある
心の健全な働きのために、健全な体「も」必要
=>体(脳)のことを考えること「も」、必要
22
心は、一つではない
私たちは、歩きながら、考えることができる
「意識に上っている」ことは、一つだが、
「無意識」も、体を動かし、判断している
「無意識」も、一瞬で、「意識に上る」ことがある
=>「無意識」も、私たちの「心」の一部
23
運動した部分は、早く深く眠る
脳の右側ばかりを使う運動をする
右側が
よく眠る!
24
Huber et al. Nature 430, 78 (2004)
では、体を動かさないと・・・
左手を三角巾で、12時間固定
右側が
眠らない!
25
Huber et al. Nature Neurosci. 9, 1169 (2006)
ネズミの学習と夢の中での復習?
3
4
2
1
1
ZZ Z...
レム睡眠時の回想
(夢による再学習?)
迷路での学習時
26
ストレスなど
レム睡眠の阻害
記憶(学習)成立
???
記憶・学習障害
人間でも・・・
眠らないと、「学習」効率が落ちる
学習した後、眠らないと、定着しない
=>学習の前にも後にも、睡眠が必要
27
3.睡眠リズムの整え方
なぜ昼夜逆転してしまうのか?
体内時計の光による制御
睡眠リズムの異常
正しいリズムの取り戻し方
具体例
28
良い睡眠リズムの整え方
睡眠相後退症候群の治療法
http://k-net.org/dsps.html
生活(睡眠・覚醒)リズムの整え方のポイ
ント
1. 体の仕組みを知ること。単に頑張るだけではダ
メ
2. 無理をしない。1週間で1時間しか変えられな
い
3. 以下に具体的な方法を説明する
順序としては、
1. 自分の現在の状態を知ること
2. 目標を設定すること
3. 努力すること(早起きと、早寝)
原理を知ること 1: 単に頑張るだけで
はダメ。
1. 睡眠は、脳の時計と、睡眠の量の両方で制御されてい
る
2. 時計が合っても、睡眠が足りなければ、朝は起きられ
ない
3. 大切なのは、「睡眠不足を解消すること」と「時計を
合わせること」の両方である。根性で治るものではな
い。(図1)
4. リズムは、脳の中の時計で制御されているので、時計
がずれている場合には、時計を合わせることが必要
5. ずれた時計を合わせるには、科学的な知識に基づいた
努力が必要。その期間は、それに集中し、他のことを
犠牲にする覚悟がなければ、ずれた時計を合わせるの
は無理。
原理を知ること 2
1. 脳の時計は、朝の光で早まる。夜の光で、遅れる(図2)
2. しかし、この「朝」「夜」は、その人の脳の中の時計にとっての
「朝」「夜」であり、現実の「朝」「夜」のことではない。
3. たとえば、脳の時計が5時間ずれている人の場合には、普通の人
にとっては朝である午前7時が、深夜の午前2時に対応するので、
無理して午前6時に起きると、ますます夜型がひどくなる。つま
り、「早起きしてはいけない」
4. ある一定以上、夜型が進んでしまうと、早起きすることが逆効果
になってしまい、どんどん悪循環に陥る。
5. 時計を早めて合わせるためには、朝の光がほぼ唯一の力。努力の
大部分は「(無理せず)同じ時間に起きること」に注ぐ
6. 普段眠りにつく時間帯の前には、「睡眠禁止帯」という眠れない
時間帯がある。この時間帯に無理をしても眠れない。
脳の疲れによる眠気
脳の疲れによる
眠気の強さ
2時間の
午睡
眠気が強い
普段の眠気
普段の7時起床
眠気が弱い
眠ると減る
5
7
9
早起き 寝坊
33
12
16
19
23
1
3
普段の就寝時間
7
体内時計による目を覚ます作用
目を覚ます強さ
日中強く、夜間に弱い
強いほど、
眠気を弱める
5
7
9
12
16
19
23
1
3
普段の就寝時間
34
7
ニつの要素を合わせたモデル
脳の疲れによる
眠気の強さ
覚醒
睡眠
体内時計の
覚醒信号
5
35
7
9
実際の眠気
12
16
体内時計の力で、日中は、
それほど眠くならない。
19
23
1
3
普段の就寝時間
7
ニつの要素のモデル =>大波のみ
実際の眠気
覚醒
5
7
9
12
睡眠
16
19
23
1
3
普段の就寝時間
36
7
大波、中波、小波・・・眠気の複雑な変化
眠気の強さ
深夜
37
夜の眠気の谷
=眠れない時間
午前
午後
夜
深夜
午前
中枢時計と末梢時計の関係
【中枢時計】
主に光で調節
【末梢時計】
中枢時計からの調節
+
各臓器・組織特異的な調節
概日周期時計の一般的構成
光
環境因子
入力系
(リセット)
出力系
発振器
(時計本体)
39
朝の光 => 時計の針を進める
朝6時
40
朝7時
夜の光 => 時計の針を遅らせる
夜10時
41
夜9時
体内時計の光によるリセット
時計が
進む
朝
時計が
遅れる
42
昼
夕
夜
朝
正常な睡眠リズム
睡眠禁止帯
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
43
15
23
7
15
不適切な睡眠リズム
睡眠禁止帯
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
44
15
23
7
15
睡眠相後退症候群
睡眠禁止帯
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
45
15
23
7
15
昼夜逆転する前に食い止めること
2~3時間以上遅れると・・・
=>
46
夜が朝になってしまう!
不規則型睡眠覚醒リズム
睡眠禁止帯
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
47
15
23
7
15
非24時間型睡眠覚醒障害
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
48
15
23
7
15
目標!
睡眠を7時間として
眠る時刻の目標設定
Mon
起きる時刻の目標
朝の光 + 朝食
Tue
Wed
Thu
Fri
夜更かしは
2時間以内
週に2回以内
寝坊も2時間まで
Sat
Sun
Mon
2時間程度
早く眠る日を
Tue
昼寝は良い、夕寝はダメ
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
49
15
23
7
15
起きる時間(朝)にすること: 早起き
(光・食事)
1. 必ず決めた時間に起きる。
2. 起きたら、まず、強い光に当たる。
3. 家庭用の高照度治療機(4万円ほど)もあるが、普通、外に出れば
よい。室内では、電気をつけても暗いので、強い光(できれば50
00ルックス以上)の場所に15分以上、できれば、30分以上い
て、「目から」光を浴びる。
4. 体を起こすことも大切なので、食事も早めに食べる。
その後の注意:
1. 起床後2時間以上経つまでは、眠らない。
2. お昼寝はしても良いが、基本的には15分程度で起きる。
3. 夕方を過ぎたら(眠る目標時刻の6時間以内になったら)避ける。
眠る前に(夕・夜)すること: 早寝
(光・刺激)
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
朝の反対に、光と刺激を避けることが重要
夕方以後は居眠りをしない。眠くなったら運動をする。
夕食は、眠る時刻の5時間程度前に済ませる
眠る時刻の2時間前になったら、下記を一切やめる
テレビ、パソコン、携帯、ゲーム
眠る時刻の1時間前になったら、天井の電気は消す
横になって、手元を照らすような電気で、本を読んだり、
勉強をしたり、刺激の少ない音楽を聴いて、眠くなるの
を待つ。
眠ろうと努力してはいけない
眠る環境を整える努力をすること
メラトニン0.5~1mgを、眠りたい時刻の4~6時
無理をしない: 1週間で1時間しかずれ
ない
1. もし朝7時に起きたいのに、お昼の12時にしか起きられないの
なら、5時間は時計が遅れている
2. 脳の時計は、1週間に1時間分しか、直せない
3. つまり5時間分早く起きるためには、5週間、努力を続ける必要
がある。焦りは禁物。
4. 時計を合わせる期間は、睡眠時間にしなければいけない他のこと
(学校、仕事、遊びなど)を、あきらめる。家族など周囲も、本
人が集中できるよう協力する。中途半端に早く起きるのは逆効果。
たとえば途中にテストがあるからと1日だけ早起きすれば、それ
までの努力が水の泡。
5. 他のことを続けながら、時計を直す場合には、1時間修正するの
に、1週間以上かかることを覚悟しないとだめ
6. 無理をして徹夜するのは、絶対にやってはいけない
睡眠・覚醒リズムの整え方: 具体的な方
法1
1. 最初は、まず自分の睡眠パターンと脳の時計の時間を知る
2. 睡眠記録をきちんとつけながら、3日間から最高で14日間程度、
一切の無理な努力をやめて、眠れる時間に眠って、起きられる時間
に起きる生活をする
3. この期間がどうしても必要なのは、最初は「睡眠不足」が貯まって
いることが多いので、本当に必要な量よりも、長く眠る日が続くか
ら
4. 学校も会社も完全に休み、1週間程度休養したところで、初めて、
今、本当に必要な睡眠時間と、現在の脳の時計の時刻が、はっきり
現れる。1週間でも乱れが残るのなら、さらにもう一週間、完全に
自由に寝たり起きたりする
5. この時に「自然に起きられた時刻」が、現在の「朝」の時刻であり、
眠っている時間が、必要な睡眠時間である(図5)
睡眠・覚醒リズムの整え方: 具体的な方
法2
1. 睡眠時間は8時間を超え、起きられる時刻は、午後になることも多
い。しかし、これが今の現実であることを、まず受け入れる必要が
ある。ここから始める。
2. 目標を設定する。無理な目標を設定しないことが、最重要
3. たとえば、図のように午前5時頃眠って午後2時(14時)頃起き
るという状態になっていたら、最終目標が7時起床なら、脳の中の
時計を、14時から7時まで7時間早めることが必要。
4. そのためには、7週間かかることになる。
5. また、必要な睡眠時間は9時間。この9時間を途中で減らそうとし
てはいけない。無理をすれば、起きられない。
6. ただし、睡眠時間が昼になると睡眠の質が悪化するために、睡眠時
間は延びる傾向がある。そのため、きちんとリズムが整えば、必要
な睡眠時間は9時間より短くなることが多い。
睡眠・覚醒リズムの整え方: 具体的な方
法3
1. たとえば、この場合、最終的に必要な睡眠時間が8時間になれば、
23時に眠って7時に起きる生活ができる。
2. このようなことを考えて、次のように目標を立てる
3. 現在、無理をせず起きられる時刻よりも、1時間早い時刻に起きる
ようにする。(起床時の注意を守る)
4. この生活を1週間続ける。
5. 1週間、一度も、この時刻から寝坊しなければ、次の週には、さら
に1時間早い時刻を目標にする。
6. この間、目標時刻よりも1~2時間、早く起きる日があっても良い
が、目標より3時間以上早く起きてはいけない。なぜならば、それ
よりも早く起きると、自分にとっての「深夜」になってしまい、脳
の中の時計が、かえって遅れてしまうから。そのため、時々、学校
や会社に行きながら時計を直すのは無理
睡眠・覚醒リズムの整え方: 具体的な方
法4
1. 目標の起床時間が、1週間守れたら、1時間早くするが、
もし、途中で寝坊して失敗することがあったら、翌日は
同じ時刻から始めて、翌日から1週間、それを続ける
2. つまり、寝坊して失敗すると、その分、最終目標の達成
までに時間がかかることになる。
3. 可能なら、最初のうちは、もう少し早めに進めても構わ
ないが、5日間で1時間程度が、家庭で行う場合には限
界に近いと考える。
1.現在の睡眠時間・睡眠相を調べる
睡眠禁止帯
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
15
最初は
睡眠時間が
長く、不規則
安定したら
それが今の
状態
23
7
15
2.現在の状態から、目標を設定
睡眠禁止帯
Mon
眠れる時刻は
Tue
気にしない
Wed
Thu
Fri
1週間以上、早起きを
Sat
Sun 続けると、眠る時間が、
結果的に、少し早くなる
Mon そのため1時間早くする
Tue ために1週間近くかかる
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
15
23
現在
翌週の目標
次の目標
7
15
3.目標の修正
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
Mon
Tue
Wed
Thu
Fri
Sat
Sun
15
現在の目標
寝坊したため、修正
今の目標を
1週間延長
次の目標
23
7
15
睡眠障害相談室
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