国民経済計算入門 専修大学 経済統計学・経済の世界 (作間) 統計学の3つのルーツ 国状学(独) 国状の記述 コンリング(16061681)、アッヘンワール(1719-1772)。かれらが つけた学問名Statistikが現在のstatisticsに。国 家の記述としての統計→集団の数量的記述 政治算術(英) グラント(1620-1674)、ペティ( 1627-1687)。死亡表の分析。(独)ジュースミル ヒ(1707‐67)。人口に法則性。 古典確率論(仏)パスカル(1623-1662)、フェル マー(1601-1665)。 経済ということばの2つの意味 「・・・は経済的だ」=「・・・は○○を他の選択肢よ り節約できる」。 バスのほうが経済的。たとえば、通学するという 目的がある。その目的を達成するために複数の 選択肢(バス・鉄道・その他)がある。その中でバ スが一番安い(お金を節約できる)という意味だ ろう。 第2の意味 日本語の「経済」「経済学」の語源は、「経世済 民」(世をおさめ、民をすくう)である。 為政者のための学問である。 ひとびとの生活に焦点があてられている。 為政者のための倫理学であった。 経済学 経済学が独立の学問となることには、まず、 データに基づいて思考することが社会的討論の 場で要請されたことが契機となったが、社会に 対する法則性の認識が重要であった。なぜなら、 為政者が何をなすべきかは、社会の持つ法則 性から自由に決められない。そうした法則性は 統計学が発見したと考えれば、経済学と統計学 との間には並々ならぬ関係があることになるだ ろう。 経済とは何か?(ポランニーの見解) ポランニー(ハンガリー、1886-1964)の説明 「経済的という言葉の実体的な意味は、人間が 生活のために自然とその仲間たちに依存するこ とに由来する。それは、結局において、人間に物 質的欲求充足の手段を与えるかぎりでの、人間 と自然環境および社会環境とのあいだの相互交 流(interchange)を指すものである」(「制度化さ れた過程としての経済」『経済の文明史』所収)。 経済とは、ひとびとのくらしのこと 経済とは、ひとびとのくらしのこと、言い方を換え れば、集団的に、協同して、営まれているものと して観察されたものとしての人々の生活のことで ある。 その協同のありさまをポランニーは、「過程」 (process)あるいは「制度化された過程」 (instituted process)として捉えようとした。それ は、ひとびとが行なっている「取引」の総体にあ る見方をしたものである。 「経済学」の稀少性定義(ライオネル・ロビン ズ)と批判(1) <稀少性定義>とは? 「経済学は、目的と、さまざまな用途に使用する ことが可能な稀少な手段との関係としての、人 間の行動を研究する科学である」(『経済学の本 質と意義』1935年)。 経済=節約という感覚と希少性定義 「・・・は経済的だ」=「・・・は○○を他の選択肢よ り節約できる」。 バスのほうが経済的。たとえば、通学するという 目的がある。その目的を達成するために複数の 選択肢(バス・鉄道・その他)がある。その中でバ スが一番安い(お金を節約できる)という意味だ ろう。 ※この場合、複数の用途に使える希少な手段は、 お金。こちらのほうが早いという時間の問題も重 要だろうが・・・。 「経済学」の稀少性定義(ライオネル・ロビン ズ)と批判(2) ロナルド・コース(『企業・市場・法』1988年) 「経済学で発展してきたのは、分析対象から切り離された アプローチである」。「経済学者は分析対象というものを もたないのである」。「選択を行う動物・・・ねずみや猫や たこにも適用可能」 「経済学が・・・選択の論理の問題にばかりとらわれてい るということは、一方では法学、政治学、社会学の再活 性化に最終的には貢献するかもしれないが、しかしそれ にもかかわらず経済学それ自身には、深刻なマイナス の影響を及ぼしてきた」(コース、『企業・市場・法』宮澤 他訳5頁)。 協力のありさま(たとえば、労働の提 供)を図であらわしてみよう。 B A AがBに 労働を 提供した BがCに 労働を 提供した C 点と矢印(点と点を結ぶ→)でつくられる図形が登場 した。これがダイ・グラフ。矢印でなく線分(辺)ならグ ラフ。 「ケーニヒスベルクの7つの橋」 ――グラフとは何か?――(1) ケーニヒスベルクは、現在のカリーニングラード。 「ケーニヒスベルクの7つの橋」 ――グラフとは何か?――(2) 「ケーニヒスベルクの7つの橋」 ――グラフとは何か?――(3) 「ケーニヒスベルクの7つの橋」 ――グラフとは何か?―― かつての東プロシアの首都ケーニヒスベルクには次のように中の島 クナイプホフAをはさんでプレーゲル川が流れていて、町をA,B,C,D の4つの部分に分けていた。これらを結ぶa~gの橋がかけられてい た。あるとき、この町のひとびとの間で話題になっている問題があっ た。 「同じ橋を2度渡ることなく、しかもこれらの橋を一度ずつ渡るように、 町を案内できるか」 (出発点にもどってくるバージョンもある) ケーニヒスベルクのひとびとは、いろいろと試みたが、成功したもの はいなかった。そして、この問題は後世、「ケーニヒスベルクの橋渡 り問題」とよばれるようになった。 有名な数学者オイラーは、そのような橋渡りは不可能であることを 証明した。 オイラー(Leonhard Euler 1707 – 1783) 「ケーニヒスベルクの7つの橋」(2) 右の図のようにA~Dの4つの地区を点であらわし、 橋を点と点を結んだ線で表す。そうすると橋渡りの問 題は、「右の図を一筆書きできるか」という問題に言 い換えられる。 「一筆書き」できるものについて調べる。 ① 書き始めであって、書き終わりでない点からは、 奇数本の線が出ている。なぜなら、書き始めで1本、 そのあとは、通過するたびに2本づつ線が増えていく からである。このように奇数本の線が出ている点を 「奇点」とよぶ。 ② 書き終わりであって、書き始めでない点も同様 に奇点である。 ③ 書き始めであって、書き終わりでもある点は偶 数本の線が出ている。書きはじめで1本、書き終わり で1本、通過のたびに2本づつだから。偶数本の線が 出ている点を「偶点」とよぶ。 ④ 書きはじめでも書き終わりでもない点も偶点で ある。通過のたびに2本増えるだけだからである。 「ケーニヒスベルクの7つの橋」(3) 以上のことから、つぎのことがわかる。 ① 一筆書きする図形に奇点があったら、そこを書きは じめか書き終わりにしなければならない。 ② 奇点が3個以上ある図形は一筆書きできない。 したがって、右の図形は奇点が4つあるので、一筆書きは できないことがわかる. 数学では、このように、点(頂点)と点(頂点)同士をむす ぶ線(辺)の集合のことをグラフという。ケーニヒスベルク の橋渡りの問題は、数学上のグラフ理論の嚆矢となった。 なお、案内をしたあとに出発点にもどってくるという問題 (一筆書きよりむずかしい)の場合、それが可能なグラフ は、オイラー・グラフと呼ばれる、そのための必要十分条 件は、頂点がすべて偶点であることである。(一筆書きで きる必要十分条件は、奇点が正確に2つであること。) 参考文献 矢野健太郎『数学物語』、角川ソフィア文庫。 ひとびとの協同性の表現としてのダイグラフ ac aa A cc bb ba B C bc ab cb ca 辺に方向のあるグラフがダイ(有向)グラフである。方向 のある辺を弧という。この図は、3人のひとの協同のあ りさまをあらわす。 協同性を「勘定」で表現する 協同のかたちは労働の融通だけではない。 生産物のやりとりであってもよい。 B AがBに BがCに 労働を α 労働を β 提供した 提供した A C α β Bの状況を 左の図であ らわす グラフであらわされた経済の営みを勘定であ らわす(復習) 勘定の左側を借方、右側を貸方といい、借方に→の入、 貸方に→の出を記録する。 β α β α ダイグラフは点の数だけの T字図で表現できる。逆に… 逆にT字図からダイグラフを復元できる。 このT字図を、左右の弧(矢印)の数がバランス するという意味で、「勘定」にするにはどうすれば よいか? 弧1本1万円というように、一定の金額を表示す るとすれば、弧の数が一致するということは、T 字図の左右の金額が一致するということになり、 「勘定」が完成する! この問題を解くことで気づいてもらいた かったこと すべてのT字図の左右に同じ数だけの弧が存在 すること(言い換えれば、入ってくる矢印と出て ゆく矢印の本数が同じ)は、ダイグラフが「オイラ ー」である(「巡回路」が存在する)ための必要十 分条件。 <矢印>を無視すれば、この条件は、先述の条 件を満たすから、オイラー・グラフになっているこ とは明らか。(すべての点は通過してゆくだけ→ すべての点が偶点・・・偶数というだけでは困る) 与えられたダイグラフからそのまま、巡回路 を発見するのは難しい! 2ページ目の右上の図は、あることを示唆してい る。すべての2点間の弧に反対向きの弧が対の ように存在する場合、巡回路が存在する。 ダイグラフが経済の営みを示しているとすれば、 この状態は、すべての取引が「等価交換」として 行なわれているケースに該当する。 一般のケースで、巡回路が存在するようにする ためには、弧を追加する必要がある。 経済の営みを(ダイ)グラフであらわす B A α γ β は主体の 管轄範囲 を示す Aが何かを生産し、それをBに手渡してBが消費した。 点を場所として意味づける。 生産・消費の場所。出現・消滅の場所。 この点から弧が出てくると、経済対象 の出現、この点に弧が入ると、経済対 象の消滅をあらわす。 倉庫型の場所。弧が入ってゆくと、経 済対象の積み増し(増加)、出てくると、 経済対象の引き出し(減少)をあらわ す。 複式記入(1) 垂直型複式記入と水 平型複式記入とがあ る。 商品の販売 A 借方 現金増 B 貸方 商品減 現金の提供 商品増 現金減 複式記入(2):移転の概念 現金の支払 A 税金支 払 移 転 ( 税 金) 現金減 現金増 B 税金受 取 移転の意義 移転 A B δ α γ β 一周して帰って来ることができている! は主体の 管轄範囲 を示す 複式記入(3)バランス項目 倉庫型 の場所 50 出現/消滅の場所 25 100 借(←) 中間消費 (75) 付加価値 (25) 貸(-) 産出額 (100) (補)移転を記入することはなぜ必要か? 主体内部で完結しているフ ローは、貸方・借方に同額を 追加しているから、全体とし ての勘定バランスに影響な い。 バランス項目によりバランス していないT字図形を最後 のひとつを残してバランスさ せることができる。 しかし、結局、外部からの≪ 入≫フローと≪出≫フローと をバランスさせる必要があり、 それを実現するひとつの十 分条件が移転を記入するこ とである。 ここまでの内容の復習・整理(1) A B C ここまでの内容の復習・整理(2) ここまでの内容の復習・整理(3) ここまでの内容の復習・整理(4) ここまでの内容の復習・整理(5) 国民経済計算とは? 経済の営みを勘定のシステム(内部につながりをもった勘定の組) の枠組みによって記録することに関する研究分野を国民経済計算 (national accountingまたはnational economic accounting)という。 「国民」の語は、一国経済を考察対象にすることが多かったという経 緯をあらわすとみればよい。 移転という人工的なフローを追加することにより、ひとびとの暮らし の営み(ポランニーの「過程」)をあらわす(ダイ)グラフを≪勘定≫群、 あるいはむしろ≪勘定体系≫によって表現することができる。 勘定体系をダイグラフに戻すと、オイラー・ダイグラフ(すべての弧を 通りながら一周してくることができるようなダイグラフ)なので、国民 経済計算は、「経済循環」として経済の営みを記録しているといって も、同じことである。 SNA 国連が示した(1953年、1968年、1993年、2008 年)、国民勘定統計作成上の基準、「国民勘定 の体系」(System of National Accounts)の略 称がSNAである。つまり、SNAとは、特定の方 針によって設計されたひとつの国民勘定体系の 名称である。 わが国では、93SNAに準拠して、GDP統計が 作成されている。統計の正式名称は、「国民経 済計算」、SNAと略称されることがあり、やや紛 らわしい。 協同のありさまに何を含めるか? 労働は生産要素。 労働のやりとり。 要素サービスと呼ばれる。 生産物(生産されたもの)のやりとり。 サービスのやりとり。これも生産に含める。 「生産」ということばについて、「生産の境界」に ついて、さらに説明が必要であろう。 貨幣(お金)のやりとり。生産物としての貨幣もな いわけではないが、銀行の負債(日本銀行券そ の他)が貨幣になっている。 金融資産を含むその他。 ケインズの考え方に沿って勘定体系を つくる 経済循環を構成することができる勘定の組を導 入する。 まず、個々の経済主体に、生産、所得支出(消 費)、蓄積の3つの勘定を置く。 次に、このように作られた個別経済主体の勘定 を経済全体や部門(企業部門、家計部門等)に ついて集計する。 生産勘定 借方 貸方 中間消費 産出額 付加価値 出現・消滅勘定を生産勘定と所得・支出勘定に分解する。 GDPは、付加価値の合計。「生産の境界」概念に依存する。 「生産の境界」は、二重になっている。 生産の境界の二重性 生産の境界は、二重になっている! 体系の生産境界 市場向けの生産プ ラス帰属 主婦の 家事労 働 帰属 家賃 マイカーの運 転 本来の(一般的) 生産境界 第三 者基準による 帰属(imputation) ≪みなし≫のこと。 たとえば、経済の営みを記述するとき、市場で売買され るような財・サービスの生産だけを生産にカウントするの では不十分である。 一般に、実際に(企業間等で)取引が行われたわけでは ないのに、経済の営みを記録するという観点からは、記 録すべきフロー(弧)が存在することがある。そのフロー は、当然貨幣金額として評価しなければならない。それ が帰属(帰属計算)である。 帰属の代表例は、「帰属家賃」。 協同のありさま: サービスとは何か? サービスとは、事前の合意のもと に1経済主体が他の経済主体の 管轄下にある何か(その経済主体 の所有する財、土地、身体)に対 して、変化をもたらすことである。 自分が自分に行う≪自己勘定の ≫サービスを認める サービスには、要素サービス(労 働)と非要素サービスとがある。 財と同格の経済対象とみなして、 耐久性が極度に低い財であると か、すぐ腐ってしまう財であるとか と説明することには無理がある。 サービスは、出現・消滅 勘定同士を結ぶ弧で表 現される。これは、移転と 同じルールである。 協同のありさま: 経済対象のフローを弧(→)であらわす 経済対象には、実物的経済対象(生産された財、生産さ れたものではない土地のような有形資産)と非実物的経 済対象とがある。 非実物的経済対象の典型は、金融資産、負債である。 金融資産は負債を≪裏側≫から見たもの。金融資産は、 負債を発行することによって出現する。 預金は銀行の負債、社債は会社の負債。 現金は日本銀行の負債。 特許権,著作権のような特別な無形資産も非実物的経済 対象と考える(べきである)。 ※サービス、移転は経済対象のフローとはいえない。 生産勘定と所得形成勘定 中間消費 産出額 付加価値 68SNAでは、上下の勘定をひとまとめにし たものを生産勘定と呼んでいた。 雇用者報酬 固定資本減耗 生産・輸入品に課される 税(控除)補助金 営業余剰/混合所得 付加価値 生産勘定(68年版SNAの場合) 中間消費 産出額 雇用者報酬 固定資本減耗 生産・輸入品に課される 税(控除)補助金 営業余剰/混合所得 付加価値 雇用者報酬についての注意点 “employees’ compensation”の訳語であり、 employeeを「雇用者」と訳しているのは、不適切 である。「被用者」のほうがよいかもしれない。 ふつう、われわれが「給料」と思っているもの以 外に、雇主(企業)側の社会保険負担(厚生年金 の掛け金や健康保険の保険料、労使折半がふ つう)が含まれている。 資本の概念 産出 投入(生産要素) 生産の3要素説 土地(自然) 労働 資本 資本、固定資本、固定資本減耗 資本(資本財)は、土地や労働が「本源的生産 要素」であるのに対して、それ自体が過去の産 出であるストックの投入(生産要素)のこと。 そのうち、固定資本(固定資産)は、繰り返し生 産に使われたり、複数の会計期間にわたり(ふ つう、1年超)継続して生産に使われるもの。 A Capital good is an input which is itself the output of the economy.(Samuelson, Economics, Seventh Edition, 原材料のような中間消費が生産のための費用と McGRAW-Hill,1967.) なるのと同様に、固定資本の使用も費用となる。 それが固定資本減耗 耐用年数をきめるもの 物理的劣化より陳腐化(技術進歩、嗜好の変化 )…..サイモン・クズネッツの見解。 「近代経済成長」(クズネッツ)とは? 資本の脆弱性の克服。 生産・輸入品に課される税(控除)補助金 1968SNA当時は、「間接税(控除)補助金」。 1993SNA以降、「間接税」という用語を使わなく なった。財政学上の転嫁による定義のあいまい さ(担税者、納税者)がひとつの理由。 生産物の評価が市場価格であれば、その中に 消費税のような間接税が含まれているので、そ れを費用側に計上する。 補助金は、マイナスの間接税と考えておく。 混合所得とは何か? 営業余剰(68SNA型生産勘定のバランス項目) には、非法人企業(個人企業)の場合、利潤の ほかに、個人業主の労働報酬が含まれている。 そのことを考慮した名称である。 分配率を計算する際に、考慮に入れる必要があ る。 第1次所得とは、生産に関与することによって得ら 所得・支出勘定 れるようなタイプの所得のこと。生産・輸入品に課 される税(控除)補助金つまり間接税を含む。 第1次所得の支払 雇用者報酬 その他の経常移転の 支払 営業余剰/混合所得 最終消費支出 生産・輸入品に課される 税(控除)補助金 貯蓄 第1次所得の受取 可処分所得 その他の経常移転の受 取 蓄積勘定 固定資本形成 在庫増加 土地の純購入 無形非生産資産 (非金融無形資産) の純購入 金融資産の純取得 貯蓄 蓄積勘定は、さまざまな形態の経済 固定資本減耗 対象の蓄積を左側に、それをどのよう 資本移転の純受取 にまかなったかを右側に記す。移転 負債の純発行 の記入が行われていれば、バランス 項目なしにバランスする。 資本移転と経常移転との区別 1968年版のSNAでは、「資本移転とは、一般に それを受け取った主体が経常的な所得を増や すものとみなさず、支払った主体が経常的な所 得を減らすものとみなさない移転のこと」。 (1)源泉(所得からなら経常、富からなら資本) および使途(たとえば、資本形成等をまかなうた めなら、資本) (2)頻度(3)規模等が実施上の 判断基準となる。 「混合移転」は、資本移転。 資本移転と経常移転との区別(続) 1993年版と2008年版のSNAでは、「資本移転は、移転 を行なう方の当事者が(現金または在庫以外の)資産の 処分や、(受取債権以外の)金融債権を手放すことによ ってその資金を得るか、または移転を受け取る方の当 事者が(現金以外の)資産を取得することになるか、ま たはその双方の条件が満たされるような反対給付のな い移転である。資本移転は、しばしば規模が大きく、また 不定期であるが、この2つのいずれも、移転が経常取引 ではなく資本移転であると考えられる必要条件にはなら ない。もし、移転を経常として扱うか、資本として扱うか が明確でないなら、経常として記録すべきである」( 2008SNA 10.19段)。 国民経済計算における「総」と「純」 たとえば、「国内総生産」と「国内純生産」、「総 資本形成」と「純資本形成」。 その概念が本来、ある項目を控除したほうが正 確であると考えられる場合、控除しないままの状 態を「総」(gross)を用いて表現し、実際に控除 した場合に、「純」(net)を用いる。 何を「控除」すべきかは、ケース・バイ・ケース。 個別経済主体の勘定を集計する 集計には、2つの方法がある。 結合(combination)と連結ある いは統合(consolidation)であ る。 ここでは、連結を用いる。 さらに、一国のすべての経済主 体の勘定をひとまとめにし、外 国との関係は存在しないことを 仮定する。 A B ○ △ △ ☆ × □ ◎ ▲ A+B △ △ ◎ □ ○ ☆ × ▲ 簡単な国民勘定 以上の仮定のもとに、生産(所得形成勘定をまとめたも の)、所得・支出勘定、蓄積勘定を集計する。 純付加価 Y 値 固定資本 D 減耗 最終消費 C 支出 最終消費 C 支出 I資本形成 S 貯蓄 純付加価 Y 値 資本形成 I 貯蓄 S 固定資本 D 減耗 ケインズ・モデル 方程式(より適切には、恒等式)形式で S=I(Y=C+I)は、恒等式であると同 Y+D=C+I 時にマクロ経済理論では、方程式でも C+S=Y ある。なぜか? I=S+D 完全接合体系 いずれかの式の左辺(右辺)に一度現れた変数は、もう 一度右辺(左辺)に現れる。したがって、上の2つの式を 右辺同士、左辺同士で足しあわせ、整理すると、三番目 の式が得られる。 マクロ経済理論と国民経済計算 意図せざる在 庫増加 Y C+I C S=I,Y=C+Iは、い ずれも、勘定の貸 方=借方つまりつ ねに成り立つ恒等 式であると同時に 均衡国民所得とい う未知数を決定す るための方程式で もある。 ケインズ・モデルの行列表示 完全接合体系は、行列で表示で C きる。 第1行と第1列の対で(68SNA) 生産勘定をあらわす。第2行と第 Y 2列の対で所得・支出勘定、第3 行と第3列の対で蓄積勘定をあら D S わす。行が貸方、列が借方とする。 Cは生産勘定の貸方と所得・支出 勘定の借方にあるから、第1行と 第2列の交点にCを記入する。他 項目 借方(列) のフローも同様である。 右下のような表を完成させてみよ C 所得・支出(2) う。そのうえで、右上の行列を完 成させよう。 Y 生産(1) I 貸方(行) 生産(1) 所得・支出(2) ケインズ・モデルのグラフ(経済循環)表示 「連結」によって得ら れた国民勘定体系 をルール通りグラフ に戻すと右の図。 「購買力」の動きを Y 描くと称して、 →を 逆にする場合もある。 右図の赤い矢印。 たとえば、Cのフ ローに伴って、金融 所得・支 資産が経済対象の 出 動きとは逆向きにお こるはずである。 生産 I C D 蓄積 S GDPとは何か? 日本経済新聞2000年11月20 日 GROSS DOMESTIC PRODUCTのこと。 「国内総生産」と訳される。生産の集計量。 一国全体の付加価値の合計である。 「一国全体」というのがくせもの。 正確に言うと、居住者である生産者の付加価値 の合計。 第1次所得バランスの合計が国民所得 所得・支出勘定の一部分を抜 き出して、「第1次所得の配分 勘定」をつくる。そのバランス 項目が第1次所得バランス。 その合計が国民所得(国民総 所得=GNI、国民純所得= NNI) GNIは、かつてのGNPと同じ もの(名目値に関して)。 第1次所得の配分勘定 第1次所得 支払 第1次所得 バランス (総あるい は純)付加 価値 第1次所得 受取 海外部門を含む国民勘定(行列表示) C11 I 11 P12 C, I, Y, S, Dは、既出 1:国内 部門 Y11 F 12 +T12 P:中間消費 D11 S11 F:第1次所得 K 12 P21 C21 T:その他の経常移転 2:海外 部門 C12 F 21 K:資本移転等 Y22 +T21 二重の添字は、左の C22添字の国から右の添 I 22 字の国へフロー(→) が向かうように見る。 L:純貸出(金融資産の純取 得-負債の純発行) K 21 D22 S22 +L21 国内部門は居住者の集合である。 居住者とは? 国籍ではなく、「居住」が問題になる。 <1年基準>と<経済的利害の中心基準>の2 つの基準がある。『SNAがわかる経済統計学』 83頁を見よ。 シティバンクの銀座支店は、日本の居住者。 海外部門の連結勘定を含む国民勘定 C11 連結生産勘定 Y11 C11 D11 I11 P21 P12 C12 I 11 P12 + C12 F 12 + T12 Y11 D11 S11 P21 C21 + K 21 F 21 + + T21 L21 K12 生産勘定(国内消費と国民消費) 国内消費 連結生産勘定 YY 1111 DD 1111 PP 2121 C21 Y11 D11 P21 C11 C12 I11 P12 C C11 11+C21 II11 11 P P12 12 C C12 Y11 D11 ( P21 C21 ) (C11 C21 ) I11 ( P12 C12 ) 12 輸入 国民消費 輸出 国民消費概念を導入した行列表示 C11 + C21 I 11 P12 +C12 F 12 +T12 Y11 D11 S11 P21 + C21 C21 +F 21 +T21 K 21 + L21 K12 GDP 生産勘定(結合) 生産勘定(連結) Y D P MP(中 間財輸 入) MF(最終 財輸入) C←国内の所得・支出 勘定へ I←国内の蓄積勘定へ P←国内の生産勘定へ X(輸出)←海外へ 海外の勘定から GDPは、 居住者で ある生産 者の付加 価値の合 計 C、I、Xは、 輸入品を 含む GDP(つづき) 結局、GDP=C+I+XーM ここで、M=MP+MF 政府支出G(=CG+IG)を導入すると、 GDP=C+I+G+XーM 民間分のみ 連結所得・支出勘定 C11 連結所得・支出勘定 C11 Y11 C21 F12 S11 T12 F21 T21 国民可処分所得 I 11 P12 + C12 F 12 + T12 Y11 D11 S11 P21 C21 + K 21 F 21 + + T21 L21 K12 連結蓄積勘定 C11 連結蓄積勘定 I11 S11 K21 D11 L21 K12 I 11 P12 + C12 F 12 + T12 Y11 D11 S11 P21 C21 + K 21 F 21 + + T21 L21 K12 資本勘定(実物取引勘定)と金融勘定(金融 取引勘定)とに細分された蓄積勘定 資本勘定 連結蓄積勘定 I11 S11 K21 D11 L21 K12 金融勘定 LA21 L21 LL21 LAは、金融資産の純取得 LLは、負債の純発行 海外部門の連結勘定 C11 海外部門の連結勘定 輸出 X P12 P21 C12 C21 F12 F21 T12 T21 K12 K21 L21 輸入 M I 11 P12 + C12 F 12 + T12 Y11 D11 S11 P21 C21 + K 21 F 21 + + T21 L21 K12 貯蓄投資差額(S-I)と経常収支 国際収支統計の経常収支CBは、X-M+F+Tと書 ける(F=F12-F 21、 T=T12-T 21)。 海外勘定から、CB=L –K( L=L21、 K=K12-K 21 )。 一方、蓄積勘定から、CB=S+D-I=S-I* (添字は、自明なので、省略、 I*は純資本形成) 以上から、経常収支=貯蓄投資差額 =純貸出-資本移転の純受取等。 経常収支に対するS-Iバランスアプローチ 経常収支=貯蓄投資差額であることを用いて、 経常収支に対する新しい見方が可能になる。 CB=S-I=(SP+SG)-(IP+IG) = (SP- IP)+(SG-IG)= (SP- IP)+(T-CG-IG) 民間貯蓄 投資差額 政府貯蓄 投資差額 双子の赤字 民間貯蓄 投資差額 政府黒字
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