計画数学第2 - 授業の目的と流れ - • 数理計画と組み合わせ最適化を、 応用を中心として解説 宇野 毅明 情報学研究所 & 総合研究大学院大学 復習:数理計画とは 数理計画・最適化(数理計画問題・最適化問題): 数理的に表現された、数多くのもの(集合)の中から、最も 良いものを選び出すこと 数理計画法・最適化法: 数理計画問題を解く、数理的な方法のこと 例: 線形計画: 線形制約を満たす n次元ベクトルの中で、目的 関数値が最も良いものを見つける問題 シンプレックス法(単体法): 線形計画を解く、数理的な方法 数理計画の特徴 コンピュータで数理計画を解くと + 大きな問題が解ける (決定する項目の数がときに1万を超える) + 正確に解ける (あるいは、精度の保証をする) + 短時間でたくさん解ける (1秒間に何百回も解く) - 数理的にしっかり定義された問題しか解けない - 問題の条件がちょっとでも変わると解けない - 構造が悪いと、密な問題でも解けない - 直感的に、ひらめきで解くようなことはできない 大きな問題が解ける利点 + 大きな問題が解ける ・ 人間が解ける問題の大きさは、せいぜい 100 ~ 1000程度 ・ 「解ける」とはいえ、とても時間がかかる上に、 最適性の保証も無い ・ たっぷり時間をかけて最適化する仕事は、非常に非人間的 対して、解きたい問題は、大きいことが多い ・ 人間が最適化するのは、無理 巨大データ ・ 近年のIT技術の発達により、半自動的に巨大なデータが収 集されている - POSデータ 10万 ~ - ソーシャルネットワーク 10万~ - 文書データ、辞書データ 100万 ~ - ウェブネットワーク 1000万 ~ - ウェブアクセス 1000万 ~ - 通信パケットのログ 1000万 ~ … データ データ ベース ベース 経営戦略やマーケッティングにおいて、これら巨大 データをいかに使うかが大きな鍵となってきている 正確に解けることの利点 + 正確に解ける ・ 人間が、「正確である事」を保証して問題を解くのは、非常に 手間がかかる(パズルの証明をするようなもの) ・ 「人間系によるエラー」もあるかもしれない ・ 数理計画法だと、「最適」である解が得られる ・ 近似アルゴリズムで、「最適解から誤差○○以内」である解 が得られる ・ 列挙アルゴリズムで「条件にあう解」が全てもらさず見つけら れる 正確な解が必要な場面 ・ 「○○の性質を持つものの値は○○以下」というような定理 証明を行うとき ・ 行政での政策決定など、正確な解を証拠として用いたいとき ・ データの分析など、解の正確な数が必要なとき ・ 科学分野で、実験結果から得られるデータを証拠として使い たいとき 短時間で解けることの利点 + 短時間でたくさん ・ 人間はいくら速くても、処理には限界がある(10秒はかかる) ・ たくさん解くのは、疲れる ・ 対話型の最適化システムでは、同じような問題を短時間で 何回も解かなければならない ・ オンラインサービス(路線検索、ナビ)などは、瞬時に答えを 返す、という作業を、何千回と行う ・ 製造工場などでのリスケジューリングは、オーダーの変更に 伴い、短時間で繰り返し解く必要がある 数理計画の位置づけ オペレーションズ・リサーチ 計算機アルゴリズム 数理計画 数学 自然科学・社会科学・ 産業・行政など応用分野 数理計画の位置づけ (2) 組合せ最適化 近似 アルゴリズム 数理計画 線形計画 非線形計画 授業の内容 1.線形計画の使い方 (実際問題をどのようにして線形計画で解くか) 2.組合せ最適化問題 (世の中の問題を中心にして、 いくつかの組合せ最適化問題を解説) 3. 近傍探索、動的計画 (線形計画以外の、最適化問題の解法を紹介) 授業の内容 (2) ・ ・ ・ ・ ・ ・ 非線形計画 組合せ最適化 生産計画を立てる 割り当て問題 クラス編成をする 最短路とナビゲーション ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 施設配置 配送計画 スケジューリング 動的計画 列挙 データマイニング データベース比較 授業のねらい 数理計画を勉強するには、少なくとも3つの視点が必要 1. 数学的な視点 2. オペレーションズ・リサーチ的な視点 3. アルゴリズム的な視点 いろいろな問題や解法を題材にして、これらの視点から物事 を見るセンスを磨く 計算機アルゴリズム アルゴリズム: 物事をするときの、手順のこと 普通は、コンピューターに計算をさせる(プログラム)の手順 コンピュータの、効率の良いプログラムを書くにはどうするか、と いうプログラム設計の理論と考えても良い 1から100の数字を足したい: ・1+2+,...,+100 ‥‥ 99回の足し算 ・(1+100) * (100/2) ‥ 演算3回 にんじんを星型の輪切りに切りたい ・輪切りにしてから、それぞれを星型に切る ・ まず星型の切込みを入れてから、輪切りにする 計算機アルゴリズム (2) 計算時間オーダー: O(f(n)) 入力した問題の大きさに対して、最悪で、どの程度の時間がか かるかを、問題の大きさの関数(多項式)であらわしたもの ※ 係数は、機械やプログラマーによるので無視。 ※ 最大次数のところのみに着目する (入力が大きくなると、最大次数しか効いてこない) n項目ある辞書を引く: ・ 最初から順に調べる O(n) ・ 2分探索する O(log n) n 個の数字をソートする ・ 普通に挿入、クイックソート O(n2) ・ マージソート・ヒープソート O(n log n) オーダーが小さければ、 機械やプログラマーが 多少悪くても、設計の良 さで圧倒的に速い オペレーションズ・リサーチ オペレーションズ・リサーチ(OR) 現実世界に存在するシステムや作業や問題を、数理的なモ デルとして表現し、その問題を解く数理的な解法を構築する 明日の天気を知りたい: ・ 晴れや、曇りなどの天気を分類し、数理化 ・ 「過去の天気、気象データの履歴は翌日の天気と相関がある」 という観察から、「気象データの履歴から明日の天気を予測」 というモデルを立てる ・ このモデルを、統計的手法で解く オペレーションズ・リサーチ (2) ここから目的地までの最短ルートが知りたい ・ それぞれのルートを、交差点から交差点への道の区分 の組合せとしてモデル化 ・ 通過時間が最短となる、道の組合せを見つける最適化 問題として解く 議会での各政党の発言力が知りたい ・ 「法案を通すには、いくつかの政党が協力しなければな らない」、という観察から、「どの政党の組合せが過半数 を取れるか」という組合せでモデル化。ゲーム理論の、協 力ゲームのモデルなどに当てはめる ・ 発言力を計算する オペレーションズ・リサーチ (3) 研究・実践では ・ 妥当なモデルが作れるか ・ 数理的に解ける(実用的な時間で解ける)問題に定式化 されるか ・ 効率的な解法か ・ 実用的か(解の性質・求解の時間など) といった点が重視される オペレーションズ・リサーチ (4) 研究手法 モデル作り 各々の段階で、数学的、OR的、 アルゴリズム的な視点が必要 解法の構築 アルゴリズムの改良 知識をどのように使うか おしなべて、物事は応用力が大事 ・ 現実の問題に出会ったとき、その問題を、自分の知識でどの ように解決するか ・ あるいは、自分の知識では解決できそうもないことを、どのよ うに確認するか ・ 自分の知識で解決できなかったら、どのような知識を手に入 れればいいか 例)線形計画、という道具(知識)があるとき、これを使ってどの ような問題が解けるか考える。 練習問題 1. 線形計画で解ける問題を考える 2. ほかの問題を線形計画で解く 練習問題: それなりに実用的な問題で、線形計画になる問題を考 えてみよう 軽く練習問題1 用語の定義: max {a,b,…,z}: a,…,z の中の最大値 min {a,b,…,z}: a,…,z の中の最小値 max xi, min xi : x1,…, xn の中の最大、最小値 問題: 次の数理計画問題を、線形計画問題に直せ 最小化: 制約条件: max xi ∑ ai xi ≦ b xi ≧ 0 軽く練習問題1-2 新しい変数 t を導入する 最小化: 制約条件: t t ≧ xi ∑ ai xi ≦ b xi ≧ 0 問題: これで正しいことを証明しましょう 軽く練習問題1-3 証明: 実行可能な xi に対して 制約条件より t ≧ max xi は明らか。 ここで、 t > max xi であるとすると、 t > t' ≧ max xi となる t' が存在する t' と xi の組は実行可能解なので、t は最適解でない。 対偶を取ると、「 t が最適解ならば、 t ≦ max xi 」 よって、2つの問題の最適解は同じ目的関数値を持つ q.e.d では問題。最小化 min xi とした問題は、線形計画になるで しょうか、ならないでしょうか 軽く練習問題1-4 問題: 以下の問題を線形計画問題に直しなさい 最小化: 制約条件: max xi + max yi ∑ ai yi ≦ b ∑ ai xi ≦ b xi ≧ 0 最小化: 制約条件: ∑ ( ci xi + ei yi ) max ai xi + max di yi ≦ b ∑ ai xi ≦ f ∑ di xi ≦ f xi , yi ≧ 0 軽く練習問題2 問題: 以下の問題を線形計画問題に直しなさい 最小化: 制約条件: | ∑ ci xi | ∑ ai xi ≦ b xi ≧ 0 軽く練習問題2-2 max を使った問題に直してみる 最小化: 制約条件: max { -∑ ci xi , ∑ ci xi } ∑ ai xi ≦ b xi ≧ 0 ということは、 最小化: 制約条件: t t ai xi xi t ≧ -∑ ci xi ≧ ∑ ci xi ≦ b ≧ 0 問題: これで正しいことを証明しなさい 軽く練習問題2-3 証明: ∑ ci xi ≧ 0 のとき | ∑ ci xi | = ∑ ci xi 、 ∑ ci xi ≧ - ∑ ci xi より | ∑ ci xi | = max { -∑ ci xi , ∑ ci xi } ∑ ci xi ≦ 0 のとき | ∑ ci xi | = -∑ ci xi 、 ∑ ci xi ≦ - ∑ ci xi より | ∑ ci xi | = max { -∑ ci xi , ∑ ci xi } よって両問題の目的関数値は等しい 問題: 最大化: | ∑ ci xi | だとどうなるでしょうか? 軽く練習問題2-4 問題: 以下の問題を線形計画問題に直しなさい 最小化: 制約条件: | ∑ xi | + | ∑ yi | ∑ ai yi ≦ b ∑ ai xi ≦ b 最小化: 制約条件: ∑ ( ci xi + ei yi ) | ∑ xi | + | ∑ y i | ≦ b ∑ ai xi ≦ f ∑ di xi ≦ f 軽く練習問題3 問題: 以下の問題を線形計画問題に直しなさい 最小化: 制約条件: ∑ ci2 xi2 ∑ ai2 xi2 ≦ b2 xi ≧ 0 軽く練習問題3-2 xi2 = yi とおくと 最小化: 制約条件: ∑ ci2 yi ∑ ai2 yi ≦ b2 yi ≧ 0 となる。 問題: 2つの問題が等価であることを証明せよ 軽く練習問題3-3 ・ 元の問題の解と、変換した問題の解が、 xi2 = yi という関係で、1対1対応する。 ・ 目的関数値も同じ 元の問題の最適解 変換した問題の最適解 問題: 次の問題ではどうでしょうか 最小化: 制約条件: ∑ ci2 xi2 + ∑ ci2 yi2 ∑ ai2 xi2 ≦ b2 ∑ ai2 xi yi = b2 xi , yi ≧ 0 最小化: 制約条件: ∑ sin xi ∑ ai xi = b xi , yi ≧ 0 軽く練習問題4 問題: 以下の問題を線形計画問題に直しなさい 最小化: 制約条件: Π xici Π xiai ≦ b xi ≧ 1 軽く練習問題4-1 ・ 全部、log をとってみる 最小化: 制約条件: log Π xici Π log xiai ≦ log b log xi ≧ log 1 最小化: ∑ log ci log xi 制約条件: ∑ log ci log xi ≦ log b log xi ≧ 0 yi = log xi とおくと 最小化: ∑ log ci yi 制約条件: ∑ log ci yi ≦ log b yi ≧ 0
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