2002年度 卒業研究結果報告 ADHD児における 集団遊びへの

行動障害心理学05
第7回:
行動障害(問題行動)と
選択(choice)の関係
(1)ADHD児の集団参加の事例
行動障害(問題行動)
・環境との関係としてのモデル:
問題行動=行動問題(原因は本人にはない)
・ADHD: Attention Deficit Hyperactivity Disorder
注意欠陥多動性障害
●DSMⅢ(1980)では、注意欠陥障害(ADD)
多動児と区別:多動を伴わない注意欠陥障害
●DSMⅢ-R(1987)
注意欠陥/多動障害(AD/HD)
●DSMⅣ(1994)
注意欠陥多動性障害(ADHD)
DSM(Diagnostice and Statistical manual of Mental disorders)
「精神障害の診断および統計マニュアル」APA(アメリカ精神
医学会)→医療モデル的分類(薬物効果などの事実背景あり)
環境(行動)モデルであれ、医療モデルであれ、
対応は環境的に行う必要がある。
問題行動と選択行動
「問題行動」が生じている状況で、リアクティブな
対応をメインとするか、DRAあるいは、選択機会や
「正の強化」を中心とするプロアクティブな対応を
するか?
プロアクティブな対応での基本的戦略
・本人の選択機会を設定する
→コロニーでの実践でも
最終的な手だてはそこにあった。
→医学モデル的に位置づけられるADHDの
こどもの場合ではどうか?
事例研究
ADHD児における
選択機会を用いた集団遊び参加の支援
応用人間科学研究科 対人援助学領域
5911030011-0
金山 好美
ADHDとは?
注意欠陥多動性障害
Attention Defect Hyperactivity Disorder
不注意と集中力の欠如、多くの場合は衝
動的や過活動という問題を持つ子ども達
の多様なグループを表す診断用語。
多動・衝動型 不注意型 混合型
ADHDの類型と特徴
多動・衝動性型
人
間
関
係
で
起
こ
す
問
題
行
動
不注意型
すぐにキレてしまう
整理整頓ができない
ちょっかいを出す
忘れ物が多い
活動に割り込む
引っ込み思案
すぐにイライラする
社会性が未熟
自分のやりたいことに固執
集中力がない
する
無神経
他人の立場を理解できな
い
挑発を無視できない
度々活動を変えたがる
ボーとしていることが多い
人の話を聞いてるようで聞
いていない
混合型
多動・衝動性型
+
不注意型
ADHD児の問題行動の特徴
二次障害
一次障害
•神経生理学的要因
•遺伝的要因
•妊娠中・出産時の
中毒症状 等
子ども自身に内在する発達
的なつまずき
+
・対人緊張(チック・鬱)
・行為障害
・引きこもり・不登校 等
周囲から与えられる環境の
影響により作り上げていく
悲観的な自己像
問題行動を軽減するためには、
どのような援助設定が必要なのか?
本研究の目的
人間関係や社会性において問題を抱える
ADHD児に対して、集団遊びを逸脱せずに継
続して参加が行えることを目的とした。その手
法として、
第一段階:「漸近的接近」による行動形成
第二段階:「参加する/見学する」を選択する
機会を与える
漸近的接近(successive approximation)
⇒対象児が現在持っている行動レパートリーの中
から、より目標行動に近いものを分化強化して、
次第に最終的な目標行動に形成していく。
シェイピング(shaping)
選択機会(choice-making)
⇒ADHD児が、集団という「社会」での関わり
を追行していくために、その特徴的な行動
を周囲がそのまま受入れる環境設定の検
討。
対象児








Y.N.
小学4年生 男児
ADHD(混合型)
学校では、普通学級と障害児学
級に所属している。
学力は、算数・理科が得意であ
るが、国語は苦手。
時々癇癪を起こしたり、キレたり
する。
体育は好きだが、ドッジボールな
ど、集団での活動は積極的に参
加しない。
こだわりが強い。


WISC-Ⅲ
全検査IQ 91
言語性IQ 79
有意差
動作性IQ 107
あり
S-M社会生活能力検査
生活年齢
社会生活年齢
身辺自立 7:0
作 業
8:0
集団参加 4:9
9歳6ヶ月
6歳4ヶ月
移 動 6:6
意志交換 6:2
自己統制 6:10
手続き
継続的な遊びへの
参加を促進するため
の手段
ドッジボール
サッカー
風船バレー
•対象児と活動パートナー3名の計4名がジャンケンをして、2チームに
分かれる。
•「さぁ、やろう!」からジャンケンまでの反応潜時を測定する。
ドッジボール⇒内野にいる人をあてる。先にチームメイトが各2回
当てられた方が負け。
サッカー ⇒先に3点先取したほうが勝ち。
風船バレー ⇒先に3点先取したほうが勝ち。
標的行動
「さぁ、やろう!」の誘発言語行動からチーム分割の
ジャンケンまでの反応潜時を短縮する。
環境設定
環境設備
使用教材
○ソフトボール
○風船
○三角コーン
○バレー用ゴム
○ベンチ用いす
等
訓練の流れ
ゲームのルール理解訓練
ベースライン
訓練Ⅰ-A: 勝率優先による継続的なゲーム参加
訓練Ⅰ-B: 同等の勝率においての継続的なゲーム参加
訓練Ⅱ: 「します/見学します」の選択訓練
訓練の手続き
③ ②①訓
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種目決定ボード
決める人
Y
○さん
△さん
□さん
種目
Y君は?
野球
ドッジボール
風船バレー
サッカー
見学します。
結果
種目別反応時間
ベースライン
訓練Ⅰ‐ A
訓練Ⅰ‐ B
訓練Ⅱ
ド 360
ッ 300
ジ 240
ボ
180
ー
ル 120
・ 60
秒 0
ベースライン期
勝った直後のゲームは参加。
負けた直後のゲームは、参
加までに時間がかかった。
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41
360
風
300
船
バ 240
レ 180
ー 120
・
60
秒
訓練Ⅰ‐A
5試行とも、60秒以内に参加。
訓練Ⅰ‐B
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41
360
サ 300
ッ 240
カ
180
ー
120
・
秒 60
ゲーム途中、負点になった時
点で逸脱行動があった。
訓練Ⅱ
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41
360
300
野 240
球
180
・
120
秒
60
0
※360秒以上の逸脱は、360秒のラインで表記
○ 勝
● 負
▲ 負・途中逸脱
* 勝敗なし
□ 見学・勝
■ 見学・負
◇ 途中参加・勝
◆ 途中参加・負
図3 . 対象児の種目別反応潜時
「野球」以外は、「見学します」
を選択。逸脱行動は見られ
なかった。 サッカー29試行
目に途中参加。 32試行目か
らは、自発的参加が見られ
た。
不適応行動
適応行動
50
ベースライン
訓練Ⅰ- A
訓練Ⅰ‐ B
不適応行動と適応行動の推移
訓練Ⅱ
40
生 30
起
回
数 20
・ ベースライン期、訓練Ⅰ‐A、
訓練-Bでは、適応行動よ
り不適応 行動の割合が高
かった。
10
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
セッション
・訓練Ⅱ期になると、適応行
動の割合が高くなっている。
図4-1.ゲーム中の不適応行動と適応行動の推移
不適応行動
適応行動
100%
80%
60%
40%
20%
0%
1
2
3
4
5
6
7
セッション
図4-2.ゲーム中の不適応行動と適応行動の割合
8
9
40
Ⅰ‐A
B.L.
Ⅰ-B
不適応行動と適行動の
項目別推移
Ⅱ
30
生
起
20
回
数
自分勝手に進める
泣く
暴言を吐く
暴力を振るう
物を壊す
活動域から離れる
10

不適応行動では、セッション
1~5では「暴力をふるう」
「物を壊す」「活動域から離
れる」があったが、訓練Ⅱ
期では見られなくなった。

適応行動では、「チームメイ
トを激励する」「好意的に話
す」回数が、訓練Ⅱになると
増加。「自分の失敗を謝る」
という行動が見られた。
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
セッション
図5-1.不適応行動の項目別回数
30
B.L.
Ⅰ‐A
Ⅰ‐B
Ⅱ
20
生
起
回
数
ゲームに誘う
チームメイトを激励する
自分の失敗を謝る
好意的に話す
チームメイトを応援する
10
0
1
2
3
4
5
6
7
8
セッション
図5-2.適応行動の項目別回数
9
考察
適応行動への行動形成の限界と選択行動の有効性
○訓練Ⅰでは、「勝敗の拘り」の柔軟化が目標であったが、勝
敗率操作で行動形成していくのは難しい。
⇒勝敗率操作を行うということは、あくまでもゲームを「やる」
事が前提。勝敗への拘りが強い対象児にとっての不安を取り
除くことには至らない。 より強い抵抗感を与えることになる。
○訓練Ⅱでは、「します/見学します」の選択肢を与えることで、
対象児が集団活動に参加するタイミングを自らで決定させる。
⇒対象児が、自身で集団の中に入るタイミングを決定させる
為に、環境側がすぐに受け入れる状況を作っておく。
対象児の好きな種目(強化子)を導入する
○選択種目の中の「野球」の役割の重要性
⇒「ドッジボール」「風船バレー」「サッカー」の中に、「野球」とい
う対象児が確実に参加できる種目を取り入れたことで、他種目
への関わりのへの状態が維持できるものとなった。
今後の課題として・・・
◎「野球」を選択肢の中に加えない環境下での般化
・友達とドッチボールをして「ボールがあたっても
泣かなかった」と報告。
・レクリェーションゲームの場で「見学します」と
逸脱しないで見ていた。
般化!?
ご静聴
ありがとう
ございました。