性感染症と日本経済 松尾 匡 (立命館大学経済学部) 講演の機会をいただいたきっかけ • 拙著『不況は人災です!』 • 筑摩書房 • 本体価格1600円 • 2010年7月発行 • 『不況は人災です!』35ページ, 図1-3 思いついたきっかけ • 山田昌弘『希望格差社会』(筑摩書房) p.204のグラフ 1998年には何があった? 橋本内閣四大デフレ政策 • 1997年4月 消費税税率引き上 げ 3%→5% • 1997年9月 医療費自己負担引 き上げ 健康保険本人負担 1割→2割 • 特別減税打ち切り • 緊縮予算 橋本総理 の画像。 著作権に 配慮して削 除 その結果 1998年は • それまでで最悪のマイナス実質経済成長率 −1.5% • 失業率急上昇 はじめて4%突破 • 自殺者急増 この年以降、年間3万人台 • 銀行破綻 (日本長期信用銀行、日本債券 信用銀行) • このグラフの意味することは? • そこでウェブ上のデータでその後を確かめ てみたのがこのグラフ その後のデータを加えると • 09年失業増加にもかかわらず低下 回帰分析結果は悪くなる。 実は「犯罪」も • 09年失業増加でも低下持続 増加に関して慣性がある? もっと長期のデータを見ると 男女計のデータだけがあった 性器クラ ミジア報 告数 回帰分析すると 失業率 • 重相関係数89%(R2=79%, 補正R2=78%) • 失業率の係数のp値、小数点以下8桁の微小値 • しかし誤差の系列相関あり。(DW=0.60) もう少し詳しく見てみよう 男女性感染症推移グラフ 男性の感染症と失業率 女性の感染症と失業率 今回も? 失業率の大き な上昇には 遅れて上昇する クラミジアと淋菌感染症以外は 失業率との相関は見られない。 性器ヘルペス(男) R=52%, p=5.66% 性器ヘルペス(女) R=21.6%, p=45.9% クラミジアと淋菌感染症以外は 失業率との相関は見られない。 尖圭コンジローマ(男) R=49%, p=7.52% 尖圭コンジローマ(女) R=51.1%, p=6.16% クラミジアと淋菌感染症は失業 率との相関が男女とも高い? 性器クラミジア(男) 性器クラミジア(女) R=83.3%, p=0.02% R=77.3%, p=0.12% DW=1.166 系列相関なし DW=0.845 系列相関不明 クラミジアと淋菌感染症は失業 率との相関が男女とも高い? 淋菌感染症(男) 淋菌感染症(女) R=77.1%, p=0.12% R=82.4%, p=0.03% DW=0.693 系列相関あり DW=0.906 系列相関不明 女性の淋菌感染症が失業率と 一番相関が高そう。 やはり、失業率 の大きな上昇 には 遅れて上昇する そこでこんな回帰式を考案 感染症報告数 =定数項+a・その年の失業率+b・exp(前年からの失業率の変化) exp(Δu) b<0 となる。 Δu 前年からの失業率の増 加が大きい場合、その分 割り引いてやる。→「遅 れ」の効果が表せる。 前年から失業率が減った場合は、減りに加勢されるが、減少幅 が大きいほど加勢の度合いは小さくなる。 性器クラミジア(女性)と 完全失業率(男女)の場合 • 重相関係数95.8% (R2=91.7%, 補正R2=90.0%) • aのp値は小数点以下6桁の微小値 • bのp値は小数点以下5桁の微小値 • DW=0.810 系列相関は不明 淋菌感染症(女性)と 完全失業率(男女)の場合 • 重相関係数97.4% (R2=94.8%, 補正R2=93.7%) • aのp値は小数点以下7桁の微小値 • bのp値は小数点以下5桁の微小値 • DW=1.535 系列相関はない 一応実証できた 今の実証分析が正しいなら • 完全失業率が1%上がって一年維持した場 合 • 性器クラミジアの女性患者は翌年9千件増 える。 • 淋菌感染症の女性患者は翌年約1790件 増える。 都道府県別のクロスセクション データで回帰分析したら? • 性器クラミジア定点当たり観測数(女性)を 完全失業率(男女)で回帰分析。 • 以下、重相関係数Rと、失業率の係数のp 値を表示。 • 散布図は、横軸が失業率、縦軸が観測 数。 • 1999年 • R=24.5% • p=9.64% • 2000年 • R=24.5% • p=9.67% • 2001年 • R=23.5% • p=11.19% • 2002年 • R=45.5% • p=0.13% • 2003年 • R=55.7% • p値は小数点以下5桁の微小値 • 2004年 • R=52.4% • p=0.016% • 2005年 • R=50.0% • p=0.034% • 2006年 • R=43.8% • p=0.21% • 2007年 • R=38.5% • p=0.75% • 2008年 • R=43.7% • p=0.21% • 2009年 • R=48.3% • p=0.058% 次は、淋菌感染症定点当たり観 測数(女性)で • 1999年 • R=44.3% • p=0.18% • 2000年 • R=52.7% • p=0.014% • 2001年 • R=45.6% • p=0.13% • 2002年 • R=51.5% • p=0.02% • 2003年 • R=52.2% • p=0.017% • 2004年 • R=48.7% • p=0.05% • 2005年 • R=51.9% • p=0.019% • 2006年 • R=38.8% • p=0.70% • 2007年 • R=45.3% • p=0.14% • 2008年 • R=35.9% • p=1.3% • 2009年 • R=34.7% • p=1.7% 相関係数とp値の推移をまとめる 総じて社会科学としては十分な値 相関係数とp値の推移をまとめる ほぼ1%未満の場合が多い 相関は実証できた 年齢階層別の回帰分析 • 女性の五歳ごとの年齢階層別の定点当た り報告数と、同じ年齢階層の女性の完全 失業率との間の相関も調べてみた。(性器 クラミジアと淋菌感染症の二件について) • すべての年齢階層を通じて、定点当たり報 告数の推移はほとんど相似している。 ∴ 各年齢階層ごとの失業率の推移の違い によって相関の違いがでるだけ。 • 当人の就業状況というより、家族全体の経 済状況が効いていると思われる。 淋菌感染症(女)単純回帰 単位(ディメンジョン)が違うので一つの軸で表現するのは本当は おかしい。(エクセルの使い方がわからなかった。) p値が1%以上。 有意ではない。 誤差の系列相関 がないと実証で きなかった。 • 数字の上からは、1%の失業率増加で、一 番増えるのは30代後半。ただし、統計的に 有意ではない。 • 有意なのは、20代前半と30代前半だけ。 ともに、1%の失業率上昇で、定点当たり 0.29件増える。 • 10代後半は有意ではない。労働供給が生 活の必要とは別の動機? 失業率が家計 の困窮を反映していないのでは。 • 20代後半も有意ではない。子育てのため に労働供給しない?失業率が家計の困窮 を反映していないのでは。
© Copyright 2024 ExpyDoc