工学研究者と社会科学者が連携した 原子力社会論教育への試み 東京大学大学院工学系研究科 ○小田卓司, 寿楽浩太, 川崎大介, 木村浩, 長崎晋也, 田中知 カリフォルニア大学 バークレー校(UCB) Joonhong Ahn 背景 東京大学大学院工学系研究科 原子力国際専攻 GCOEプログラム 『世界を先導する原子力教育研究イニシアチブ』が2007年度から開始. 採択理由での “社会(科)学” アプローチに関する記述 原子力と文科系の複合により日本の原子力の国際化と国の発展に貢献す る拠点を目指していることは評価できる. 原子力社会学との融合による技術と社会の調和に関する教育システムの 構築は,今後の原子力エネルギーの発展への貢献が期待できる. 工学に偏ることなく,現状原子力技術にある重心を適切に移動させるなどし て,原子力社会学との有機的な連携による学際融合拠点としての機能を一 層高めるための工夫・検討が望まれる. 教育/研究における学際連携に関する具体的なアイデアを出すためには, 工学・技術を専門とする教職員および学生が社会科学の基礎的な事柄 (領域,概念,用語,手法etc)を,十分に理解することが不可欠. 工学者側からの呼びかけにより,互いの背景や基礎知識を理解すること を目的として,継続的な勉強会を開催. 勉強会の概要 工学者と社会科学者の相互理解を促すために,両分野から講演者を選定. 月に1~2回のペース.発表 1時間+質疑応答/議論 2時間. これまでに15回開催.英語での講演/議論も3回実施. 参加者は15名程度. *学生5名+教職員10名程度.社会科学/工学系,工学技術系は半々. [第1回 @ 4/30,社会工学] 社会的課題の整理、および勉強会の方向性に関する議論 [第2回@ 5/14,社会科学] 社会学とは何か? 風車に関わる社会的問題 [第3回 @ 6/4,工学] 放射性廃棄物処分の技術の現状 1/2 [第4回@6/25,工学] 放射性廃棄物処分の技術の現状 2/2 [第5回 @7/16,工学] GCOEにおける社会科学の位置付け,教育プログラム構築への道筋 [第6回 @8/1,社会科学] 倫理学とは何か? 世代間倫理の考え方 [第7回 @9/24,社会工学] 知識涵養のシナリオ [第8回 @9/31,工学] 廃棄物処分の安全評価の現状と社会的側面への対応 [第9回 @10/18,社会工学(実務者,英語)] 廃棄物処分の安全評価の現状と社会的側面への対応 [第10回 @11/3,社会科学(NPO代表)] 活動内容,原子力の社会的問題に関する現状認識 [第11回 @11/18,社会科学(英語)] 廃棄物処分問題に対する歴史学者の視点 [第12回 @12/10,社会科学] 科学と社会の問題,工学研究開発における経路依存に関する研究例 [第13回 @12/25,工学] 工学者によるLocal knowledgeに関する文献の紹介 [第14回 @2/24,社会科学(英語)] インドネシアにおける原子力発電所立地プロセスの事例研究 [第15回 @3/11,工学] インタビュー結果の報告,今後の方向性の議論 発表内容 1. 勉強会に関するインタビューの結果(2枚) 対象:材料工学 2名(学生),社会工学 2名(学生),環境科学 1名(教員) *環境科学1名の参加率は20%. 参加動機に注目して質問. ① (工学系の学生と教職員が)参加をやめた理由. ②最初に参加を決心した理由. ③参加を継続した理由. ④活動に参加して良かったか? 今後も参加を継続するか? ⑤ “大学院 原子力専攻“で最低限おしえるべき科目は?(5つ) 2. 考察(3枚) 活動参加の動機を,(i) 立場,(ii) 専門分野に注目して整理. 3. 連携を進める上での注意点(1枚) 勉強会の立ち上げや勉強会での議論で顕在化した問題. 4. まとめ(1枚) 1. インタビュー結果(1/2): 参加への動機 教・社科 学・社工 ×2 教・社工 学・工サ 若教・工環 教・工サ 学・工環 若教・工環 学・工材 ×2 若教・工材 (1) (工学系の学生と教職員が)参加をやめた理由 ⇒ 類似 時間をとるだけのインセンティブがない.[全員] (2) (自分が)参加を決心した理由 ⇒ 相違 「社会科学/社会学とは何か?」という興味.[学・工材] (研究を円滑に進めるため)工学/技術に関する情報の収集.[学・社工] 工学分野との研究連携への期待.[学・社工] (3) (自分が)参加を継続した理由 ⇒ 相違 話が新鮮で興味深い(経路依存,絶対的善).(学・工材) 社会学者/社会工学者/工学者の考え方の相違への興味.(学・社工) 将来の工学分野との研究連携への期待.(学・社工) 1. インタビュー結果(2/2): 社会論教育の必要性 教・社科 学・社工 ×2 教・社工 学・工サ 若教・工環 教・工サ 学・工環 若教・工環 学・工材 ×2 若教・工材 (4) 活動に参加して良かったか? 今後も参加を継続するか? ⇒ 相違/類似 良かった.時間に対応する単位がつけば参加する.[学・工材] 良かった.課題解決型の内容であれば参加する可能性はあるが, 恐らくは参加しない.[学・工材] 良かった.研究に近い内容に発展した場合は参加する.[学・社工] (5) “大学院 原子力専攻“で最低限おしえるべき科目は?(5つ) ⇒ 類似 炉物理・炉工学,放射線計測・防護,燃料サイクル.[全員] 社会科学(政治,経済など),核不拡散.[学・工材] 工学倫理(実際的なもの),放射線応用.[若教・工サ] 法規制,発電の仕組み.[学・社工] 社会科学(実際的なもの),国際関係(核不拡散など).[学・社工] 2. 考察(1/3) : 参加意欲と「立場」 研究への応用が可 能な技能を身につけ るための労力 エフォート 知識を得るた めに必要な労 力(障壁) 知識を取得 した状態① 20 % 10 % リテラシーを 習得した状態② (i) 立場の影響 [学生] 多くの場合は状態①が目標.その場合は,障壁が高くないため, 興味や好奇心が参加意欲や動機につながる. [若手教職員,若手研究者] 成果が求められるため,状態①ではなく 状態②を考えて行動する.その結果,状態①への障壁も高くなる. *[教授] 必要性を感じている場合に時間の都合がつけば参加. 状態①が目標. 2. 考察(2/3) : 参加意欲と「専門分野」 社会科学リテラシー 内容に親しみ⇒障壁が低下 社会科学 工学(材料 工学)[弱] 工学(環境 科学)[中] 参加を中断 社会工学 工学(燃料サ イクル)[強] 社会との 関連度合い 目的意識 の高さ (ii) 専門分野と社会との関連度合いの影響 [強] 社会科学との連携を強く期待されている.(例:サイクル工学) ⇒参加者はより明確な“結果”を期待.期待との違いを認めた場合 にも,重要性を認識しているため,展開を見据えながら活動を継続. [中] 社会受容性の重要性を頭では理解しつつも,実感や経験がない. (例:環境科学) ⇒期待との違いを認めた場合には,急激に動機を喪失. [弱] 社会とのつながりが薄い.(例:材料工学) ⇒当初より明確な“結果”を期待していない.動機の低下が遅く, 興味により希薄な係わり合いを維持. 立場や専門分野を考慮した対応が必要. 2. 考察(3/3) : “知識取得”から“リテラシー習得”への障壁 “障壁” の高さ メリット (の認 識) 学生 若手 年齢/経験 <「参加の継続」に関するインタビュー結果> 時間に対応する単位がつけば参加. [学・工材] 課題解決型の内容であれば参加する可能性はあるが,恐らくは参 加しない.[学・工材] ⇒ 状態①(知識取得)で満足. [学生,若手] リテラシーの習得により期待できる本質的な (≒研究に直結する)利点の明示. [若手] 活動を補助するための仕組みや制度の整備. 社会科学と工学との連携による新しい視点での研究の実施. 若手教員と社会科学者の連携指導の下,修士2年 or 博士1年の初めの 数ヶ月,従事している研究を行うことの社会的妥当性について分析. 3. 連携を進める上での注意点 ①工学研究者と社会科学者の“文化”の相違 目標: 課題解決 - 理解,分析 議論: 課題解決的 - 批判的 内容: 定量的 - 定性的 成果回収の期間: 短期 - 長期 ⇒ 連携を模索して開始する際の大きな障壁 短絡的な判断をせず,時間をかけ,相手の 文化を尊重し合う関係を築くことが重要. Eng. Soc. Eng. Soc. Eng. Soc. Eng. Soc. 逆も同様 ② 社会科学/社会論の講義/講演の内容 同じ結論(信頼の重要性など)に至ることが多いため,理解し易いように 内容を過度に平易にした場合,視点の新鮮性が失われる. 例として原子力のケースを取り上げる場合,参加者の専門分野に過度 に近い内容を取り上げると,客観的な見方や議論が困難になる. 4. まとめ 工学者と社会科学者が連携することによる新しい原子力教育研究を展開する 準備として,互いの背景や基礎知識を理解するための勉強会を実施した. 参加者へのインタビューや勉強会での議論から,以下のことが示唆された. 立場(学生,教員,etc)や専門分野(“社会”への遠近)により,社会科 学へ求めるものが異なり,結果として動機の違いにつながる. 工学の学生への知識取得を目的とした教育では,興味も十分な動機と なる.ただし,リテラシー取得を目的とする場合は,興味だけでは十分で はなく,それによる明確なメリットを明示することが必要である. 工学と社会科学との連携においては,文化の違いが大きな障害になり うる.違いを十分に理解し,相手の文化を尊重し合う関係を築くことが, 教育プログラムを作成して実践する上で不可欠である. 工学者と社会科学者の連携の下での研究テーマの模索,研究の実施. 教育プログラムの雛形としてのサマースクールの実施.
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