阪急、近鉄、JR西日本の資産の 安全性を見る 作成者 岩本敬市 浜田哲司 伊藤由佳 会社に利益が出ていても、資 金繰りが悪ければ倒産するこ ともあります。会社資産の安全 性を 評価す る には、 以下のこと にポイントを置いて分析しま す。 安全性評価のポイント • • • • • 会社の支払能力は十分か 会社資産は安定的な構造となっているか 無理な投資をしていないか 資金の流れを追いかける 利息の支払いに不安はないか 1.会社の支払能力は十分か 流動比率を使って、短期的な視点から支払能力を評価し ます。 (計算式:流動比率%)=流動資産/流動負債×100 流動比率は、会社が流動負債の何倍の流動資産を持っ ているかを示す指標ですから、数値が大きければ大きい ほど会社に資金的な余裕があることが分かります。 流動比率 140.00% 120.00% 100.00% 阪急 近鉄 JR西日本 80.00% 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% 9年 10年 11年 流動比率が100%を下回れば、短期的に支払うべき債務が短期 的に現金になると考えられる資産額を上回り、資金的に好ましくな い状態といえます。流動比率の標準的な数値は、古くから200% といわれています。流動資産2に対して流動負債1の比率である ことが会社の適正な支払能力を示すということですが、3社を見て みると… 100%を超えているのは近鉄だけです。阪急、特に JR 西日本 は短期的な支払能力に乏しいといえるでしょう。(日本の非製造業 の平均は112.96%) 流動比率の計算の源となる流動資産には棚卸資 産が含まれています。しかし棚卸資産は必ずしも 短期間で現金化し、流動資産になるとは限りませ ん。 そこで、流動比率よりも確実性の高い支払能力を 分析する指標として、当座比率が用いられます。 当座比率は、流動資産から棚卸資産を除いた資産 額と流動負債との比率を計算します。 当座比率の計算式:当座資産/流動負債×100 ここでは、現金・預金、未収運賃、未収金、未収収益、短期貸 付金、関係会社貸付金を当座資産とします。 当座比率は、流動比率と同様に大きい方が資金的に余裕 があると評価します。流動比率では2対1でしたが、当座比 率は1対1、すなわち当座資産と流動負債の金額が同額であ ることが好ましい水準であるとされています。 当座比率 35.00% 30.00% 25.00% 20.00% 阪急 近鉄 15.00% JR西日本 10.00% 5.00% 0.00% 9年 10年 11年 当座比率 流動比率 35.00% 140.00% 30.00% 120.00% 25.00% 100.00% 阪急 近鉄 JR西日本 80.00% 60.00% 20.00% 阪急 近鉄 JR西日本 15.00% 40.00% 10.00% 20.00% 5.00% 0.00% 9年 10年 11年 0.00% 9年 10年 11年 2 つのグラフを比べてみると、JR 西日本は流動比率は悪いのに、当座比 率では阪急を上回っていることが分かる。これは、当座資産以外の資産 が少ないことを意味し、具体的には分譲土地建物(他2社では販売土地建 物となっている)、有価証券が少ないことが大きな原因となっている。 短期的な支払能力を見るには当座比率のほうが確実なので、安全性は 近鉄、JR 西日本、阪急の順になる。 売上債権回転率・売上債権回転期間 当座比率がいくら良くても、当座資産である売上債権が回収 できなければ支払能力があるとは言えません。そこで今度は、 売上債権回転率・売上債権回転期間を見てみます。 計算式: 売上債権回転率(回)=売上高/(売上債権+受取 手形割引残高)の当・前年度末の平均値 売上債権回転期間(日)=(売上債権+受取手形割引残 高)の当・前年度末の平均値/売上高×365 売上債権回転率 35.0 30.0 25.0 20.0 阪急 近鉄 JR西日本 15.0 10.0 5.0 0.0 10年 11年 売上債権回転期間 30.0 25.0 20.0 阪急 近鉄 JR西日本 15.0 10.0 5.0 0.0 10年 11年 35.0 30.0 30.0 25.0 25.0 20.0 20.0 15.0 15.0 10.0 10.0 5.0 5.0 0.0 10年 11年 0.0 10年 11年 回転期間が短いほど回転率が良い。 当座比率では近鉄、JR 西日本、阪急の順に良かったが、売上債権回転 率では JR 西日本が大きく他を引き離している。つまり、近鉄は JR 西日 本よりも回転率が悪いので当座資産が多く残っており、当座比率が高く なっている可能性がある。 2.会社資金は安全な構造と なっているか 会社資本には自己調達資本と借入金等による他人調達資 本があり、当然、自己資本が多い方が余裕があるわけです。 自己資本比率は以下のように計算します。 計算式:自己資本比率(%)=資本合計/資産合計×100 自己資本比率 25% 20% 阪急 近鉄 JR西日本 15% 10% 5% 0% 9年 10年 11年 自己資本比率は、会社の借入金依存度をあらわしますから、会社 の安全性が高いのは、阪急、近鉄、JR 西日本の順になります。 自己資本比率が一番低いのは JR 西日本です。これは分母である 資産が多いためです。しかし、流動資産が少ないことはすでに言い ました。ということは、固定資産が多いために自己資本比率が低く なっているのです。 固定資産については、後程「3.無理な投資をしていないか(固定 比率)」でお話しますが、簡単に説明すると、固定資産の中で大きな ウエイトを占めているのは有形固定資産や、投資有価証券です。 流動資産としての有価証券が少ないことは流動比率のところで言 いましたが、固定資産である投資有価証券は多かったということで す。 会社の借入依存度を見るのに、自己資本比率を使いました が、自己資本比率の代わりに負債比率で評価することもあり ます。 負債比率は以下のように計算します。 計算式:負債比率(%)=資本合計/負債合計×100 負債比率は大きければ大きいほど、借入依存度が低く資金 の安定性から好ましいと評価します。 負債比率 30% 25% 20% 阪急 近鉄 JR西日本 15% 10% 5% 0% 9年 10年 11年 借入依存度が低く、資金が安定しているのは、阪急、近鉄、JR 西日本の 順です。 自己資本比率と同じく、会社の借入依存度を見るのが負債比率な ので、グラフも自己資本比率とほぼ同じ結果になり、JR 西日本が 一番低くなりました。自己資本比率が低いのは固定資産が多いた めでしたが、その固定資産を購入するために負債が多くなり、負債 比率が低くなったのだと考えられます。 3.無理な投資をしていないか (1)固定比率の計算式 (2)固定比率の分析 (3)固定長期適合比率の計算 (1)固定比率の計算式 固定比率(%)=固定資産合計/資本合計×100 固定資産に投下した資本がどの程度自己資本で賄われ ているかを示す指標で、長期的な会社資金の安全性を評 価するのに使われる。 (2)固定比率の分析 固定比率から、資金の運用と調達のバランスが財務的に 評価できる。固定比率が100%を下回っていれば固定資産 への投資を全て自己資産で賄っている理想的な状態で、 反対に100%を超えていれば投資が一部借入金等によっ て賄われていることを示す。 ~固定比率のグラフ~ 700 3社ともに100%を大きく 上回っており他人資本 に頼っていることが分 かる。 600 500 400 300 阪急 近鉄 JR西日本 200 100 0 平9 平10 平11 (3)固定長期適合比率の計算 固定長期適合比率は、自己資本と固定負債とを合わせ て固定資産との比率を計算したもので、固定資産をどの 程度長期資本で賄っているかを示す指標である。 固定長期適合比率(%)= 固定資産合計/資本合計+固定負債合計×100 固定長期適合比率も固定比率と同様に低い方が長期的 な資金の安全性が高いと評価し100%を超えていれば一 部短期負債によって賄われているということになる。 ~固定長期適合比率のグラフ~ 120 100 80 60 阪急 近鉄 JR西日本 40 20 0 平9 平10 平11 近鉄を除いた2社は 固定資産への投資が 一部短期負債によって 賄われている。 つまり、資金の運用と 調達のバランスがよ くないことがわかる。 4.資金流れを追いかける (1)資金の流れを把握する (2)経常収支率 (3)資金収支表 (1)資金の流れを把握する 会社の資金の流れを把握するという目的から、会計期間 における資金の動きを表にした資金移動表が作成される。 資金移動表は、損益計算書と貸借対照表の各勘定科目 の残高の増減から作成する。 (2)経常収支比率 経常収支比率(%)=経常収入/経常支出×100 経常収支比率は経常収支尻が収入超過であれば100%を 超え、支出超過であれば100%を下回る。従って、100%を 超えていれば、経常収支の収入超過額が大きいことを意 味する。 ~経常収支比率のグラフ~ 160 阪急は順調に経常収 支の収入超過額が 大きくなっているので 良好であると言える。 140 120 100 80 60 阪急 近鉄 JR西日本 40 20 0 平8 平9 平10 (3)資金収支表 有価証券報告書の「経理の状況」では、最近の資金収支 の実績及び資金計画を現すものとして資金収支表が記 載されている。 5.利息の支払いに不安はないか • 利息の支払は会社の収益性に影響する上に、資 金負担への影響という観点からも分析に注意を 要するところ。 • 指標としては、 ① インタレスト・カバレッジ ② 売上純利益負担率 ③ 有利子負債金利 などがあげられる。 ① インタレスト・カバレッジ • 資金の安全性から金融費用に注目する指標 • 具体的には、 (営業利益+受取利息)÷支払利息 • 高ければ高いほど金利の支払いに余裕があり、 低ければ金利の負担が大きい。 →インタレスト・カバレッジの比較 (倍) 5 阪急 近鉄 JR西日本 4 3 2 1 0 H9 H10 H11 (年度) 分析:阪急のインタレスト・カバレッジは上昇傾向にあ る。 →金利の負担が少なくなってきた。 ②売上高純金利負担率 • 会社の借入金依存度と売上高との関係を表す指標 • 具体的には {支払利息ー(受取利息+受取配当金)}÷売上高×100 • この指標が小さいほうが望ましい。 *この指標が他社と比較して大きい場合や前期と比較して 増加しているような場合には、金融費用が会社の利益を 圧迫し、収益性に悪影響を与えている可能性がある。 参考:上場企業全業種の平均値 は0.87%(H6.3月) →売上高純金利負担率の比較 (%)7 6 5 阪急 近鉄 JR西日本 4 3 2 1 0 H9 H10 H11 (年度) 分析:JR西日本が他2社よりも割合が大きい。 →金融費用が会社の利益を圧迫しているかも? 分析2:阪急が減少している。 →金融費用が減ったのかも? ③ 有利子負債金利 • 金利費用と利息の元本となっている負債(有利子負債)と の比率をみる指標 • 有利子負債=短期・長期借入金 • 具体的には 支払利息÷(有利子負債の前・当年度末の平均値)×100 • 一般水準と比較する。 →一般水準から借入利率が大きく上回っている場合、会社 が資金繰りに困って高い金利の借金をするといった無理 な資金調達に走っている可能性がある。 →有利子負債金利の比較 (%) 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 阪急 近鉄 JR西日本 H10 H11 (年度) 分析:JR西日本の有利子負債金利が他の2社に比べて 高い →高い金利の借金をするといった無理な資金調達に 走っているかも? 売上高線 売 上 高 ・ 費 用 利 益 総費用線 変動費線 固定費線 損 失 0 売上高 700,000 600,000 500,000 阪急 近鉄 JR西日本 400,000 300,000 200,000 100,000 0 8年 9年 10年 250,000 200,000 150,000 損益分岐点 実際売上高 100,000 1,200,000 50,000 1,000,000 0 800,000 8年 損益分岐点 実際売上高 600,000 400,000 9年 10年 200,000 0 8年 9年 10年 300,000 250,000 200,000 損益分岐点 実際売上高 150,000 100,000 50,000 0 8年 9年 10年 6.3社の安全性比較(H11年度) 流動比率 阪急 近鉄 JR西日本 100% 有利子負債金利 売上高純金利負担率 インタレスト・カバレッジ 当座比率 0% 売上債権回転率 -100% 売上債権回転期間 経常収支比率 自己資本比率 固定長期適合比率 負債比率 固定比率
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