J-PARC 3 GeV RCSにおける 仮想加速器の構築と

J-PARC 3 GeV RCSにおける
仮想加速器の構築と
実加速器への適用
原田 寛之 (広島大学)
with
J-PARC RCS 軌道計算グループ
2006年3月28日
日本物理学会 in 愛媛大学・松山大学
1
概要
仮想加速器に基づく制御モデル
▽ 仮想加速器の制御システムの構築
実加速器と同等の仮想加速器の構築
▽ 計算コードSADを用いた加速器モデル
▽ 実加速器と同等の出入力
光学パラメータの測定・補正手法の検証
▽ 仮想加速器を用いた測定手法の検討
▽ ビーム強度に伴うビーム損失起源の特定及び補正
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仮想加速器に基づく制御モデル
加速器制御端末
ネットワーク
機器データベース
機器座標
機器設定値
仮想加速器
構築入力
制御サーバー (EPICS)
実加速器
仮想加速器
主光学系
補正系
ビーム測定系
誤差・雑音
主光学系
補正系
ビーム測定系
誤差・雑音
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計算コードを用いた加速器モデル
SAD (Strategic Accelerator Design)
▽ 1986~現在、 KEKで作成・改良
▽ 設計、シミュレーション、運転・調整(コミッショニング)
SADを用いた加速器モデル
▽ 主光学系(偏向電磁石、四極電磁石、六極電磁石など)
▽ 単粒子多周回計算(トラッキングシミュレーション)
0
50
100
150
200
250
300
SADを用いて計算機上に構築したRCSの主光学系
350
S[m]
4
実加速器と同等の出入力に向
けた機器の実装
横振動励起装置
▽ ビーム通過時に白色ノイズによ
る横方向キックを与える
高周波加速空洞(RF)
▽ ビーム通過時にバンチ内の粒子
の加速・減速を行う
ビーム位置検出器(BPM)
▽ ビーム通過時にビーム重心値を
出力する
横振動励起装置 : 水平・垂直方向用2台
高周波加速空洞 : 直線部に10台
▽ 測定精度を与える要因を一括し
て、分解能として与えた
ビーム位置検出器 : リング全周に54台
5
仮想加速器における出力
リング全周の54台のビーム位置検出器から周
回ごとのビーム重心値(モニタ値)を取得
仮想加速器において光学パラメータ測定を行う
▽ 解析ツール作成・検証
▽ RCSにおける測定手法の検証
6
光学パラメータの測定
ベータトロン振動数測定
→ 直線部BPMのビーム重心値を
周波数解析(FFT)
シンクロトロン振動数測定
→ 曲線部BPMのビーム重心値を
周波数解析(FFT)
クロマティシティ(色収差)測定
→ ビームの運動量を変化させつ
つ、ベータトロン振動数を測定
周波数解析(FFT)用パネル
仮想加速器を用いて実加速
器における各種光学パラ
メータの測定手法を実証し
7
ビーム出力の増強に伴うベータ
トロン振動数の広がり
181 MeVのビームの空間電荷力による
ベータトロン振動数の広がりΔνは、ラ
スレットの式より
0.3 MW出力:最大のΔν~0.18
0.6 MW出力:最大のΔν~0.36
0.6 MW出力に向け、νyを6.27より大きくし
なければ、整数共鳴線(νy= 6)に触れてし
まい、安定に周回しない。この共鳴線をさ
けるようにνyを大きくすると3次共鳴線
(νx-2νy=-6)に触れてしまい、大きなビー
ム損失を引き起こす恐れがある。
0.6 MW出力時の空間電荷力による
ベータトロン振動数の広がりと共
鳴線
動作点(νx, νy)=(6.68, 6.27)
3次共鳴の補正手法の検討を行った
8
3次共鳴補正手法の検討
直線部にある空間的スペースに2種類の六極電磁石S1, S2を設置および
励磁することで、3次共鳴補正を行う手法を考案する
六極電磁石S1, S2を用いて、リ
ング内に存在する六極磁場成分
を打ち消す
それぞれの六極電磁石の励磁量
 K 2S1   0.4616 [m 2 ] 
 S2   

 K   0.6275 [m 2 ] 

 2  
9
粒子追跡法によるダイナミックア
パーチャ解析(Δp/p=0%)
3次共鳴補正前
横軸:νx (6.05 ~ 6.95)
縦軸:νy (6.05 ~ 6.50)
Z軸:アクセプタンス
3次共鳴補正前のチューン図(Δp/p=0%)
3次共鳴補正後
補正により、3次共鳴
近傍で設計アクセプタ
ンスを得た
3次共鳴の補正が可能で
あるという結果を得た
3次共鳴補正後のチューン図(Δp/p=0%)
10
3次共鳴補正結果
動作点を3次共鳴線
の上部に設定すること
が可能となり、0.6
MW出力時のビーム
損失抑制が可能と
なった
0.6 MW出力時における動作点とベータト
ロン振動数の広がり
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本研究のまとめ
実加速器と同等の制御・運転が可能
な仮想加速器を構築した
実加速器における光学パラメータの測
定手法を仮想加速器で模擬した結果、
光学パラメータの測定手法を確立した
ビーム損失の起源を特定し、補正手
法を検討した結果、補正可能であると
いう結果を得た
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付録
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課題と展望
実加速器と同等の仮想加速器の構築に向けて
磁場測定で得られた各電磁石の磁場分布や個体差の反映
粒子間相互作用の模擬が可能な多粒子周回計算機能の拡張
加速過程の機能の拡張
仮想加速器に基づく実加速器制御システムの構築に向けて
その他のモニタや機器の実装
その他の光学パラメータの測定および補正手法の検証
計算の簡素化や並列化による計算時間の短縮
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仮想加速器に基づく制御モデル
仮想加速器に基づく実加速器の運転・調整
制御端末からみて実加速器と並列同等に設置
□ 実加速器と同等の制御インタフェース
実加速器と同等な仮想加速器を計算機上に構築
□ 計算コード(SAD, SIMPSONS, STRACT)
□ 実加速器と同等の出入力点
実時間模擬運転による設定適切性の判断
□ 最適な磁石設定値の計算
□ ビーム損失量、機器放射化の見積もり
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ベータトロン振動
ビーム進行方向と垂直な平面内(x, y)において、粒子は中心軌道
(x, y)=(0, 0)のまわりを振動しながら加速器内を周回する
ベータトロン振動
νx :水平(x)方向のベータトロン振動数
νy :垂直(y)方向のベータトロン振動数
z
y
x
x :水平方向
y :垂直方向
z :ビーム進行方向
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ベータトロン振動の共鳴
ベータトロン振動の共鳴の関係式
(m, n, kは整数)
m x  n y  k
共鳴の次数 q
対称性Nを持つ加速器における構造共鳴
(N, i は整数)
k  iN
粒子の軌道
キックなし
1周目
2周目
3周目
2次共鳴 : 四極磁場成分
3次共鳴 : 六極磁場成分
q m n
1次共鳴
1次共鳴 : 二極磁場成分
4次共鳴 : 八極磁場成分
次数が低い、または構造共鳴の場合、
強い共鳴を生じる
x
νx= 整数
z
磁場の誤差による横方向のキック
リング内の一箇所に磁場の誤差による横方向のキックが存在する
場合の1次共鳴による振幅の増大
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RCSにおけるベータトロン振動の
構造共鳴
構造共鳴線
1次共鳴 (二極磁場成分)
2次共鳴 (四極磁場成分)
3次共鳴 (六極磁場成分)
4次共鳴 (八極磁場成分)
RCSにおける強い構造共鳴線と動作
点(νx, νy) = (6.68, 6.27)を示した図
横軸:水平方向のベータトロン振動数
縦軸:垂直方向のベータトロン振動数
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ベータトロン振動数のずれを
引き起こす要因
空間電荷力
クロマティシティ(色収差)
ベータトロン振動数(チューン)にずれが生じると、共鳴線
にかかり、ビーム損失を引き起こす恐れがある
要因を考慮した動作点の設定
要因の補正
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空間電荷力によるベータトロン
振動数の広がり
空間電荷力 ・・・ ビームを構成する粒子間に働くクーロン力
ビーム強度が増強するにつれて、空間電荷力が大きくなるた
め、磁場による収束力が弱くなる
ベータトロン振動数が小さくなる
ラスレットの式
  
nt rp
2 2 3
nt :粒子の密度に比例した量
rp :陽子の古典半径
ε:エミッタンス(ビームサイズ)
空間電荷力によるベータトロ
ン振動数の広がり
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クロマティシティ(色収差)による
ベータトロン振動数の広がり
ビームは運動量に広がりを持っている
粒子ごとに磁場による収束力の違いが生じる
ベータトロン振動数にずれが生じる
クロマティシティによるベータ
トロン振動数のずれ
  
ξ
p
p
:クロマティシティ
Δν :ベータトロン振動数のずれ
Δp :同期粒子の運動量pからのずれ
クロマティシティによるベータ
トロン振動数の広がり
21
横振動励起装置(エキサイター)
エキサイターとは、電極に帯域制限白色ノイズをかけ、
ベータトロン振動との共鳴を利用して強制的に横方向振
動を与える装置である。
エキサイター電極の断面
赤丸:水平方向エキサイター、青丸:垂直方向エキサイター
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ベータトロン振動数の違いによる位
相平面における粒子の広がり
1周目
2周目
3周目
4周目
5周目
6周目
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ビーム重心の振動の減衰
ビーム重心に振動の減衰
横軸:周回数、縦軸:ビーム重心値 [m]
24
ベータトロン振動数の測定
横振動励起装置
横振動励起装置による振幅の増大
横軸:周回数 [周]、縦軸:ビーム重心値 [m]
→ ベータトロン振動との共鳴を利
用して、強制的に横方向の振動を
与え、振幅を増大する
ベータトロン振動数の検出
→ BPMで得られた周回ごとの
ビーム重心値を高速フーリエ変換
(FFT)し、検出する
周波数解析スペクトル
横軸:振動数の端数、縦軸:出力密度[dB]
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BPM分解能による雑音
BPM分解能に対する雑音水準
分解能 σ[mm]
0.2
0.5
1
平均雑音水準 [dB]
-76
-68
-60
最大雑音水準 [dB]
-66
-58
-50
BPM分解能σ= 0.2 mmの周波数解析の雑音
数回測定し、スペクトルを平均化する
雑音のばらつきが抑えられ、最大雑音水準
が低くなることで、よりベータトロン振動数
ピークの同定および検出が可能となることが
わかった。
BPM分解能σ=0.2 mmにおける平均化前(黒
線)と後(赤線)の周波数解析の雑音
26
エキサイターの供給電力依存性と
周波数解析データの周回数依存性
エキサイターの供給電力に対する
ベータトロン振動数ピーク値
周波数解析データの周回数に対す
るベータトロン振動数ピーク値
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ベータトロン振動数の測定手法
の検証結果
BPM分解能σ<0.5mm
定格の供給電力1kW, 周回数1×103
周で検出可能
BPM分解能σ~1mm
定格の供給電力1kWなら周回数
4×103周以上必要。もし、データ数が
足りなければ、数回の測定を平均化し、
最大の雑音水準を下げる必要がある。
周波数解析による供給電力と周回数に対するベータトロン振
動数ピーク値とBPMの各分解能における最大の雑音水準
28
作成した周波数解析用ツール
29
クロマティシティの測定
高周波加速空洞
→ エネルギー及び運動量を変化
させる装置
クロマティシティ
→ 運動量を変化させつつ、ベータ
トロン振動数を測定する
運動量のずれに対する水平(x)方向
ベータトロン振動数のずれ
ξx = -8.321 ± 0.005
ξy = -8.488 ± 0.005
30
3次共鳴近傍の振動
(νx-2νy = -6)
3次共鳴近傍のハミルトニアン
H 4 ( x , J x ,  y , J y ; )   x J x   y J y
 G1, 2, J x J y2 cos( x  2 y     )
x   x s   x
x  
s
1
0
x
 y   y s   y
y  
s
1
ds
ds
y
Jx, Jy:水平・垂直方向のアパーチャの1/2
第3項目:六極電磁石に起因する非線形項
2
2 i{ x (s ) 2 y (s ) (  x 2 y  ) }
G1, 2,  ei  
K
'


ds
x ye
8 
0
K’:六極成分の強さ
ζ:リング内における六極成分の位相
3次共鳴の共鳴幅|σ|
   x  2 y    2J 2 G1, 2,
J 2  2J x  J y
3種類のクロマティシティ補正用六極電磁
石SFX, SDA, SDB による非線形項
G1, 2, 6  ei  
2
8

k  SDA ,
SFX , SDB
....
K
k
2

  x  y2 e
k
i{  x ( s )  2  y ( s ) ( x 2 y 6 )k }

補正
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計算による共鳴幅
補正前3次共鳴の共鳴幅
補正後3次共鳴の共鳴幅
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まとめと展望
仮想加速器に基づく制御モデル
□ 実加速器と同様の制御サーバーを用いた仮想加速器の制御システムの構築
→ 実加速器制御システムへの組み込みが可能
実加速器と同等の仮想加速器
□ 計算コードSADを用いた主光学系、単粒子周回計算を含む仮想加速器の構築
□ 横振動励起装置、高周波加速空洞、ビーム位置検出器の実装
→ 実加速器と同等の出入力
各種光学パラメータ測定・補正手法の検証
□ 仮想加速器を用いて実加速器におけるベータトロン振動数などの測定手法確立
→ 実加速器における解析ツールの作成・検証
□ 仮想加速器を用いてビーム出力増強時のビーム損失抑制を検討
→ ベータトロン振動の3次共鳴の補正手法を確立
▽ その他の光学パラメータ(ベータ関数、分散関数など)の測定手法の検証や解析
ツールの作成
▽ 光学パラメータの補正手法の確立、補正ツール作成
▽ ビーム損失起源の補正手法の検討
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