一過性脳虚血発作 (1990年NINDSの定義と2009年AHA/ASAの定義による)

一過性脳虚血発作の機序:
(1990年NINDSの定義と
2009年AHA/ASAの定義別に)
静岡済生会総合病院 神経内科
鈴木康弘 兒島辰哉
高森元子 吉井仁
筆頭発表者のCOI開示
演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある
企業等はありません。
一過性脳虚血発作の定義について
• 1990年NINDSの定義: 持続24時間以内の
虚血による神経症状。画像上の病巣があるも
のないものを含む。
• 2009年AHA/ASAの定義: 一過性の虚血に
よる神経症状。ただし画像上病巣出現がない
もの。
• 最大の違いは画像上の病巣の出現のあるも
のを含めるかどうか
目的
• 一過性脳虚血発作の原因は、脳梗塞の原因
と同様に、多種あると考えられる。
• 2009年に新しい一過性脳虚血発作の定義が
提唱されたが、それぞれの定義による機序の
異同を検討した。
方法・対象
• 当院で過去7年間に入院した一過性脳虚血
発作例は1990年の定義では155例
• うち2009年の定義に合致する、病巣の出現
がないものは72例
• 2009年に定義に合致しない、病巣の見られ
たものは83例
• 全例発症後1週間以内のDWIを含むMRI,心
電図、頸動脈のエコーを施行した。心エコー、
ホルター心電図は全例には施行していない。
本研究でのTIAの推定機序の定義
• アテローム血栓性: 1993年TOAST基準によ
る。病側頭蓋外血管に、または病巣より近位
の頭蓋内血管に50%以上の狭窄があるもの。
• 準アテローム血栓性: TOASTのアテローム
性の基準には合致しないが、頸動脈に2mm
以上厚さのプラークがあるもの。
• 心原性塞栓: TOAST基準による。心房細動,
陳旧性心筋梗塞、拡張型心筋症などを含む。
• 穿通枝領域のもの: 1.5cmという大きさには
こだわらない。
結果
病巣出現群と非出現群との比較
0%
20%
40%
60%
80%
100%
病
巣
非
出
現
群
(n
=7
2)
病
巣
出
現
群
(n
=8
3)
TOAST基準でのアテローム性
厚さ2mm以上のプラーク
心原性塞栓
穿通枝領域
その他
複数原因
原因不明
・心原性塞栓は病巣を作りやすい。(p=0.03)
・病巣非出現群に原因不明が多い(p=0.04)ことは、この群が正確
な意味での脳虚血によらないものを含んでいる可能性を示す。
3回以上の重積群の機序
病
巣
出
現
群
(n
=9
)
TOAST基準でのアテ
ローム性
厚さ2mm以上のプラー
ク
穿通枝領域
0%
50%
100%
病
巣
非
出
現
群
(n
=8
)
原因不明
・病巣出現群の原因の過半はアテローム血栓性である。
・一方病巣非出現群は血管にそのような病変は少なく、原因不明
のことが多い(p=0.0497)。
非重積群と重積群の比較
病巣出現群
積
群
(n
=7
4)
TOAST基準でのアテ
ローム性
厚さ2mm以上のプラー
ク
心原性塞栓
非
重
穿通枝領域
)
その他
重
積
群
(n
=9
原因不明
0%
50%
100%
・TOAST基準でのアテローム血栓が多いことは重積群の特徴であ
る。(p=0.02)
・心原性塞栓が3回以上のTIA重積を起こすことはなかった。
・穿通枝領域梗塞がTIA重積の約3割の原因を占める。
非重積群と重積群の比較
病巣非出現群
重
積
群
(n
=8
)
非
重
積
群
(n
=6
4)
TOAST基準でのアテローム性
厚さ2mm以上のプラーク
心原性塞栓
複数原因
原因不明
0%
20%
40%
60%
80%
100%
・病巣の出現のない重積群の一番多い原因は「原因不明」である。
この群の機序は今後さらに研究を要する。
Spasmなども考慮すべきかもしれない。
症例1.病巣が出現した
原因不明の重積例
65歳女。入院日の約1時間の間に、構音障害を伴う2,3
分の左麻痺のTIAを3回反復。DWIで右中大脳動脈皮質
枝領域に小梗塞が散在。頸動脈の最大IMTは0.7mm。血
管撮影をしても塞栓源が不明。
症例2.病巣が出現しなかった
原因不明の重積例
52歳男。入院前日、当日、翌日と、みな早朝に、言語障害
を伴う1時間前後の右片麻痺発作。MRI、MRA、頸動脈の
エコー上は異常なし(最大IMT1.0mm)。Spasmの関与を
疑い3回目の発作後ヘルベッサーRを処方。処方3日後に
最後の4回目の発作があったが以後終息。
結論
• 一過性脳虚血発作の原因は、病巣出現群では約3
割が中~大血管の異常を認め、約2割が心原性、
約2割が穿通枝領域への血管障害であった。
• 心原性塞栓は病巣出現群に多い。
• 病巣非出現群のもっとも多い原因は「原因不明」で
ある。さらにその重積発作例では、「原因不明」例
は過半数になり、上記の機序以外の可能性がある。