東京ディズニーリゾートと東京ドームシティ

東京ディズニーリゾートと東京ドームシティ
~多様化するニーズとレジャー不況をむかえて~
国際地域学部 国際地域学科 3 年
1810080180 大竹優太
0.はじめに
2009 年全世界テーマパーク入場者数ランキングにおいて東京ディズニーランドが第 3 位、
東京ディズニーシーが第 5 位にランクインした。そのように世界的に通用するテーマパー
クに対して国内で対抗できる施設はあるのだろうか、また国内の一般的なテーマパークの
現状はどのようになっているのか。このような疑問からオリエンタルランドと首都圏にお
ける有力テーマパークと思われる東京ドームについて調べることにした。
0.1.遊園地・テーマパーク業界の現状
近年、国内の遊園地・テーマパークは消費不振や少子化による影響など数多くの不安材
料を抱え、また 2009 年度には世界同時不況や新型インフルエンザなどの問題も上がり、事
業規模は伸び悩んでいると言われている。そのような業界動向の中で独走状態にあるのが
東京ディズニーリゾートを保有するオリエンタルランドである。2 位以下のユー・エス・ジ
ェイや横浜・八景島シーパラダイス、東京ドームなどを大きく引き離し独走状態にある。
<図表 0-1>遊園地・テーマパーク業界の売上高
<図表 0-2>遊園地・テーマパーク業界の入場者数(2007 年)
図表 0-1 をみると売上高では業界トップ 2 が非常に強く、オリエンタルランドが遊園
地・テーマパーク経営企業 134 社の収入高合計の 42.2%を占めている。また、図表 0-2
をみると、入場者数では東京ディズニーランド・ディズニーシーが突出していることがわ
かる。実際に国内の主要テーマパーク多くが入場者数を減らす中、東京ディズニーリゾー
トは 2008 年度に開園以来最多の 2,722 万人、2009 年度には不況などの影響を受けつつも
過去 2 番目の入場者数を記録している。また、営業利益においても 2 年連続で過去最高を
記録している。
このように、国内の遊園地・テーマパーク業界ではオリエンタルランドが圧倒的強さを
誇っていることがわかる。
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0.2.オリエンタルランドの概要
株式会社オリエンタルランドは国民の文化・厚生・福祉に寄与することを目的として、
昭和 35 年 7 月に設立された。54 年 4 月、米国法人ウォルト・ディズニー・プロダクショ
ンズとの間に契約を締結し、58 年 4 月に「東京ディズニーランド」を開業、平成 13 年 9
月には「東京ディズニーシー」を開業させた。グループはオリエンタルランドおよび連結
子会社 14 社、関連会社 3 社およびその他の関係会社 1 社で構成されている。テーマパーク
事業、ホテル事業、リテイル事業、その他の事業に着手しておりテーマパーク事業ではテ
ーマパークの経営・運営を、ホテル事業ではホテルの経営・運営を、リテイル事業では国
内におけるディズニーストアの経営・運営を行っている。
0.3.オリエンタルランドの戦略
OLC は中長期的な経営計画を策定し、基本方針として「(ⅰ)コア事業(東京ディズニー
リゾート)の持続的な成長」
、
「(ⅱ)長期持続的な成長への基盤強化」の二つを掲げている。
(ⅰ).コア事業(東京ディズニーリゾート)の持続的な成長
A.新しい価値の創造
Ⅰ.東京ディズニーリゾートのバリュー向上
Ⅱ.収益機会の創造と拡大
B.マーケットの育成
Ⅰ.両パーク来援の促進
Ⅱ.海外ゲストの取り込み
C.コスト・投資の効率化
Ⅰ.ランニングコストの抑制
Ⅱ.投資額のコントロール
(ⅱ).長期的な成長への基盤強化
A.株主還元
B.新たな成長への準備
Ⅰ.事業開発方針
Ⅱ.有利子負債の削減
C.CSR(企業の社会的責任)
0.4.東京ドームの概要
東京ドームは昭和 11 年 12 月、プロ野球専用球場建設のため設立され、昭和 30 年 7 月に
後楽園遊園地が、昭和 63 年 3 月に東京ドームが、平成 15 年 5 月にはラクーアがそれぞれ
開場された。グループは東京ドームおよび連結子会社 14 社、持分法適用関連会社 3 社で構
成されている。レジャー事業、流通事業に着手しており、レジャー事業では主に東京ドー
ム、遊園地、スパ・フィットネス、飲食店・売店、ホテル、競輪場、ゴルフ場を営んでい
る。流通事業では化粧品・雑貨小売店を営んでいる。
0.5.東京ドームの戦略
中期経営計画「Scale-up」を策定し、3 つの経営課題の達成に向け取り組んでいる。
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a.財務基盤の強化
有利子負債の削減と収益性の向上を追求し安定した収益基盤を構築するとともに、株
主資本を回復させ財務体質の強化を図る。
b.成長のイノベーション
グループ最大の収益源である「東京ドームシティ」のエンタテイメント性の充実を図
り、持続的な成長へ向けてイノベーションを追求することにより、グループの事業価値
の増大を図る。
c.社会的責任の追及
CSRの観点から企業価値の向上を図る。
0.6.両社の売上高・営業利益の紹介
<図表 0-3>オリエンタルランドの売上高と営業利益の推移<図表 0-4>東京ドームの売上高と営業利益の推移
図表 0-3をみると、オリエンタルランドは売上高、営業利益ともに上昇傾向にある。図
表 0-4 をみると、東京ドームは全体的に売上高が減少傾向にあり、営業利益も 2007 年に
伸びがあったもののそれ以降は減少傾向にある。
0.7.注意事項
①会計期間はオリエンタルランドが 4 月 1 日~3 月 31 日、東京ドームが 2 月 1 日~1 月 31
日である。よって本分析において「2010 年」はオリエンタルランドでは「2010 年 3 月期」
を指し、会計期間は「2009 年 4 月 1 日~3 月 31 日」であり、東京ドームでは「2010 年 1
月期」を指し、会計期間は「2009 年 2 月 1 日~1 月 31 日」である。また、分析では有価
証券報告書を参考に特に断りのない限り連結データを用いている。
②事業内容に関して、オリエンタルランドでは 2009 年度より「複合商業施設事業」セグメ
ントが廃止され、
「ホテル事業」セグメントが新設された。また、東京ドームではリース事
業の重要性が低下したため、2008 年度より「ファイナンス事業」セグメントが廃止され、
「その他の事業」として扱われることになった。
③なお、
「株式会社オリエンタルランド」は以下「OLC」、
「株式会社東京ドーム」は以下「東
京ドーム」とあらわす。
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1.ステップ1:収益性分析
1.1.使用総資本事業利益率(ROI)
まず、企業の総合的収益性を測定する代表的指標のうち、最もポピュラーな指標である
使用総資本事業利益率(ROI)をみていく。
<図表 1-1>総資本事業利益率(ROI)の推移
図表 1-1 をみてみると、使用総資本事
業利益率(ROI)は 2008 年のみ東京ドー
ムが OLC を上回っているが、それ以外は
オリエンタルランドが優れており、近年
その差は拡大していることがわかる。
<図表 1-2>総資本の推移
<図表 1-3>事業利益の推移
事業利益
総資本
百万円
百万円
50000
800,000
700,000
600,000
40000
500,000
30000
400,000
300,000
20000
10000
200,000
2006
2007
オリエンタルランド
2008
2009
0
2010 年
2006
東京ドーム
2007
2008
オリエンタルランド
2009
2010
年
東京ドーム
図表 1-2 の総資本をみてみると、東京ドームが一貫して減少傾向にある一方で、OLC
は減少傾向にあるものの 2008 年に最大値を示している。図表 1-3 の事業利益をみてみる
と、東京ドームはほぼ横ばいにある一方、OLC は上昇傾向にあることがわかる。このこと
から、オリエンタルランドの ROI の上昇は事業利益の上昇によるものだということがわか
る。さらに、2008 年の ROI の逆転は OLC の総資本の増加と事業利益の減少によるもので
あり、東京ドームの ROI の伸び悩みは事業利益の低迷によるものだということがわかる。
使用総資本事業利益率について詳しく探るため、両社の事業利益の構成について細かく
分析していく。
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<図表 1-4>
オリエンタルランドの事業利益の構成
2006 年
売上高
(単位:%)
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
売上原価
81.0
80.5
81.1
73.5
73.4
売上総利益
19.0
19.5
18.9
26.5
26.6
販売費および一般管理費
9.8
9.6
9.8
16.2
15.3
給与・手当
2.0
2.0
2.0
3.5
3.4
保険・賃借料
1.05
0.91
0.82
0.67
0.63
業務委託費
1.19
1.31
1.42
1.73
1.71
減価償却費
0.57
0.48
0.49
1.92
2.02
9.2
9.9
9.1
10.3
11.3
0.21
0.17
0.22
0.19
0.21
営業利益
その他
<図表 1-5>
東京ドームの事業利益の構成
(単位:%)
2006 年
売上高
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
売上原価
76.9
76.3
77.4
78.4
81.9
売上総利益
23.1
23.7
22.6
21.6
18.1
販売費および一般管理費
10.3
9.6
7.5
7.4
7.9
4.8
4.7
4.6
4.5
4.8
賞与引当金繰入損
0.15
0.13
0.13
0.15
0.14
退職給付費用
0.43
0.35
0.42
0.59
貸倒引当金繰入損
2.40
2.00
営業利益
12.8
14.1
15.1
14.2
10.3
負ののれん償却額
3.0
3.3
3.3
3.5
その他
0.4
0.3
0.2
給与
図表 1-4 と図表 1-5 は、両者の事業利益の算出過程を百分比で表したものである。図
表 1-4 と 1-5 を比較してみると、両社の収益性の違いは主に売上高にしめる売上原価の
割合の違いによるものだということがわかる。OLC は 2009、2010 年に売上総利益の割合
が大きく増加したことから販売費及び一般管理費の割合を拡大させた一方で、東京ドーム
では売上総利益の割合が減少傾向にあり販売費及び一般管理費の割合も減少させている。
1.2.自己資本利益率(ROE)
次に、ROE についてみていく。ROE は株主が出資した資本をもとに、どの程度の利益を
あげたのかを測定する指標である。そこで分母に自己資本、分子には当期純利益を用いる。
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<図表 1-6>
自己資本利益率(ROE)の推移
図表 1-6 をみてみると、OLC が 4.1%から
自己資本利益率(ROE)
8
%
20
0
-20
-40
-60
-80
-100
-120
-140
-160
-180
-200
7
6
5
4
3
2
2006
2007
2008
2009
2010
6.9%へと数値を伸ばしているのに対し、東京ド
ームは 2008 年に 16.6%という高い数値を出して
いるものの、前年の 2007 年には-200%と大き
な乱高下がみられる。これを解明するために、両
社の自己資本と当期純利益について詳しく数値
をみていくことにする。
年
オリエンタルランド
<図表 1-7>
東京ドーム(右軸)
オリエンタルランドの当期純利益と自己資本
2006 年
当期純利益
自己資本
自己資本利益率(ROE)
<図表 1-8>
2007 年
自己資本利益率(ROE)
2009 年
2010 年
16,309
14,730
18,089
25,427
384,997
384,999
388,179
373,659
366,473
4.08%
4.24%
3.79%
4.84%
6.94%
2006 年
自己資本
2008 年
15,703
東京ドームの当期純利益と自己資本
当期純利益
(単位:百万円)
2007 年
(単位:百万円)
2008 年
2009 年
2010 年
6,651
-86,659
7,811
6,676
-1,004
139,749
43,246
47,072
49,186
51,501
4.76% -200.39%
16.59%
13.57%
-1.95%
図表 1-7 をみてみると、当期純利益は安定的に成長しており自己資本は減少傾向にある
ことがわかる。よってこの双方の変動が OLC の ROE を増加させることにつながったとい
える。また図表 1-8 をみてみると、当期純利益には大きな変動がみられ、自己資本に関し
ては 2007 年に大きく減少したことが見て取れる。これはゴルフ・リゾート事業における固
定資産の価値低下、ファイナンス事業などの貸倒引当金繰入損を計上したためである。そ
のため東京ドームの ROE の変動には大きな乱高下が見られた。
さらに ROE の分析を深めていくため、
ROE を売上当期純利益率(当期純利益/売上高)
、
総資本回転率(売上高/総資本)
、財務レバレッジ(総資産/株主資本)の 3 要素に分解し、
それぞれの要素について詳しく検討していく。
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<図表 1-9>売上高当期純利益率(ROS)の推移
ROS は売上高に占める当期純利益の比率
売上高当期純利益率(ROS)
8
7
6
%5
4
3
2
を表す指標であり、収益性分析の基本的な指
20
0
-20
-40
-60
-80
-100
2006
2007
2008
年
オリエンタルランド
2009
標である。図表 1-9 をみてみると、ROE と
似た形であり OLC には伸びがみられ東京ド
ームには大きな乱高下がみられる。売上高に
はそれほど大きな変動はないため、これは当
2010
期純利益の推移によるものだということが
東京ドーム(右軸)
読み取れる。
<図表 1-10>総資本回転率の推移
総資本回転率は資産全体の活用度を示す
総資本回転率
指標である。図表 1-10 をみてみると全体的
0.7
に OLC が優れている。数値をみると OLC は
0.6
回 0.5
0.5 回前後で推移しているが、東京ドームは
0.4
0.2 回台と低い数値になっている。これはテ
0.3
ーマパーク業界全体にもいえることである
0.2
が、売上高に対する総資本、中でも固定資産
0.1
2006
2007
2008
2009
2010
の割合が高いためだといえる。
年
オリエ ン タルラン ド
東京ド ー ム
<図表 1-11>財務レバレッジの推移
財務レバレッジは負債の利用度、依存
財務レバレッジ
度を表す指標である。図表 1-11 をみて
みると、OLC はほぼ横ばいで推移してい
8
7
るが、東京ドームは 2007 年に 8.0 倍と大
倍 6
5
きく伸び、以降も高い水準を示している。
4
これは 2007 年に株主資本の割合が大き
3
2
く減少したこと、また純資産に対する総
1
0
2006
2007
2008
2009
2010
年
オリエ ンタルラ ンド
東京ドー ム
資本、中でも固定資産の割合が高いこと
が理由だと思われる。
1.3.収益性分析のまとめ
個々の指標について両社をくらべると、ROI や ROE といった指標では東京ドームが優れ
ている年もあったものの、全体での収益性に関して比較すると OLC が大きくリードしてい
るといえる。
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2.ステップ2:安全性分析
2.1.連結キャッシュ・フロー計算書の分析
安全性の分析に移る。まずは両社の資金調達活動と投資活動の状況をみるために連結キ
ャッシュ・フロー計算書の分析をおこなう。図表 2-1 は両社の連結キャッシュ・フロー計
算書における主要項目を抜粋したものである。
<図表 2-1>
連結キャッシュ・フロー計算書
(単位:百万円)
オリエンタルランド
2009 年
Ⅰ営業活動によるキャッシュ・フロー
東京ドーム
2010 年
2009 年
78,112
72,094
41,978
726
有形固定資産の取得による支出
△ 40,924
△ 17,055
有形固定資産の売却による収入
151
1
2010 年
14,618
13,978
有形および無形固定資産の取得による支出
△ 10,351
△ 8,082
有形および無形固定資産の売却による収入
2
0
Ⅱ投資活動によるキャッシュ・フロー
有価証券の償還による収入
投資有価証券の取得による支出
△ 1,205
△ 302
△ 2,067
△ 360
投資有価証券の売却による収入
357
0
59
246
3,000
200
△ 22,726
△ 8,962
△ 7,600
12,370
38,220
35,000
△ 10,800
△ 53,065
△ 45,805
25,191
19,100
投資有価証券の償還による収入
投資活動によるキャッシュ・フロー
5,751
Ⅲ財務活動によるキャッシュ・フロー
長期借り入れによる収入
長期借入金の返済による支出
社債の発行による収入
社債の償還による支出
配当金の支払額
自己株式の取得による支出
△ 100,000
△ 20,000
△ 16,680
△ 16,900
△ 5,596
△ 7,258
△ 569
△ 953
△ 24,448
△ 26,075
自己株式の売却による収入
624
財務活動によるキャッシュ・フロー
現金および現金同等物の増減額
8 / 18
△ 130,859
△ 53,081
△ 4,141
△ 7,640
△ 46,982
△ 3,686
1,514
△ 1,262
まずは OLC についてみていく。営業活動によるキャッシュ・フローをみると、2010 年
には 721 億の収入があったことがわかる。投資活動によるキャッシュ・フローをみると、
2010 年には大幅に落ち込んでいることがみてとれる。これは投資活動によるイン・フロー
が減少したためだと思われる。現に 2009 年には有形固定資産の取得に 2010 年の倍以上の
支出をしているが、有価証券の償還による収入によってまかなわれていることがわかる。
財務活動によるキャッシュ・フローをみると 2010 年に大きく改善したことがわかる。これ
は 2009 年の社債の償還による支出が多額だったためだといえる。
次に東京ドームについてみていく。営業活動によるキャッシュ・フローをみると、2010
年には 140 億の収入があったことがわかる。投資活動によるキャッシュ・フローをみると、
大きな変動はないように思われる。財務活動によるキャッシュ・フローをみると 2010 年に
は前年度よりもイン・フローが減少したため額は大きくマイナスになっている。
OLC と東京ドームの比較に入る。大きく異なるのは財務活動によるキャッシュ・フロー
の項目の中の長期借入金に関してである。OLC は借入れを低く抑える一方、東京ドームは
多額の借入れを行っている。また OLC は 2 年間社債を発行していないが、東京ドームは社
債の発行による収入も多額にのぼる。配当金の支払いや自己株式の取得といった項目では
OLC が多額の支出をしており株主への配慮がうかがえる。以上の理由から、OLC は財務活
動によるキャッシュ・フローが大きくマイナスなのに対し東京ドームは比較的マイナスを
低く抑えられているのだとわかる。
2.2.短期支払能力(流動比率、当座比率)
それでは、安全性に関する各指標を見ていくことにする。まず、短期支払能力を判断す
る指標として流動比率と当座比率をみていく。流動比率は、短期に支払期限が到来する流
動負債に充当することが可能な流動資産をどの程度もっているかを表す比率である。分母
に流動負債、分子に流動資産を用いる。当座比率は分母に流動負債、分子に当座資産を用
いることでより正確に短期支払能力を表す比率である。
<図表 2-2>
流動比率の推移
図表 2-2 をみてみると、流動比率は全
流動比率
体的に OLC が優れているものの、両社と
も悪化傾向にあるのがわかる。とくに東京
140
%
ドームに関しては、2008 年から 2010 年の
120
100
80
間、30%以下という低い水準で推移してい
60
る。
40
20
2006
2007
2008
2009
2010
年
オリエンタルランド
東京ドーム
9 / 18
<図表 2-3>
当座比率の推移
図表 2-3 をみてみると、OLC は 2007
当座比率
年まで理想とされる 100%を超えていたが、
120
以降は下落が進んでいる。東京ドームは
100
20%から 30%前後という非常に低い水準
80
で推移している。
% 60
40
20
0
2006
2007
2008
2009
2010
年
オリエンタルラ ンド
東京ドー ム
以上から短期支払能力は OLC のほうが高いと判断できるが、OLC も理想的状態には届
いていないということがわかる。
2.3.長期支払能力(自己資本比率、固定長期適合率)
次に、長期支払能力を判断する指標として自己資本比率と固定長期適合率をみていく。
自己資本比率は財務レバレッジの逆数である。総資本のうちの自己資本の割合を示し、こ
の比率が高いということは利子を払う負債がそれだけ少ないことを意味する。分母に総資
本、分子に自己資本を用いる。固定長期適合率は、長期的な投資である固定資産を自己資
本と固定負債でどの程度まかなっているかを評価する比率である。分母に自己資本+固定
負債、分子に固定資産を用いる。
<図表 2-4>自己資本比率の推移
図表 2-4 をみてみると、OLC は 50%台で
自己資本比率
安定しており非常に優れているといえる。一
70
方で東京ドームは 2007 年からは 20%以下と
60
非常に低い水準にある。これは 2007 年に自
50
己資本が大きく減少したこと、また自己資本
% 40
30
に対する総資本、中でも固定資産の割合が高
20
いことが理由だと考えられる。
10
2006
2007
2008
2009
2010
年
オリエンタルランド
東京ドー ム
10 / 18
<図表 2-5>固定長期適合率の推移
図表 2-5 をみてみると、両社ともに上昇傾
固定長期適合率
向にあるが 2006 年以外は総じて OLC のほう
140
が優れている。また、このグラフからも東京ド
130
% 120
ームの固定資産の割合の高さがうかがえる。
110
100
90
80
2006
2007
2008
2009
2010
年
オリエ ンタルラ ンド
東京ドー ム
以上から、長期支払能力に関しても OLC に軍配が上がる。
2.4.インタレスト・カバレッジ・レシオ
次にインタレスト・カバレッジ・レシオをみていく。インタレスト・カバレッジ・レシ
オとは、支払わなければならない利息の何倍の利益を稼いでいるかを示す指標であり、分
母に支払利息、分子に営業利益+受取利息+受取配当金を用いる。
<図表 2-6>
インタレスト・カバレッジ・レシオの推移
図表 2-6 をみてみると 2009 年から OLC
インタレスト・カバレッジ・レシオ
倍
が大きく上昇しているのがわかる。これは営
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
業利益が順調に伸びたことと、支払利息が大
幅に減少したためである。一方東京ドームは
支払利息の割合が高いために 2 から 3 倍と
低い数値にとどまっている。
2006
2007
2008
2009
2010
年
オリエンタルランド
東京ドーム
2.5.格付け機関の評価
格付け機関が両社の安全性についてどのような評価を行っているのかについて、代表的
な格付け機関である格付け投資情報センター(R&I)、日本格付研究所(JCR)による長期
債格付けをみていく。
<図表 2-7>オリエンタルランドと東京ドームの長期債格付け
格付け投資情報センター
日本格付研究所
AA-
AA
BBB-
BBB-
オリエンタルランド
東京ドーム
参考
格付け投資情報センター http://www.r-i.co.jp/jpn/
日本格付研究所
http://www.jcr.co.jp/
11 / 18
図表 2-7 によると、各機関とも OLC に軍配を上げている。また OLC、東京ドームとも
に安定的と評価されている。
2.6.安全性分析のまとめ
個々の指標に関して両社をくらべると、安全性の指標すべてに関して OLC が優れている
ことがわかった。一方、流動比率や当座比率など短期支払能力を示す指標では OLC も理想
には達していないことがわかった。しかしこれは支払利息の少ない OLC の戦略と考えるこ
ともできる。
3.ステップ3:効率性・生産性分析
効率性・生産性の分析に移る。資産活用の総合的な指標である総資本回転率については、
ステップ 1 で ROE を分解した際に説明した。ここでは総資産を分解し、主要な項目に関し
て資産ごとの回転率に分けて分析していく。
<図表 1-10>総資本回転率の推移
ステップ 1 で説明したように、総資本
総資本回転率
回転率に関しては全体的に OLC が優れ
0.7
ている。
0.6
回 0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
2006
2007
2008
2009
2010
年
オリエ ン タルラン ド
東京ド ー ム
<図表 3-1>棚卸資産回転率の推移
図表 3-1 をみてみると、棚卸資産回転
棚卸資産回転率
率は東京ドームのほうが優れているのが
わかる。東京ドームが 55 回前後で安定し
回
60
55
50
ているのに対し、OLC は 2010 年に最低
45
の 30.5 回を示している。これは売上高の
40
35
上昇率以上に棚卸資産が増加しているた
30
25
めである。
20
2006
2007
2008
2009
2010
年
オリエ ンタルラ ンド
東京ドー ム
12 / 18
<図表 3-2>
有形固定資産回転率の推移
図表 3-2 をみると、オリエンタルラン
有形固定資産回転率
ドが 0.7 回前後、東京ドームが 0.3 回前後
0.8
回
で推移と OLC が優れていることが分かる。
0.7
0.6
他産業と比べると非常に低い数値である
0.5
0.4
0.3
が、これはテーマパークという産業形態の
0.2
0.1
特徴である。
0
2006
2007
2008
2009
2010
年
オリエ ンタルラ ンド
<図表 3-3>
東京ドー ム
売上債権回転率の推移
図表 3-3 をみると、全体的に東京ドー
売上債権回転率
ムが優れているが、どちらも 2007 年から
減少していることがわかる。これは、OLC
34
回 32
は債権の額が上昇したためであり、東京ド
30
28
ームは売上高が減少したためだと思われ
26
る。
24
22
20
2006
2007
2008
2009
2010
年
オリエ ンタルラ ンド
<図表 3-4>
東京ドー ム
投資その他の資産回転率の推移
図表 3-4 をみると、東京ドームが 2 回
投資その他の資産回転率
前 後 で 推 移 し て い る の に 対 し OLC は
14
回
2008 年から大きく伸びている。これは
12
10
OLC の投資その他の資産額が減少してい
8
るためである。
6
4
2
0
2006
2007
2008
2009
2010
年
オリエ ンタルラ ンド
東京ドー ム
以上のことから、OLC の総資本回転率が上昇傾向にあるのは売上高の上昇の影響もさる
ことながら、有形固定資産の影響が大きいのだといえる。一方東京ドームに大きな動きが
みられないのは、売上高の減少に対して各資産の割合も減少させていっているためだと思
われる。
13 / 18
効率性・生産性について総合的にみると、総資本回転率においてリードしている OLC に
軍配が上がるが、棚卸資産回転率、売上債権回転率では東京ドームがリードしている。
4.ステップ4:成長性分析
次に成長性について分析する。ここでは趨勢分析を用い、2006 年の値を 100 として両社
の株主資本、総資本、売上高、営業利益の各数値について成長性をみていく。
<図表 4-1>
オリエンタルランドの成長性の推移(2006 年を 100 として)
図表 4-1 をみてみると、
オリエンタルランドの成長性
140
OLC は営業利益、売上高を成長
130
させているのに対し、総資本は
120
減少していることがわかる。こ
110
れは、図表 1-6 で ROE の上昇
100
がみてとれたが、そのことから
90
負債に頼らずに利益を生み出
80
2006
2007
2008
2009
2010
していることが確認できる。
年
自己資本(株主資本)
<図表 4-2>
総資本
売上高
営業利益
東京ドームの成長性の推移(2007 年を 100 として)
東京ドームでは事業編成が
東京ドームの成長性
あったため 2007 年を起点とし
100
て扱う。図表 4-2 を見てみる
80
60
と、全体的に下降傾向にあるこ
40
20
0
-20
とが見てとれる。自己資本が大
2007
2008
2009
2010
きく減少し、それにともない総
資本も減少していることがわ
-40
-60
年
自己資本(株主資本)
総資本
売上高
営業利益
かる。これは 2006 年に大きな
事業編成があったためである。
以上より、OLC は成長性がみられるのに対し東京ドームはあまり変動がないということ
から、成長性に関しては OLC が優れていると言える。
5.ステップ5:グループ経営分析
分析の視点を変えてグループ経営の評価を行う。ここでは、連単倍率分析とセグメント
分析という 2 つの視点から検証していく。
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5.1.連単倍率分析
連単倍率は分母に単体数値、分子に連結数値をとった倍率であり、親会社単体に対して
グループ全体は何倍の規模であるかを示す指標である。したがって、1 を超えれば超えるほ
ど、親会社以外のグループ会社の貢献が大きいことを示す。
<図表 5-1>
両社の連単倍率の推移
オリエンタルランド
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
売上高
1.22
1.21
1.21
1.22
1.22
営業利益
1.29
1.18
1.16
1.15
1.21
当期純利益
0.94
1.10
1.21
1.43
1.16
純資産
1.01
0.99
1.00
1.02
1.03
19
20
20
18
14
売上高
1.61
1.60
1.50
1.46
1.44
営業利益
1.18
1.13
1.15
1.15
0.97
当期純利益
2.33
1.20
1.77
1.63
0.23
純資産
1.03
0.78
0.86
0.91
0.96
18
16
17
17
14
連結子会社数
東京ドーム
(単位:倍)
連結子会社数
図表 5-1 より、OLC の連単倍率をみてみると、あまり動きがないことがわかる。また
比較的、親会社中心のグループ経営を行っていることがわかる。次に東京ドームの連単倍
率を見てみると全体的に低下してきていることが読み取れる。とりわけ当期純利益ではそ
の低下が著しい。よってグループ全体で収益を生み出していく体制から、親会社中心の体
制にシフトしてきていることがわかる。
5.2.セグメント分析
次にグループ内のどの部分が収益をあげているかみるため、セグメント分析を行う。
<図表 5-3>
2010 年
オリエンタルランドのセグメント別売上高内訳
図表 5-3 をみると、セグメント別売上高
はテーマパーク事業が 76%と全体の 4 分の
3 を占めていることがわかる。またホテル事
業も 12%と重要な項目となっている。
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<図表 5-4>
オリエンタルランドのセグメント別売上高の年度別構成
(単位:%)
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
テーマパーク事業
76.8
77.6
77.1
76.1
76.1
複合商業施設(ホテル)事業
6.5
6.4
6.5
11.5
12.0
リテイル事業
6.1
5.0
4.8
4.3
4.1
その他の事業
10.6
11.0
11.7
8.0
7.9
計
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
<図表 5-5>
オリエンタルランドのセグメント別営業利益の年度別構成
2006 年
テーマパーク事業
2007 年
2008 年
(単位:%)
2009 年
2010 年
86.5
93.1
91.8
86.6
79.9
複合商業施設(ホテル)事業
6.5
3.1
3.7
15.6
20.2
リテイル事業
3.1
△ 3.0
△ 1.0
0.01
0.05
その他の事業
3.9
6.9
5.4
△ 2.2
△ 0.2
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
計
図表 5-4、図表 5-5 をみると、売上高における複合商業施設(ホテル)事業の割合が増
加傾向にあり、それにともない営業利益の割合も大きく増加し重要な項目になっている。
一方、売上高に占めるリテイル事業とその他の事業の割合は減少傾向にあり、また利益に
はほとんど結びついていないということがわかる。
<図表 5-6>東京ドームのセグメント別売上高内訳
図表 5-6 をみてみると、東京ドームではレ
東京ドームのセグメント別売上高
その他の事業
12%
ジャー事業が 79 パーセントと、非常に大きな
割合を占めていることがわかる。
流通事業
9%
レジャー事業
79%
<図表 5-7>
東京ドームのセグメント別売上高の年度別構成
2006 年
レジャー事業
流通事業
その他の事業
計
2007 年
2008 年
(単位:%)
2009 年
2010 年
74.6
76.5
79.9
79.9
79.5
7.7
7.5
8.7
8.4
9.0
17.7
16.0
11.5
11.6
11.6
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
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<図表 5-8>
東京ドームのセグメント別営業利益の年度別構成
2006 年
レジャー事業
2007 年
2008 年
(単位:%)
2009 年
2010 年
94.6
95.1
93.4
92.3
92.1
流通事業
1.7
1.1
1.7
1.6
1.6
その他の事業
3.7
3.7
4.8
6.1
6.3
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
計
図表 5-7 をみてみると、売上高に占めるレジャー事業と流通事業の割合が増加傾向にあ
り、その他の事業の割合は減少傾向にある。しかし図表 5-8 から、その他の事業での営業
利益の割合が上昇傾向にあることがわかる。その他の事業では不動産の賃貸・分譲、ビル
管理などを行っている。
5.3.グループ経営分析のまとめ
連単倍率分析では、OLC が本社中心のグループ経営を行い、東京ドームも近年、親会社
中心の経営に移っていることがわかった。セグメント別分析では両社ともテーマパーク事
業、レジャー事業の本業を中心とした経営を行っているが、OLC では複合商業施設(ホテ
ル)事業も利益に貢献をしていることが読み取れた。
6.総合評価に代えて
分析のしめくくりとして最後に、PBR(株価純資産倍率)と PER(株価収益率)をみて
いくことにする
<図表 6-1>
オリエンタルランドと東京ドームの PBR・PER・株価
オリエンタルランド
東京ドーム
PBR(株価純資産倍率)
1.79 倍
0.8 倍
PER(株主収益率)
27.13 倍
―
株価
7,600 円
216 円
(2010 年 8 月 30 日現在)
参考
Yahoo!ファイナンス http://finance.yahoo.co.jp/
<図表 6-2>
オリエンタルランドと東京ドームの PER の推移
オリエンタルランド
東京ドーム
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
42
40.9
37.8
31.9
23.3
19.46
―
14.36
7.75
―
図表 6-1 をみると、PER は比較できないが、PBR では OLC の方が高いということが
わかった。また図表 6-2 をみると、両社ともに PER の値は減少傾向にあることがわかる。
17 / 18
最後にこれまでの分析のまとめをしたい。
まず収益性に関しては OLC が上昇傾向にあり、
東京ドームを引き離している。安全性では短期支払能力、長期支払い能力ともに OLC が優
れているが、短期支払い能力に関しては OLC も理想的な状態ではないことがわかった。効
率性・生産性においては、総合的には OLC がリードするものの、東京ドームが OLC を大
きく引き離している項目もあることがわかった。成長性に関しては営業利益を大きく伸ば
した OLC に軍配が上がった。グループ経営分析では、近年はどちらも親会社中心の経営が
行われ、テーマパーク事業、レジャー事業という主軸に力を入れていることがわかった。
以上の分析結果から、総合的に東京ドームよりも OLC が優れていると評価することが出
来る。また、本分析を通して首都圏の有力テーマパークである東京ドームは若干衰退気味
であったのに対して、世界に通用する OLC では成長性や収益性など好調であり、遊園地・
テーマパーク業界の不安材料など感じさせないような動きが見られ、非常に頼もしいと評
価することが出来る。一方東京ドームは財務レバレッジが高いことなどから、入場料の見
直しなどの効果が表れなければ今後の動向は不安である。
参考文献
・伊藤邦雄「ゼミナール現代会計入門(第 8 版)
」日本経済新聞社(2010 年)
・日経テレコン http://telecom21.nikkei.co.jp/nt21/service/CMN1000
・業界動向 SEARCH.com http://gyokai-search.com/
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