第4章 統計的検定 (その2) 統計学 2006年度 Ⅰ 仮説検定の考え方 a) 仮説の設定 1) 検定仮説、対立仮説 2) 片側検定、両側検定 (その1) b) 2種類の誤り c) 仮説検定の手順 Ⅱ 1つの標本にもとづく検定 a) 母平均の検定 1) 母分散が既知の場合 2) 母分散が未知の場合 Ⅲ 2つの標本にもとづく検定 a) 母平均の差の検定 b) 母比率の差の検定 (その2) Ⅱ 1つの標本にもとづく検定 a) 母平均の検定 1) 母分散が既知の場合 次のような問題を考える。 (例) ある工場では直径5mmのねじを標準偏差0.04mmにお さまるような管理体制で製造している。製造機械の劣化に よって、品質に変化が生じたかどうかを検討するために、9本 を標本として選んだところ、その平均が4.97mmであった。こ れは品質管理上異常なしと考えて良いだろうか。 この問題に答えるためには仮説検定が必要となる。仮説検 定は次のような手順をとる。 この手順にしたがって、この例を考えてみる。 1.仮説の設定 この例の場合、 「品質管理上異常がない」か、「品質管理上異常がある」 かを検定する。 検定仮説としては「品質管理上異常がない」という仮説を用いる。このと き対立仮説は「品質管理上異常がある」という仮説となり、 H0: μ=5 vs. H1: μ≠5 と表すことができる。この場合、対立仮説は検定仮説の両側をとる(「異 常がある」には、大きすぎると小さすぎるの両方が含まれ、「異常がない」 という検定仮説の両側の範囲をとる)。 ※1 検定仮説と対立仮説を逆にし、 H0: μ≠5 vs. H1: μ =5 とすることも考えられ る。しかし、採択域と棄却域を構成する場合、検定仮説が正しいとみなして構成 するため、検定仮説はある範囲(複合仮説)より、1つの数値(単純仮説)であること の方が望ましい。 ※2 「ねじがねじ穴に入るかどうか」を検定するなら、「ねじ穴に入る」という検定 仮説と、「ねじ穴に入らない」という対立仮説が考えられる。すなわち、 H0: μ≦5 vs. H1: μ > 5 とすることである。 2.検定統計量 この例では母分散が分かっているので、標本平均 x を用いて、 z x n を考えると、これは標準正規分布にしたがう。 3.採択域と棄却域 検定仮説が正しいと仮定する。このとき、標本平均をもとに計算したzが0 から大きく離れていたならばこの仮定は誤りだったと考える。 zがここだったら検 定仮説が正しいが 5 4.5 4 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 -0.5 -1 -1.5 -2 -2.5 -3 0.45 0.4 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 zがここだったら検定仮 説は誤りで、 このような分布が正し いと考える。 この場合、zは標準正規分布にしたがうので、有意水準5%†の仮説検定 をおこなうなら、 1.96 z 1.96 のとき検定仮説を採択し、 z 1.96 または z 1.96 のとき対立仮説を採択する。 棄却域 -1.96 採択域 1.96 棄却域 † 検定仮説が正しいなら、z>1.96またはz<-1.96となるような x が選ばれる確率は 5%である。これは第1種の誤りの確率すなわち有意水準が5%であることを意味 している。 4.統計量の計算 検定仮説が正しいとみなして(μに5を入れて)統計量を計算すると x 4.97 5 z 2.25 n 0.04 9 となる。よって z 1.96 なので棄却域に入り、検定仮説を棄却し、対立 仮説を採択する。 2) 母分散が未知の場合 母分散が未知の場合は、zの代わりに t x s n 1 を考え、こ れが自由度n-1のt分布にしたがうことを用いて仮説検定をお こなう。 次のような問題を考える。 (例) ある科目の試験を、平均点70点となるように作成したい。 そこで、26人をサンプルとして選び、問題をといてもらったと ころ、26人の平均点は60点、分散が625であった。試験の問 題作りは成功したといえるだろうか。 (解) 1.仮説の設定 「平均点が70点である」という仮説を、「平均点が70点でな い」という仮説に対して検定するので、 H0: μ=70 vs. H1: μ≠70 という仮 説を設定する。 2.検定統計量 標本平均 x を用いて、 x t s n 1 を考えると、これは自由度n-1のt分布にしたがう。 3.採択域と棄却域 検定仮説が正しいと仮定する。このとき、標本平均をも とに計算したtが0から大きく離れていたならばこの仮定は誤りだったと考 える。tは自由度26-1=25のt分布にしたがうので、t0.95=2.060でる。有意 水準5%の仮説検定をおこなうなら、 2.060 t 2.060 のとき検定仮説 を採択し、t 2.060 または t 2.060 のとき対立仮説を採択する。 4.統計量の計算 x 60 70 t 2 s n 1 25 26 1 となる。 2.060 t 2.060 なので検定仮説をを採択する。よって問題 作りは成功したといえる。 b) 母比率の検定 • 母比率の検定では、 z ことを利用する。 pˆ p が標準正規分布にしたがう pq n (例) 2006年6月18日(日)に放送された「FIFAワールドカップ 日本×クロアチア」では、視聴率が52.7%(関東地区 600世 帯を対象)であった。この結果から、50%を超えたといえるで あろうか。 (解) 1.仮説の設定 H0: p=0.5 vs. H1: p>0.5 という仮説を設定する。「50%を 超えない」という検定仮説に対し、「50%を超えた」という対立仮説を検定 するので、 H0: p≦0.5 vs. H1: p>0.5 であるが、検定仮説は対立仮説に 最も近い1点を考えれば良い。(0.5で成り立てば、それより小さな値では 必ず成り立つ) 2.検定統計量 標本比率 p̂ を用いて、 z pˆ p pq n を考えると、これは標準正規分布にしたがう。 3.採択域と棄却域 zは標準正規分布にしたがうので、有意水準5%の仮説 検定を片側検定でおこなうなら、 z 1.64 のとき検定仮説を採択し、z 1.64 のとき対立仮説を採択する。 4.統計量の計算 z pˆ p 0.527 0.5 1.323 pq n (0.5 0.5) 600 となる。 z 1.96 なので検定仮説をを採択する。よってこの番組の視聴 率は50%を超えたとはいえない。
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