公共サービス論(2014.12.8) 第9回 図書館長の役割 本日の講義 1 図書館長の役割 (1)法令等に見る館長の役割 (2)館長の権限と職務 ①館長の権限 ②館長の職務 (3)館長に求められる能力と態度 2 司書の専門性~職員育成の観点から~ (1)法令等に見る司書の役割 (2)司書の専門性 (3)司書が身につけるべき知識・技術 (4)司書の資質向上 1 公立図書館長とは (1)法令等に見る館長の役割 図書館法 (職員) 第十三条 公立図書館に館長並びに当該図書館を設置する 地方公共団体の教育委員会が必要と認める専門的職員、 事務職員及び技術職員を置く。 2 館長は、館務を掌理し、所属職員を監督して、図書 館奉仕の機能の達成に努めなければならない。 これからの図書館の在り方検討協力者会議 『これからの図書館像』(平成18年3月) (2) 図書館長の役割 図書館を社会環境の変化に合わせて改革するため には、図書館の改革をリードし、図書館経営の中心を 担う図書館長の役割が重要であり、今後ますますその 重要性が高まると考えられる。 図書館長は、社会や地域の中で図書館が持つ意義 や果たすべき役割を十分認識し、その実現に向けて 職員を統括し、迅速な意思決定を行うことが必要 である。 特に、地方公共団体の首長・行政部局や議会に対して、 図書館の役割や意義を理解してもらうよう積極的に働き かけを行うことが必要である。 また、図書館職員に対しては、社会のニーズや行政の 施策を理解させることによって、それらと図書館サービス の関わりを見出し、結びつけることができるよう配慮すべ きである。 教育委員会は、図書館長がこれらの役割を果たすた め、実質的に図書館長としての業務を行える勤務体制と 権限を確保し、同時に図書館経営について継続的に研 修を受けられるように配慮する必要がある。 <館長の具体的な役割・任務> 日本図書館協会「公立図書館の任務と目標」 「館長は、公立図書館の基本的任務を自覚し、住民へのサービス を身をもって示し、職員の意見をくみあげるとともに、職員を指導 してその資質・能力・モラールの向上に努める。このため、館長 は専任の経験豊かな専門職でなければならない」 図書館長は次のような任務をもっている。 ①図書館業務の計画を立てる。 ②計画実行に必要な条件(予算・人事など)を 獲得する。 ③職員を指導し、その資質・能力を向上させ、 計画を実行する。 日本図書館協会図書館政策特別委員会. 公立図書館の任務と目標 解説改訂版増補. 日本図書館協会, 2009, p.64 初期の段階における図書館長の仕事 (図書館長がその職責として継続して自覚すべき事柄) 1. 自治体の将来計画に即した運営方針の決定 2. あらゆる機会をとらえて、市民各層や行政内部に図書館 認識の浸透を図る 3. 前記の積み重ねを通じて、継続的な図書館予算と職員確保 に努める 4. 図書館の発達段階を予測し、職員の養成態勢をつくる 5. 次期の図書館長の人材育成を心がける 竹内紀吉. “図書館経営における館長の職責”. 竹内紀吉編. 図書館経営論. 東京書籍, 2008, p.64 (2)館長の権限と職務 ①館長の権限 館則、処務規則、会計規則等により規定 a.人事 職員の任免その他の進退に関する任命権者への意見申し出 職員出張、休暇、研修についての命令権 b.契約 一定額の図書館資料や物品調達についての契約権限 c.運営 図書館奉仕や整理の運営、管理についての全般的権限と責任 d.組織についての権限 職員の事務分担、館内人員配置 e.その他 館名、館長名で文書の往復、諸証明発行権限、図書館に関する広報 (参考)清水正三. 公共図書館の管理. 日本図書館協会, 1971, p.39-P.73(一部修正). (参考)地方教育行政の組織及び運営に関する法律 (所属職員の進退に関する意見の申出) 第三十六条 学校その他の教育機関の長は、この法律及び教 育公務員特例法 に特別の定がある場合を除き、その所属の職 員の任免その他の進退に関する意見を任命権者に対して申し 出ることができる。(略) (例)練馬区立図書館処務規程 昭和56年3月30日 教訓令第2号 (職責) 第5条 2 練馬図書館長(略)は、上司の命を受け、館務を掌理し、所属職員を指揮 監督する。 (館長の決定事案) 第6条 3 練馬図書館長(略)は、別に定めるものを除き、つぎに掲げる事案を決定する。 ただし、疑義のある事項については、そのつど上司の指示を受けるものとする。 (1) 当該図書館の事務について文書を発送すること。 (2) 当該図書館の職員の旅行、休暇(病気休暇(略)を除く。)、出張、超過勤務、 休日、週休日、職務に専念する義務の免除の承認および給与の減額免除 の承認に関すること。 (3) 当該図書館の職員の事務分担を定めること。 (4) 当該図書館の職場研修を開催すること。 (5) 練馬区教育委員会事案決定規程(昭和56年3月練馬区教育委員会訓令第 1号)別表中課長決定とされている事案(略)(※)に関すること。 ※例:一定金額以下の報償費の支出や物品購入・工事等の決定 等 (6) その他常例に属するものおよび軽易な事項に関すること。 (参考)図書館に関する法令等 図書館法 第10条 公立図書館の設置に関する事項は、当該図書館を 設置する地方公共団体の条例で定めなければならない。 条例 教育委員会 規則 ・・・図書館の設置に関すること (例)「○×市図書館設置条例」 ①設置の宣言、②図書館の名前と位置、 ③教育委員会への委任条項 ・・・図書館の運営に関すること (例)「○×市図書館館則」又は「図書館運営規則」 ①目的と事業内容、②開館時間、③休館日、 ④利用方法、⑤利用制限、⑥館則違反の場合の罰則、 ⑦事故の場合の処置 等 (例)「○×市図書館処務規程」(教育委員会訓令) 内部組織及び事務分掌等 規則 (例)「○×市 物品管理規則」 物品管理事務 (図書館資料管理規則が独自にある場合も。) (参考)図書館問題研究会. 図書館のすべて. ほるぷ出版, 1985, p.156. より作成 (参考)図書館に関する法令等 (その他の例) ・条例・規則の運用方針(館長名) ・図書館懇話会等の設置要綱、友の会会則 ・図書館資料収集方針、資料除籍・保存基準 ・利用者対応基準 (参考)ちばおさむ. 図書館長の仕事-「本のある広場」をつくった図書館長の実践記. 日本図書館協会, 2008, p.134-166, (2)館長の権限と職務 ②館長の職務 館長は任務達成のために何をなすべきか (ⅰ)経営方針を立て(政策決定)、周知、実施し、 総括する (ⅱ)職員の能力を高め、働く意欲をおこさせる (ⅲ)働きやすい職場をつくり、職員を適材適所に配置 する (ⅳ)人材を集め、人材を育てる (ⅴ)予算を獲得する (ⅵ)不必要なことはしない ((2)全体の参考文献) 清水正三. 公共図書館の管理. 日本図書館協会, 1971, P.49-P.73. 河合律子.“図書館の人事管理”. 平成25年度新任図書館長研修講義要項. 文部科学省, 2013, P.155-162. 井上真澄. “館長論”. いま、市民の図書館は何をすべきか. 前川恒雄先生古稀記念論集刊行会編. 出版ニュース社. 2001, P.206-220. (ⅰ)経営方針を立て(政策決定)、周知、実施し総括する ○基本的奉仕計画の樹立 館内外の情勢、諸問題の把握 …例規集、図書館統計、上司・議員等の図書館に対する意向、 自治体内部各部局との連携、他館の実状 等 自治体の情勢分析 …人口動態、産業構造、歴史、物理的条件、 財政状況(例:経常収支比率、財政力指数、公債費負担比率 ) ○実施状況の把握 (例) ・館員1人1人の目標、課題を設定(進行管理)、 結果の評価 ・年度ごとの各課重点目標の策定と評価 (ⅱ)職員の能力を高め、働く意欲をおこさせる ○自らも努力する ・館長を対象とした研修(知識、人脈) ・図書館事業や行事への参加 ・図書館関係団体の委員 ・館界の動きを知る ○職員の自発性に期待する(≒を高める) ・権限委譲 ・研究集会への出席、出張、視察 ・職員研修(業務研修、自主研修)の実施・参加促進、 業務研究会の組織、研究活動奨励 ・職員の働く意欲を引き出す (留意)専門性の発揮、職員の気持ちをまとめる、 非常勤職員のモチベーションの維持 等 (参考)研修に関する規定等 図書館法 第7条 文部科学大臣及び都道府県の教育委員会は、司書及び 司書補に対し、その資質の向上のために必要な研修を行う よう努めるものとする。 図書館の設置及び運営上望ましい基準 第二 公立図書館 一 市町村立図書館 4 職員 (二)職員の研修 1 市町村立図書館は、司書及び司書補その他の職員の資質・能力の 向上を図るため、情報化・国際化の進展等に留意しつつ、これらの職員 に対する継続的・計画的な研修の実施等に努めるものとする。 (ⅲ)働きやすい職場をつくり、人材を適材適所に 配置する ・職場の物質的条件への配慮 ・職員の配置、勤務状況への目配り、勤務条件向上 (例)職員ヒアリング、職員全員カウンター交代勤務 ・館内会議等を通じた意思統一、共通認識作り (例)会議、標語、経営評価・利用者評価の実施・公開、 事業一覧の作成 等 ・館内巡回 (ⅳ)人材を集め、人材を育てる ・長い間の一貫した経営 ・館長の後継者育成 (ⅴ)予算を獲得する ・予算編成作業(企画・立案、予算要求資料作成、ヒアリング) …法令、データ、事例、答申・提言、自治体の重点政策、住民の要望等、 客観的資料に基づき必要性や重要性を説明(第六回講義資料参照) …日頃から住民サービス、企画部門、財政部門等へ働きかけ 理解と支持を得る(課題解決支援や読書支援サービス等への取組) ・他部局、地域の関連団体との連携・協力 ・地方自治体のプロジェクト事業への参加 ・地域の関連団体からの寄付金獲得 ・広告料等の獲得 ・図書等の資料寄贈 (参考) 薬袋秀樹. 公共図書館経営の進め方. つくばリポジトリ, 2013-02, P.6-P.7. http://hdl.handle.net/2241/118280(参照2013-11-29) (α)その他全般的事項 ~外部との関係・外部への働きかけ~ ・議会事務局と議員 ・・・顔を覚える、資料要求・質問への対応、選挙公報資料等の収集 ・教育委員会 ・・・教育長、定例委員会等への出席、委員、事務局担当者、 公民館、体育館等とのつきあい ・市長部局各部課 等 ・・・人事、予算、総務、企画、経理、財務との結びつき 重要な決裁は館長が説明にいくことも大切 予算折衝、人員問題、人事異動は館長自身で(専門用語使わない) ・住民との連携 ・・・来館者、公民館、PTAの、読書会、サークル 等 ・図書館PR ・・・HP,マスコミへの情報発信、行政への働きかけ (参考) 大澤正雄. “館長論”. 図書館研究三多摩. 三多摩図書館研究所. 1997, 第二号, P.3 -P.25. (3)館長に求められる能力、態度 ○館長に求められる能力 ・管理能力 ・ 特殊な能力 (参考)清水 前掲書 p.63 (参考)「図書館長として最も必要とされる能力」 全国公立図書館長(無作為抽出) 329名回答 (1994) ①管理・運営に関する能力 52.3% (組織管理・運営能力、指導・統率力、企画・調整力、図書館 の近代経営能力、渉外力、図書館の将来計画、行政的手腕、 行政全般とのバランス感覚) ②知識・識見 15.5% ③住民ニーズへの対応能力 11.9% ④職員の育成能力 6.4% ⑤その他 19.8% (研究心・知識欲 等) 大島敏洋, 杉村 優. 公立図書館長の専門職意識とその規定要因-日本の公立図書館長の属性分析(1)-. 図書館情報大学研究報告. 図書館情報大学, 1994, 13巻, 1号, P.30 図書館の設置及び運営上望ましい基準 第二 公立図書館 一 市町村立図書館 4 職員 (一)職員の配置等 ①市町村教育委員会は、市町村立図書館の館長 として、その職責にかんがみ、図書館サービス その他の図書館の運営及び行政に必要な知識・ 経験とともに、司書となる資格を有する者を任命 することが望ましい。 ※都道府県立図書館にも準用 (参考)図書館長の有資格者割合 全国公立図書館長数(本館のみ) 計 1,875人 全体に占める割合 専 任 824人 43.9% 兼 任 670人 35.7% 非常勤 197人 10.5% 指定管理者 184人 9.8% 有資格者割合 24.3% 5.5% 10.7% 47.3% 文部科学省「社会教育調査」平成23年度版 専任の割合は半数以下。 なお、このうち司書の有資格者は2割程度。 区 分 計 図 書 館 数 549 47 1,875 55 1,286 489 45 824 43.9 200 24.3 43 78.2 3 7.0 671 52.2 160 23.8 106 21.7 35 33.0 4 8.9 2 50.0 670 35.7 37 5.5 4 7.3 1 25.0 334 26.0 30 9.0 297 60.7 5 1.7 35 77.8 1 2.9 197 10.5 21 10.7 8 14.5 - 130 10.1 17 13.1 56 11.5 3 5.4 3 6.7 1 33.3 - 全 体 に 占 め る 割 合 ( %) 184 9.8 151 11.7 30 6.1 3 6.7 うち司書有資格者 87 - 78 9 - 51.7 30.0 - 館 長 全 体 に 占 め る 割 合 ( %) 館 長 全 体 に 占 め る 割 合 ( %) うち司書有資格者 有資格者割合( %) 非 常 勤 館 長 全 体 に 占 め る 割 合 ( %) うち司書有資格者 有資格者割合( %) 指 定 管 理 者 村・組合 2,592 有資格者割合( %) 本 館 館 長 町 61 うち司書有資格者 兼 任 市(区) 3,249 計 専 任 都道府県 館 長 有資格者割合( %) 47.3 (注) 1. 「専任」とは,常勤の職員として発令されている者であり,「兼任」とは,当該図書館以外の常勤の職員で兼任発令 されている者であり,「非常勤」とは,非常勤の職員として発令されている者である。 ○館長に求められる態度 ・奉仕の精神 ・図書を愛し、人間に興味を持つ ・言論出版の自由を守る態度 ・地方文化を守る態度 ・積極的に地域社会の中へ ・図書館に惚れきる ・その他 計画性、判断力、洞察力、説得力、独創性、勇気、意思、 ユーモア、人格の高潔(P.ドラッカー) (参考)清水 前掲書 p.58-p.62 2 司書の専門性~職員育成の観点から~ (1)法令等に見る司書の役割 〇設置・職務 「公立図書館に、当該図書館を設置する地方公共団体 の教育委員会が必要と認める専門的職員等を置く」 (図書館法第13条第1項)。 図書館法 第四条 図書館に置かれる専門的職員を司書及び 司書補と称する。 2 司書は、図書館の専門的事務に従事する。 25 ○司書・司書補の状況 平成11年度 平成14年度 平成17年度 平成20年度 平成23年度 人数 1館当たり 人数 司書補 9,783 10,977 12,781 14,596 16,923 3.8 4.0 4.3 4.6 5.2 425 387 442 385 459 ※専任・兼任・非常勤 出典:平成23年度社会教育調査報告書 26 ○司書のあり方についての指摘 中央教育審議会答申(平成20年) 『新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について-知の循 環型社会の構築を目指して-』 • 図書館等の資料の選択・収集・提供、住民の資料 の利用に関する相談への対応等の従来からの業務 とともに、地域が抱える課題の解決や行政支援、学 校教育支援、ビジネス(地場産業)支援、子どもの学 校教育外の自主的な学習の支援等のニーズに対 応し、地域住民が図書館を地域の知的資源として 活用し、様々な学習活動を行っていくことを支援して いくことが求められている 27 (2)司書の専門性 ○薬袋秀樹『図書館運動は何を残したか~図書館員の専門性』 専門職の要件 (1)職務の公共性 (2)専門技術性 (3)専門的自律性 (4)専門職倫理 (5)社会的評価 薬袋秀樹. 図書館運動は何を残したか~図書館員の専門性. 頸早書房, 2001, p.260., ○日本図書館協会・図書館員の問題調査研究委員会 『図書館員の専門性とは何か』 (1)利用者を知ること (2)資料を知ること (3)利用者と資料を結びつけること ○西河内靖泰 『公共図書館の存在意義と図書館員の専門性を考える』 (資料1 参照 略) 科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学 術情報基盤作業部会 「大学図書館の整備について(審議のまとめ)-変革する大学 にあって求められる大学図書館像-」(2010) ○大学図書館職員に求められる資質・能力等 1.大学図書館職員としての専門性 2.学習支援における専門性 3.教育への関与における専門性 4.研究支援における専門性 (資料1 参照 略) (3)司書に求められる知識・技術 これからの図書館の在り方検討協力者会議 ○「これからの図書館像~地域を支える情報拠点をめざして~」 (2006) ○「図書館職員の研修の充実方策について」(2008) ○「司書資格取得のために大学において履修すべき 図書館に関する科目の在り方について」(2009) (資料1 参照 略) (4)司書の資質向上 ○キャリアパスのための研修-計画的な研修受講をー これからの図書館の在り方検討協力者会議 「図書館職員の研修の充実方策について(報告)」 http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/t eigen/08073040/005.htm (参考資料1 参照 略) (参考) 司書の資質向上に関する関係団体の動向 ・日本図書館協会 認定司書制度 http://www.jla.or.jp/committees/nintei/tabid/203/Default.aspx (参考資料2 参照 略) ・国立大学図書館協会人材委員会(2007) 「大学図書館が求める人材像について -大学図書館職員のコンピテンシー」 http://www.janul.jp/j/projects/hr/jinzaizo1903.pdf (参考資料3 参照 略)
© Copyright 2024 ExpyDoc