通訳とは何か?

日英逐次通訳演習
通訳とは何か?
通訳教材データベース
[DB003A]
通訳とは何か?
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今晩は。今日お集まりのみなさんは、将来、通訳者に
なりたいと考えておられるわけです。
そこで、次のような質問で始めてみたいと思います。つま
り、「通訳者とは一体どういうことをするのか」ということ
であります。
この質問に答える前に、まず通訳と翻訳の違いについて
考えてみます。
通訳とは何か?
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表面的には、通訳と翻訳の違いは単なる手段の違い
に過ぎないように見えます。つまり、通訳者は口頭で
翻訳をし、翻訳者は文字テキストを通訳するというわ
けです。
もちろん、いずれの仕事も、言語というものに対するある
種の愛情があること、それから複数の言語に深く通じ
ていることが前提となります。
通訳とは何か?
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しかしながら、それぞれの仕事を行うために必要な訓練
や技能、あるいは才能という点では、両者の違いは
かなり大きなものがあります。
翻訳者のキースキルは何かといえば、それは文章力、つ
まり目標言語で自分を明瞭に表現できる力というこ
とになります。したがって、プロの翻訳者は、ほとんど
常に一方向の作業、つまり自分の母語に翻訳すると
いうのが普通です。バイリンガルの人でも、2カ国語を
同じように流暢に操れるということは、まず、ほとんどあ
りません。
通訳とは何か?
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翻訳者の多くはいわゆるバイリンガルではなく、目標言
語で自由に会話ができるということはないかもしれま
せん。しかし、その必要もないわけです。
翻訳者に必要なスキルは、目標言語とその言語の文
化的背景に対する理解、それから、与えられたテキス
トを辞書や参考書をフルに活用して適切な目標言
語に変換する力、ということになります。
通訳とは何か?
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これに対して通訳者は、双方向への変換を、辞書なし
で、しかもその場でやらなければならないわけです。通
訳には2つの種類があります。
逐次通訳と同時通訳です。同時通訳の最も一般的
なスタイルは、通訳者がヘッドホンを付けてブースに座
り、マイクに向かってしゃべるというスタイルです。
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厳密に言えば、「同時」というのは正確ではありません。
通訳者は、ある発話のおよその意味を理解した後で
なければ通訳にかかれないわけです。
それから、あるセンテンスの中で、主語と動詞がどのくら
い離れているかによって、文の最後まで聞いてからで
ないとまったく通訳ができないということもあります。
通訳とは何か?
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この例によっても、同時通訳という仕事がいかに困難を
伴うものであるか、明らかだと思います。あるセンテン
スを目標言語に変換しながら、同時に、その次の文
を聞き、理解していかなければならないわけです。
バイリンガルの人でなくても、この作業の難しさを体験す
ることは可能です。誰かの発言を、センテンスの半分
ぐらいずつ遅れながらパラフレーズしてみてください。も
ちろん、次のセンテンスの内容を理解しながら、前の
文をパラフレーズするわけです。
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同時通訳者にとっての最も重要なスキルのひとつは決
断力です。あれこれの訳を吟味したり、適切なイディ
オムを考えている暇はありません。
少しでも遅れれば、話し手の発話の一部を、あるいは
まとまった思考ユニットを、まるごと聞き損ってしまいま
す。話し手は自分から離れたところにいて、場合に
よっては別室にいるということもありますので、いったん
聞き漏らしたことは、いわば永久に回復できないわけ
です。
通訳とは何か?
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逐次通訳では、話し手はだいたい 1 分から 5 分ぐらい
の間隔でポーズを置きます。普通はパラグラフ単位、
あるいはひとつのまとまった思考ユニットごとに発話を
中断しますが、通訳者はこの間に通訳を行うことにな
ります。
逐次通訳におけるキースキルのひとつはノートテイキング
です。ひとつのパラグラフを、細部まできちんと記憶し
ておくなんてことはできないわけです。
通訳とは何か?
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しかし、通訳者のノートはいわゆる「速記」とはかなり違
います。通訳のためには、相手の発話内容をその言
語のままノートすることは、むしろ事態をいっそう複雑
にすることがあります。
通訳とは何か?
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したがって、プロの通訳者の多くは、自分なりの「記号
文字」を作って、これを活用しています。
相手の言葉をそのまま書き取るのではなく、話し手の言
わんとすることを、言葉から離れた形で記号的にメモ
するわけです。
これによって、通訳者のアウトプットは、起点言語にとら
われない、よりこなれたものになります。
通訳とは何か?
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翻訳者と通訳者に必要なスキルはこのようにかなり大き
く違うわけですが、いずれも両方の言語に深く通じて
いること以外に、ひとつだけ共通点があります。
つまり、両者とも、通訳・翻訳の対象となるテキストやス
ピーチの主題について、きちんと理解していなければ
ならないという点です。
通訳とは何か?
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1950年代から盛んに行われた自動翻訳のプロジェクト
が失敗に終わった大きな理由のひとつは、まさにこの
点にあります。
翻訳というのは、単にある言語を別の言語に置き換え
ることではなく、ある言語で表現された思考内容を理
解し、これを別の言語を使って説明するという作業で
す。
通訳とは何か?
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言い換えれば、通訳者の仕事は、まず「言葉」を「意
味」に転換し、次にその「意味」を、別の言語を使っ
て再び「言葉」に戻すという作業なのです。
したがって、通訳とは基本的に「パラフレーズイング」であ
ると言うことができます。
通訳とは何か?
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そして、ある思考内容を第3者に伝えるためには、まず
自分がそれをきちんと理解する必要があるように、自
分が通訳者として参加する会議やワークショップにお
いて、通訳者としての仕事をまっとうするためには、話
題となっている事柄についての十分な予備知識があ
ることが大前提となります。
通訳とは何か?
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以上要約すれば、よい通訳者に求められる資質とは、
およそ次のようなものです。
1) 通訳対象となるスピーチの主題についての知識
2) 双方の文化についての広範かつ深い知識
3) 双方の言語における幅広い語彙力
4) 双方の言語による簡潔・明瞭な表現力、および
5) 逐次通訳のための高度なノートテイキング力。
以上です。どうもありがとうございました。みなさんのご健
闘を祈ります。