情報社会論II 第1回 イントロダクション

情報社会論II
第1回 イントロダクション
東邦大学2003年秋学期講義
2003年10月3日
Agenda





自己紹介
この授業の目的
評価方法・参考書
情報倫理学とは何か?
授業計画
自己紹介




氏名:大谷卓史
専攻:科学技術史、科学技術論、情報倫理学
所属:東京大学先端科学技術研究センター
(協力研究員)
仕事:フリーランスライターもやっています。最
近やや休業中。
この授業の目的




情報倫理学と科学技術史の道具を使って、情報社
会を考える。
情報技術の発展・普及とともに、社会にはどのよう
な問題が生じつつあるのか?
とくに、道徳・法などの社会規範や、その規範を支え
るさまざまな概念にはどのような変化がもたらされ
つつあるのか。
われわれはどのような情報社会を構想し、つくりあ
げていくべきか。
評価方法

出席


毎回の授業コメントを出欠に代えます。
レポート




12月19日講義で題目発表。
1月16日最終講義までに提出。
分量は、3200~4000文字。
他人の意見の丸写し&コピペは単位をあげませ
ん。「要約」も限度を越えれば丸写しと同じ扱い。
参考書

Deborah Johnson 水谷雅彦・江口聡監訳
『コンピュータ倫理学』(オーム社、2002年)


購入の必要はないが、読んでおくと授業内容の
理解が容易。
さらに深く情報倫理学を考えるための考え方など
も理解できる。
情報倫理学とは何か?

情報倫理学は、コンピュータやインターネット
などの情報技術が重要な意味で関わってい
る倫理的・道徳的問題について考察する学問。



コンピュータで人を殴るのは情報倫理学の問
題??
そもそも倫理学って何??
情報倫理学はどんな問題を扱うの?
倫理学とは何だろう?

倫理学の役割は、人間が何をすべきかを探
究すること。

道徳の説明を正当化するために提示される論証
や理論、理由を評価すること が役割。
情報倫理学は
どんな問題を扱うのか?

Johnsonの4つのシナリオを考える(『コン
ピュータ倫理学』pp.1-4)




シナリオ1 私は著作権のあるソフトウェアをコ
ピーすべきか?
シナリオ2 私の会社はデータマイニング技術を
使用すべきか?
シナリオ3 表現の自由
シナリオ4 私の専門家としての責任
シナリオ1 私は著作権のあるソフト
ウェアをコピーすべきか?



ジョンは非常に便利な個人投資家向けの株取引支援ソフト
を見つけた。このソフトは、ユーザーのリスクに対する態度、
年齢、投資の規模などに基づいて、最適な株取引戦略を推
薦したりもできる。
ジョンはこのソフトとマニュアルをメアリーに貸した。メアリー
はソフトとマニュアルを自分のコンピュータにコピーして、ジョ
ンに借りたものを返した。
ジョンとメアリーはソフトウェアに著作権があるということは漠
然と知っていたが、二人とも使用許諾同意事項をあまり注意
深く読まなかった。ジョンは何か不正なことをしたのか?メア
リーは何か不正なことをしたのか?したとしたら、それぞれど
んなことだったのだろうか?
シナリオ2 私の会社はデータマイニ
ング技術を使用すべきか?(1)


インガはコンピュータのソフトウェアとハードウェアを販売する
会社を経営している。この会社は、顧客に関する情報を収集
している。あるとき(たとえば、会社のサービスを評価する調
査書を顧客に配り、顧客の好みを把握する場合)は、情報は
意図的に収集されている。またあるとき(たとえば、配送先の
指定などによって氏名、住所、購入品名、購入日を記録する
場合)には、購買取引に埋め込まれた情報を収集している。
インガは最近データマイニングに関心をもっている。データマ
イニングは、統計的手法などを駆使して、大量のデータから
情報の間の相関関係やデータのパターンを探り当てることを
可能にする技術である。
シナリオ2 私の会社はデータマイニ
ング技術を使用すべきか?(2)


この技術を使えば、自分の顧客に対する有益な情報が引き
出せるかもしれない。たとえば、購買習慣と郵便番号の相関
関係が明らかになれば、より効果的な広告が可能になるだ
ろう。また、郵便番号と購買パターンの相関関係は投票パ
ターンに関する公的記録とも関連して、政治的信条と購買パ
ターンの相関関係が明らかになるかもしれない。これも、ター
ゲティング広告には有効である。
インガはデータマイニングツールに関して葛藤に直面してい
る。顧客は買い物のために情報を与えてきたが、データマイ
ニングは顧客が予想したことのない仕方で情報を用いるは
ずだ。一方、そうした情報によって財力や態度のパターンと
関連付けられるのは、大部分において個人ではなくむしろ集
団であろう。インガはデータマイニングツールを使うべきか。
シナリオ3 表現の自由(1)


1994年11月、ミシガン大学2年生ジェイク・ベイカーはイン
ターネットニュースグループalt.sex.storiesに、同級生の女性
と同じ名前の「パメラ」を主人公にした3つのセクシャルな空
想物語を投稿した。この投稿では、パメラは拷問、レイプ、殺
害されるさまをありありと描き出した。
ベイカーは、物語をニュースグループで公表するのに加えて、
オンタリオ出身の男アーサー・ゴンダ(本当の住所も氏名も
不明)と電子メールで性的行為に関して意見を交わした。電
子メールの一通で「考えているだけでは女とやれない。(中
略)俺は本当にやる必要がある」と書いていた。
シナリオ3 表現の自由(2)


モスクワにいるミシガン大学の出身者がニュースグループ回
覧中にベイカーの物語を発見して、大学職員に警告した。大
学当局と連邦捜査局が捜査を進め、1995年2月9日に、ベイ
カーは逮捕され、29日間拘留された。結局、彼は他者を傷つ
けるという脅しを州間でやり取りしたという5訴因で起訴され
た。しかし、最初の告訴が一部依拠していた物語は起訴状で
は述べられず、ゴンダとベイカーの間での電子メール交換だ
けが言及された。その告発は、ベイカーが当該行為を実行す
るという本当の脅しを表明してはいなかったという理由で
1995年6月に取り下げられた。
ジェイク・ベイカーは何か不正なことをしたのだろうか?警察
は彼を逮捕すべきだったのか?
シナリオ4 私の専門家としての責任
(1)


ミロ・スタインは大きなソフトウェア会社の新事業を監督して
いる。彼が管理するうちのチームの一つは、8~14歳の子供
のためのエデュテイメントソフト(遊びながら学習できるソフ
ト)を開発している。この作品には、マッチョな男性のキャラク
ターやセクシーな女性のキャラクターなどが登場する。
彼は、コンピュータ専門家の会議で、コンピュータ使用のジェ
ンダーとマイノリティに焦点を当てたセッションに参加した。あ
る発表では、ソフトウェア開発の際のジェンダーバイアスに関
して議論が行われた。ゲームデザイナーは男の子向けに
ゲームをデザインしがちだという。また、ソフトウェア危機にも
かかわらず、大学でコンピュータのコースを履修する女性や
マイノリティが少ないという発表も聞いた。
シナリオ4 私の専門家としての責任
(1)



ミロが会社に戻ると、ゲームは出荷前の最終テスト
段階だった。チームの配置について考えたことがな
かったが、今見てみるとチームのメンバーは全員男
性である。
ミロは、チームにゲームの見直しを依頼し、ジェン
ダーバイアスや人種バイアスについて再考させるべ
きではないかと考えた。彼は何をすべきか。
たとえそのゲームがよく売れるとしても、別のメッ
セージをゲームに添えるべきか。この点に関する彼
の責任とは何か。
シナリオに示された
さまざまなタイプの倫理的問題

誰がその倫理的問題に関わっているか





個人と法
企業の指針確立
政府は検閲をすべきか
専門家、専門家集団
情報倫理学の代表的な問題例




著作権
プライバシー
表現・言論の自由
コンピュータ技術者の社会的責任・専門家倫理
『コンピュータ倫理学』pp.5-6.
インターネットやコンピュータは社会を
どう変えつつあるか?



新聞やテレビで見聞きしたことがある例をあ
げてみよう。
どのようなよいこと、悪いことがもたらされて
いるか?
よいとも悪いとも決められないようなことはな
いか?
情報技術は
何をもたらしつつあるか?

電子データの複製容易性の問題。



便利な複製容易性、しかし「違法コピー」も簡単。
しかし、そもそもソフトは複製してどんどん利用し
たほうが社会的にはよいのでは?
しかし、そうすると誰がソフトを開発する気になる
だろうか?
情報技術は
何をもたらしつつあるか?

P2Pソフトウェア




大規模なサービス提供の可能性を拓く。
アド・ホックネットワークの実現。
しかし、P2Pファイル共有ソフトは「違法コピー」の
温床??
実はネットワーク帯域もやばいらしい?
情報技術は
何をもたらしつつあるか?

クッキー






ウェブでのデータベース利用に必須の技術。
パーソナライゼーションも可能にする。
ユーザーに対しても、企業にとってもメリットがあるらしい。
しかし、そもそもパソコンの中を覗かれて気分はよいだろ
うか??
ウェブ閲覧の記録が残るということを理解しているか?
クッキーのしくみを理解してウェブを利用しているユー
ザーはどれだけいるか?
情報技術は
何をもたらしつつあるか?

RFIDタグ





周波数の違う無線によって個体識別。
生鮮食料品の産地管理や鮮度管理を可能に。
子どもやお年寄りが事件・事故に巻き込まれるのを防止。
見守るための技術。
その一方で、さまざまな監視に使われるかもしれない。
しかし、監視も悪いことといえるだろうか?安全のための
監視、生産性向上のための監視、犯罪抑止のための監
視などなど。
情報技術の拓く可能性と指針の空白



情報技術はわれわれの行為の可能性を切り
拓くが、指針の空白(policy vacuums)ももた
らす(Moor, James H., “What is computer
Ethics?” 1985)
情報技術によって概念の混乱も生じる。
概念の混乱が収まれば、指針の空白もなくな
るというケースも多い。
『コンピュータ倫理学』pp.7-10.
情報倫理学によって、
われわれは何を目指すべきか?



インターネットやコンピュータなど、20世紀後
半になって登場した技術の本性(本来的性
質)を考える。
規範という観点から、情報技術と社会との相
互作用を理解する。
われわれはどのような情報社会をつくりあげ
ていくべきなのかを構想する。
授業計画













1.イントロダクション(2003年10月3日)
2.技術と社会の相互作用(2003年10月10日)
3.インターネットと社会(1)(2003年10月17日)
4.インターネットの歴史(2003年10月24日)
5.平成15年版情報通信白書を読む(2003年10月31日)
6.ソフトウェアと所有権(1)―――著作権概念の変容(2003年11月14日)
7.ソフトウェアと所有権(2)―――知識・社会・所有(2003年11月21日)
8.オープンソースソフトウェア(2003年11月28日)
9.P2Pソフトウェアと社会制度(2003年12月5日)
10.セキュリティ・自由・プライバシー(1)(2003年12月12日)
11.セキュリティ・自由・プライバシー(2)(2003年12月19日)
12.インターネットと社会(2)(2003年1月9日)
13.情報社会をつくる(2003年1月16日)