高松地裁意見陳述 2013/04/22 原告代理人弁護士 田門 浩 2013/04/22 1 聴覚障害とは何でしょうか? • 人間の持つ五感のうち,聴覚に障害があるこ とをいう。 • 「伝音難聴」と「感音難聴」 2013/04/22 2 音声はどのようにし て聞こえるのか? 1. 音=空気の振動 2. 外耳(耳介・外耳道) 3. 中耳(鼓膜・耳小骨・ 中耳腔) 4. 内耳(蝸牛) 5. 内耳神経 6. 聴覚中枢(大脳皮質 の中にある) (独立行政法人情報処理推進機ホームページ http://www2.edu.ipa.go.jp/gz2/a-cg/a-500/a-510/IPA-acg320.htm) 2013/04/22 3 伝音難聴 • 外耳と中耳(音声 が物理的な振動で 伝達される部分)に 障害 • 内耳には障害がな い • 補聴器が有効 (独立行政法人情報処理推進機ホームページ http://www2.edu.ipa.go.jp/gz2/a-cg/a-500/a-510/IPA-acg320.htm) 2013/04/22 4 感音難聴 • 内耳(音声の振動を 神経の活動に変換 し,中枢へ伝える部 分)に障害 • 音そのものに歪み • 補聴器を使用しても 音や音声が明確に 聞き取れない (独立行政法人情報処理推進機ホームページ http://www2.edu.ipa.go.jp/gz2/a-cg/a-500/a-510/IPA-acg320.htm) 2013/04/22 5 混合難聴 • 伝音系と感音系の 両方に障害 (独立行政法人情報処理推進機ホームページ http://www2.edu.ipa.go.jp/gz2/a-cg/a-500/a-510/IPA-acg320.htm) 2013/04/22 6 原告の聴覚障害 • 神経性難聴(甲第1号証) • 感音難聴の一種類。 • ボリュームを上げても,音や音声を明確に聞 き取れない障害。 2013/04/22 7 聴覚障害者のコミュニケーション方法 • 聴覚障害者本人にとって一番適切なコミュニ ケーション方法は,人によって異なる。 • 手話 – 手指,表情,身体の動きを使ってコミュニケーショ ンをする方法 • 筆記 – 筆記する方法 • 口話 – 残存聴力の助けを借りて口の形を読み取ったり 自分から発声する方法 2013/04/22 8 聴覚障害者のコミュニケーション方法 • 聴覚障害者本人にとって何が一番適切なコミ ュニケーション方法かは,次の要素によって 異なってくる。 – 聴覚に障害が生じた年齢 – 残存聴力の程度 – 周囲に手話を使う人々がいるかどうか 2013/04/22 9 原告本人にとって一番適切な コミュニケーション方法 • 手話である! • 原告本人は,2歳のときから耳が聞こえなく なった – 音声日本語を習得する前の年齢である。 • 残存聴力もほとんど無い – 右耳104デジベル以上,左耳103デジベル以上 の音でないと,音を感じることができない。 – 電車が通るときのガードの下で初めて空気の振 動として音が身体に感じられる程度の聴力である。 2013/04/22 10 原告本人にとって一番適切な コミュニケーション方法 • 原告が通っていた聾学校とは… – 聴覚障害教育を専門とする教育機関 – 幼稚部,小学部,中学部,高等部があり,聴覚障 害児の発達段階に応じた教育を行う – この学校には,数多くの聴覚障害児が在籍して いる。 2013/04/22 11 原告本人にとって一番適切な コミュニケーション方法 • 原告は,聾学校で他の聴覚障害児と手話で コミュニケーション • 手話とは… – 手指,表情,身体の動きなどを利用して短時間の 内に自分の意思を伝達し合うことができるもの。 – 残存聴力がほとんどない聴覚障害者にとっては, 音声を使わず視覚だけを使ってコミュニケーショ ンできる手話が一番適切なコミュニケーション方 法 2013/04/22 12 原告本人にとって一番適切な コミュニケーション方法 • 筆談では… – 意思を伝えるためにいちいち筆記をしなければな らず,意思伝達に時間がかかってしまい,十分な コミュニケーションが図れない。 • 口話では… – 「たばこ」「たまご」「なまこ」というように同じ口形 の言葉が多く,意思伝達に食い違いが起きてしま い,十分なコミュニケーションが図れない。 2013/04/22 13 ろう者と聴覚障害者 • ろう者とは… – 聴覚障害者のうち,手話を一番適切なコミュニ ケーション方法としている人々をいう。 • このような「ろう者」とは別に,手話を使わない で筆談や口話でコミュニケーションを取ってい る聴覚障害者もいる。 • 原告としては… – 手話が一番適切なコミュニケーション方法なので, 原告は「ろう者」である。 2013/04/22 14 手話はろう者の言語である • ろう者にとっては,手話は,単なるコミュニ ケーション方法でなく,「言語」である。 – つまり,手話を使って意思伝達をするのみならず, 手話を用いて思考し,感情のやりとりもする。 – 手話を用いて思考するときには,頭の中に現れ てくるのは日本語でなくて手指のイメージが出て くる。まさに脳の中身と手指とが一体になったイ メージである。 – 寝言も手話で話すのである。 2013/04/22 15 手話はろう者の言語である • 障害者基本法第3条の規定 – 「全て障害者は,可能な限り,言語(手話を含 む。)その他の意思疎通のための手段について の選択の機会が確保されるとともに,情報の取 得又は利用のための手段についての選択の機 会の拡大が図られること。」 • 障害者基本法は,手話を言語として認めた。 2013/04/22 16 原告の子育ての苦労 • 自分の耳が聞こえないことで情報がない中で 子どもとどのように関わっていくのかいろいろ と悩みながら,健聴の長女を,そして次女を 一生懸命育ててきた。 2013/04/22 17 原告の子育ての苦労 • 耳が聞こえる親であれば… – 保育士や教師,他の子の親と話すのに簡単に電 話一本で済ませたり,会って声で話し合ったりし て済ませる。 • 耳が聞こえない原告にとっては… – 筆談をしようにも筆記に時間がかかり十分に意 思疎通が図られなかったり重要な事を書き忘れ られたりして情報もきちんと得られないようなこと も多かった。 2013/04/22 18 子の進路に関わる 情報を得る権利 • 障害のない他の母親と比べてはるかに大き な苦労を伴いながら母親としての義務を果た してきた。 • 子どもが将来どのような大人になっていくの か,特に,どのような進路を取るのかの関心 は一層強い。 • このような母親として原告の子の進路に関わ る情報を得る権利については,強い法的保護 が要請される。 2013/04/22 19 ろう者である原告の言語は 手話である • 原告は,ろう者であり,手話を使って意思伝 達をするのみならず,手話を用いて思考し, 感情のやりとりもする。 • 手話は,ろう者である原告の言 語である。 • 言語である手話によって,子どもの進路に関 する情報を得て,手話を用いて子どもと一緒 に考えることは極めて重要な権利である。 2013/04/22 20 被告の手話通訳派遣拒否は 重大な権利侵害である • 今回,専門学校の保護者説明会へ出席する 原告に対し,被告は手話通訳者の派遣を拒 否した。 • 原告の権利の重要性を考えると,被告の派 遣拒否は,重大な権利侵害であることは明ら かである。 2013/04/22 21 裁判所に望むこと • 聴覚障害を持つ原告が苦労しながら子どもを 育ててきた。それゆえ,母親として子どもの進 路先に関する情報を得る権利は重要なもの であることを正しく理解していただきたい。 • また,ろう者にとっては,手話は,単なるコミュ ニケーション方法でなく「言語」であり,ろう者 が手話によって情報を得ることが重要な権利 であることも正しく理解していただきたい。 2013/04/22 22
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