小樽商科大学ビジネススクール・小樽市医師会特別講演

小樽商科大学ビジネススクール・小樽市医師会特別講演会
とことん知りたい樽病新築
平成22年10月22日・マリンホール
北海道大学公共政策学研究センター
研究員
遠藤 誠作
(前福島県三春町企業局長)
自己紹介
昭24年生れ 、福島県三春町役場を今春定年退職。
昭和45年三春町採用(産業課)、ダム対策室を経て
農水省金融課に2年間勤務。復帰し企画室係長
水道・上下水道・企業局・行財政改革・財務・保健福祉
の6課局室長を歴任。三春ダム対策、浄水場移転、
浄化槽を活用した下水道改革、町の行革、公立病院
の立ち上げ、地域医療問題に取り組む。国の厚生科
学審議会臨時委員、総務省公営企業経営アドバイ
ザー、福島県立医大非常勤講師(地域医療・家庭医療
学講座)、下田、銚子、藤沢、阪南等の公立病院改革
に関わる。東北大学大学院修了。著書に「中小規模上
下水道経営入門」など8冊。
病 院 概 要
名
称 三春町立三春病院(県立病院開設S26.2.1町立開院H19.4.1)
所 在 地 福島県田村郡三春町字六升蒔50
診療科目 内科・小児科・外科・整形外科・産婦人科・眼科・耳鼻咽喉科
(12科) 泌尿器科・心療内科・精神科・皮膚科・リハビリテーション科
建 物 鉄筋コンクリート造 一部3階 6,060m3、病 床 数 86床
看護体系 固定チームナーシング 2交替勤務
指定申請 健康保険医療機関・国民健康保険療養取扱機関・労災保険
指定医療機関
生活保護指定医療機関 開放型病院
職 員 数 88人(H21.1現在)
診 療 日 月・火・水・金・土曜日(午前9時~午後5時)
木曜日(午前9時~12時)
休 診 日 日曜・祝日・木曜午後・第三木曜
運営主体 指定管理者 財団法人 星総合病院 (福島県郡山市)
町立三春病院の特色
(1) 町は地域医療機能を存続させるため、移譲を受けた。
(2) 福島県は、三春町の病院立ち上げを支援するため、病院資産の一切を無償
で町に移管した。県は立ち上げ時の初期投資費用として19億円を支援。
県は病院職員の移管条件は付けない。
(3) 町立病院は公設民営方式(指定管理者)により運営している(期間10年)。
(4) 指定管理者は福島県中通り地方の財団法人規模、8法人を対象に公募。
公募条件 ①必要医師確保、 ②診療科目充実、
③独立採算経営(赤字補填 なし)、 ④減価償却費の負担
(5) 新病院は、設計施工一括のプロポーザル方式で公募し建設した。
・早く建設して、新病院に移る。財政を硬直化させない身の丈に合った病院。
・建設業者のノウハウと創意工夫で、できるだけ建設費を抑える。
(6) 参加条件は ①年間工事高500億円、 ②工事期間 1年、
③工事費 6、000m2で11億円以内(税込み。坪当たり60万円)で建設。
④瑕疵担保期間10年、 ⑤工事への地元業者参画と実績報告義務。
三春病院の経営問題にどう対処したか
問題点
県立病院時代
町立病院
1 人件費が 医業収益827 公設民営(指
高い
給与費635百万 定管理者・財
団法人立病院)
76.8%
2 医師が確 常勤医師 5名 常勤4.非常勤
30(本院支援)
保できない
3 資本費が 減価償却費比 一括発注で坪
58万円建築、
高い
率 8.8%
減価償却費指
定管理者納入
県立病院と町立病院の診療体制比較
区分
県立三春病院
町立三春病院
開設
昭和26年(1951)2月
平成19年(2007)4月1日
診療科
(囲みは新
規開設科)
(常設)
内科・外科・産婦人科・耳鼻咽喉科
(常設)
内科・外科・小児科・整形外科
(非常設)
小児科・整形外科・眼科
(非常設)
産婦人科・耳鼻咽喉科・皮膚科
泌尿器科・心療内科・精神科・眼科
リハビリテーション科
7科
診察日 月~金(土日休み)
職員数
(カッコ書は
臨時、外数)
診察日 月~土(全日)
医師5、薬剤師4(1)、放射線2
医師4(30)、薬剤師2(院外処方)
検査2(1)、看護師43(5)
放射線2、検査3、看護57
その他8(1)
リハビリテーション科13
その他(栄養士・事務職員)7
合計64+臨時8=72名(18年3月
)
看護体制
12科(4科新設)
合計88名 (21年4月)
病院存続に向けた三春町の動き
平成16年 6月
12月
平成17年 4月
4月
6月
町議会、三春病院対策特別委員会設置
町議会、住民団体から出された「病院機能存続」要望採択
役場行財政改革室に「三春病院対策班」を設置
町、団体代表により「三春病院対策委員会」を設置
対策委員会、町に「移譲を受け、存続すべき」と中間答申。
これを受けて、
町は「地域医療確保のため受け入れる」対処方針を決定。
7月 県知事に面会し伝える。県の行革推進本部、県立病院改革実行
方策決定。
12月 県と町、「県立病院移譲合意書」を締結。県の支援内容、現病院
無償譲渡、初期投資資金19億円分割交付、職員引受条件付けず。
平成18年 3月 町立病院運営を指定管理者方式でいくため、指定管理者公募。
5月 指定管理者を選定
12月 病院建設のため、設計施工一括発注によるプロポーザル公募
平成19年 1月 特定者決定。細部協議。
2月 清水建設と工事請負契約。
3月 県と町、病院移譲の財産譲渡協定締結。
4月 町立病院オープン 町病院対策委員会解散
6月 新病院建設工事、起工式
平成20年 5月 新病院オープン
三春町の病院対策が成功した理由
本町の例は、総務省の公立病院再生ガイドラインを先取りした成
功事例と評価!
1 設計施工一括プロポーザル方式により1回で業者選定、実施設
計前の一括契約で、役所の膨大で時間のかかる契約(変更も含
む)時間の大幅節減
2 公共工事単価・歩掛抜きで「民間並みの建築単価」を実現
3 提案から実施設計、工事完成まで、「1年4ヶ月間の短時間」で工
事完了
4 減価償却費相当額を負担する「指定管理者(民間)のノウハウ活
用」した費用圧縮
5 「病院職員の現場感覚」と「経験豊富なゼネコン技術者」、「改革
志向の発注者」が一つになって、夢を共有してまとめた実施設計
6 県の関係部局の組織的な支援
三春町がめざすもの~町立病院を核にして医療と
保健福祉の連携~“病院対策は町あげての総力戦”
1
健康をテーマにしたまちづくりの展開~「健康まちづく
り宣言」
2 地域医療機関と住民、町の保健・福祉行政が連携するシステムづくり
3 福島県立医科大学の医学教育研修プログラムとの連携
建築に係わった教授のもとで、「家庭医」の後期研修病院の1つに
位置づけ
4
要求するだけでなく、地域医療の質を向上させるため、
役場も議会も、町民も継続して勉強する体制づくり
~丸投げはしない、町は長寿社会への対応を共同研究し現場に 還元、実践~
健康状況の変化と健康介入、レセプト点検データ医療費分析、健康管理全戸調査
5 町立病院運営と地域医療全体の評価 ~病院事業運営協議会と地
域医療学術評価委員会の2つの組織
自治体病院の経営評価
・経営の効率性が悪い
・経営感覚が欠如している。
・病院長に十分な権限がなく、責任の所在があいまい。
・事務職は短期に異動し、医療制度・病院経営の知識をもっ
た人間が育たない(院長・管理者に人事権はほとんどない)
・高コスト体質
・高額な人件費(ただし、医師給与は低い)
・価格交渉が未熟で病院コストに占める材料比率が高い。
・豪華に病院を建設するため、減価償却費比率も高い。
・単年度予算主義のため、経営向けでない。
・組織・給与体系に病院や個人の業績が反映されない。
・組織・定数が条例で定められ、柔軟な対応が困難。
・安易な一般会計からの繰り入れ
公立病院の主たる赤字要因
1 経営不在のガバナンス欠如
2 人件費、施設費等の運営コストの官民格差が大きいこと
人件費(年収)の官民格差の例
区分
公立病院
民間病院
勤務医
1,394 万 円 ( 40.4 1,228 万 円 ( 41.8 1,723 万 円 ( 47.4
歳)
歳)?
歳)
看護師
准看護師
545 万円(34.4 歳)
464 万円(35.8 歳)
栄養士
341 万円(34.1 歳)
薬剤師
515 万円(37.8 歳)
放射線技師*
事務職員
626 万円(38.4 歳)
567 万円(37.6 歳)
県立三春病院
614 万円(40.9 歳)
820 万円(52.9 歳)
739 万円(45.4 歳)
702 万円(41.5 歳)
資料:公立病院は、自治体病院経営ハンドブック(平成 17 年)」216~217 頁、15 年度決算値、県
立三春病院の数値は平成 18 年度決算(最終年)。民間給与は、週刊ダイヤモンド 2005 年 6 月
18 日号「給料全調査」33 頁、2004(平成 16 年)調査、*公立病院、県立三春病院は医療技術職
の数値
12
平成16年度決算で計算しても、人件費や減価
償却費を民間並みに下げれば帳尻が合う
項 目
医業収益
(100%)
三春病院
再生試算
説
明
962,679千円
(100.0%)
962,679千円
(100.0%)
医業費用 給与費
759,836
(78.9%)
531,885
(55.3)
給与費を民間水準に合わせ70%と
見積る。
材料費
260,241
(27.0%)
208,192
(21.6)
薬品費、食事材料、医療材料等。
80%と見積る。
179,015
(18.6%)
152,163
(15.8)
光熱水費、燃料費、修繕費、その他
を85%と見る。
減価償却費
資産減耗費
81,113
( 8.4%)
56,778
( 5.9)
固定資産の取得費を70%で調達
できると見る。
研究研修費
8,462
( 0.9%)
13,661
( 1.4)
職員の資質向上、専門職の技術
研修に予算を使う。
1,288,667
(133.9%)
962,679
(100.0)
経費
医業費用 計
医業収支均衡を目標に試算
病院・診療所の建築主体別 建築単価(万円)
民間は年間医業収益の範囲で建設する~
区分
1m2当り
単価
1坪当り
換算
総計
国
都道府県
市区町村
民間
19.9
23.9
25.5
32.4
18.4
65.7
78.9
84.2
106. 60.7
9
・1床当り建築費
民間1000万円台、公立2000~3000万円台
・1床当りの医業収益 一般病院 1,000~1,500万円
資料:伊関友伸「まちの病院がなくなる」(建築統計2004実績を加工し作成)
土屋敬三「医療施設の建築単価の現状」医療福祉建築No.169
なぜ、自治体病院の建築費は高くなるのか
~その理由
1 建築業界では、自治体病院の建築費が民間に比べ高いのは常識
・民間は、収入と増える費用を考えて、収益で支払える範囲内で建設する
・民間は貸し倒れリスクがあり融資の審査は厳しい。公営企業は甘い。
・自治体は「建設ありき」で、採算を考えず病院を作る体質
・住民も議会も「お金をかけるほどよい行政」の感覚がある。機能を考えずに、盛りだくさ
んで豪華な病院をつくる方向に流れやすい。
・首長も議員も住民も反対しない、職員も立派な建物を望む。
・経営問題と選挙公約を混同、関係者の意識が低く、構造的にコスト高体質
2 起債制度と交付税措置に対する甘え
・病院事業に交付税措置(財政支援)がある建前で建設。自治体の財政部門は
補助金でないため出し渋る。公立病院側は措置された分は出てくることを前提
に事業を行い、資金がショートして深刻な経営危機を引き起こす
3 経営や医療を知らない設計事務所、コスト削減提案や経営改善提案力が弱い
4 公営企業でありながら、公共工事としての発注を期待する業界の変わらない体質
自治体病院の建築費の高さが
病院経営に与える影響
1 巨額の元利償還金が現金を食いつぶし、病院経営を不安定に
2 自治体病院は、病院建築に伴う重い減価償却費を積むことができず苦しむ
・ 安定的に経営を継続させるため、再投資の資金を内部に留保させる仕組み
3 病院財政が硬直化し、医師不足時代への対応ができない
・病院を新しくしても医師が勤務してくれるとは限らない
・豪華な病院の建築を行っても、起債の返済や償却のため、仕事は厳しくなる
4 医師のやる気を失わせ、大量退職を招く悪循環に落ちるパターン
①膨大な借金・減価償却費→ ②病院の慢性的赤字→ ③現場へしわ寄せ
(現場への収益向上の要求、待遇の悪化)→④医師の退職→ ⑤入院患者・
外来患者の減少→ ⑥医業収益の減少→ ⑦待遇向上余力の喪失→ ⑧さ
らなる医師の退職→ ⑨資金がショートして給料や薬代が払えなくなる
→⑩病院倒産
自治体病院で経営改革が必要な理由とその方向
・ 改革が必要な理由~国や自治体の財政が悪化し、自治体財政健全化法施行、
公立病院ガイドラインで、財政支援ができなくなった
・ 改革の方向
1 再編統合・ネットワークを目指す流れ~病床数削減
2 民間化の流れ
(1) 廃止・民間移譲~公的関与の抜本的見直し
(2) 地方公営企業法全部適用と管理者設置
*目標設定がないままの移行は成功しない。段階的な対応は問題先送りに。
(3) 指定管理者
(4) 地方独立行政法人
(5) PFI の導入
*PFI は、運営主体(SPC)と医療実施機関が別組織で成功しない。
17
自治体病院の存在環境の変化
・ ほとんどは、過去においてその時代の必要性から設置されたものが存続し、診療
を続ける。
・ 開設当初の使命や目的、現在の使われ方に大きな食い違いが生じている。
(ニーズに合わなくなっている)
公的病院の設置事情と地域のニーズへの対応
区 分
設置の背景とその後の展開
国立病院
・陸海軍軍人のための施設。一般国民を対象とした病院でなかっ
療養所
たため、地域社会における位置も分布も歪みが見られる。
・これを引き継いだ公立病院が全国に点在する。
県立病院
・昔は伝染病院、戦時中の日本医療団の計画設置が多い。
結核療養所、患者が激減して存在意義を失ったものもある。
日赤・済生会・厚 ・完全独立採算制のため、経営効率の維持向上が条件
生連(公的医療 時代のニーズに応えて、診療方針を弾力的に運営し今日に至る
機関)
18
昭和37年に公立病院重視から抑制に
政策転換
昭和23年5月 医療制度審議会、戦後の医療
機関整備改善について、公立病院優先整備
方針、整備に助成
昭和37年 医療法改正、公的病院に対する病
床規制が実施される。
昭和49年 公立病院の経営危機、特例債発行
平成19年 公立病院改革ガイドライン
戦後の病院数の推移
年度
昭25 昭40 昭55 平7
平22
医療施
設数(千 68
100
125 155
176
うち病院
3
7
9.0 9.6
8.6
(千)
うち公立 24年 30年
12年 6月
(実数) 504 1,024 967 1,022 940
小樽市立病院の現状(平成20年度決算)
区 分
小樽病院
第2病院
計
病床数(一般)
518(471)
1日平均入院数
191
外来数
489
352(150)
184
266
870(621)
375
756
職員数(医師)
211(15)
493(42)
282(27)
医業収益(百万)
人件費( 同 )
経常利益(損失)
4,563
2,566
▲361
3,510
1,813
133
8,074
4,380
▲228
他会計繰入金
累積欠損金
837
5,285
588
1,637
1,425
6,922
小樽市立病院の現状(平成21年度決算)
区 分
病床数
1日平均入院数
外来数
小樽病院
223
156
441
医療センター
222
184
252
職員数(医師)
医業収益(百万)
他会計繰入金
人件費( 同 )
経常利益(損失)
他会計補助金
累積欠損金
計
445(870)
340
693
465(33)
4,009
3,622
2,430
1,855
7,631
770
4,285
▲493
909
651(692)
公立病院への繰入れ(補助)の理由
~小樽市立病院はどうだろう?~
• 不採算・政策医療を行うことに対し補てんする。
具体的には
1 保険点数にはない高度先駆的な医療や
サービス
2 需要量が少なく採算ベースには乗らないが、
地域に欠けている医療を供給する。
3 医療の範疇をこえた、保健福祉行政との連
携など周辺事業を行うこと。
公立病院への批判(疑問)
1 公的病院は採算の取れない部分を受け持つというが、がん
センターなど一部を除けば、設備も 医療も同じなのに、公的
病院は赤字運営。
2 民間病院は土地・建物から設備まで全て自前で準備し、固
定資産や利益には課税される。公立は税金はかからず、逆
に「一般会計繰入れ」という財政支援を受け、それでも赤字。
年収に近い累積赤字でも倒産しない。職員は公務員の身分
に守られ、運営が赤字でも昇給する。繰入の財源は、後世代
に負担が及ぶ赤字国債に依存。住民の血税の浪費。
3 公立病院も企業の経済性を発揮して独立採算制をとること
が重要。
市町村の社会資本重点的整備の流れ(概念)
~行政課題は山積している~
昭和40 昭和50 昭和60 平成
道路整備→
下水道→
浄化槽→
農業基盤整備→
農業集落排水→
小中学校改築
学校統合→
ごみ焼却施設 病院、福祉施設・保健センター
体育館・グラウンド→文化会館・図書館
公営住宅
庁舎建設 市街地整備→
地域情報基盤
公共施設耐震化→
子育て支援・高齢者対策
インフラの更新など→
25
まとめ*提言
1 人口減、高齢化で変化激しい時代、最新の地域医
療ニーズを調査し、人口減を見込んで計画を修正。
完成が5年後なら、さらに切り込んだ計画修正が必要。
2 限られた医療資源、民間病院・開業医と調整する。
3 市立統合病院は公立が担わなければいけない医
療に特化した内容に、病院の規模・病床は最小限に。
4 病院を作ることは手段、目的でない。新病院は将来
の財政負担を考慮、民間病院並みの建築費で。
節約した予算は保健福祉医療の充実財源に。
5 公立病院は儲けなくてもいいが赤字は困る。だから
経営しなければならない。