保団連 研究部会 2012年4 月29日

保団連 研究部会
2012年4月
歯垢病を保険導入する事に関して 研究部会での検討を提案する
石川県 保険医協会 平田米里
(Ⅰ)先ず
歯垢病を定義する必要がある
一般的には、う蝕、歯周病を含むが、
その他をどこまで含めるかに関しては検討課題
誤嚥性肺炎、菌血症、感染性心内膜炎、
全身疾患(糖尿病、低体重児出産、動脈硬化など)
口腔に発生する細菌性・真菌性の感染症の全て?
病巣感染症
カンジダ症
口臭?
Biofilm(バイオフィルム病)
カリエス
歯周病
(Ⅱ)何故に 保険導入か?・・・保険導入を目指す背景
①『健康日本21』の最終報告によれば、虫歯の減少、歯周病の軽減、
残存歯数の増加などが判明。疾病構造の変化が生じていることが分かった。
さらに、将来はこの方向が進展すると予測されている。
したがって、現在の補綴中心の保険給付配分を 『予防関連』にシフトさせる
必要があると考える
②国民の健康志向の高まり。
予防の保険給付を求める声が高まっている。
③予防が何よにもまして重要であるとの認識は医科歯科共通
歯科における高名な研究者 P.Axelsson氏も
『最も良質な歯科医療は予防である 』と主張。
④歯科界でも関心が高まっている
保団連の『歯科医療提言』にも 盛り込まれることになっている。
定期大会での 執行部答弁あり(池理事等)
政策的検討ばかりでなく 学術的にも検討を加える必要があり、この分野では
研究部の役割が期待されると考える
(Ⅲ)歯科疾患の特徴
①歯牙喪失の原因のおおよそ9割は 歯周病と虫歯である
そして、その2大疾患の原因として大きく関与するのが『歯垢』である
(歯垢がないところに歯周病も虫歯も発生しない)
②歯周病と虫歯は予防できることが証明されている
実際の予防法・プログラムに対するEBD(Evidence-Based Dentistry)の評価も高い
③歯垢は Biofilmを形成する 多種多様な細菌の集合体である
歯周病と虫歯の原因菌は異なる
④事前認識として
歯周病と虫歯は ほとんど プロフェッショナルケアで予防できる
大雑把に 虫歯は20歳までの疾患で、歯周病は20歳以降の疾患
●生体のバイオフィルム ・・・歯面のバイオフィルム
歯や歯周組織に付着するバイオフィルムが増加すると、 虫歯や歯周病ばかりでなく、
呼吸器疾患などの原因菌を含むバイオフィルムが形成される。
バイオフィルム感染症という概念の導入が待たれる
●バイオフィルムの特性(図を参照)
いろいろな場所に生じる
外界からの攻撃に対し バリアーの機能を持つ。
(抗生剤や抗菌剤が効きにくい、生体防御系に対しても 抵抗する)
難治性感染症としての性格を持つ
機械的(物理的)な除去が効果的
バイオフィルムは・・・・・細菌と菌が産生する菌体外多糖からなる有機的生命集合体
集合体は複雑に関係し合う 生活空間であり、細菌自身の
生命維持を目的とした適応形態
(Ⅳ)保険に歯垢病が導入されると どんな変化が生まれる?
①原因が口腔内細菌ゆえに
細菌検査、診断、処置が保険で認められることになる。
新しい保険項目が増えることになる
②医科の先例のように、発症する前段階で介入が可能となれば、
予防段階からの介入が可能となり、
国民の健康増進に対して より有効な貢献ができる可能性が高まる
同時に、必要のない医療費の抑制ができると考えられる。
③結果として、歯科医師も 国民の要望に応えることができる
(Ⅴ) 歯科において『予防が進展しない大きな理由』は
診療報酬制度におけるルールにある
この障壁を打破するには どんな戦略が考えられるか?
参考までに
虫歯発者へのフッ化物応用は保険導入されているが、
あくまで、疾患が発生したのちでの介入である。
本来は、健全歯またはCo程度の疾患発生へのリスクが高まった時点から
の介入が望ましい
●その前に、歯垢に関する臨床検査の課題
(情報収集する必要あり)
条件 ・・・・先ず、有効な検査が開発されて薬事法で認可される必要がある・・・
①歯垢 に病的歯垢~生理的(正常)の区別が可能か
例;ニ色性プラーク染色液(古い歯垢は青く 新しい歯垢は赤く染める)
検査の精度
検査の費用 等検討課題あり
(参考)花田信弘氏の検査法
②歯垢の量 のみでリスクを推測できれば簡単だが、根拠はあるのか?
歯周病の プラークスコアは保険に導入されている
先日 テレビを観ていたら、老人福祉施設(?)でインフルエンザの集団感染に関する報道がありました。
施設入所者の一人がインフルエンザに似た症状を発症した段階で、他の入所者にタミフルやイレンザを予防
投与しようとしたが、
保険給付の対象外扱いとなる為断念した。
施設担当のドクターは 本来は予防的投与が望ましいのに・・と嘆いていた。
おおよそ そのような内容の報道だったと記憶しています。
確かに、保険給付の対象は「疾病」で、予防的医療介入は対象外となっています。
しかし、我々歯科診療の現場では、単に骨密度が70%まで落ちているから骨折予防のためにとの理由で、
BP系の薬剤を投与されている患者さんを多く見かけます。
場合によっては80%くらいでも投与されているケースもあるようです。
骨粗しょう症と病名を付けるとOKなのですか?
そのような対応が許されるなら、歯科でも「歯垢病」の保険導入を求めたいものです。
歯垢病に関しては、鹿児島の薬師寺先生が保団連の大会で2度も発言しています。
詳しい解説は省きますが、大雑把には、
特別に症状が見られない段階でも、医科では高脂血症や高血圧等の「病名?」で治療が可能なら、
歯周病や虫歯の発症はないがいずれ発症する危険性が高いと判断される「病的な歯垢」が確認された段階で、
歯科でも治療介入できるはずだという考えです。
歯垢病に関してはエビデンスもかなり高くなってきていると思います。
歯垢病の保険導入のような 大きなテーマは 保団連という大きな組織で取り組む課題だと考えます。
先ずは 保団連の運動方針に明確に取り組まれる必要がありますが、研究部会からも応援すべきと考えます。
歯科医師の部員で手分けして資料等を集めてみませんか?
また、薬師寺先生をお招きしてお話しを聞くのも良いかと思います。
それとも大御所の花田信弘先生の講演会でも企画しても良いかと思います。
数年前に、花田先生の講演会開催を理事会で否決されたのですが、何度でも提案します。
●保団連執行部は 保険導入において何が障壁となっているかを我々に提示して欲しい。
→研究部としても作戦が立て易い。
●研究部会単独で対応するには あまりに大きすぎるテーマである。
●歯垢病の範囲を定めるには 当面は確実なエビデンスがある『う蝕と歯周病』に限定する。
その他の関連疾患は 第二ステージで取り組む方針が良いのでは・・・
●う蝕はC1~C3と定義されるが、歯垢病の概念が導入されるなら、健全歯やC0までに
範囲が拡大し、より取り組みやすくなる。
●●当面、研究部としては 部長と私が中心となって、保険導入に相応しいと
後押しできる文献・資料の収集に努める。 それと並行して、議論を深めていくことにする。
●参考資料
月刊保団連 2001年1月号 NO689 P61
Primary Preventive Dentistry 2012年第8版
新予防歯科学(上下) 医歯薬出版
口腔内バイオフィルム 奥田克爾
デンタルプラーク 奥田克爾
ペリオドンタルメディシン 宮田隆 医歯薬出版
歯周病と全身の健康を考える 意歯薬出版
Evidence –Based Dentistry
ミュータンスレンサ球菌の臨床生物学 花田信弘
クインテッセンス 出版