深浦報告 「事業の証券化と間接金融」 へのコメント

深浦報告
「事業の証券化と間接金融」
へのコメント
2005年度日本金融学会春季大会
日本大学 5月29日(日)
松山大学 掛下達郎
1
要 約
目的
① WBS (事業の証券化)がこれまでの証券化
概念に転換を迫る重大な事象であるかどうか
②両者に違いがあるとすればそれは何か
結論
①両者の構造は明らかに異なる
②譲渡資産の性格・オリジネータ・SPVの機能
③WBSは伝統的な倒産隔離措置とは異なる
方法で同様の効果を生み出す
④WBSと従来の間接金融,メインバンク関係,
2
資産金融と間接金融機関の近接
評 価
理論的かつ先駆的な研究
①~③については妥当かつ禁欲的な結論
④の残された課題はかなり論争的
もし、WBSがメインバンク関係との接点を
持つのであれば、 直接金融・間接金融とい
う概念自体の有効性の再検討も視野に
入ってくるのかもしれない
深浦理論と異なる視点はあるか?
3
アメリカの貸付債権の証券化の歴史
住宅モーゲイジ貸付
商業モーゲイジ貸付
自動車ローン
SBA(中小企業庁)保証ローン
クレジット・カード・ローン
ホーム・エクイティ・ローン
農業モーゲイジ貸付
1970年~
1980年代~
1985年~
1985年~
1986年~
1989年~
1990年~
4
アメリカの事業貸付の証券化①
SBA(中小企業庁)の保証ローンでは,
一般に保証部分が証券化される。
⇔ 未保証部分は証券化されにくい。
(中小企業貸付の信用情報を銀行は知って
いるが,ローン(証券化されたものも含む)の
買い手は知ることができない。)
↓
この点をWBS(事業の証券化)は克服?
→ キャッシュ・カウ?
証券の買い手に有利なイギリスの破産法?
5
アメリカの事業貸付の証券化②
証券化のためにプールされた中小企業貸
付の満期は,5~12年が典型的であり,そ
の返済は月々の割賦返済が一般的である。
⇔ 月々の完全割賦返済方式でないと
証券化されにくい。
(つまり,返済ストリームが固定されないと,
貸付をパッケージするのが難しい。)
↓
この点をWBS(事業の証券化)は克服?
6
→ キャッシュ・カウ?
アメリカの間接金融①
1930年代~ プロダクション・ペイメント
・当初は,すでに産出された石油を担保とした
商品担保の比較的短期の在庫金融
・次第に,産出された石油だけでなく
地下に埋蔵されたものをも担保とした
長期貸付へと発展
7
アメリカの間接金融②
1950年代後半~ オイル・ペイメント
・石油またはそれに相当する代金の受領権
・産出物またはそのキャッシュフローだけが担保
・オイル・ペイメントは切売りの形をとり,
売り手は1年または2年後に買い戻す。
買い手はしばしば銀行から融資を受け,
銀行はモーゲイジを担保に取りプロダクション・
ペイメントを譲渡された。Moore (1959)
8
アメリカの間接金融③
1970年代~ プロジェクト・ファイナンス
・プロジェクト・ファイナンスでは,リミテッド・
リコース(限定償還請求権付き)が主流
cf. 1972年 北海油田
・リミテッド・リコースとは,貸し手が限定され
た範囲で借り手にリコース(償還請求)できる
ことをいう。この場合も,当該プロジェクトの
キャッシュフローに限定して償還請求
↓
証券の買い手に有利なイギリスの破産法?9
事業の証券化 ヨーロッパの事例①
スウェーデン 1994年 不動産モーゲージを
原資産としたスキームが原型
イギリス 1995年 老人ホーム
1997,98年 高速道路サービスエリア
1998年 パブ・チェーン店,ホテル
1999年 ホテル,博物館,介護サービス,
フェリー会社,ロンドン・シティ空港
ヨーロッパ初の空港の証券化
Morgan Stanleyが仲介
2000年 劇場
10
事業の証券化 ヨーロッパの事例②
イギリス(続)
2001年 食品会社 JP Morganが仲介
病院とショッピング・センター
Morgan Stanleyが仲介
2002年 フェリー会社 米投資家へ販売
2003年 葬祭業 JP Morganが仲介
ドイツ 2001年 通信業者
フィンランド 2002年 森林事業
オランダ 2003年 自動車リース会社
11
事業の証券化 環太平洋諸国の事例
マレーシア 2001年
ウェーハ・ファブリケーション
アジア初WBS 野村が仲介
アメリカ 2001年 公益エネルギー会社
オーストラリア 2004年 パブ
ホンコン 2004年 橋とトンネル
以上 Euromoney 各号; Euroweek 各号;
International Financial Law Review 各号.
12
事業の証券化 日本の事例①
2004年3月,9月
・オリジネーター 福友産業㈱
パチンコホール「フェスタ」
・アセットマネジャー 東京スター銀行
事業収益を裏付とするノン・リコース・ローン
・仕掛人 ウェスト・ウッド・キャピタル
(本社ニューヨーク)
月刊『レジャー産業資料』2004年4月,11月号
13
事業の証券化 日本の事例②
2004年12月
・オリジネーター 徳洲会(医療法人最大手)
・アセットマネジャー
ロイヤル・バンク・オブ・ スコットランド
(英国)
『日本経済新聞』2004年12月11日
14
若干の指摘
事業の証券化をするオリジネーターの特徴
一般企業にくらべて
①資産価値(不動産)よりも
事業から得られるキャッシュフローが大きい
②日々または短い間隔で現金収入がある
(キャッシュ・カウ)
15
事業の証券化の展望①
キャッシュ・カウではない
一般的な中小企業は事業の証券化の
オリジネーターになれるのか?
事業の証券化はいわゆる日本の中小企業
金融の問題に答えられるのか?
cf. 市場型間接金融
企業のブランドは証券化の担保になるか?
cf. イギリスの食品会社
16
事業の証券化の展望②
イギリスのInsolvency Act of 1986が債権
者(証券の買い手)に有利だから,事業の
証券化が発達。(破産後,管財人は債権者
に債務が完済されるまでオリジネーターの
資産を管理できない)
アメリカのBankruptcy Code, chap.11.
(破産後,裁判所は債権者の担保権の実行
を遅らせることができる cf. 大陸ヨーロッパ
諸国も同様に債務者保護,日本は未整備)
17
Asset Securitization Report, February 19, 2001