債権総論講義

債権総論講義
第7回
明治学院大学法学部教授
加賀山茂
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
1
債権総論の位置づけ
成立
Ⅲ
債
権
債権
総論
債権
各論
契約
総論
契約
事務管理
契約
各論
効力
解除
不当利得
不法行為
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
2
債権総論の内容 →位置づけ
債権の目的
対内的効力
債権の効力
対外的効力
債
権
総
論
可分・不可分債権
多数当事者関係
債権の譲渡
履行強制
損害賠償
債権者代位権
詐害行為取消権
連帯債務
保証
弁済
相殺
債権の消滅
更改
免除
混同
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
3
金銭債権の時代
情報化時代の優等生
物権から債権へ
物から情報へ
 モノやサービスの価値は,物で
 債権とは,方向と量と時間の要素で
あるカネによって評価されてきた。
表現される情報(ベクトル)である。
 物の使用・収益・換価・処分に関  最も信頼されている債権は,預金債
する物権の全盛の時代であった。
権(家計:800兆円,企業200兆円)で
あり,その実体は,銀行口座への
 しかし,現代は,物権も,人と人
入・出金記帳という情報に過ぎない。
との関係(物権的請求権,優先
弁済権など)に還元されるように  情報であるから,電子的に安価かつ
なってきている。
即時に送・受信することができる。
 現代は,物権(権利の帰属)を前
提としつつも,人と人との関係で
ある債権が中心を占める時代で
ある。
2014/5/20
 振込み(預金債権の移転)は,相殺
という技術を使うことによって,危険
を伴う現金・有価証券の輸送を最小
限に抑えることができる。
Lecture on Obligation 2014
4
前回の復習
 債務不履行とは何か
 債務不履行の分類
 債務不履行の効果
 強制履行
 伝統的三分類
 履行期基準の二分類
 契約目的基準の二分類
 立証責任基準の二分類
 民法414条
 損害賠償
 損害賠償の範囲
 従来の考え方
 通常損害
 特別損害
 英米法の考え方
 確率論に基づく因果関係
 債務不履行の要件
 不履行
 帰責事由
 立証責任の分配法則
 結果債務と手段の債務
 因果関係
 事実的因果関係
 相当因果関係
2014/5/20
 解除の要件
 従来の考え方
 新しい考え方
参考文献
Lecture on Obligation 2014
5
債務不履行の三分類
(伝統的見解)
債
務
不
履
行
履行遅滞
本旨に
従った履
行がない
こと
履行不能
(原始的・後発的)
不完全履行
(瑕疵ある履行)
三分類は,漏れが生じることが多い。
この場合には,履行拒絶が漏れている。
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
6
債務不履行の二分類
(履行期に履行があるかどうか?)
履行遅滞
債
務
不
履
行
本旨に
従った
履行が
ない
履行期に
履行がない
履行拒絶
履行不能
履行期に
履行がある
不完全履行
(瑕疵ある履行)
基準が明確なので,実務的には,この区分が一番役に立つ。
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
7
債務不履行の二分類
(契約目的を達成できるかどうか)
履行遅滞
(催告,定期行為)
債
務
不
履
行
2014/5/20
契約目的
不達成
(解除できる)
本旨に
従った履
行がない
履行不能
不完全履行
契約目的
達成
(損害賠償のみ)
Lecture on Obligation 2014
履行遅滞
(遅延損害)
不完全履行
(代金減額相当)
8
債務不履行の二分類
(帰責事由の立証責任による区別)
債
務
不
履
行
2014/5/20
結果債務
債務者に
無過失の立証責任
帰責事由の
立証責任
手段債務
Lecture on Obligation 2014
債権者に
過失の立証責任
9
立証責任を理解するための例題
答えを示さないので,各自で挑戦してみよう!
基本問題
応用問題
 Aから,Bは1万円を借りた。期
限が来たので,Aから返還を
請求されている。Bにとって,
証明が楽な反論はどれか(根
拠条文を示すこと)。
 Aは,人を言い負かすのが趣味
である。話の成り行きで,次のよ
うな議論をふっかけられた。Bは,
どう答えるのがよいか。
 えっ!麻雀の掛け金の借りか
よ。払わなくていいんだよ。
 えっ!とっくに返したじゃない
か。忘れっぽい人だな。
 えっ!10年前の話かよ。もう,
時効だよ。
 えっ!君からお金なんか借り
ていないぞ。
2014/5/20
 B: 予習していて,加賀山教授の
『契約法講義』の要件事実論の
箇所を読んだら,分かりやすくて
よかったよ。
 A: あの加賀山・契約法は最悪だ
ろう。どこが分かりやすいんだ
よ?
 B: えっ,…。
Lecture on Obligation 2014
10
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
一般論
具体例
理由
①慣性の法則
②形式から実質
③部分から全体
④政策的考慮
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
11
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
①慣性の法則
一般論
静止している状態
は継続する。
具体例
契約の成立は?
理由
契約の存在は推定され
ない。
②形式から実質
③部分から全体
④政策的考慮
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
12
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
一般論
静止している状態
は継続する。
①慣性の法則
運動している状態
は継続する。
具体例
理由
契約の成立は?
契約の存在は推定され
ない。
契約の消滅は?
契約が成立すると存在
が推定される。消滅は
推定されない。
②形式から実質
③部分から全体
④政策的考慮
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
13
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
一般論
静止している状態
は継続する。
①慣性の法則
②形式から実質
運動している状態
は継続する。
具体例
理由
契約の成立は?
契約の存在は推定され
ない。
契約の消滅は?
契約が成立すると存在
が推定される。消滅は
推定されない。
意思表示の合致が
契約の有効性
あれば,内容も確
は?
かとみる
意思表示の合致がある
と,意思の存在が推定
される。
③部分から全体
④政策的考慮
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
14
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
一般論
静止している状態
は継続する。
①慣性の法則
運動している状態
は継続する。
具体例
理由
契約の成立は?
契約の存在は推定され
ない。
契約の消滅は?
契約が成立すると存在
が推定される。消滅は
推定されない。
②形式から実質
意思表示の合致が
契約の有効性
あれば,内容も確
は?
かとみる
意思表示の合致がある
と,意思の存在が推定
される。
③部分から全体
複数の部分から全
体が推定される。
前後両時点の占有があ
れば,占有の継続が推
定される。
占有継続は?
④政策的考慮
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
15
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
一般論
静止している状態
は継続する。
①慣性の法則
運動している状態
は継続する。
具体例
理由
契約の成立は?
契約の存在は推定され
ない。
契約の消滅は?
契約が成立すると存在
が推定される。消滅は
推定されない。
②形式から実質
意思表示の合致が
契約の有効性
あれば,内容も確
は?
かとみる
意思表示の合致がある
と,意思の存在が推定
される。
③部分から全体
複数の部分から全
体が推定される。
占有継続は?
前後両時点の占有があ
れば,占有の継続が推
定される。
④政策的考慮
証明窮乏から弱者
を保護する
善意占有は?
占有があれば,善意が
推定される。
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
16
(実習)立証責任の意味(問題)→解答
過失あり
(原告立証)
真偽不明
無過失
(被告立証)
過失責任
(手段の債務)
中間責任
(結果債務)
無過失責任
○:原告勝訴 ×:原告敗訴
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
17
(実習)立証責任の意味(解答)→問題
過失責任
(手段の債務)
過失あり
(原告立証)
真偽不明
無過失
(被告立証)
○
×
×
中間責任
(結果債務)
無過失責任
○:原告勝訴 ×:原告敗訴
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
18
(実習)立証責任の意味(解答)→問題
過失あり
(原告立証)
真偽不明
無過失
(被告立証)
過失責任
(手段の債務)
○
×
×
中間責任
(結果債務)
○
○
×
無過失責任
○:原告勝訴 ×:原告敗訴
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
19
(実習)立証責任の意味(解答)→問題
過失あり
(原告立証)
真偽不明
無過失
(被告立証)
過失責任
(手段の債務)
○
×
×
中間責任
(結果債務)
○
○
×
無過失責任
○
○
○
○:原告勝訴 ×:原告敗訴
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
20
結果債務と手段の債務とで異なる
立証責任の分配(問題)→解答
証明主題
結果債務
手段の債務
債権者
債権者
?
?
因果関係
債権者
債権者
損害の発生
債権者
債権者
債務不履行
帰責事由
(債務者の故意・過失)
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
21
結果債務と手段の債務とで異なる
立証責任の分配(解答)→問題
立証責任
結果債務
手段の債務
債務不履行
債権者
債権者
帰責事由
(債務者の故意・過失)
債務者
債権者
因果関係
債権者
債権者
損害の発生
債権者
債権者
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
22
結果債務と手段の債務の区別による
難解な判例の解読
 最一判昭41・9・8民集20巻7号1325頁
 他人の権利を目的とする売買の売主が,その責に帰すべき事
由によって,該権利を取得してこれを買主に移転することがで
きない場合には,〔悪意の〕買主は,売主に対し,民法561条但
書の適用上,担保責任としての損害賠償の請求ができない。
 そのときでも,なお債務不履行一般の規定〔民法415条〕に従っ
て,損害賠償の請求をすることができるものと解するのが相当
である。
 難解な点
 「特別法(民法561条)は,一般法(民法415条)を破る(排
除する)」のではないのか?
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
23
民法561条と415条との関係
一般法:債務不履行責任(民法414条以下)
損害賠償責任の原則(民法415条)
特別法:売主の担保責任(民法560条以下)
他人物売買
買主善意:売主の結果債務(財産権移転の結果達成)
 →民法561条が適用される
買主悪意:売主の手段債務(財産権移転のための最
善の努力義務)
 →民法415条が適用される。
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
24
事実的因果関係と相当因果関係
事実的因果関係
相当因果関係
 あれなければこれなし
 sine qua non
 A ⇒ B の代わりに ¬A ⇒ ¬B を使う。
 具体例
 先天性奇形症の子が出産したのが,
サリドマイド剤の服用によるものかどう
か証明が困難であった。
 しかし,サリドマイド剤が販売禁止に
なってからは,この先天的奇形症の子
は一人も生まれていない。
 したがって,サリドマイド剤の服用と先
天性奇形症の子の出産との間には,
事実的因果関係がある。
2014/5/20
 原因事象が,結果事象に対して,そ
の確率を高めたか?
 具体例
 ある夫婦の子が,何人もの人を殺害
した。夫婦がその子を出産したことと,
それらの殺人との間に因果関係が
あるか?
 馭者が道を間違えて,左折したとこ
ろ,落雷に遭い,乗客が死亡した。
馭者の過失と乗客の死亡との間に
因果関係があるか?
 相当因果関係は,一般的には,事実
的因果関係の範囲を狭める作用が
ある。
Lecture on Obligation 2014
25
事実的因果関係が破綻する例
 複数原因がある場合には,事実的因果関係は破綻する。
 1.致死量10mgの毒物をY1,Y2,Y3のそれぞれが4mgずつ
ワイングラスに注いで,Xを殺害した。
 Y1,Y2,Y3の行為とXの死亡との間に事実的因果関係はあるか?
 2.致死量10mgの毒物をY1,Y2,Y3のそれぞれが5mgずつ
ワイングラスに注いで,Xを殺害した。
 Y1,Y2,Y3の行為とXの死亡との間に事実的因果関係はあるか?
 3.致死量10mgの毒物をY1,Y2,Y3のそれぞれが10mgず
つワイングラスに注いで,Xを殺害した。
 Y1,Y2,Y3の行為とXの死亡との間に事実的因果関係はあるか?
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
26
事実的因果関係の破綻の解消?
Y1
Y2
Y3
関
連
共
同
共
同
行
為
事実的因果関係
不
真
正
連
帯
Y1
部分的因果関係(相当因果関係)
Y1
Y2
部分的因果関係(相当因果関係)
Y2
Y3
部分的因果関係(相当因果関係)
Y3
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
連
帯
債
務
一
つ
の
結
果
一
つ
の
結
果
27
民法416条の意味(通説)
損
害
賠
償
の
範
囲
2014/5/20
必然・当然
(確率が高い)
通常事情による
通常損害
蓋然
(蓋然性がある)
特別事情による
通常損害
偶然
(確率が低い)
特別損害
(相当因果関係なし)
Lecture on Obligation 2014
28
確率論に基づく因果関係
ベイズの定理の応用
事前確率
p(Cn)
条件付確率
p(R|Cn)
原因(C1)
0.5
R
(結果)
原因(C2)
0.5
2014/5/20
事後確率
p(Cn|R)
p(C1|R)
≒0.86
p(C2|R)
≒0.14
Lecture on Obligation 2014
29
債務不履行の救済手段
債
務
不
履
行
2014/5/20
損害賠償
帰責事由が
あるとき
解除
契約目的が
達成できないとき
強制履行
原則から
例外へ
Lecture on Obligation 2014
30
解除の要件(旧)→新,総論
履行
遅滞
解
除
の
要
件
履行
不能
不完全
履行
2014/5/20
相当期間を定めた催告の後
(民法541条)
定期行為の場合は催告不要
(民法542条)
帰責事由があるとき
(民法543条)
帰責事由がないとき
(民法534条~)
危険
負担
契約目的を達成できないとき
(民法561~566~572条)
Lecture on Obligation 2014
31
解除の要件(新)→旧,総論
履行
遅滞
解
除
の
要
件
2014/5/20
契
約
目
的
不
達
成
履行
不能
不完全
履行
相当期間を定めた催告の後
(民法541条)
定期行為の場合は催告不要
(民法542条)
帰責事由があるとき
(民法543条)
帰責事由がないとき
(民法534条~)→解除へ
契約目的を達成できないとき
(民法561~566~572条)
Lecture on Obligation 2014
32
危険負担の解除への吸収→総論
債務者主義=解除可能,債権者主義=解除権消滅
危険負担
(危険負担の原則)
 第536条(債務者の危険負担
等)
吸収
解除 ←契約書
(無過失責任へと改正される予定)
第543条(履行不能による解除権)
 履行の全部又は一部が不能となったときは,債権者は,
 ①前2条に規定する場合を除き,
契約の解除をすることができる。ただし,その債務の不
当事者双方の責めに帰するこ
履行が債務者の責めに帰することができない事由によ
とができない事由によって債務
るものであるときは,この限りでない。 ←改正の予定
を履行することができなくなった
第548条(解除権者の行為等による解除権の消滅)
ときは,債務者は,反対給付を
受ける権利を有しない。
 ①解除権を有する者が自己の行為若しくは過失に
 ②債権者の責めに帰すべき事
よって契約の目的物を著しく損傷し,若しくは返還す
由によって債務を履行すること
ることができなくなったとき,又は加工若しくは改造に
ができなくなったときは,債務者
よってこれを他の種類の物に変えたときは,解除権は,
は,反対給付を受ける権利を
消滅する。
失わない。この場合において,
 ②契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過
自己の債務を免れたことによっ
失によらないで滅失し,又は損傷したときは,解除権
て利益を得たときは,これを債
権者に償還しなければならない。
は,消滅しない。
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
33
危険負担の実務(売買契約書)
→債権総論
 危険負担の実務 → 債権者主義から債務者主義へ
 不動産売買契約書ひな形 第9条(危険負担)
 ①本契約締結後,本件土地建物の引渡しの完了前に,売主又は買
主のいずれかの故意又は過失によらないで本件土地建物の全部又
は一部が火災,流出,陥没その他により滅失又は毀損したとき,又
は公用徴収,建築制限,道路編入等の負担が課せられたときは,そ
の損失は全て売主の負担とし,買主は売主に対して売買代金の減
額又は原状回復のために生ずる損害の賠償を請求することができる
ものとする。
 ②前項に定める滅失又は毀損により買主が本契約締結の目的が達
することができないときは,買主はその旨を売主に書面でもって通告
することにより本契約を解除することができるものとし,この場合,売
主はすでに受取った手附金を全額買主に返還するものとする。
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
34
参考文献
 民法の入門書(DVD付)
 加賀山茂『民法入門・担保法革命』信山社(2013)
 民法(財産法)全体を理解する上での助っ人
 我妻栄=有泉亨『コンメンタール民法』〔第3版〕日本評論社(2013)
 金子=新堂=平井編『法律学小辞典』有斐閣(2008)
 契約法全体についての概説書
 加賀山茂『契約法講義』信山社(2009)
 債権総論の優れた教科書
 平井宜雄『債権総論』 〔第2版〕弘文堂(1994)
 債務不履行に関する文献
 平井宜雄『損害賠償法の理論』東京大学出版会(1971)
 浜上則雄「損害賠償における「保証理論」と「部分的因果関係の理論」(1)(2・完)民商
66巻4号(1972)3-33頁, 66巻5号35-65頁
 ベイズの定理の応用
 浜上則雄=加賀山茂「法医学者による血液型に基づく証明方法に対する批判と提案」
(上)(下)ジュリ650号(1977)95-101頁,ジュリ651号118-130頁
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
35
今回の学修目標
 損害賠償額の予定
 民法420条,91条
歴史
 ドイツ民法343条ではなく,フランス民法1152条を導入
変化
 フランス民法1152条は,1985年に改正
取り残された民法420条
 改正の必要性
 特別法
割賦販売法6条,消費者契約法9条,10条
 消費者契約法9条
 消費者契約法10条
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
36
民法における「契約自由」の規定
→契約と民法の条文との優先関係は?
契約自由と
任意規定の効力
 第91条(任意規定と異なる意思
表示)
損害賠償額の予定
→消費者契約法10条
 第420条(賠償額の予定)
 法律行為の当事者が法令中の公
の秩序に関しない規定と異なる意
思を表示したときは,その意思に
従う。
 第92条(任意規定と異なる慣習)
 法令中の公の秩序に関しない規
定と異なる慣習がある場合にお
いて,法律行為の当事者がその
慣習による意思を有しているもの
と認められるときは,その慣習に
従う。
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
 ①当事者は,債務の不履
行について損害賠償の額
を予定することができる。
この場合において,裁判
所は,その額を増減するこ
とができない。
 ②賠償額の予定は,履行
の請求又は解除権の行使
を妨げない。
 ③違約金は,賠償額の予
定と推定する。
37
契約自由の下での
任意規定の位置づけ→条文は?
公序に関しない事項
当事者意思あり
当事者意思不明・意思なし
事実たる慣習あり
事実たる慣習なし
当事者意思に従う
(民法91条)
事実たる慣習に従 任意規定が適用さ
う(民法92条)
れる
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
38
契約自由の下での
任意規定の位置づけ→条文は?
公序に関しない事項
当事者意思あり
当事者意思不明・意思なし
当事者の意思と
民法の条文(任意
規定)との関係で,
どちらが優先され
るのか?
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
39
契約自由の下での
任意規定の位置づけ→条文は?
公序に関しない事項
当事者意思あり
当事者意思不明・意思なし
事実たる慣習あり
当事者意思に従う
(民法91条)
慣習と民法の規定
とでどちらが優先?
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
40
契約自由の下での
任意規定の位置づけ→条文は?
公序に関しない事項
当事者意思あり
当事者意思不明・意思なし
事実たる慣習あり
事実たる慣習なし
当事者意思に従う
(民法91条)
事実たる慣習に従 何が適用されるの
う(民法92条)
か?
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
41
契約自由の下での
任意規定の位置づけ→条文は? →消契法10条
公序に関しない事項
当事者意思あり
当事者意思不明・意思なし
事実たる慣習あり
事実たる慣習なし
当事者意思に従う
(民法91条)
事実たる慣習に従 任意規定が適用さ
う(民法92条)
れる
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
42
契約自由と損害賠償額の予定
第420条(賠償額の予定)
①当事者は,債務の不履行について損害
賠償の額を予定することができる。この場
合において,裁判所は,その額を増減する
ことができない。
②賠償額の予定は,履行の請求又は解除
権の行使を妨げない。
③違約金は,賠償額の予定と推定する。
2014/5/20
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損害賠償額の予定の比較法
契約自由から契約正義へ
フランス民法
 フランス民法1152条(旧)
 当事者の一方が債務を履行しない場合に
は,他の債務者に対して,損害賠償として
一定額を支払うとの合意がある場合には,
その額よりも多くを支払うこともできないし,
その額よりも少なく支払うこともできない。
 1985年の改正により2項を追加
 ②損害賠償額の予定が明らかに過大また
は過小であるときは,裁判官は,職権に
よって,それを増減することができる。これ
に反する特約は無効とする。
2014/5/20
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ドイツ民法
 ドイツ民法343条
 ①課せられた違
約金が不相当
に多額であると
きは,債務者の
請求によって判
決をもって適切
な額に減額する
ことができる。…
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消費者契約法 第1条
 第1条(目的)





この法律は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交
渉力の格差にかんがみ,
事業者の一定の行為により消費者が誤認し,又は困惑した場合に
ついて契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことがで
きることとするとともに,
事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益
を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか,
消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が
事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより,
消費者の利益の擁護を図り,もって国民生活の安定向上と国民経
済の健全な発展に寄与することを目的とする。
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消費者取消権(第4条)
類型
条文
勧誘の
態様
4条1項1号
事業者の行為と消費者の
行為との間の因果関係
事業者
不実告知
消費者
事実である
との誤認
断定的判断の 確実である
4条1項2号 重要事項
詐欺型
提供
との誤認
の説明
不利益事実
不利益事実の
4条2項
が存在しない
不告知(故意)
との誤認
4条3項1号
強迫型
4条3項2号
不退去
勧誘行為
監禁
困惑して契約
の申込み
又は承諾
消費
者の
権利
事業者
の義務
重要事項
に関する
正確な
情報
取消権 提供義務
適正な
勧誘義務
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消費者の無効主張権(8条~10条)
類型
免責型
違約金型
包括型
条文
契約条項が無効とされるための要件
事業者の無効要件
事業者の免責要件
8条1項1号
債務不履行責任の全部免責
8条1項2号
債務不履行責任の一部免責
8条1項3号
不法行為責任の全部免責
8条1項4号
不法行為責任の一部免責
事業者に故意・重過失
がない場合
8条1項5号
瑕疵担保責任の全部免責
代品取替え又は瑕疵
修補責任を負う場合
他の事業者が瑕疵
担保責任を負う場合
9条1号
解除に伴う損害賠償額(解約金)の定めが平均的な
損害額を超えるもの
9条2号
遅延損害金の定めが年14.6パーセンを超えるもの
10条
任意規定に比較して消費者の利益を一方的に害する
規定
消費者
の権利
事業者
の義務
事業者に故意・重過失
がない場合
契約条の
全部又は
一部の
無効を
主張する
権利
民法・商法
の任意規定
に比較して,
消費者の
利益を
一方的に
害する
契約条項を
消費者に
押し付けない
義務
47
消費者契約法9条
 第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無
効とする。
 一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項
であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等
の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生
ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
 二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日
(支払回数が2以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同
じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条
項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期
間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支
払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて
計算した額を超えるもの 当該超える部分
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利息制限法における
損害賠償額の予定
制限利息
損害賠償額の予定
 第1条(利息の制限)
 金銭を目的とする消費貸借にお
ける利息の契約は,その利息が
次の各号に掲げる場合に応じ当
該各号に定める利率により計算
した金額を超えるときは,その超
過部分について,無効とする。
 一 元本の額が10万円未満の場
合 年2割
 二 元本の額が10万円以上100
万円未満の場合 年1割8分
 三 元本の額が100万円以上の
場合 年1割5分
2014/5/20
 第4条(賠償額の予定の制
限)
 ①金銭を目的とする消費貸借
上の債務の不履行による賠償
額の予定は,その賠償額の元
本に対する割合が第一条に規
定する率の1.46倍を超えるとき
は,その超過部分について,無
効とする。
 ②前項の規定の適用について
は,違約金は,賠償額の予定
とみなす。
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日歩と年利との関係
(利息制限法の上限金利15%~20%)→消契法9条
日歩(銭) 年利(%)
1
3.65
2
7.30
3
10.95
4
14.60
5
18.25
6
21.90
7
25.55
8
29.20
9
32.85
10
36.50
2014/5/20
日歩 年利(%) 日歩 年利(%)
11
40.15
21
76.65
12
43.80
22
80.30
13
47.45
23
83.95
14
51.10
24
87.60
15
54.75
25
91.25
16
58.40
26
94.90
17
62.05
27
98.55
18
65.70
28
102.2
19
69.35
29
105.85
20
73.00
30
109.50
Lecture on Obligation 2014
50
消費者契約法10条
第10条(消費者の利益を一方的に害す
る条項の無効)
民法、商法その他の法律の公の秩序に関
しない規定の適用による場合に比し、消費
者の権利を制限し、又は消費者の義務を
加重する消費者契約の条項であって、民
法第1条第2項に規定する基本原則に反し
て消費者の利益を一方的に害するものは、
無効とする。
2014/5/20
Lecture on Obligation 2014
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アイラック(IRAC)
-法律家の思考方法-
IRAC(アイラック)で考え,論証する
論点・事実の発見
Issue
法的分析 Rules
の能力
ルールの発見
Application ルールの適用
A
Argument
法的議論
の能力 Conclusion
2014/5/20
原告・被告の議論
具体的な結論
Lecture on Obligation 2014
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論文の書き方
アイラック(IRAC)で書く
問題提起
本論
結論
2014/5/20
• I:重要な問題を発見したことの経緯を述べる
• R:その問題を解決する視点と仮説を提示する
• A:問題をいくつかのブロックへと分割する
• A:ブロックごとに問題を展開しすべてを解明する
• C:問題を展開して得られた答えを1つにまとめる
• I:残された問題に対する展望を行う
Lecture on Obligation 2014
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