債権総論講義

債権総論講義
第5回
明治学院大学法学部教授
加賀山茂
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
1
債権総論の位置づけ
タール事件
Ⅲ
債
権
債権
総論
債権
各論
成立
契約
総論
契約
事務管理
契約
各論
効力
解除
不当利得
不法行為
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
2
漁網用タール事件
事件の概要 →批判的検討
 X漁業協同組合は,A社の溜池に貯蔵されているY所有の漁業用タール(3,000~
3,500トン)のうち,2,000トンをYから見積価格49万5,000円で購入することとし,引
渡については,買主Xが売主Yに対して必要の都度その引渡を申し出て,Yが引渡
場所を指定し,Xがドラム缶を当該場所に持ち込みタールを受領し,1年間で2,000
トン全部を引き取るという契約を締結し,手付金20万円をYに交付した。
 Yは,Xの求めに応じて10万7,500円分のタールの引渡を行ったが,その後,Xは,
タールの品質が悪いといってしばらくの間引き取りに来ず,その間Yはタールの引
渡作業に必要な人夫を配置する等引渡の準備をしていたが,その後これを引き
上げ,監視人を置かなかったため,A社の労働組合員がこれを他に売却してしま
い,タールは滅失するにいたった。
 Xは,Yのタールの引渡不履行を理由に残余部分につき契約を解除する意思表示
をし,手付金から引渡を受けたタールの代価を差し引いた残金9万2,500円の返
還を請求した。
 Xは,Yの債務不履行を理由に契約を解除して残代金の支払いを免れうるか。
反対に,Yは,タールを引き渡すことなしに,残代金の支払いを求めうるか。
2014/4/29
Lecture on Obligation 2014
3
魚網用タール事件
批判的検討(新) ←総論
差戻審(否定)
控訴審判決(肯定)
少数説
債権法改正
調査官解説
最高裁判決
543条
(解除)
536条1
項(債務
者主義)
536条2
項(債権
者主義)
債権者だけに
帰責事由あり
債務者に
帰責事由あり
債務者に帰責事由なし
履行不能
2014/4/29
Lecture on Obligation 2014
4
債権総論の内容 →位置づけ
債権の目的
対内的効力
債権の効力
対外的効力
債
権
総
論
可分・不可分債権
多数当事者関係
債権の譲渡
履行強制
損害賠償
債権者代位権
詐害行為取消権
連帯債務
保証
弁済
相殺
債権の消滅
更改
免除
混同
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
5
金銭(預金)債権の時代
情報化時代の優等生
物権から債権へ
物から情報へ
 モノやサービスの価値は,物で
 債権とは,方向と量と時間の要素で
あるカネによって評価されてきた。
表現される情報(ベクトル)である。
 物の使用・収益・換価・処分に関  最も信頼されている債権は,預金債
する物権の全盛の時代であった。
権(家計:800兆円,企業200兆円)で
あり,その実体は,銀行口座への
 しかし,現代は,物権も,人と人
入・出金記帳という情報に過ぎない。
との関係(物権的請求権,優先
弁済権など)に還元されるように  情報であるから,電子的に安価かつ
なってきている。
即時に送・受信することができる。
 現代は,物権(権利の帰属)を前
提としつつも,人と人との関係で
ある債権が中心を占める時代で
ある。
2014/5/6
 振込み(預金債権の移転)は,相殺
という技術を使うことによって,危険
を伴う現金・有価証券の輸送を最小
限に抑えることができる。
Lecture on Obligation 2014
6
参考文献
 民法の入門書(DVD付)
 加賀山茂『民法入門・担保法革命』信山社(2013)
 民法(財産法)全体を理解する上での助っ人
 我妻栄=有泉亨『コンメンタール民法』〔第3版〕日本評論社(2013)
 金子=新堂=平井編『法律学小辞典』有斐閣(2008)
 契約法全体についての概説書
 加賀山茂『契約法講義』信山社(2009)
 債権総論の優れた教科書
 平井宜雄『債権総論』 〔第2版〕弘文堂(1994)
 民法(債権法)改正の動向
 内田貴『民法改正の今』商事法務(2013)
 鈴木仁志『民法改正の真実』講談社(2013)
 私法統一協会(内田=曽野=森下=大久保訳)『UNIDROIT 国際商事契約原則
2010』商事法務(2013)
2014/5/6
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7
前回の復習
 金銭債権
 利息債権
 選択債権
 金銭とは何か
 通貨とは何か
 選択債権か,選択債
務か
 日本銀行券
 貨幣
 選択の主体
 選択の主体の移動
 不能の場合の処理
 遡及効
 総合的考察
 貨幣の歴史と進化
 電子決済
 現金決済
 電子マネー決済
 預金通貨(預金債権)決済
 クレジットカード支払
2014/5/6
 参考文献
Lecture on Obligation 2014
8
金銭債権
 第402条(金銭債権1)
 ①債権の目的物が金銭であるときは,債務者は,その選択に従い,
各種の通貨で弁済をすることができる。ただし,特定の種類の通貨の
給付を債権の目的としたときは,この限りでない。
 ②債権の目的物である特定の種類の通貨が弁済期に強制通用の効
力を失っているときは,債務者は,他の通貨で弁済をしなければなら
ない。
 ③前2項の規定は,外国の通貨の給付を債権の目的とした場合につ
いて準用する。
 第403条〔金銭債権2〕
 外国の通貨で債権額を指定したときは,債務者は,履行地における
為替相場により,日本の通貨で弁済をすることができる。
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
9
日本銀行券と貨幣との違い
強制通用力の違いはなぜ? ←歴史
 通貨と貨幣との違い
 日本銀行法 第46条(日本銀行券の発行)
①日本銀行は,銀行券を発行する。
②前項の規定により日本銀行が発行する銀行券(以下「日本銀行
券」という。)は,法貨として無制限に通用する。
 通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律 第7条(法貨
としての通用限度)
貨幣は,額面価格の20倍までを限り,法貨として通用する。
 強制通用力を有しない貨幣とは,何か?
 1万円を100円玉100箇で払おうとするとどうなるのか?
2014/5/6
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10
通貨(貨幣と紙幣)の歴史
貨幣の衰退,復権はあるか? ← 強制通用力
金本位制の時代
貨幣
(鋳造)
通
貨
現代
金貨
銀貨
銅貨
補助貨幣
通
貨
貨幣
補助貨幣
紙幣
日銀券
日銀券
預金通貨
デビットカード
紙幣
国立銀行券
(民間)
古市 峰子「現金,金銭に関する法的一考察」
金融研究 14巻4号(1995/12) 101-152頁
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
e-マネー
プリペイド
カード
クレジット
カード
11
従来の決済手段としての現金支払い
債権者
金銭債権
債権
債務者
決済=現金による支払い
=通貨の移動
 貨幣とは有体物か? それとも,価値権(無体物)か?
 金銭の所有権が,他の有体物とは異なり,借りても盗まれても,占有
とともに移転するとされるのはなぜか?
 金銭が価値権だとすると,その価値は,何に由来するのか?
 貨幣とは,日銀が保証した強制通用力を持つ有価証券(小切手)か?
 紙幣の発行(約80兆円)が,日銀の負債に記録されるのはなぜか?
 紙幣の表と裏に押されている印鑑(読めるか?)は何を意味するのか?
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
12
日銀の貸借対照表
http://www.boj.or.jp/about/account/zai1311a.htm/
資産(兆円)
負債・資本(兆円)
国債
発行銀行券
買入手形
当座預金
外国為替
政府預金
その他
その他
150 合計
150
合計
預金債権残高 家計:800兆円,企業:200兆円
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
13
日銀の貸借対照表
http://www.boj.or.jp/about/account/zai1311a.htm/
資産(兆円)
国債
買入手形
外国為替
その他
合計
100
35
5
10
150
負債・資本(兆円)
80
発行銀行券
30
当座預金
10
政府預金
30
その他
150
合計
預金債権残高 家計:800兆円,企業:200兆円
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
14
プリペイド・カード決済の仕組み
資金決済に関する法律(2009,2010)参照
売主,請負人
代金 ④債権消滅
③債権
(受益者)
③債権譲渡
JR等の運賃は,
現金で払うよりも,
電子マネーで払う
方が安くなった。
その理由は何か?
よく考えてみよう。
2014/5/6
カード利用者
(要約者)
預
②
託
預
金
託
返
金
還
返
請
還
求
請
権
求
権
①
預
託
金
支
払
カード発行会社
(諾約者)
Lecture on Obligation 2014
15
預金通貨の実態(1/3)→並行移動
債権者
預
金
口
座
銀行
2014/5/6
債権
金銭債権
債務者
 債務者の金銭債権を消滅させる
には,現金払いに代えて,債権
者の口座に預金債権を発生させ
る方法も認められる。
 つまり,銀行が,金銭債権につ
いて,預金債権(預金通貨)とし
て,債務引受してくれると,目的
は達成される。
 そのためには,どうすればよい
のか?
Lecture on Obligation 2014
16
預金通貨の実態(2/3)←原理,振込み
債権者
諾約者
(被仕向銀行)
2014/5/6
原因債権
原因債権
 口座振り込みするには,
自分の口座の預金債権
を相手方口座に並行移
動すればよい。
 しかし,民法には並行
移動の制度がない。
Lecture on Obligation 2014
債務者
預
預
金
金
債
債
権
権
要約者
(支払指図人)
(仕向銀行)
17
預金通貨の実態(3/3)→並行移動
受益者
(振込受取人)
対価関係
債務者
(振込指図人)
債権譲渡
預
金
債
権
債務引受
振込
委託
(債権
譲渡)
抗
弁
諾約者
(被仕向銀行)
2014/5/6
振込金支払委託
(債務引受)
Lecture on Obligation 2014
要約者
(支払指図人)
(仕向銀行)
18
クレジットカード決済の仕組み
山本正行『カード決済業務のすべて』金融財政事情研究会(2012/05)
クレジットカード
国際ブランド
(Visa, MasterCard, etc.)
メンバー契約
メンバー契約
受益者・債権者
新債権者
(アクワイアラー)
③債権売買
(イシュアー)
(三井住友カード)
(Aeon Credit)
④代金支払
②
代
金
支
払
加盟店
契約
(対価
関係)
要約者
(加盟店)
売主
2014/5/6
カード
会員
契約
代金 代金債権
債権
①債権売買
第三者のためにする契約
Lecture on Obligation 2014
⑤
代
金
支
払
諾約者
(カード利用者)
買主
19
クレジットカードのチャージバックの仕組み
クレジットカード
国際ブランド
(Visa, MasterCard, etc.)
メンバー契約
新々債権者
③再譲渡
(アクワイアラー)
④代金返戻
(Aeon credit)
⑤
代
金
返
戻
加盟店
契約
(対価
関係)
債務者
(加盟店)
売主
メンバー契約
(三井住友カード)
①返還債権
の譲渡
返還請求
返還請求
売買契約の解除等
2014/5/6
新債権者
(イシュアー)
Lecture on Obligation 2014
カード
会員
契約
②
代
金
返
金
債権者
(カード利用者)
買主
20
利息債権
第404条(法定利率)
利息を生ずべき債権について別段の意思表示が
ないときは,その利率は,年5分とする。
第405条(利息の元本への組入れ)
利息の支払が1年分以上延滞した場合において,
債権者が催告をしても,債務者がその利息を支
払わないときは,債権者は,これを元本に組み入
れることができる。
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
21
選択債権と選択の主体
第406条(選択債権における選択権の帰属)
債権の目的が数個の給付の中から選択によって
定まるときは,その選択権は,債務者に属する。
第407条(選択権の行使)
①前条の選択権は,相手方に対する意思表示に
よって行使する。
②前項の意思表示は,相手方の承諾を得なけれ
ば,撤回することができない。
撤回と取消しとの違いは何か? これは更改か?
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
22
選択債権か? 選択債務か?
 選択債権と考えると頭が混乱する。
 選択権がなぜ,債務者にあるのか(民法406条)疑問が生
じる。
 不能の場合の選択の特定(民法410条)も,権利を制限す
るようで疑問が生じる。
 選択債務だと翻訳して考えると,頭が整理される。
 選択債務だと考えると,選択権が債務者にあること(民法
406条)が理解しやすい。
 選択債務だと考えると,不能の場合の選択の特定(民法
410条)も,債務者を保護するための規定として理解しや
すい。
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
23
法定の選択債権・選択債務
←図
契約解除・代物請求か,修補か,損害賠償か?
民法の瑕疵担保責任
 第570条(売主の瑕疵担保責任)
 売買の目的物に隠れた瑕疵があったとき
は,第566条〔契約をした目的を達すること
ができないときは,買主は,契約の解除を
することができる。この場合において,契
約の解除をすることができないときは,損
害賠償の請求のみをすることができる。〕
の規定を準用する。ただし,強制競売の
場合は,この限りでない。
 第572条(担保責任を負わない旨の特約)
 売主は,第560条から前条までの規定に
よる担保の責任を負わない旨の特約をし
たときであっても,知りながら告げなかっ
た事実及び自ら第三者のために設定し又
は第三者に譲り渡した権利については,
その責任を免れることができない。
2014/5/6
消費者契約法の無効主張権
 第8条(事業者の損害賠償の責任を免除す
る条項の無効)
 ①次に掲げる消費者契約の条項は,無効とする。
…
 五 消費者契約が有償契約である場合にお
いて,当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵
があるときに,当該瑕疵により消費者に生じた
損害を賠償する事業者の責任の全部を免除
する条項
 ②前項第五号に掲げる条項については,次に掲
げる場合に該当するときは,同項の規定は,適
用しない。
 一 当該消費者契約において,当該消費者契
約の目的物に隠れた瑕疵があるときに,当該
事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える
責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこと
とされている場合
Lecture on Obligation 2014
24
民法(権利)と ←条文
消費者契約法(義務)の交錯
目的物に瑕疵がある場合
買主の
権利
売主の
選択債務
2014/5/6
(契約目的不達成の場合)
契約解除権
代物の
給付義務
瑕疵の
修補義務
Lecture on Obligation 2014
損害賠償
請求権
賠償義務
(代金減額)
25
選択の主体の交代
←まとめ
 第408条(選択権の移転)
 債権が弁済期にある場合において,相手方から相当
の期間を定めて催告をしても,選択権を有する当事
者がその期間内に選択をしないときは,その選択権
は,相手方に移転する。
 第409条(第三者の選択権)
 ①第三者が選択をすべき場合には,その選択は,債
権者又は債務者に対する意思表示によってする。
 ②前項に規定する場合において,第三者が選択をす
ることができず,又は選択をする意思を有しないとき
は,選択権は,債務者に移転する。
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
26
選択の特定
第410条(不能による選択債権の特定)
①債権の目的である給付の中に,初めから不能
であるもの又は後に至って不能となったものがあ
るときは,債権は,その残存するものについて存
在する。
②選択権を有しない当事者の過失によって給付
が不能となったときは,前項の規定は,適用しな
い。
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
27
選択の遡及効とその制限
 第411条(選択の効力)
 選択は,債権の発生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,
第三者の権利を害することはできない。
 第116条(無権代理行為の追認)
 追認は,別段の意思表示がないときは,契約の時にさかのぼってそ
の効力を生ずる。ただし,第三者の権利を害することはできない。
 第784条(認知の効力)
 認知は,出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者
が既に取得した権利を害することはできない。
 第909条(遺産の分割の効力)
 遺産の分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。た
だし,第三者の権利を害することはできない。
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
28
権利の主体の交代・変更・消滅
まとめ
←選択権の移転,法定選択権
制限能力者の取消権

第20条(制限行為能力者の相手方の催告権)
①制限行為能力者の 相手方は,その制限行為能力者が行為能力
者となった後,その者に対し,1箇月以上の期間を定めて,その 期
間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答す
べき旨の催告をすることができる。この場合において,その者がそ
の期間内に確答を発しな いときは,その行為を追認したものとみな
す。
②制限行為能力者の相手方が,制限行為能力者が行為能力者と
ならない間に,その法定代理人,保佐人又は補助人に対し,その権
限内の行為について前項に規定する催告をした場合において,これ
らの者が同項の期間内に確答を発しないときも,同項後段と同様と
する。
③特別の方式を要する行為については,前2項の期間内にその方
式を具備した旨の通知を発しないときは,その行為を取り消したもの
とみなす。
④ 制限行為能力者の相手方は,被保佐人又は第17条第1項の審
判〔補助人の同意を要する旨の審判〕を受けた被補助人に対しては,
第1項の期間内にその保佐人 又は補助人の追認を得るべき旨の催
告をすることができる。この場合において,その被保佐人又は被補
助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないと きは,
その行為を取り消したものとみなす。
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
契約締結権限
 第528条(申込みに変更を加えた
承諾)
 承諾者が,申込みに条件を付し,そ
の他変更を加えてこれを承諾したとき
は,その申込みの拒絶とともに新た
な申込みをしたものとみなす。
 第556条(売買の一方の予約)
 ①売買の一方の予約は,相手方が
売買を完結する意思を表示した時か
ら,売買の効力を生ずる。
 ② 前項の意思表示について期間を
定めなかったときは,予約者は,相手
方に対し,相当の期間を定めて,そ
の期間内に売買を完結するかどうか
を確答すべき旨の催 告をすることが
できる。この場合において,相手方が
その期間内に確答をしないときは,売
買の一方の予約は,その効力を失う。
29
参考文献
 民法(財産法)全体を理解する上での助っ人
 我妻栄=有泉亨『コンメンタール民法』〔第3版〕日本評論社(2013)
 金子=新堂=平井編『法律学小辞典』有斐閣(2008)
 契約法全体についての概説書
 加賀山茂『契約法講義』信山社(2009)
 債権総論の優れた教科書
 平井宜雄『債権総論』 〔第2版〕弘文堂(1994)
 金銭,貨幣に関する文献
 古市 峰子「現金,金銭に関する法的一考察」金融研究 14巻4号(1995/12) 101152頁
 岩村充『貨幣進化論-「成長なき時代」の通貨システム』新潮新書(2010)
 10月21日(火)午後6時45~8時15分まで,白金公開講座で対談があります。聴きに来ましょう。
 振込みに関する文献
 加賀山茂「振込と組戻しの民法理論 -『第三者のためにする契約』による振込の基礎
理論の構築-」明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号(2013年3月)1-19頁
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
30
今回の学習目標
 債務不履行とは何か
 債務不履行の分類
 債務不履行の効果
 強制履行
 伝統的三分類
 履行期基準の二分類
 契約目的基準の二分類
 立証責任基準の二分類
 民法414条
 損害賠償
 損害賠償の範囲
 従来の考え方
 通常損害
 特別損害
 英米法の考え方
 確率論に基づく因果関係
 債務不履行の要件
 不履行
 帰責事由
 立証責任の分配法則
 結果債務と手段の債務
 因果関係
 事実的因果関係
 相当因果関係
2014/5/6
 解除の要件
 従来の考え方
 新しい考え方
参考文献
Lecture on Obligation 2014
31
債務不履行の三分類
(伝統的見解)
債
務
不
履
行
履行遅滞
本旨に
従った履
行がない
こと
履行不能
(原始的・後発的)
不完全履行
(瑕疵ある履行)
三分類は,漏れが生じることが多い。
この場合には,履行拒絶が漏れている。
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
32
債務不履行の二分類
(履行期に履行があるかどうか?)
履行遅滞
債
務
不
履
行
本旨に
従った
履行が
ない
履行期に
履行がない
履行拒絶
履行不能
履行期に
履行がある
不完全履行
(瑕疵ある履行)
基準が明確なので,実務的には,この区分が一番役に立つ。
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
33
債務不履行の二分類
(契約目的を達成できるかどうか)
履行遅滞
(催告,定期行為)
債
務
不
履
行
2014/5/6
契約目的
不達成
(解除できる)
本旨に
従った履
行がない
履行不能
不完全履行
契約目的
達成
(損害賠償のみ)
Lecture on Obligation 2014
履行遅滞
(遅延損害)
不完全履行
(代金減額相当)
34
債務不履行の二分類
(帰責事由の立証責任による区別)
債
務
不
履
行
2014/5/6
結果債務
債務者に
無過失の立証責任
帰責事由の
立証責任
手段債務
Lecture on Obligation 2014
債権者に
過失の立証責任
35
立証責任を理解するための例題
答えを示さないので,各自で挑戦してみよう!
基本問題
応用問題
 Aは,Bに1万円を貸した。B
として,証明が楽な反論は
どれか(根拠条文を示すこ
と)。
 Aは,人を言い負かすのが
趣味である。話の成り行き
で,次のような議論をふっ
かけられた。Bは,どう答え
るのがよいか。
 えっ!麻雀の掛け金の借り
かよ。払わなくていいんだよ。
 えっ!とっくに返したじゃない
か。忘れっぽい人だな。
 えっ!10年前のはなしかよ。
もう,時効だよ。
 えっ!君からお金なんか借り
ていないぞ。
2014/5/6
 B: 予習していて,契約法講義
の要件事実論の箇所を読ん
だら,分かりやすくてよかった。
 A: あの加賀山・契約法は最
悪だろう。どこが分かりやす
いんだよ?
 B: …。
Lecture on Obligation 2014
36
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
一般論
具体例
理由
①慣性の法則
②形式から実質
③部分から全体
④政策的考慮
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
37
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
①慣性の法則
一般論
静止している状態
は継続する。
具体例
契約の成立は?
理由
契約の存在は推定され
ない。
②形式から実質
③部分から全体
④政策的考慮
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
38
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
一般論
静止している状態
は継続する。
①慣性の法則
運動している状態
は継続する。
具体例
理由
契約の成立は?
契約の存在は推定され
ない。
契約の消滅は?
契約が成立すると存在
が推定される。消滅は
推定されない。
②形式から実質
③部分から全体
④政策的考慮
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
39
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
一般論
静止している状態
は継続する。
①慣性の法則
②形式から実質
運動している状態
は継続する。
具体例
理由
契約の成立は?
契約の存在は推定され
ない。
契約の消滅は?
契約が成立すると存在
が推定される。消滅は
推定されない。
意思表示の合致が
契約の有効性
あれば,内容も確
は?
かとみる
意思表示の合致がある
と,意思の存在が推定
される。
③部分から全体
④政策的考慮
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
40
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
一般論
静止している状態
は継続する。
①慣性の法則
運動している状態
は継続する。
具体例
理由
契約の成立は?
契約の存在は推定され
ない。
契約の消滅は?
契約が成立すると存在
が推定される。消滅は
推定されない。
②形式から実質
意思表示の合致が
契約の有効性
あれば,内容も確
は?
かとみる
意思表示の合致がある
と,意思の存在が推定
される。
③部分から全体
複数の部分から全
体が推定される。
前後両時点の占有があ
れば,占有の継続が推
定される。
占有継続は?
④政策的考慮
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
41
立証責任の分配法則
法律上の推定があるかどうかがすべて
タイトル
一般論
静止している状態
は継続する。
①慣性の法則
運動している状態
は継続する。
具体例
理由
契約の成立は?
契約の存在は推定され
ない。
契約の消滅は?
契約が成立すると存在
が推定される。消滅は
推定されない。
②形式から実質
意思表示の合致が
契約の有効性
あれば,内容も確
は?
かとみる
意思表示の合致がある
と,意思の存在が推定
される。
③部分から全体
複数の部分から全
体が推定される。
占有継続は?
前後両時点の占有があ
れば,占有の継続が推
定される。
④政策的考慮
証明窮乏から弱者
を保護する
善意占有は?
占有があれば,善意が
推定される。
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
42
(実習)立証責任の意味(問題)→解答
← 秦,曽川
過失あり
(原告立証)
真偽不明
無過失
(被告立証)
過失責任
(手段の債務)
中間責任
(結果債務)
無過失責任
○:原告勝訴 ×:原告敗訴
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
43
(実習)立証責任の意味(解答)→問題
← 秦,曽川
過失責任
(手段の債務)
過失あり
(原告立証)
真偽不明
無過失
(被告立証)
○
×
×
中間責任
(結果債務)
無過失責任
○:原告勝訴 ×:原告敗訴
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
44
(実習)立証責任の意味(解答)→問題
← 秦,曽川
過失あり
(原告立証)
真偽不明
無過失
(被告立証)
過失責任
(手段の債務)
○
×
×
中間責任
(結果債務)
○
○
×
無過失責任
○:原告勝訴 ×:原告敗訴
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
45
(実習)立証責任の意味(解答)→問題
← 秦,曽川
過失あり
(原告立証)
真偽不明
無過失
(被告立証)
過失責任
(手段の債務)
○
×
×
中間責任
(結果債務)
○
○
×
無過失責任
○
○
○
○:原告勝訴 ×:原告敗訴
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
46
結果債務と手段の債務とで異なる
立証責任の分配(問題)→解答
証明主題
結果債務
手段の債務
債権者
債権者
?
?
因果関係
債権者
債権者
損害の発生
債権者
債権者
債務不履行
帰責事由
(債務者の故意・過失)
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
47
結果債務と手段の債務とで異なる
立証責任の分配(解答)→問題
立証責任
結果債務
手段の債務
債務不履行
債権者
債権者
帰責事由
(債務者の故意・過失)
債務者
債権者
因果関係
債権者
債権者
損害の発生
債権者
債権者
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
48
結果債務と手段の債務の区別による
難解な判例の解読
 最一判昭41・9・8民集20巻7号1325頁
 他人の権利を目的とする売買の売主が,その責に帰すべき事
由によって,該権利を取得してこれを買主に移転することがで
きない場合には,〔悪意の〕買主は,売主に対し,民法561条但
書の適用上,担保責任としての損害賠償の請求ができない。
 そのときでも,なお債務不履行一般の規定〔民法415条〕に従っ
て,損害賠償の請求をすることができるものと解するのが相当
である。
 難解な点
 「特別法(民法561条)は,一般法(民法415条)を破る(排
除する)」のではないのか?
2014/4/29
Lecture on Obligation 2014
49
民法561条と415条との関係 ←田丸
一般法:債務不履行責任(民法414条以下)
損害賠償責任の原則(民法415条)
特別法:売主の担保責任(民法560条以下)
他人物売買
買主善意:売主の結果債務(財産権移転の結果達成)
 →民法561条が適用される
買主悪意:売主の手段債務(財産権移転のための最
善の努力義務)
 →民法415条が適用される。
2014/4/29
Lecture on Obligation 2014
50
事実的因果関係と相当因果関係
事実的因果関係
相当因果関係
 あれなければこれなし
 sine qua non
 A ⇒ B の代わりに ¬A ⇒ ¬B を使う。
 具体例
 先天性奇形症の子が出産したのが,
サリドマイド剤の服用によるものかどう
か証明が困難であった。
 しかし,サリドマイド剤が販売禁止に
なってからは,この先天的奇形症の子
は一人も生まれていない。
 したがって,サリドマイド剤の服用と先
天性奇形症の子の出産との間には,
事実的因果関係がある。
2014/5/6
 原因事象が,結果事象に対して,そ
の確率を高めたか?
 具体例
 ある夫婦の子が,何人もの人を殺害
した。夫婦がその子を出産したことと,
それらの殺人との間に因果関係が
あるか?
 馭者が道を間違えて,左折したとこ
ろ,落雷に遭い,乗客が死亡した。
馭者の過失と乗客の死亡との間に
因果関係があるか?
 相当因果関係は,一般的には,事実
的因果関係の範囲を狭める作用が
ある。
Lecture on Obligation 2014
51
事実的因果関係が破綻する例
 複数原因がある場合には,事実的因果関係は破綻する。
 1.致死量10mgの毒物をY1,Y2,Y3のそれぞれが4mgずつ
ワイングラスに注いで,Xを殺害した。
 Y1,Y2,Y3の行為とXの死亡との間に事実的因果関係はあるか?
 2.致死量10mgの毒物をY1,Y2,Y3のそれぞれが5mgずつ
ワイングラスに注いで,Xを殺害した。
 Y1,Y2,Y3の行為とXの死亡との間に事実的因果関係はあるか?
 3.致死量10mgの毒物をY1,Y2,Y3のそれぞれが10mgず
つワイングラスに注いで,Xを殺害した。
 Y1,Y2,Y3の行為とXの死亡との間に事実的因果関係はあるか?
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
52
事実的因果関係の破綻の解消?
Y1
Y2
Y3
関
連
共
同
共
同
行
為
事実的因果関係
不
真
正
連
帯
Y1
部分的因果関係(相当因果関係)
Y1
Y2
部分的因果関係(相当因果関係)
Y2
Y3
部分的因果関係(相当因果関係)
Y3
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
連
帯
債
務
一
つ
の
結
果
一
つ
の
結
果
53
民法416条の意味(通説)
損
害
賠
償
の
範
囲
2014/5/6
必然・当然
(確率が高い)
通常事情による
通常損害
蓋然
(蓋然性がある)
特別事情による
通常損害
偶然
(確率が低い)
特別損害
(相当因果関係なし)
Lecture on Obligation 2014
54
確率論に基づく因果関係
ベイズの定理の応用
事前確率
p(Cn)
条件付確率
p(R|Cn)
原因(C1)
0.5
R
(結果)
原因(C2)
0.5
2014/5/6
事後確率
p(Cn|R)
p(C1|R)
≒0.86
p(C2|R)
≒0.14
Lecture on Obligation 2014
55
債務不履行の救済手段
債
務
不
履
行
2014/5/6
損害賠償
帰責事由が
あるとき
解除
契約目的が
達成できないとき
強制履行
原則から
例外へ
Lecture on Obligation 2014
56
解除の要件(旧)→新,総論
履行
遅滞
解
除
の
要
件
履行
不能
不完全
履行
2014/5/6
相当期間を定めた催告の後
(民法541条)
定期行為の場合は催告不要
(民法542条)
帰責事由があるとき
(民法543条)
帰責事由がないとき
(民法534条~)
危険
負担
契約目的を達成できないとき
(民法561~566~572条)
Lecture on Obligation 2014
57
解除の要件(新)→旧,総論
履行
遅滞
解
除
の
要
件
2014/5/6
契
約
目
的
不
達
成
履行
不能
不完全
履行
相当期間を定めた催告の後
(民法541条)
定期行為の場合は催告不要
(民法542条)
帰責事由があるとき
(民法543条)
帰責事由がないとき
(民法534条~)→解除へ
契約目的を達成できないとき
(民法561~566~572条)
Lecture on Obligation 2014
58
危険負担の解除への吸収→総論
債務者主義=解除可能,債権者主義=解除権消滅
危険負担
(危険負担の原則)
 第536条(債務者の危険負担
等)
吸収
解除 ←契約書
(無過失責任へと改正される予定)
第543条(履行不能による解除権)
 履行の全部又は一部が不能となったときは,債権者は,
 ①前2条に規定する場合を除き,
契約の解除をすることができる。ただし,その債務の不
当事者双方の責めに帰するこ
履行が債務者の責めに帰することができない事由によ
とができない事由によって債務
るものであるときは,この限りでない。 ←改正の予定
を履行することができなくなった
第548条(解除権者の行為等による解除権の消滅)
ときは,債務者は,反対給付を
受ける権利を有しない。
 ①解除権を有する者が自己の行為若しくは過失に
 ②債権者の責めに帰すべき事
よって契約の目的物を著しく損傷し,若しくは返還す
由によって債務を履行すること
ることができなくなったとき,又は加工若しくは改造に
ができなくなったときは,債務者
よってこれを他の種類の物に変えたときは,解除権は,
は,反対給付を受ける権利を
消滅する。
失わない。この場合において,
 ②契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過
自己の債務を免れたことによっ
失によらないで滅失し,又は損傷したときは,解除権
て利益を得たときは,これを債
権者に償還しなければならない。
は,消滅しない。
2014/4/29
Lecture on Obligation 2014
59
危険負担の実務(売買契約書)
→債権総論,タール事件の批判的検討
 危険負担の実務 → 債権者主義から債務者主義へ
 不動産売買契約書ひな形 第9条(危険負担)
 ①本契約締結後,本件土地建物の引渡しの完了前に,売主又は買
主のいずれかの故意又は過失によらないで本件土地建物の全部又
は一部が火災,流出,陥没その他により滅失又は毀損したとき,又
は公用徴収,建築制限,道路編入等の負担が課せられたときは,そ
の損失は全て売主の負担とし,買主は売主に対して売買代金の減
額又は原状回復のために生ずる損害の賠償を請求することができる
ものとする。
 ②前項に定める滅失又は毀損により買主が本契約締結の目的が達
することができないときは,買主はその旨を売主に書面でもって通告
することにより本契約を解除することができるものとし,この場合,売
主はすでに受取った手附金を全額買主に返還するものとする。
2014/4/29
Lecture on Obligation 2014
60
参考文献
 民法の入門書(DVD付)
 加賀山茂『民法入門・担保法革命』信山社(2013)
 民法(財産法)全体を理解する上での助っ人
 我妻栄=有泉亨『コンメンタール民法』〔第3版〕日本評論社(2013)
 金子=新堂=平井編『法律学小辞典』有斐閣(2008)
 契約法全体についての概説書
 加賀山茂『契約法講義』信山社(2009)
 債権総論の優れた教科書
 平井宜雄『債権総論』 〔第2版〕弘文堂(1994)
 債務不履行に関する文献
 平井宜雄『損害賠償法の理論』東京大学出版会(1971)
 浜上則雄「損害賠償における「保証理論」と「部分的因果関係の理論」(1)(2・完)民商
66巻4号(1972)3-33頁, 66巻5号35-65頁
 ベイズの定理の応用
 浜上則雄=加賀山茂「法医学者による血液型に基づく証明方法に対する批判と提案」
(上)(下)ジュリ650号(1977)95-101頁,ジュリ651号118-130頁
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
61
アイラック(IRAC)
-法律家の思考方法-
IRAC(アイラック)で考え,論証する
論点・事実の発見
Issue
法的分析 Rules
の能力
ルールの発見
Application ルールの適用
A
Argument
法的議論
の能力 Conclusion
2014/5/6
原告・被告の議論
具体的な結論
Lecture on Obligation 2014
62
論文の書き方
アイラック(IRAC)で書く
問題提起
本論
結論
2014/5/6
• I:重要な問題を発見したことの経緯を述べる
• R:その問題を解決する視点と仮説を提示する
• A:問題をいくつかのブロックへと分割する
• A:ブロックごとに問題を展開しすべてを解明する
• C:問題を展開して得られた答えを1つにまとめる
• I:残された問題に対する展望を行う
Lecture on Obligation 2014
63
レポート課題
 債権の「目的」と「目的物」の違いについて,以
下の項目についてレポート(A4版で4頁以内)を
作成し,第7回目の講義(5月20日)までに提出
すること。なお,レポート課題の講評は11回目
の講義(6月17日)で行う。
 1.民法399条~419条までの範囲で,現代語
化以前の民法の規定(旧条文)と現代語化され
た民法の規定(現行条文)を対比してみると,
旧条文が「債権の目的」と「債権の目的物」とを
間違って規定していた箇所がある。その間違い
の箇所をすべて指摘し,現代語化に際して,ど
のように改正されたのか,対照表を作成して明
らかにしなさい。
 3.物権については,目的と目的
物の区別について改正がなされ
ていない。
例えば,民法343条(質権の目
的)の質権の「目的」と,民法344
条(質権の設定)の「目的物」とは,
同じものを示しているはずである。
それにもかかわらず,民法の起
草者が,あえて,両者を「目的」と
「目的物」とに区別した理由は何
か。民法362条(権利質の目的
等)の「目的」が何かを検討するこ
とを通じて,考察しなさい。
 2.旧条文が,「目的物」を誤って「目的」として
いた箇所について,「目的物」と修正せずに,現
行条文が,あえて,「目的」を維持しながら,誤
りを訂正した箇所がある。その理由は何か。
 4.債権や物権の「目的」と「目的
物」との違いについて,自らの見
解(私見)をIRACで簡潔に表現し
なさい。
2014/5/6
Lecture on Obligation 2014
64